この記事ではMOSFETの『許容損失PD』について
- MOSFETの『許容損失PD』とは
- MOSFETの『PD-TC特性(電力軽減曲線)』
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
以下の目次から各項目に飛べるようになっています。
MOSFETの『許容損失PD』とは
MOSFETの許容損失PDとは、チャネル温度Tchが絶対最大定格に達する時の消費電力です。
『TO-220等のヒートシンクを取り付けることが可能なパッケージ』や『TO-252等の裏面放熱が可能であるパッケージ』の場合、データシート上に記載されている許容損失PDは『ケース温度TC=25℃』を基準にしています。
そのため、ケース温度TCが『25℃』から『チャネル温度の絶対最大定格Tch(MAX)』に達する時の消費電力がデータシート上に記載されている許容損失PDの値であり、熱抵抗Rth(ch-c)を用いると次式で表されます。
許容損失の理論式
\begin{eqnarray}
P_{D}=\frac{T_{ch(MAX)}-25}{R_{th(ch-c)}}\tag{1}
\end{eqnarray}
上図は東芝製NチャネルMOSFET(2SK4012)の絶対最大定格と熱抵抗特性です。データシートに記載されているチャネル温度の絶対最大定格Tch(MAX)と「チャネル-ケース間」の熱抵抗Rth(ch-c)は以下の値になっていることが確認できます。
- チャネル温度の絶対最大定格Tch(MAX)=150[℃]
- 「チャネル-ケース間」の熱抵抗Rth(ch-c)=6.25[℃/W]
上記の値を(1)式に代入すると、許容損失PDは以下の値となり、データシート上に記載されている許容損失PDの値と一致していることが分かります。
\begin{eqnarray}
P_{D}&=&\frac{T_{ch(MAX)}-25}{R_{th(ch-c)}}\\
&=&\frac{150-25}{6.25}\\
&=&20{\mathrm{[W]}}\tag{2}
\end{eqnarray}
なお、データシートには「チャネル-大気間」の熱抵抗Rth(ch-a)も記載されています。データシートに記載されている「チャネル-大気間」の熱抵抗Rth(ch-a)は以下の値になっていることが確認できます。
- 「チャネル-大気間」の熱抵抗Rth(ch-a)=125[℃/W]
上記の値を(1)式に代入すると、放熱板を取り付けない状態における許容損失PDを求めることができます。
\begin{eqnarray}
P_{D}&=&\frac{T_{ch(MAX)}-25}{R_{th(ch-a)}}\\
&=&\frac{150-25}{125}\\
&=&1{\mathrm{[W]}}\tag{3}
\end{eqnarray}
放熱板を取り付けない場合、たった1[W]の消費電力でチャネル温度が150℃になるということになります。
データシート上に記載されている許容損失PDはMOSFETに無限大放熱板(放熱能力を無限大と考えることができる放熱器)を取り付けた場合を考えています。しかし、放熱能力が無限大の放熱器などは存在しません。ゆえに、実際はデータシートに記載されている許容損失PDまで使用することはできないので注意してください。
MOSFETの『PD-TC特性(電力軽減曲線)』
データシート上に記載されている許容損失PDは、ケース温度TC=25℃を基準にしているため、TC=25℃よりも高温の場合は値が低下します。データシートにはそれを示す「PC-TC特性(電力軽減曲線)」が記載されています。
上図は東芝製NチャネルMOSFET(2SK4012)の絶対最大定格と「PC-TC特性」です。
ケース温度TCが25℃の時の最大コレクタ損失PCは20Wですが、ケース温度TCが25℃よりも高温になると、許容損失PDが低下していることが確認できます。例えば、ケース温度TCが120℃の場合には、許容損失PDが5Wになってしまいます。
そのため、ケース温度TCに合わせて、許容損失PDを軽減する必要があります。
なお、絶対最大定格については以下の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。 続きを見る
『絶対最大定格』とは?推奨動作条件との違いって何?
まとめ
この記事ではMOSFETの『許容損失PD』ついて、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- MOSFETの『許容損失PD』とは
- MOSFETの『PD-TC特性(電力軽減曲線)』
お読み頂きありがとうございました。
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