LTspiceにはMOSFETやバイポーラトランジスタ等の半導体スイッチがありますが、理想スイッチがあるのはご存知でしょうか。
LTspiceにおいて理想スイッチは電圧制御スイッチ(Voltage Controlled Switch)で再現することができます。
今回は、この電圧制御スイッチの使い方について詳しく説明します。
電圧制御スイッチの使い方
電圧制御スイッチを使うためには、
- LTspice上に電圧制御スイッチを配置する
- 電圧制御スイッチにモデル名を指定する
- SPICE Directiveでモデルを指定する
が必要となります。これからこれら1~3について説明します。
1.LTspice上に電圧制御スイッチを配置する
LTspiceを開き、ツールバーからSelect Component Symbolを開きます。そこで、swを選択し、OKボタンを押します。すると、swが配置されます。
LTspiceでは、このswが電圧制御スイッチになります。
2.電圧制御スイッチにモデル名を指定する
swを右クリックすると、「Component Attribute Editor」が開きます。この画面において、Valueでモデル名を指定します。今回は例としてValueを「SW_VControlled」としていますが、このモデル名は自由に指定することができます。
モデル名を指定して、OKボタンを押すと、回路図上において、モデル名が「SW_VControlled」に変化します。
3. SPICE Directiveでモデルを指定する
SPICE Directiveで電圧制御スイッチ(sw)のON抵抗、OFF抵抗、しきい値などを設定します。
モデルの記述方法は
となります。[]は省略可能なパラメータです。
今回はswのValueを「SW_VControlled」としているので、モデル名は「SW_VControlled」となります。このモデルにおいて、
- ON時抵抗:10mΩ
- OFF時抵抗:10MΩ
- しきい電圧:5V
としたい場合、モデル記述は
となります。
このモデル記述の場合、
- スイッチ電圧がLow時(5V以下)
- スイッチ電圧がHigh時(5V以上)
スイッチはオフとなり、抵抗値がRoff=10megとなる
スイッチはオンとなり、抵抗値がRon=10mとなる
という動作となります。
ポイント
VtとVhは省略すると、デフォルト値のVt=0、Vh=0となります。
シミュレーション例
ここからモデル記述やスイッチ電圧を変えながら、電圧制御スイッチがどのような動きをするのか見てみましょう。
シミュレーション①:電圧制御スイッチにパルス電圧を印可する
入力電圧10V、抵抗10Ω、電圧制御スイッチが直列に接続されている回路において、
- High電圧:10V
- オン時間:1s
- オフ時間:1s
のパルス電圧を電圧制御スイッチに印可しています。
その際の、スイッチ電圧と出力電圧VOUTの波形を図の右側に表示しています。
モデル記述は
としています。
パルス電圧がHigh電圧(10V)の時は、しきい電圧である5Vを超えるため、電圧制御スイッチはオンとなります。その結果、VOUTは10Vとなります。
パルス電圧がLow電圧(0V)の時は、しきい電圧である5Vを下回るため、電圧制御スイッチはオフとなります。その結果、VOUTは0Vとなります。
シミュレーション②:電圧制御スイッチに三角波電圧を印可する
入力電圧10V、抵抗10Ω、電圧制御スイッチが直列に接続されている回路において、
- 0~5sで10Vまで上昇
- 5~10sで0Vまで減少
の三角波電圧を電圧制御スイッチに印可しています。
その際の、スイッチ電圧と出力電圧VOUTの波形を図の右側に表示しています。
モデル記述は
としています。
三角波電圧がしきい電圧である5Vを超えると、電圧制御スイッチはオンとなります。その結果、VOUTは10Vとなります。
三角波電圧がしきい電圧である5Vを下回ると、電圧制御スイッチはオフとなります。その結果、VOUTは0Vとなります。
シミュレーション③:電圧制御スイッチにヒステリシス特性を持たせる
シミュレーション③では、シミュレーション②において、モデル記述のみ変えています。
モデル記述は
としており、「Vh=2.5」を追加しています。
上のモデル記述の場合・・・
- 電圧制御スイッチがオンになる電圧
- 電圧制御スイッチがオフになる電圧
Vt+Vhとなります。今回はVt=5、Vh=2.5なので、オン電圧は7.5Vとなります。
Vhになります。今回はVh=2.5なので、オフ電圧は2.5Vになります。
図の右側のシミュレーション結果でも、7.5Vでオンして、2.5Vでオフしていることが確認できますね。
シミュレーション④:RonとRoffの値を逆にする
シミュレーション④では、シミュレーション②において、RonとRoffの値を逆にしています。
モデル記述は
となり、Ronが10MΩ、Roffが10mΩになります。
シミュレーション結果は、シミュレーション②の動作と真逆になります。
三角波電圧がしきい電圧である5Vを超えると、電圧制御スイッチはオフ(正確にはオンだが、オン抵抗をRon=10megと大きな値としているため、オフになる)となります。その結果、VOUTは0Vとなります。
三角波電圧がしきい電圧である5Vを下回ると、電圧制御スイッチはオン(正確にはオフだが、オフ抵抗をRoff=10mと小さな値としているため、オンになる)となります。その結果、VOUTは10Vとなります。
補足
モデル記述を
として、スイッチにヒステリシス特性を持たせた場合でも同じです。シミュレーション③と比較すると、動作が真逆になります。