この記事ではLC並列回路の『アドミタンス』について
- LC並列回路の『アドミタンス』の式・大きさ・ベクトル図・アドミタンス角
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
LC並列回路の『アドミタンス』
LC並列回路は上図に示すように、コイル\(L\)とコンデンサ\(C\)を並列に接続した回路です。
コイル\(L\)の自己インダクタンスを\(L{\mathrm{[H]}}\)、コンデンサ\(C\)の静電容量を\(C{\mathrm{[F]}}\)とします。この時、コイル\(L\)のインピーダンス\({\dot{Z}_L}\)とコンデンサ\(C\)のインピーダンス\({\dot{Z}_C}\)はそれぞれ次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}_L}&=&jX_L=j{\omega}L\tag{1}\\
\\
{\dot{Z}_C}&=&-jX_C=-j\frac{1}{{\omega}C}=\frac{1}{j{\omega}C}\tag{2}
\end{eqnarray}
(1)式と(2)式において、\(X_L\left(={\omega}L\right)\)は誘導性リアクタンス(コイル\(L\)の抵抗成分)、\(X_C\left(=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\right)\)は容量性リアクタンス(コンデンサ\(C\)の抵抗成分)と呼ばれています。また、\({\omega}\)は角周波数(角速度とも呼ばれる)であり、\({\omega}=2{\pi}f\)の関係があります。
なお、リアクタンスについては下記の記事で詳しく説明していますので、参考になると幸いです。
あわせて読みたい
『リアクタンス』については下記の記事で詳しく説明しています。興味のある方は下記のリンクからぜひチェックをしてみてください。 続きを見る【リアクタンスとは】『単位』や『計算方法』などのまとめ!
また、アドミタンスはインピーダンスの逆数なので、コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)とコンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)はそれぞれ次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}_L}&=&\frac{1}{{\dot{Z}_L}}=\frac{1}{j{\omega}L}=-j\frac{1}{{\omega}L}\tag{3}\\
\\
{\dot{Y}_C}&=&\frac{1}{{\dot{Z}_C}}=\frac{1}{\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}}=j{\omega}C\tag{4}
\end{eqnarray}
LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)はそれぞれのアドミタンスを足したものなので次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}}&=&{\dot{Y}_L}+{\dot{Y}_C}\\
\\
&=&\frac{1}{j{\omega}L}+j{\omega}C\\
\\
&=&-j\frac{1}{{\omega}L}+j{\omega}C\\
\\
&=&j\left({\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right)\\
\\
&=&j\left(\frac{1}{X_C}-\frac{1}{X_L}\right)\tag{5}
\end{eqnarray}
以上より、LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)は次式となります。
LC並列回路のアドミタンス
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}}&=&j\left({\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right){\mathrm{[S]}}\\
\\
&=&j\left(\frac{1}{X_C}-\frac{1}{X_L}\right){\mathrm{[S]}}\tag{6}
\end{eqnarray}
LC並列回路の『アドミタンス』の大きさ
先ほど次式で表されるアドミタンス\({\dot{Y}}\)を求めました。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}}&=&j\left({\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right){\mathrm{[S]}}\\
\\
&=&j\left(\frac{1}{X_C}-\frac{1}{X_L}\right){\mathrm{[S]}}\tag{7}
\end{eqnarray}
LC並列回路のアドミタンスの大きさ\(Y\)は(7)式のアドミタンス\({\dot{Y}}\)の絶対値となります。
もう少し詳しく説明すると、アドミタンスの大きさ\(Y\)は(7)式において、『虚部\(\left({\omega}C-\displaystyle\frac{1}{{\omega}L}\right)\)の2乗』の平方根を取ることで求めることができ、式で表すと次式となります。
LC並列回路のアドミタンスの大きさ
\begin{eqnarray}
Y&=&|{\dot{Y}}|=\sqrt{\left({\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right)^2}=\left|{\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right|=\left|\frac{1}{X_C}-\frac{1}{X_L}\right|{\mathrm{[S]}}\tag{8}
\end{eqnarray}
アドミタンスに付いている「ドット」の意味
アドミタンス(Y)の記号の上に「・(ドット)」が付き、\({\dot{Y}}\)となっているものがあります。
このドットがついた\({\dot{Y}}\)は「ベクトルですよ!」ということを表しています。
ドットが付く場合(\({\dot{Y}}\)など)はベクトル(複素数)を表し、ドットが付かない場合(\(Y\)など)はベクトルの絶対値(大きさ、長さ)を表しています。
詳しくは下記の記事で説明していますので、ご参考になれば幸いです。 続きを見る【交流回路とベクトル】インピーダンスなどにつく「・(ドット)」の意味!
LC並列回路の『アドミタンス』のベクトル図
LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)の『ベクトル図』は下記のステップで描くことができます。
『ベクトル図』の描き方
- コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}}_L\)のベクトルを描く
- コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}}_C\)のベクトルを描く
- 各ベクトルを合成する
では各ステップについて順番に説明していきます。
コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)のベクトルを描く
コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}_L}=-j\frac{1}{{\omega}L}\tag{9}
\end{eqnarray}
そのため、コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)のベクトル方向は実軸を時計周りに90°回転した向きになります(式に『\(-j\)』が付くとベクトルが時計周りに90°回転します)。ベクトルの向きの決め方については後ほど詳しく説明します。
また、コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)のベクトルの大きさ(長さ)\(Y_L\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
Y_L=|{\dot{Y}_L}|=\displaystyle\sqrt{\left(\frac{1}{{\omega}L}\right)^2}=\frac{1}{{\omega}L}=\frac{1}{X_L}\tag{10}
\end{eqnarray}
コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)のベクトルを描く
コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}_C}=j{\omega}C\tag{11}
\end{eqnarray}
そのため、コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)のベクトル方向は実軸を反時計周りに90°回転した向きになります(式に『\(+j\)』が付くとベクトルが反時計周りに90°回転します)。ベクトルの向きの決め方については後ほど詳しく説明します。
また、コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)のベクトルの大きさ(長さ)\(Y_C\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
Y_C=|{\dot{Y}_C}|=\displaystyle\sqrt{\left({\omega}C\right)^2}={\omega}C=\frac{1}{X_C}\tag{12}
\end{eqnarray}
各ベクトルを合成する
『コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)』と『コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)』のベクトルの合成が LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)のベクトル図となります。
繰り返しになりますが、LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)とその大きさ\(Y\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}}&=&j\left({\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right)=j\left(\frac{1}{X_C}-\frac{1}{X_L}\right)=j\left(Y_C-Y_L\right){\mathrm{[S]}}\tag{13}\\
\\
Y&=&\left|{\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right|=\left|\frac{1}{X_C}-\frac{1}{X_L}\right|=\left|Y_C-Y_L\right|{\mathrm{[S]}}\tag{14}
\end{eqnarray}
上式において『誘導性リアクタンス\(X_L={\omega}L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\)』の大小により、LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)のベクトル方向が変わるので注意が必要です。
- \(X_L{\;}{\gt}{\;}X_C\)の時
- \(X_L{\;}{\lt}{\;}X_C\)の時
- \(X_L=X_C\)の時
\(X_L{\;}{\gt}{\;}X_C\)の場合
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも大きい場合、次式が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
&&X_L{\;}{\gt}{\;}X_C\\
\\
{\Leftrightarrow}&&\frac{1}{Y_L}{\;}{\gt}{\;}\frac{1}{Y_C}\\
\\
{\Leftrightarrow}&&Y_L{\;}{\lt}{\;}Y_C\tag{15}
\end{eqnarray}
『コイル\(L\)のアドミタンスの大きさ\(Y_L\)』の方が『コンデンサ\(C\)のアドミタンスの大きさ\(Y_C\)』よりも小さいため、LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)のベクトル方向は上向きになります。
\(X_L{\;}{\lt}{\;}X_C\)の場合
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも小さい場合、次式が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
&&X_L{\;}{\lt}{\;}X_C\\
\\
{\Leftrightarrow}&&\frac{1}{Y_L}{\;}{\lt}{\;}\frac{1}{Y_C}\\
\\
{\Leftrightarrow}&&Y_L{\;}{\gt}{\;}Y_C\tag{16}
\end{eqnarray}
『コイル\(L\)のアドミタンスの大きさ\(Y_L\)』の方が『コンデンサ\(C\)のアドミタンスの大きさ\(Y_C\)』よりも大きいため、LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)のベクトル方向は下向きになります。
\(X_L=X_C\)の場合
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C\)』が等しい場合、次式が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
&&X_L=X_C\\
\\
{\Leftrightarrow}&&\frac{1}{Y_L}=\frac{1}{Y_C}\\
\\
{\Leftrightarrow}&&Y_L=Y_C\\
\\
{\Leftrightarrow}&&Y_C-Y_L=0\tag{17}
\end{eqnarray}
この時、LC並列回路のアドミタンス\({\dot{Y}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}}&=&j\left({\omega}C-\frac{1}{{\omega}L}\right)\\
\\
&=&j\left(Y_C-Y_L\right)\\
\\
&=&j\left(0\right)\\
\\
&=&0\tag{18}
\end{eqnarray}
合成アドミタンス\({\dot{Y}}\)は『ゼロ』になるため、ベクトルがありません。
ベクトルの向きについて
ベクトルの向きの決め方についてもう少し詳しく説明します。
ベクトルの『向き』について
式に虚数単位『\(j\)』が付くとベクトルの向きが90°回転します。
- 『\(+j\)』が付いている時
- ベクトルは反時計周りに90°回転します。
- 『\(-j\)』が付いている時
- ベクトルは時計周りに90°回転します。
コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}_C}=j{\omega}C\tag{19}
\end{eqnarray}
コンデンサ\(C\)のアドミタンス\({\dot{Y}_C}\)の式には『\(+j\)』が付いているので、ベクトル\({\dot{Y}_C}\)の向きは実軸を反時計周りに90°回転した向きとなります。
コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Y}_L}=-j\frac{1}{{\omega}L}\tag{20}
\end{eqnarray}
コイル\(L\)のアドミタンス\({\dot{Y}_L}\)の式には『\(-j\)』が付いているので、ベクトル\({\dot{Y}_L}\)の向きは実軸を時計周りに90°回転した向きとなります。
LC並列回路の『アドミタンス角』
『誘導性リアクタンス\(X_L(={\omega}L)\)』と『容量性リアクタンス\(X_C\left(=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\right)\)』の大小関係によって、LC並列回路のアドミタンス角\({\theta}\)が異なります。
- \(X_L{\;}{\gt}{\;}X_C\)の場合
- 『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも大きい場合、LC並列回路のアドミタンス角\({\theta}\)は以下の値になります。
\begin{eqnarray}
{\theta}=\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\tag{21}
\end{eqnarray}
- 『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも大きい場合、LC並列回路のアドミタンス角\({\theta}\)は以下の値になります。
- \(X_L{\;}{\lt}{\;}X_C\)の場合
- 『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも小さい場合、LC並列回路のアドミタンス角\({\theta}\)は以下の値になります。
\begin{eqnarray}
{\theta}=-\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\tag{22}
\end{eqnarray}
- 『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも小さい場合、LC並列回路のアドミタンス角\({\theta}\)は以下の値になります。
- \(X_L=X_C\)の場合
- 『誘導性リアクタンス\(X_L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C\)』が等しい場合、LC並列回路のアドミタンス角\({\theta}\)は以下の値になります。
\begin{eqnarray}
{\theta}=0{\mathrm{[rad]}}\tag{23}
\end{eqnarray}
- 『誘導性リアクタンス\(X_L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C\)』が等しい場合、LC並列回路のアドミタンス角\({\theta}\)は以下の値になります。
まとめ
この記事ではLC並列回路の『アドミタンス』について、以下の内容を説明しました。
- LC並列回路の『アドミタンス』の式・大きさ・ベクトル図・アドミタンス角
お読み頂きありがとうございました。
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