この記事では『抵抗』について
- 抵抗の温度特性
- 抵抗の温度特性を決める『抵抗温度係数』
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
抵抗の温度特性
一般的に、金属導体の抵抗値は温度が上昇すると増加し、半導体の抵抗値は温度が上昇すると減少します。
この抵抗値の温度による変化は抵抗温度係数\(α_t\)を用いて計算することができ、次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
R_T&=&R_t+α_tR_t(T-t)\\
\\
&=&R_t\left\{1+α_t(T-t)\right\}\tag{1}
\end{eqnarray}
上式において、\(R_T\)、\(R_t\)、\(α_t\)は下記を示しています。
- \(R_T\):温度が\(T{\mathrm{[℃]}}\)に変化した時の抵抗値\({\mathrm{[Ω]}}\)
- \(R_t\):温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗値\({\mathrm{[Ω]}}\)
- \(α_t\):温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗温度係数\({\mathrm{[1/℃]}}\)
(1)式では、温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗値を\(R_t{\mathrm{[Ω]}}\)として、温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)から\(T{\mathrm{[℃]}}\)に変化した時の抵抗値\(R_T{\mathrm{[Ω]}}\)を求めています。
「\(T-t\)」は「温度\(t{\mathrm{[℃]}}\)を基準として、温度がどれくらい変化したか」を示しており、温度が上昇すれば、\(T-t{\;}{\gt}{\;}0\)、温度が低下すれば\(T-t{\;}{\lt}{\;}0\)となります。
抵抗温度係数\(α_t\)は「\(1{\mathrm{[Ω]}}\)当たりの抵抗が\(1{\mathrm{[℃]}}\)上昇した時にどれくらい抵抗値が変化するのか」を表す係数です。抵抗温度係数\(α_t\)は物質によって異なり、
- 金、銀、銅、鉄などの金属導体の場合
- 抵抗温度係数\(α_t\)は正(プラス)
- 「ゲルマニウムやケイ素などの半導体」・「絶縁物」・「炭素」の場合
- 抵抗温度係数\(α_t\)は負(マイナス)
となります。例えば、銅の抵抗温度係数\(α_t\)は0.00393となります。
金属導体の場合、抵抗温度係数\(α_t\)が正なので、温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)から上昇すれば、「\(R_tα_t(T-t)\)」も正となります。そのため、温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗値\(R_t{\mathrm{[Ω]}}\)に「\(R_tα_t(T-t)\)」を足した値が温度が\(T{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗値\(R_T{\mathrm{[Ω]}}\)となります。
一方、半導体の場合、抵抗温度係数\(α_t\)が負なので、温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)から上昇すれば、「\(R_tα_t(T-t)\)」は負となります。そのため、温度が\(T{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗値\(R_T{\mathrm{[Ω]}}\)は温度が\(t{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗値\(R_t{\mathrm{[Ω]}}\)より小さくなります。
例題
温度\(t=25{\mathrm{[℃]}}\)の時、銅の抵抗値\(R_t\)が\(10{\mathrm{[Ω]}}\)でした。この銅が\(T=35{\mathrm{[℃]}}\)に上昇した時の抵抗値\(R_T\)は何Ωになるでしょうか。銅の抵抗温度係数\(α_t\)を0.00393として計算してみましょう。
(1)式に各値を代入をすることで、\(T=35{\mathrm{[℃]}}\)に上昇した時の抵抗値\(R_T\)を求めることができます。
\begin{eqnarray}
R_T&=&R_t\left\{1+α_t(T-t)\right\}\\
\\
&=&10\left\{1+0.00393(35-25)\right\}\\
\\
&=&10\left\{1+0.00393×10\right\}\\
\\
&=&10\left\{1+0.0393\right\}\\
\\
&=&10×1.0393\\
\\
&=&10.393{\mathrm{[Ω]}}
\end{eqnarray}
上式より、温度が\(10{\mathrm{[℃]}}\)上昇すると、抵抗値が\(0.393{\mathrm{[Ω]}}\)増加することが分かります。これをグラフで表すと下図のようになります。
ポイント
- 抵抗値の温度による変化を表す式
\begin{eqnarray}
R_T&=&R_t+α_tR_t(T-t)\\
\\
&=&R_t\left\{1+α_t(T-t)\right\}
\end{eqnarray} - 金属導体の場合
- \(α_t\)が正なので、温度が上昇すると、抵抗値が大きくなる。
- 半導体の場合
- \(α_t\)が負なので、温度が上昇すると、抵抗値が小さくなる。
抵抗温度係数とは
(1)式を変形すると、抵抗温度係数\(α_t\)は次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
α_t=\frac{1}{R_t}×\frac{R_T-R_t}{T-t}{\mathrm{[1/℃]}}
\end{eqnarray}
抵抗温度係数\(α_t\)は「\(1{\mathrm{[Ω]}}\)当たりの抵抗が\(1{\mathrm{[℃]}}\)上昇した時にどれくらい抵抗値が変化するのか」を表す係数です。
したがって、\(α_t\)に\(R_t\)を掛けた\(α_tR_t\)は「\(R_t{\mathrm{[Ω]}}\)当たりの抵抗が\(1{\mathrm{[℃]}}\)上昇した時にどれくらい抵抗値が変化するのか」を表し、\(α_tR_t\)は抵抗値の温度変化の傾きを示します。
抵抗温度係数\(α_t\)は物質により異なります。下表に温度\(t=20{\mathrm{[℃]}}\)の時の抵抗温度係数\(α_t\)を示します。色々調べましたが、参考資料によって数値が微妙に異なるので、おおよその目安にしてください。
物質 | \(α_t{\mathrm{[1/℃]}}\) | ||
導体 | 銅 | Cu | 0.00393 |
銀 | Ag | 0.00380 | |
金 | Au | 0.00340 | |
鉄 | Fe | 0.00500 | |
ニクロム | - | 0.00019 | |
ニッケル | Ni | 0.00600 | |
アルミニウム | Al | 0.00390 | |
ビスマス | Bi | 0.00400 | |
カドニウム | Cd | 0.00380 | |
水銀 | Hg | 0.00089 | |
マグネシウム | Mg | 0.00400 | |
モリブデン | Mo | 0.00330 | |
鉛 | Pb | 0.00390 | |
パラジウム | Pd | 0.00330 | |
白金 | Pt | 0.00300 | |
すず | Sn | 0.00420 | |
タングステン | W | 0.00450 | |
亜鉛 | Zn | 0.00370 | |
半導体・その他 | ゲルマニウム | Ge | -0.05000 |
けい素 | Si | -0.08000 | |
飽和食塩水 | - | -0.00500 |
導線としてよく利用される銅は鉄と比較すると、抵抗温度係数\(α_t\)が低いことが分かります。また、ニクロムは温度変化に強いため、電熱線などに利用されています。
補足
- 抵抗温度係数は英語では「Temperature Coefficient of Resistance」と書きます。
- 英語の頭文字をとって抵抗温度係数のことを「TCR」と呼ぶこともあります。
- 抵抗温度係数の単位は\({\mathrm{[1/℃]}}\)以外にも\({\mathrm{[{\%}/℃]}}\)や\({\mathrm{[ppm/℃]}}\)で表す場合もあります。この場合、次式で計算することができます。
\begin{eqnarray}
α_t&=&\frac{1}{R_t}×\frac{R_T-R_t}{T-t}{\mathrm{[1/℃]}}\\
\\
&=&\frac{1}{R_t}×\frac{R_T-R_t}{T-t}×100{\mathrm{[{\%}/℃]}}\\
\\
&=&\frac{1}{R_t}×\frac{R_T-R_t}{T-t}×10^6{\mathrm{[ppm/℃]}}\\
\end{eqnarray}
まとめ
この記事では『抵抗』について、以下の内容を説明しました。
- 抵抗の温度特性
- 抵抗の温度特性を決める『抵抗温度係数』
お読み頂きありがとうございました。
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