この記事では『静電誘導』と『誘電分極』について
- 『静電誘導』と『誘電分極』の違いと仕組み
- 『静電誘導』と『誘電分極』が生じている時の電界(電場)と電位のグラフ
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
静電誘導とは
静電誘導は、導体に帯電体を近づけた時、導体内部の電荷に偏りが生じる現象です。
もう少し詳しく説明します。
導体(金属のような電気を通す物質)の内部には自由電子があります。自由電子は、導体内部を自由に動ける電子であり、負(マイナス)の電荷を持っています。そのため、導体に帯電体を近づけると、導体内部の自由電子が静電気力を受けて、移動します。
その結果、導体内部は「帯電体に近い側」は帯電体と異なる電荷が生じ、「帯電体に遠い側」は帯電体と同じ電荷が生じます。このように、導体に帯電体を近づけることで、導体内部の電荷に偏りが生じる現象を静電誘導といいます。
例えば、上図の場合、正(プラス)に帯電している帯電体を導体の左側から近づけています。この時、導体の左側(帯電体に近い側)は負(マイナス)に帯電し、導体の右側(帯電体に遠い側)は正(プラス)に帯電します。
補足
- 静電誘導は英語では「Electrostatic induction」と書きます。
- 導体は「導電体」や「電気伝導体」とも呼ばれています。
- 導体に帯電体を近づけるほど、移動する自由電子の量が多くなるため、電荷の偏りが大きくなります。
静電誘導の仕組み
静電誘導の仕組みを下記の4ステップで説明します。説明をわかりやすくするために、「正電荷を蓄えている極板」と「負電荷を蓄えている極板」の間に導体を挿入した時の仕組みを考えてみましょう。
静電誘導の仕組み
- 極板間には正電荷から負電荷の方向に電界(電場)が発生しています。そのため、極板間に導体を挿入すると、導体に電界(電場)がかかります。
- 導体内部には自由電子があります。そのため、導体に電界(電場)がかかると、導体内部の自由電子は静電気力を受けて、電界(電場)と逆向きに移動します。自由電子が移動する向きは正電荷に引き寄せられる向きとなります。
- 導体内部の自由電子は外からの電界(電場)と打ち消しあうまで移動します。上図の場合、自由電子は導体の左側に移動しているため、導体の左側は負(マイナス)に帯電します。一方、導体の右側は自由電子が減るため、正(プラス)に帯電します。その結果、導体内部の電荷に偏りが生じます(静電誘導)。この時、導体内部でも電界(電場)が生じています。
- 「外からの電界(電場)」と「導体内部の電界(電場)」が打ち消しあうことで、導体内部の電界(電場)はゼロとなります。導体内部には電界(電場)がないため、導体内部は等電位となります。なお、導体表面に誘起された正電荷から電気力線から出て、負電荷には電気力線が入ります。また、電気力線は導体表面と垂直の向きになります。
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電気力線は、電界(電場)の様子を仮想的な線で表したものです。
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誘電分極とは
誘電分極は、絶縁体に帯電体を近づけた時、絶縁体内部の電荷に偏りが生じる現象です。
もう少し詳しく説明します。
絶縁体(下敷きのような電気を通さない物質)に帯電体を近づけると、絶縁体内部の分子や原子の中の電子(マイナスの電荷を持っている)が静電気力を受けます。絶縁体内部にある電子は、自由に移動できる自由電子ではありません。そのため、電子は分子や原子から離れることができず、個々の分子や原子で電荷の偏りが生じます。すなわち、絶縁体全体に電荷の偏りが生じているということになります。
その結果、絶縁体内部は「帯電体に近い側」は帯電体と異なる電荷が生じ、「帯電体に遠い側」は帯電体と同じ電荷が生じます。このように、絶縁体に帯電体を近づけることで、絶縁体内部の電荷に偏りが生じる現象を誘電分極といいます。
例えば、上図の場合、正(プラス)に帯電している帯電体を絶縁体の左側から近づけています。この時、絶縁体の左側(帯電体に近い側)は負(マイナス)に帯電し、絶縁体の右側(帯電体に遠い側)は正(プラス)に帯電します。
補足
- 誘電分極は英語では「Dielectric polarization」と書きます。
- 絶縁体は「不導体」や「不良導体」とも呼ばれています。
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誘電分極の仕組み
誘電分極の仕組みを下記の4ステップで説明します。説明をわかりやすくするために、「正電荷を蓄えている極板」と「負電荷を蓄えている極板」の間に絶縁体を挿入した時の仕組みを考えてみましょう。
誘電分極の仕組み
- 極板間には正電荷から負電荷の方向に電界(電場)が発生しています。そのため、極板間に絶縁体を挿入すると、絶縁体に電界(電場)がかかります。
- 絶縁体に電界(電場)がかかっていない時、絶縁体内部の分子や原子はランダムな方向を向いているため、絶縁体全体としては電荷の偏りがないですが、絶縁体に電界(電場)をかけることで、分子や原子の中の電子が静電気力を受けます。
- 静電気力によって、絶縁体内部の個々の分子や原子の方向が偏ります。その結果、個々の分子や原子で電荷が打ち消し合います。
- 最終的に残る電荷は絶縁体の表面のみになります(一番外側にある分子や原子は打ち消し合うことができないため)。上図の場合、絶縁体の左側は負(マイナス)に帯電します。一方、絶縁体の右側は正(プラス)に帯電します。その結果、絶縁体内部の電荷に偏りが生じます(誘電分極)。なお、静電誘導と異なり、絶縁体には自由に動ける電子がないため、外からの電界(電場)と打ち消しあうことができません。
『静電誘導』と『誘電分極』の電界(電場)と電位のグラフ
次に静電誘導時と誘電分極時の電界(電場)と電位のグラフについて説明します。
上図に示しているのは、「正電荷を蓄えている極板」と「負電荷を蓄えている極板」の間に
- 何も挿入していない時
- 絶縁体(誘電率が小さいもの)を挿入した時
- 絶縁体(誘電率が大きいもの)を挿入した時
- 導体を挿入した時
の電界(電場)と電位のグラフを示しています。
何も挿入していない時
正電荷から負電荷に向かって電界(電場)が生じます。電界(電場)の強さは一定なので、電位は直線的に変化します。
絶縁体(誘電率が小さいもの)を挿入した時
極板間に絶縁体(誘電率が小さいもの)を挿入すると、絶縁体内部で誘電分極が発生します。誘電分極によって、「外からの電界(電場)の一部」と「絶縁体内部の電界(電場)」が打ち消しあい、絶縁体内部の電界(電場)が弱まります。絶縁体は「外からの電界(電場)の一部」を打ち消しているため、電気力線(電界の様子を仮想的な線)は絶縁体内部を通過します。すなわち、絶縁体内部には電界(電場)が存在しているので、絶縁体内部では電位差が生じています。
絶縁体(誘電率が大きいもの)を挿入した時
絶縁体の誘電率が大きい場合は、絶縁体の分極が大きくなり、外からの電界(電場)の打ち消しが大きくなります。そのため、絶縁体(誘電率が小さいもの)と比較すると、絶縁体内部での電界(電場)が弱まり具合が大きくなり、絶縁体内部を通過する電気力線の数が減少します。その結果、絶縁体内部で発生する電位差も小さくなります。
つまり、絶縁体の誘電率が大きいほど、絶縁体内部での電位差が小さくなります。
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誘電率は絶縁体の誘電分極のしやすさを表しています。
『誘電率』については下記の記事で詳しく説明しています。興味のある方は下記のリンクからぜひチェックをしてみてください。 続きを見る【誘電率とは?】比誘電率や単位などを分かりやすく説明します!
導体を挿入した時
極板間に導体を挿入すると、導体内部で静電誘導が発生します。上図の場合、自由電子は導体の左側に移動しているため、導体の左側は負(マイナス)に帯電します。一方、導体の右側は自由電子の数が減るため正(プラス)に帯電します。自由電子は外からの電界(電場)を打ち消しあうまで移動するため、導体内部には電界(電場)がありません。つまり、導体内では電位差が生じないということになります。
まとめ
この記事では『静電誘導』と『誘電分極』について、以下の内容を説明しました。
- 『静電誘導』と『誘電分極』の違いと仕組み
- 『静電誘導』と『誘電分極』が生じている時の電界(電場)と電位のグラフ
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