この記事ではMOSFETの『許容損失PD』について
- MOSFETの『許容損失PD』とは
- MOSFETの『PD-TC特性(電力軽減曲線)』
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
MOSFETの『許容損失PD』とは
MOSFETの許容損失PDとは、チャネル温度Tchが絶対最大定格に達する時の消費電力です。許容損失の記号はデータシートにより異なりますが、『PD』や『Pd』や『PT』や『Ptot』や『P』で表されることが多いです。
『TO-220等のヒートシンクを取り付けることが可能なパッケージ』や『TO-252等の裏面放熱が可能であるパッケージ』の場合、データシート上に記載されている許容損失PDは『ケース温度TC=25℃』を基準にしています。
そのため、ケース温度TCが『25℃』から『チャネル温度の絶対最大定格Tch(MAX)』に達する時の消費電力がデータシート上に記載されている許容損失PDの値であり、熱抵抗Rth(ch-c)を用いると次式で表されます。
許容損失の理論式
\begin{eqnarray}
P_{D}=\frac{T_{ch(MAX)}-T_c}{R_{th(ch-c)}}=\frac{T_{ch(MAX)}-25{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}}{R_{th(ch-c)}}\tag{1}
\end{eqnarray}
上図に示しているのは東芝製NチャネルMOSFET(2SK4017)の絶対最大定格と熱抵抗特性です。データシートに記載されているチャネル温度の絶対最大定格Tch(MAX)と「チャネル-ケース間」の熱抵抗Rth(ch-c)は以下の値になっていることが確認できます。
- チャネル温度の絶対最大定格Tch(MAX)=150[℃]
- 「チャネル-ケース間」の熱抵抗Rth(ch-c)=6.25[℃/W]
上記の値を(1)式に代入すると、許容損失PDは以下の値となり、データシート上に記載されている許容損失PDの値と一致していることが分かります。
\begin{eqnarray}
P_{D}&=&\frac{T_{ch(MAX)}-25{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}}{R_{th(ch-c)}}\\
\\
&=&\frac{150{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}-25{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}}{6.25{\mathrm{[{^{\circ}C}/W]}}}\\
\\
&=&20{\mathrm{[W]}}\tag{2}
\end{eqnarray}
なお、データシートには「チャネル-大気間」の熱抵抗Rth(ch-a)も記載されています。データシートに記載されている「チャネル-大気間」の熱抵抗Rth(ch-a)は以下の値になっていることが確認できます。
- 「チャネル-大気間」の熱抵抗Rth(ch-a)=125[℃/W]
上記の値を(1)式に代入すると、放熱板を取り付けない状態における許容損失PDを求めることができます。
\begin{eqnarray}
P_{D}&=&\frac{T_{ch(MAX)}-25{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}}{R_{th(ch-a)}}\\
\\
&=&\frac{150{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}-25{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}}{125{\mathrm{[{^{\circ}C}/W]}}}\\
\\
&=&1{\mathrm{[W]}}\tag{3}
\end{eqnarray}
放熱板を取り付けない場合、たった1[W]の消費電力でチャネル温度が150℃になるということになります。
補足
- データシート上に記載されている許容損失PDはMOSFETに無限大放熱板(放熱能力を無限大と考えることができる放熱器)を取り付けた場合を考えています。しかし、放熱能力が無限大の放熱器などは存在しません。そのため、実際はデータシートに記載されている許容損失PDまで使用することはできないので注意してください。
- 許容損失は英語では『Power Dissipation』や『Total Power Dissipation』と書きます。
- チップ部品の場合、実装基板により許容損失が異なりますので注意してください。
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MOSFETの『PD-TC特性(電力軽減曲線)』
データシート上に記載されている許容損失PDは、ケース温度TC=25℃を基準にしているため、TC=25℃よりも高温の場合は、許容損失PDが低下します。データシートにはそれを示す「PD-TC特性(電力軽減曲線)」が記載されています。
上図に示しているのは東芝製NチャネルMOSFET(2SK4012)の『PD-TC特性(電力軽減曲線)』です。
ケース温度TCが25℃の時の許容損失PDは20Wですが、ケース温度TCが25℃よりも高温になると、許容損失PDが低下していることが確認できます。例えば、ケース温度TCが120℃の場合には、許容損失PDが約5Wになってしまいます。
そのため、ケース温度TCに合わせて、許容損失PDを軽減する必要があります。
なお、(1)式でも各ケース温度により許容損失PDを求めることが可能です。ケース温度TC=120℃を(1)式に代入すると、
\begin{eqnarray}
P_{D}=\frac{T_{ch(MAX)}-T_c}{R_{th(ch-c)}}=\frac{150{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}-120{\mathrm{[{^{\circ}C}]}}}{6.25{\mathrm{[{^{\circ}C}/W]}}}=4.8{\mathrm{[W]}}{\;}{\approx}{\;}5{\mathrm{[W]}}\tag{4}
\end{eqnarray}
となり、『PD-TC特性(電力軽減曲線)』での値(ケース温度TCが120℃の時に許容損失PDが約5W)になっていることが確認できます。
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まとめ
この記事ではMOSFETの『許容損失PD』について、以下の内容を説明しました。
- MOSFETの『許容損失PD』とは
- MOSFETの『PD-TC特性(電力軽減曲線)』
お読み頂きありがとうございました。
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