【フライバックコンバータ】スナバ回路の『設計』と『損失』について!

スポンサーリンク


この記事ではフライバックコンバータのRCDスナバ回路について

  • スナバ回路の設計方法
  • スナバ回路の損失

などを図を用いて分かりやすく説明しています。

フライバックコンバータのスナバ回路について

フライバックコンバータのスナバ回路について

上図はフライバックコンバータにおいてスナバ回路周辺を抜粋したものとなっています。

フライバックコンバータにおいて、トランスの1次側の両端に接続されている抵抗R1、コンデンサC1、ダイオードD1で構成されているのがスナバ回路(RCDスナバ回路)です。

スナバ回路を接続する目的や動作などは以下の記事で解説していますので参考にしてください。

【フライバックコンバータ】スナバ回路の目的と動作について!
【フライバックコンバータ】スナバ回路の目的と動作について!

続きを見る

ではこれから上図のスナバ回路の設計方法について説明していきます。

フライバックコンバータのスナバ回路の設計

フライバックコンバータのスナバ回路の設計

上図にフライバックコンバータの回路図とMOSFETのドレインソース間電圧VDSドレイン電流IDを示しています。

上図において、VROはトランスの1次側の両端電圧です。トランスの1次側の両端電圧VROは出力電圧VOUTと巻数比nによって決まり、『VRO=nVOUT』となります。VCLAMPはトランスのリーケージインダクタンスLLEAKに発生する大きなサージ電圧(スパイクノイズ)をクランプする電圧です。

この記事ではフライバックコンバータのスナバ回路の設計を以下の順番で行います。

フライバックコンバータのスナバ回路の設計

  • クランプ電圧VCLAMPとクランプ電圧のリプル率の設定
  • スナバ抵抗R1の設計
  • スナバコンデンサC1の設計
  • スナバダイオードD1の選定

また、以下の条件でスナバ回路を設計するにあたり、スイッチング周波数fSWなどのパラメータが必要となります。設計に用いるパラメータを以下に示します。

スナバ回路の設計に用いるパラメータ

  • 入力電圧VIN:375V
  • スイッチング周波数fSW:120kHz
  • トランスのリーケージインダクタンスLLEAK:50uH
  • トランスの1次側の両端電圧VRO:70V
  • ドレイン電流IDのピーク値IPEAK:0.23A
  • MOSFETの耐圧:700V

クランプ電圧とクランプ電圧のリプル率の設定

クランプ電圧VCLAMPはMOSFETの耐圧とマージンを考慮して決定します。

700V耐圧のMOSFETを選定した場合、マージンを80%とすると、MOSFETのドレインソース間電圧VDSを『700V×0.8=560V』以下にする必要があります。

入力電圧VINは375Vなので、クランプ電圧VCLAMPは以下の値より小さい必要があります。

\begin{eqnarray}
&&560{>}V_{IN}+V_{CLAMP}\\
{\Leftrightarrow}&&V_{CLAMP}{<}560-V_{IN}\\
&&V_{CLAMP}{<}560-375=185{\mathrm{[V]}}\tag{1}
\end{eqnarray}

なお、クランプ電圧VCLAMPはトランスの1次側の両端電圧VRO(=70V)よりも大きくする必要があり、一般的には2~3倍に設定を行います。そこで今回はクランプ電圧VCLAMPを170[V]として設計をします。

また、クランプ電圧VCLAMPのリプル率を13%とすると、クランプリプル電圧ΔVCLAMPは次式となります。

\begin{eqnarray}
{\Delta}V_{CLAMP}=V_{CLAMP}×0.13=170×0.13=22.1{\mathrm{[V]}}\tag{2}
\end{eqnarray}

スナバ抵抗の設計

スナバ抵抗R1は次式で求めます。

\begin{eqnarray}
R_{1}&=&\frac{2×V_{CLAMP}×(V_{CLAMP}-V_{RO})}{L_{LEAK}×I_{PEAK}^2×f_{SW}}\\
&=&\frac{2×170×(170-70)}{50×10^{-6}×0.23^2×120×10^{3}}\\
&{\approx}&107{\mathrm{[kΩ]}}\tag{3}
\end{eqnarray}

スナバ抵抗R1は上式で求めた抵抗値より大きな値にすると、スナバコンデンサC1の放電が遅くなるため、先ほど設計したクランプ電圧VCLAMP(=170V)よりも値が大きくなります。したがって、上式で求めた抵抗値より小さくする必要があります。そこで今回は『R1=100kΩ』を選定します。

また、スナバ抵抗R1の損失PR1は次式で表されます。

\begin{eqnarray}
P_{R1}=\frac{V_{CLAMP}^2}{R_{1}}=\frac{170^2}{100×10^3}=0.289{\mathrm{[W]}}\tag{4}
\end{eqnarray}

そのため、今回はマージンを取って1W品を選定しています。

スナバコンデンサの設計

クランプリプル電圧ΔVCLAMPは次式で表されます。

\begin{eqnarray}
{\Delta}V_{CLAMP}=\frac{V_{CLAMP}}{C_{1}R_{1}f_{SW}}\tag{5}
\end{eqnarray}

上式を変形すると、次式となり、スナバコンデンサC1の値を求めることができます。

\begin{eqnarray}
C_{1}=\frac{V_{CLAMP}}{{\Delta}V_{CLAMP}R_{1}f_{SW}}=\frac{170}{22.1×100×10^{3}×120×10^{3}}{\;}{\approx}{\;}641{\mathrm{[pF]}}\tag{6}
\end{eqnarray}

上式で求めた容量値よりも大きな値にすることで、クランプリプル電圧ΔVCLAMPを小さくすることができます。そこで今回は『C1=680pF』を選定します。

なお、スナバコンデンサC1の耐圧はクランプ電圧VCLAMPよりも大きい必要があります。

補足

スナバコンデンサC1には『セラミックコンデンサ』または『ESRの低いコンデンサ』を用います。『電解コンデンサ』や『タンタルコンデンサ』を使用することはできません。

スナバダイオードの選定

スナバダイオードには、一般的にはファストリカバリダイオードを使用します。スナバダイオードの耐圧はMOSFETの耐圧よりも高い素子を用います。また、定格電流は1A程度のものを使用することが多いです。

クランプ電圧の大きさ

(3)式を変形すると、次式で表されます。

\begin{eqnarray}
&&R_{1}=\frac{2×V_{CLAMP}×(V_{CLAMP}-V_{RO})}{L_{LEAK}×I_{PEAK}^2×f_{SW}}\\
{\Leftrightarrow}&&V_{CLAMP}^2-V_{RO}V_{CLAMP}-\frac{R_{1}L_{LEAK}I_{PEAK}^2f_{SW}}{2}=0\tag{7}
\end{eqnarray}

上式は『ax2+bx+c=0』の2次方程式の形になっています。そのため、『VCLAMP=□』の値に変形することができます。(7)式より、クランプ電圧VCLAMPは次式で表されます。

\begin{eqnarray}
V_{CLAMP}=\frac{V_{RO}+\sqrt{V_{RO}^2+2R_{1}L_{LEAK}I_{PEAK}^2f_{SW}}}{2}\tag{8}
\end{eqnarray}

補足

スナバ抵抗R1の抵抗値が小さいほどクランプ電圧VCLAMPは低くなりますが、損失が増加します。

ドレインソース間電圧の最大値

MOSFETのドレインソース間にかかる最大電圧VDS(MAX)は入力電圧VINとクランプ電圧VCLAMPの足し算となり、次式となります。

\begin{eqnarray}
V_{DS(MAX)}=V_{IN}+V_{CLAMP}=375+170=545{\mathrm{[V]}}\tag{9}
\end{eqnarray}

フライバックコンバータのスナバ回路での損失

フライバックコンバータのスナバ回路での損失

スナバ回路での損失は次式で表されます。

\begin{eqnarray}
P_{SN}=\frac{V_{CLAMP}^2}{R_{1}}=\frac{L_{LEAK}×I_{PEAK}^2×f_{SW}×V_{CLAMP}}{2(V_{CLAMP}-V_{SN})}\tag{10}
\end{eqnarray}

上式の導出方法について説明します。

スナバ抵抗での損失PSNは次式で表されます。

\begin{eqnarray}
P_{SN}=\frac{1}{2}I_{PEAK}T_{SN}V_{CLAMP}f_{SW}\tag{11}
\end{eqnarray}

また、リーケージインダクタンスLLEAKにかかる電圧VLLEAKは次式で表されます。

\begin{eqnarray}
V_{LLEAK}=V_{CLAMP}-V_{RO}\tag{12}
\end{eqnarray}

ここで、リーケージインダクタンスLLEAKに蓄えられているエネルギーの放出期間TSNは\(v=L\displaystyle\frac{di}{dt}\)を用いると次式で表されます。

\begin{eqnarray}
V_{LLEAK}&=&L_{LEAK}\frac{I_{PEAK}}{T_{SN}}\\
{\Leftrightarrow}T_{SN}&=&\frac{I_{PEAK}L_{LEAK}}{V_{LLEAK}}\\
&=&\frac{I_{PEAK}L_{LEAK}}{V_{CLAMP}-V_{RO}}\tag{13}
\end{eqnarray}

(13)式を(11)式に代入すると、(10)式を導出することができます。

スナバ回路のその他の情報

  • トランスのリーケージインダクタンスは1次巻線以外の巻線をすべて短絡した状態において、スイッチング周波数で測定した値を使用することをお勧めします。
  • クランプ電圧VCLAMPはトランスのリーケージインダクタンスの他に、基板のパターンのインダクタンス成分の影響も受けます。そのため、必要に応じてスナバ回路の調整を行う必要があります。
  • このスナバの設計では、リーケージインダクタンスに蓄えられたエネルギーは全てスナバ回路に流れると想定しており、浮遊容量やダイオードの逆回復時間などを考慮していません。そのため、実際はこれらの影響によりスナバ回路の損失やクランプ電圧は設計値よりも小さくなります。
  • リーケージインダクタンスに蓄えられるエネルギーWLは次式となります。
    \begin{eqnarray}
    W_{L}=\frac{1}{2}L_{LEAK}I_{PEAK}^2\tag{10}
    \end{eqnarray}

まとめ

この記事ではフライバックコンバータのRCDスナバ回路ついて、以下の内容を説明しました。

当記事のまとめ

  • スナバ回路の設計方法
  • スナバ回路の損失の式

お読み頂きありがとうございました。

当サイトでは電気に関する様々な情報を記載しています。当サイトの全記事一覧には以下のボタンから移動することができます。

全記事一覧

スポンサーリンク