インダクタ(コイル)の『定格電流』とは?

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インダクタ(コイル)のデータシートには必ず定格電流が定義されています。

今回はインダクタの定格電流について、以下の5項目を説明します。

  1. インダクタの定格電流と電源回路の定格電流の定格は意味が異なる
  2. インダクタの定格電流とは?
  3. 温度上昇によって決まる定格電流について
  4. インダクタンス値の低下によって決まる定格電流について
  5. 磁路構造の違いによるインダクタンス値の特性変化について

インダクタの定格電流と電源回路の定格電流の定格は意味が異なる

まず最初に「定格」について説明します。

定格には大きく分けて基準値最大値の2種類があります。

  • 基準値
  • 動作の基準となる値(例 電源回路の定格電圧、定格電流)

  • 最大値
  • 許容できる最大の値。この定格を超えると素子が破損する可能性がある(例 トランジスタの定格電流、抵抗の定格電力)

この2種類ある定格のうちコイルは「2の最大値」になります。

ポイント

実使用において、インダクタの定格電流を瞬間的に超えても素子は破損しません(継続的に超えていればもちろん壊れます)。
定格電流が超えても影響のない場合(例えば、電源回路の起動時の突入電流によって瞬間的にインダクタの定格電流を超える等)には、その電流波形を観測して、メーカーにその電流波形・動作使用状況(外部温度等)を送付し、問題ないか確認すると、使用OKの判断をもらえる場合があります。

インダクタ(コイル)の『定格電流』とは?

インダクタ(コイル)の『定格電流』とは?
インダクタの定格電流は大きく分けて2種類あります。

  • 温度上昇によって決まる定格電流
  • インダクタンス値の低下によって決まる定格電流

です。

この2種類の定格電流の小さい方を定格電流と規定し、データシートに記載されています。

温度上昇によって決まる定格電流について

温度上昇によって決まる定格電流とは、電流を流すことによる発熱によって素子が破損する直流電流値です。

一般的に温度上昇(許容)電流とも言われます。

主な発熱要因は、インダクタの配線等のESR(等価直流抵抗)です。このESRによる自己発熱によって、絶縁体の耐熱やコアの透磁率が厳しくなり破損に至ります。

温度上昇によって決まる定格電流によって、定格電流が規定されている場合、メーカーのデータシート等では定格電流の注意書きに

  • 自己発熱による温度上昇40℃を定格電流とする。
  • 直流電流を流した時、コイルの温度上昇がΔT=40℃となる電流値とする。

などと記載してあることがあります。

なお、上の例では40℃の温度上昇を定格電流としていましたが、細かい数値はメーカー、インダクタの種類によって異なります。

一般的には、インダクタが20度、30℃、又は40℃温度上昇した時を定格電流としていることが多いです。

インダクタンス値の低下によって決まる定格電流

インダクタンス値の低下によって決まる定格電流とは、インダクタンス値の低下が大きくなる直流電流値です。

一般的に直流重畳(許容)電流と言われています。

インダクタに流す電流が大きくほど、インダクタンス値は低下します。データシートではある一定のインダクタンス低下(10%又は30%)が起こる電流値を定格電流と規定していることが多いです。

インダクタンス値の低下によって決まる定格電流を超えて使用した場合、インダクタは破損しませんが、インダクタンス値の低下によって、リプル電流が増加します。その結果、ICの動作が不安定になったり、インダクタ以外の素子の定格電流を超える可能性があります。

なお、インダクタンスの低下要因は磁性体コアが飽和することによって生じます。また、インダクタンスの低下傾向は、インダクタの磁路構造によって異なります(この記事の後半に記載あります)。

インダクタンス値の低下によって決まる定格電流によって、定格電流が規定されている場合、メーカーのデータシート等では定格電流の注意書きに

  • 初期値からインダクタンスが20%低下する値を定格電流とする。
  • 直流電流を流した時、インダクタンスが初期値の90%となる電流値とする。

などと記載してあることがあります。

なお、細かい数値はメーカー、インダクタの種類によって異なります。

一般的にはインダクタンスの低下率が10%又は30%の時を定格電流としていることが多いです。

磁路構造によるインダクタンスの変化

開磁路タイプと閉磁路タイプの違い
インダクタは開磁路タイプ閉磁路タイプによって、『直流電流―インダクタンス特性』、『直流電流―温度上昇特性』が異なります。

開磁路タイプ(ギャップ入りコア、例えばPQコアなど)

直流電流が増加しても、ある一定の電流値までは比較的にフラットなインダクタンス値を示します。

しかし、ある一定の電流値を境に急激にインダクタンス値が低下します。

閉磁路タイプと比較すると発熱があります。

アンプのような瞬間的に大きな電流が流れることが多い用途には、発熱よりもピーク電流でインダクタが飽和しない特性を重視して、このタイプが使用されることが多いです。

閉磁路タイプ(トロイダルコア)

直流電流が増加するにつれて、徐々に透磁率が減少するため、インダクタンス値は緩やかに低下します。

開磁路タイプと比較すると発熱面で有利です。

DC/DC電源の場合は、インダクタに流れる電流が連続していることが多いので、ピーク電流よりも発熱を重視して、このタイプが使用されることが多いです。

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