プリント基板を見ていると、抵抗値が0Ωのゼロオーム抵抗が実装されていることがあります。
このゼロオーム抵抗について、
- ゼロオーム抵抗を接続するのはなぜ?用途は何?
- ゼロオーム抵抗ではなくジャンパー線を使用してはダメなの?
- そもそもゼロオーム抵抗とジャンパー線の違いって何?
など疑問に思ったことはないでしょうか。この記事ではこの疑問を解決するためにゼロオーム抵抗について色々まとめてみました。
ではこれから説明していきます。
ゼロオーム抵抗とは
ゼロオーム抵抗とはその名の通り抵抗値がゼロオームの抵抗です。ゼロオーム抵抗は配線間を接続するジャンパー線のように使われるため、ジャンパー抵抗とも呼ばれています。
また、このゼロオーム抵抗には、リード抵抗とチップ抵抗があります。
- リード抵抗の場合
- 抵抗に黒色の帯が1つ印刷されている場合、ゼロオーム抵抗となります。この黒帯は「0」を表す抵抗のカラーコードとなっています。
- チップ抵抗の場合
- 抵抗に「0」または「000」が印刷されている場合、ゼロオーム抵抗となります。
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リード抵抗に印刷されている黒帯は「0」を表す抵抗のカラーコードです。カラーコードは「黒い礼服(黒い0服)」のように色と数字を語呂合わせで合わせると覚えやすいです。
その他のカラーコードについては以下の記事に詳しくまとめましたので、参考にしていただくと幸いです。 続きを見る【抵抗のカラーコード】一覧表・読み方・覚え方などを解説!
ゼロオーム抵抗の定格電力と定格電流
ゼロオーム抵抗器は、定格電力があります。1/10W品、1/8W品、1/4W品から0.75W品、2W品など様々あります。
また、実際には、ゼロオーム抵抗は完全に0Ωではなく、厳密には0.001Ωや0.003Ωなど微小の抵抗値を持っています。このゼロオーム抵抗の定格電力と抵抗値の大きさは通常はメーカーのHPに記載されています。
定格電力と抵抗値があるということは流せる電流量(定格電流)に制限があるということになります。
ここで、一例として、メーカーのHPに記載されていた「0805サイズのチップ抵抗」が以下のパラメータだった場合を考えてみます。
- 定格電力PRATED:1/2W
- 抵抗値R:0.002Ω
定格電力PRATEDと抵抗値Rが分かれば、定格電流IRATEDを導出することができます。電流と電力の有名な式(\(P=RI^2\))を用いると、定格電流IRATEDは
\begin{eqnarray}
I_{RATED}=\sqrt{\displaystyle\frac{P_{RATED}}{R}}=\sqrt{\displaystyle\frac{0.5}{0.002}}=15.81{\mathrm{[A]}}
\end{eqnarray}
となり、この0805サイズのチップ抵抗は最大15.81Aの電流を流すことができることが分かります。このように、ゼロオーム抵抗でも微小な抵抗値Rと定格電力PRATEDを持つため、流せる電流には制限があります。そのため、ゼロオーム抵抗はヒューズの代わりとしても使われることがあります。
では、15.81A以上を流したい場合には、どのようにすれば良いでしょうか。一般的には以下の2つのどちらかを行います。
- より低抵抗の製品を使用する
- パッケージサイズは変わらないが、高価となる。
- パッケージサイズを大きくして定格電力が増加させる
- パッケージサイズが大きくなるため、多くの基板スペースを占有するが、安価となる。
ここで、パッケージサイズを大きくし、「1206サイズのチップ抵抗(定格電力PRATED:0.75W、抵抗値R:0.002Ω)」にすると定格電流IRATEDは
\begin{eqnarray}
I_{RATED}=\sqrt{\displaystyle\frac{P_{RATED}}{R}}=\sqrt{\displaystyle\frac{0.75}{0.002}}=19.36{\mathrm{[A]}}
\end{eqnarray}
となり、15.81A以上の電流が流せるようになります。
補足
パッケージサイズを大きくすると、抵抗値も微妙に変化します。通常は抵抗値は小さくなる方向です。
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チップ部品のサイズは長辺サイズ2桁、短辺サイズ2桁の合計4桁(場合によっては5桁)で表記するのが一般的です。
『チップ部品のサイズ』については、以下の記事に詳しく説明しているので、参考にしていただくと幸いです。 続きを見る【チップ部品のサイズ】0603や1005とは?mm表記とinch表記の違いは?
ゼロオーム抵抗を使用する理由!ジャンパー線ではだめなの?
ここで、ゼロオーム抵抗についておそらくこんな疑問を持つ方がいると思います。
なぜ、なぜゼロオーム抵抗が使用されているの?ジャンパー線ではだめなの?
といった疑問です。
電気的には、ゼロオーム抵抗とジャンパー線は同じです。しかし、ゼロオーム抵抗が使用される理由は大きく2つあります。
- 1.実装が容易
- 2.回路変更が簡単
です。これから各理由について説明します。
1.実装が容易
人間による手差し実装の場合には、ゼロオーム抵抗ではなくジャンパー線を使用することが多いです。これは、コスト的にはゼロオーム抵抗よりジャンパー線の方が安いからです。しかし、機械(自動挿入機)で取り付ける場合は話が変わります。
ほとんどのプリント基板の部品は人間による手差し実装ではなく、自動挿入機を使用して実装されています。
ゼロオーム抵抗の場合、他の抵抗器と形を同じにできるため、同じように自動挿入機を使用して実装することができます。
しかし、ジャンパー線の場合、形が抵抗器と異なるため、機械がつかみにくく、ジャンパー線を取り付けるための別の機械が必要となります。または、ジャンパー線を人間が手動で実装する必要があります。その結果、作業効率が悪くなり、単価がゼロオーム抵抗より上がってしまいます。
2.回路変更が簡単
ゼロオーム抵抗は他の抵抗器と形が同じであり、ジャンパー線よりも簡単に取り外しすることができます。
そのため、後から設計変更で普通の抵抗に変更することや、その逆の変更が簡単にできるようになります。
普通の抵抗に変更することを考え、ゼロオーム抵抗の部品番号にもRxx等と記載し、普通の抵抗と同じように番号を振っている場合もあります。
ゼロオーム抵抗の様々な用途
次にゼロオーム抵抗の様々な用途について説明します。
ジャンパー用
プリント基板において、配線を交差させたい時、片方の配線にゼロオーム抵抗を使い、交差する配線はその下をプリントパターンで通します。
アナログGNDとデジタルGNDの接続用
アナログGNDとデジタルGNDは1箇所で接続するのが一般的なのですが、CADを用いるとその指定ができないことがあります。そのため、アナログGNDとデジタルGNDの接続にゼロオーム抵抗を使用することもあります。
回路検討用・回路の切り替え用
回路基板を作るときに、使い方によって配線をつないだり外したりしたい場合があります。このような場合、この接続箇所にゼロオーム抵抗を入れておけば、抵抗を実装するかしないかの選択を変えるだけで回路の動作を変える事ができます。
昔、私は回路設計をしている時にMOSFETをICから駆動するか、外部の電源から駆動するのどちらが良いのかを検討する際にゼロオーム抵抗を接続して回路を実装しました。
仕様が異なる製品を作るとき
製品の機能の違いや輸出先の国が異なる場合、製品の仕様が異なります。例えば、以下の製品Aと製品Bを考えてみましょう。
- 製品A:端子Xを端子Yに接続
- 製品B:端子Xを端子Yに接続しない
この場合、両製品でこれ以外に差異がなければ、プリント基板を共通化し、端子Xと端子Yの間にゼロオーム抵抗を接続する箇所を設け、ゼロオーム抵抗の接続有無を変えることで、製品Aと製品Bの両方を作ることができます。
ゼロオーム抵抗を接続することによる部品のコストアップは微妙にありますが、プリント基板を共通化することで、設計費+基板製作費+管理費の削減をすることができます。また、プリント基板の管理も簡単になります。
スイッチの代わり
基板上にDIPスイッチを実装することで、回路の切り替えを行う場合がありますが、DIPスイッチは外形が大きいため、配置できる場所に制約があり、配線経路を変えなければならない場合があります。このような場合、DIPスイッチの代わりにゼロオーム抵抗を接続し、ゼロオーム抵抗の接続有無を変えたりします。
まとめ
この記事では『ゼロオーム抵抗』について、以下の内容を説明しました。
- チップ抵抗とリード抵抗があること
- 完全な0Ωではなく、厳密には0.001Ωとかの抵抗値を持っていること
- 定格電力があるため、流せる電流に制限があること
- ゼロオーム抵抗の用途
- ゼロオーム抵抗とジャンパー線の違い
抵抗の接続有無で配線をつないだり外したりできるので、私は回路検討でよくゼロオーム抵抗を使用しますね。
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