【交流回路とベクトル】インピーダンスなどにつく「・(ドット)」の意味!

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この記事では、

  • インピーダンスZ・電圧V・電流Iなどにつく「・(ドット)」の意味
  • 『交流回路の式』を『ベクトル』に変換する方法
  • 『ベクトル』を『交流回路の式』に変換する方法

などを図を用いて分かりやすく説明するよう心掛けています。ご参考になれば幸いです。

インピーダンス・電圧・電流などにつく「・(ドット)」の意味

インピーダンス・電圧・電流などにつく「・(ドット)」の意味

『インピーダンス\(Z\)』や『電圧\(V\)』や『電流\(I\)』などの記号の上に「・(ドット)」がつき、\({\dot{Z}}\)・\({\dot{V}}\)・\({\dot{I}}\)と記載されている場合があります。

このドットが付いた\({\dot{Z}}\)・\({\dot{V}}\)・\({\dot{I}}\)などは「ベクトルですよ!」ということを表しています。

『インピーダンス\(Z\)』や『電圧\(V\)』や『電流\(I\)』などの記号の上に「・(ドット)」がつく場合つかない場合では下記に示すように意味が異なります。

  • 記号の上にドットがつく場合(\({\dot{Z}}\)・\({\dot{V}}\)・\({\dot{I}}\)など)
  • ベクトルを表している。

  • 記号の上にドットがつかない場合(\(Z\)・\(V\)・\(I\)など)
  • ベクトルの絶対値(大きさ,長さ)を表している。

直流回路の場合、インピーダンス等の記号の上にドットを付けてベクトル表記(\({\dot{Z}}\)・\({\dot{V}}\)・\({\dot{I}}\))にする必要がありません。

例えば、電圧\(V=10{\mathrm{[V]}}\)の電池に\(R=5{\mathrm{[{\Omega}]}}\)の抵抗を接続すると、オームの法則より流れる電流\(I\)を次式のように計算することができるからです。

\begin{eqnarray}
I=\frac{V}{R}=\frac{10}{5}=2{\mathrm{[A]}}
\end{eqnarray}

しかし交流回路の場合、直流回路には無かった「位相」という新たなパラメータが出てきます。この位相は交流の時間的なズレ(電流や電圧の遅れや進み)を表しています。

『インピーダンス\(Z\)』や『電圧\(V\)』や『電流\(I\)』をベクトル表記(\({\dot{Z}}\)・\({\dot{V}}\)・\({\dot{I}}\))にすることで、「大きさ」と「位相」の両方を表すことができます。なお、ベクトルの向きの角度が「位相」を表します。

交流回路は周波数を一定とした場合、「大きさ」と「位相」を考えればよいので、ベクトルが役に立つのです。

では、次に交流回路のベクトルについて

  • 『交流回路の式』を『ベクトル』に変換する方法
  • 『ベクトル』を『交流回路の式』に変換する方法

などを具体例を用いて説明していきます。

交流回路のベクトルによる表し方

最初に交流回路のベクトルによる表し方に関して基本的なルールを説明します。

交流回路のベクトルによる表し方

  1. ベクトルの絶対値は『ベクトルの長さ(大きさ)』と『交流の実効値』を表している。
  2. 基準からの角度\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)は位相を表している。
  3. ベクトルが基準から反時計周りに回転している場合、位相が進んでおり、位相は『正(プラス)』となる。
  4. ベクトルが基準から時計周りに回転している場合、位相は遅れており、位相は『負(マイナス)』となる。

では上記のルールを用いて『交流回路の式』を『ベクトル』に変換してみましょう。

基準について

ベクトルの基準は自由に決めることはできますが、一般的にはxy座標のx軸を基準とします。この記事でもx軸を基準として考えています。

『交流回路の式』を『ベクトル』に変換する方法

『交流回路の式』を『ベクトル』に変換する方法

上図に示すように、インピーダンス\(Z\)に交流電源を接続した時、『インピーダンス\(Z\)にかかる電圧\(v\)』と『インピーダンス\(Z\)に流れる電流\(i\)』が下記の式であるとします。

\begin{eqnarray}
v&=&V_M{\sin}\left({\omega}t+{\theta}_v\right)=5\sqrt{2}{\sin}\left({\omega}t+\frac{{\pi}}{6}\right){\mathrm{[V]}}\\
\\
i&=&I_M{\sin}\left({\omega}t+{\theta}_i\right)=4\sqrt{2}{\sin}{\omega}t{\mathrm{[A]}}\\
\end{eqnarray}

上式の『交流回路の式』を『ベクトル』に変換してみましょう。

インピーダンス\(Z\)にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトル

インピーダンス\(Z\)にかかる電圧\(v\)の実効値\(V_{RMS}\)は以下の値になります。

\begin{eqnarray}
V_{RMS}=\frac{V_M}{\sqrt{2}}=\frac{5\sqrt{2}}{\sqrt{2}}=5{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

『ベクトル\({\dot{V}}\)の長さ(大きさ)\(V\)』は『ベクトル\({\dot{V}}\)の絶対値\(|{\dot{V}}|\)』であり、その値は『電圧\(v\)の実効値\(V_{RMS}\)』になるため以下の式が成り立ちます。

\begin{eqnarray}
V=|{\dot{V}}|=V_{RMS}=5{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

また、インピーダンス\(Z\)にかかる電圧\(v\)の位相\({\theta}_v\)は以下の値になります。

\begin{eqnarray}
{\theta}_v=+\frac{{\pi}}{6}{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}

したがって、上図に示すようにインピーダンス\(Z\)にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトルは基準(x軸)から反時計周りに\(\displaystyle\frac{{\pi}}{6}{\mathrm{[rad]}}\)回転させた向きとなります。

インピーダンス\(Z\)に流れる電流\({\dot{I}}\)のベクトル

インピーダンス\(Z\)に流れる電流\(i\)の実効値\(I_{RMS}\)は以下の値になります。

\begin{eqnarray}
I_{RMS}=\frac{I_M}{\sqrt{2}}=\frac{4\sqrt{2}}{\sqrt{2}}=4{\mathrm{[A]}}
\end{eqnarray}

『ベクトル\({\dot{I}}\)の長さ(大きさ)\(I\)』は『ベクトル\({\dot{I}}\)の絶対値\(|{\dot{I}}|\)』であり、その値は『電流\(i\)の実効値\(I_{RMS}\)』になるため以下の式が成り立ちます。

\begin{eqnarray}
I=|{\dot{I}}|=I_{RMS}=4{\mathrm{[A]}}
\end{eqnarray}

また、インピーダンス\(Z\)にかかる流れる電流\(i\)の位相\({\theta}_i\)は以下の値になります。

\begin{eqnarray}
{\theta}_i=0{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}

したがって、上図に示すようにインピーダンス\(Z\)に流れる電流\({\dot{I}}\)のベクトルは基準(x軸)と同じ向きになります。

インピーダンス\(Z\)にかかる電圧\({\dot{V}}\)はインピーダンス\(Z\)に流れる電流\({\dot{I}}\)を基準とすると、反時計周りに\(\displaystyle\frac{{\pi}}{6}{\mathrm{[rad]}}\)回転した向きとなります。

そのため、インピーダンス\(Z\)にかかる電圧\({\dot{V}}\)はインピーダンス\(Z\)に流れる電流\({\dot{I}}\)よりも位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{6}{\mathrm{[rad]}}\)進んでいるということになります。

『ベクトル』を『交流回路の式』に変換する方法

『ベクトル』を『交流回路の式』に変換する方法

抵抗\(R\)とコイル\(L\)で構成されたRL直列回路に交流電圧を接続した時、抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V}_R}\)、コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V}}_L\)、RL直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)の関係が上図に示すようなベクトルであるとします。

これらの『ベクトル』を『交流回路の式』に変換してみましょう。

抵抗\(R\)にかかる電圧\(v_R\)

『抵抗\(R\)にかかる電圧\(v_R\)の実効値\(V_{RRMS}\)』は『ベクトル\({\dot{V}_R}\)の長さ(大きさ)\(V_R\)』になります。そのため、『抵抗\(R\)にかかる電圧\(v_R\)の実効値\(V_{RRMS}\)』は以下の値となります。

\begin{eqnarray}
V_{RRMS}=V_R=4{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

したがって、『抵抗\(R\)にかかる電圧\(v_R\)の最大値\(V_{RM}\)』は以下の値になります。

\begin{eqnarray}
V_{RM}=\sqrt{2}×V_{RRMS}=4\sqrt{2}{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

また、抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V}_R}\)のベクトルは基準(x軸)と同じ向きであるため、位相\({\theta}_R\)は以下の値となります。

\begin{eqnarray}
{\theta}_R=0{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}

以上より、『抵抗\(R\)にかかる電圧\(v_R\)』は次式で表されます。

\begin{eqnarray}
v_R&=&V_{RM}{\sin}\left({\omega}t+{\theta}_R\right)=4\sqrt{2}{\sin}{\omega}t{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)

『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)の実効値\(V_{LRMS}\)』は『ベクトル\({\dot{V}_L}\)の長さ(大きさ)\(V_L\)』になります。そのため、『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)の実効値\(V_{LRMS}\)』は以下の値となります。

\begin{eqnarray}
V_{LRMS}=V_L=3{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

したがって、『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)の最大値\(V_{LM}\)』は以下の値になります。

\begin{eqnarray}
V_{LM}=\sqrt{2}×V_{LRMS}=3\sqrt{2}{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

また、コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V}_L}\)のベクトルは基準(x軸)から反時計周りに\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)回転させた向きとなります。そのため、位相\({\theta}_L\)は以下の値となります。

\begin{eqnarray}
{\theta}_L=\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}

以上より、『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)』は次式で表されます。

\begin{eqnarray}
v_L&=&V_{LM}{\sin}\left({\omega}t+{\theta}_L\right)=3\sqrt{2}{\sin}\left({\omega}t+\displaystyle\frac{{\pi}}{2}\right){\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

RL直列回路にかかる電圧\(v\)

『ベクトル\({\dot{V}}\)の長さ(大きさ)\(V\)』は三平方の定理(ピタゴラスの定理)より下記の値となります。

\begin{eqnarray}
V=\sqrt{{V_R}^2+{V_L}^2}=\sqrt{{4}^2+{3}^2}=5{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

『RL直列回路にかかる電圧\(v\)の実効値\(V_{RMS}\)』は『ベクトル\({\dot{V}}\)の長さ(大きさ)\(V\)』になります。そのため、『RL直列回路にかかる電圧\(v\)の実効値\(V_{RMS}\)』は以下の値となります。

\begin{eqnarray}
V_{RMS}=V=5{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

したがって、『RL直列回路にかかる電圧\(v\)の最大値\(V_{M}\)』は以下の値になります。

\begin{eqnarray}
V_M=\sqrt{2}×V_{RMS}=5\sqrt{2}{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}

また、RL直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトルは基準(x軸)から反時計周りに\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)回転させた向きとなります。位相\({\theta}\)は次式で求めることができます。

\begin{eqnarray}
{\tan}{\theta}&=&\displaystyle\frac{V_L}{V_R}\\
\\
&=&\displaystyle\frac{3}{4}\\
\\
{\Leftrightarrow}{\theta}&=&{\tan}^{-1}\displaystyle\frac{3}{4}{\mathrm{[rad]}}\\
\\
&{\approx}&36.87^{\circ}
\end{eqnarray}

以上より、『RL直列回路にかかる電圧\(v\)』は次式で表されます。

\begin{eqnarray}
v&=&V_{M}{\sin}\left({\omega}t+{\theta}\right)=5\sqrt{2}{\sin}\left({\omega}t+{\theta}\right){\mathrm{[V]}}\\
\\
ただし{\theta}&=&{\tan}^{-1}\displaystyle\frac{3}{4}{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}

まとめ

この記事では『インピーダンス\(Z\)』や『電圧\(V\)』や『電流\(I\)』などの記号の上についている「・(ドット)」について、以下の内容を説明しました。

  • インピーダンス\({\dot{Z}}\)・電圧\({\dot{V}}\)・電流\({\dot{I}}\)などにつく「・(ドット)」の意味
  • 『交流回路の式』を『ベクトル』に変換する方法
  • 『ベクトル』を『交流回路の式』に変換する方法

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