【定電圧制御回路】フォトカプラの直列抵抗と並列抵抗の設計

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絶縁型コンバータの定電圧制御回路にはフォトカプラが使用されます。このフォトカプラの直列抵抗と並列抵抗について設計方法を説明します。

定電圧制御回路の回路例

定電圧制御回路の回路例
上図に定電圧制御回路を示します。

上図の定電圧制御回路は基準電圧ICとフォトカプラを主要部品として構成される基本的な回路です。定電圧制御回路は『フィードバック回路』や『出力電圧検知回路』とも呼ばれています。

フォトカプラと直列には抵抗RLEDを、並列には抵抗RBIASを接続するのが一般的です。

直列に接続されている抵抗RLEDはフォトカプラの過電流保護用で、並列に接続されている抵抗RBIASは基準電圧ICの最小カソード電流IKA(MIN)を流すための抵抗となっています。

各抵抗の目的はネットや参考書に書いてあるのが多いですが、この抵抗値を設計しているのはあまり見かけません。『とりあえず、抵抗RBIASには1kΩ程度を接続してください』などと書いてあるケースが多いです。

今回はこの抵抗値の役割と設計方法について説明してきます。

基準電圧ICの特性

基準電圧ICの特性
定電圧制御回路を設計するにあたり、まず基準電圧ICの特性を理解する必要があります。

今回は基準電圧ICにTL431を使用しています。

上図の左側の回路図はTL431においてリファレンス端子をカソード端子に接続することで、カソードアノード間の電圧VKAと基準電圧VREFを等しくするようにした回路です。

右側のグラフは左側の回路図において、カソードアノード間の電圧VKAを変えた時(すなわち基準電圧VREFを変えた時)において、カソード電流IKAがどのようなふるまいをするかを示しているグラフです。

この回路図とグラフにおいて回路図とグラフから以下のことが分かります。

  1. 回路より基準電圧VREFはカソードアノード間電圧VKAと等しい。
  2. 基準電圧VREFが0Vから2.5Vまで上昇するときを考える。
  3. 基準電圧VREFが2Vの時にはカソード電流IKAが約180uA流れている。
  4. 基準電圧VREFが確立する電圧(2.5V)になるために必要なカソード電流IKAを最小カソード電流IMINと呼ぶ。

これより、

  • 最小カソード電流IMIN以上の場合、基準電圧VREFは電流が変わっても2.5Vで確立する。
  • 最小カソード電流IMIN以下の場合、基準電圧VREFは電流が変わると変化する。

ということが分かります。

重要なのは、最小カソード電流IMIN以下の時には基準電圧VREFが不安定ということです。そのため、最小カソード電流IMIN以下で制御を行うことは一般的には行いません。

*基準電圧ICについて詳しく知りたい方は
【基準電圧ICとは?】使い方などを説明します
を参考にしてください。

フォトカプラと並列にある抵抗の役割

フォトカプラと並列にある抵抗の役割
ここから本題です。

フォトカプラと並列にある抵抗RBIASの役割について説明します。

抵抗RBIASがない場合が左側、抵抗RBIASがある場合が右側の図です。要点は以下のようになります。

抵抗RBIASがない場合
カソード電流IKAが最小カソード電流IMINになる前にフォトカプラに電流が流れます。
その結果、基準電圧VREFが確立する前に制御が開始されてしまうので、動作が不安定になります。

抵抗RBIASがある場合
カソード電流IKAが最小カソード電流IMINになった後にフォトカプラに電流が流れます。その結果、基準電圧VREFが確立した後に制御を行うことができるので、動作が安定します。

次に抵抗RBIASがない場合とある場合について詳しく説明します。

抵抗RBIASがない場合

フォトカプラと並列にある抵抗がない場合
左図に回路図、右図に基準電圧VREFとカソード電流IKAの関係を示しています。

基準電圧VREFが確立する前に制御が開始され、動作が不安定になる原理は以下のようになっています。

  1. 出力電圧VOUTが設定電圧(5V)に達した時にVREF電圧が基準電圧の2.5Vになるように抵抗R1とR2を設定する。
  2. 出力電圧VOUTが0Vから上昇する。
  3. VREF電圧が上昇する。
  4. カソード電流IKAが流れ始める。
  5. カソード電流IKAはフォトカプラに流れてしまう。
  6. 最小カソード電流IMINが流れる前(基準電圧VREFが確立する前)にフォトカプラに流れ、制御が開始されてしまう。

抵抗RBIASがある場合

フォトカプラと並列にある抵抗がある場合
左図に回路図、右図に基準電圧VREFとカソード電流の関係を示しています。

基準電圧VREFが確立した後に制御を行うことで、動作が安定する原理は以下のようになっています。

  1. 出力電圧VOUTが設定電圧(5V)に達した時にVREF電圧が基準電圧の2.5Vになるように抵抗R1とR2を設定する。
  2. 出力電圧VOUTが0Vから上昇する。
  3. VREF電圧が上昇する。
  4. カソード電流IKAが流れ始める。
  5. カソード電流IKAは抵抗RBIASに流れる。
  6. 最小カソード電流IMINが流れる前(基準電圧VREFが確立する前)にフォトカプラに電流を流さない。そのため、フォトカプラに電流が流れるときには基準電圧VREFが確立しているため、動作が安定する。

フォトカプラと並列にある抵抗の設計方法

次に抵抗RBIASの設計方法についてです。

設計手順は

  1. 最小カソード電流IMINの決定
  2. 抵抗RBIASの抵抗値決定

となります。これから各項目について説明します。

最小カソード電流IMINの決定

最小カソード電流の決定
今回使用した基準電圧ICはTL431を選定しています。

データシートにあるグラフと電気的特性をみると、グラフだと最小カソード電流IMINが400uA(0.4mA)となっています。

しかし、この最小カソード電流IMINは電気的特性をみると標準値(TPY)であり、データシートでは最大値(MAX)は1mAとなっています。

そのため、最小カソード電流IMINを1mAとして設計をします。

抵抗RBIASの抵抗値決定

フォトカプラと並列にある抵抗の抵抗値決定
最小カソード電流IMIN(1mA)が流れた時にフォトカプラがオンになるような抵抗値RBIASを決めます。

フォトカプラの順方向電圧降下VF(~1.2V)を1.0Vとすると、抵抗RBIAS

$$R_{BIAS}I_{MIN}{\it}=V_{F}{\Leftrightarrow}R_{BIAS}{\lt}\frac{V_{F}}{I_{MIN}}=\frac{1.0[V]}{1[mA]}=1[kΩ]$$
となります。

この計算で求めた抵抗値より低い値にします。この計算した抵抗値より高い値にすると、最小カソード電流IMIN以下の時でもフォトカプラがオンしてしまう可能性があるので、動作が不安定になります。

フォトカプラと直列にある抵抗の役割

フォトカプラと直列にある抵抗の役割
フォトカプラと並列にある抵抗RLEDの役割について説明します。

抵抗RLEDがない場合が左側、抵抗RLEDがある場合が右側の図です。要点は以下のようになります。

抵抗RLEDがない場合
基準電圧ICがオンした瞬間に大電流が流れます。その結果、フォトカプラの定格電流を超え破壊してしまいます。

抵抗RLEDがある場合
基準電圧ICがオンしても抵抗RLEDで電流を制限できます。その結果、フォトカプラの定格電流を超えることなく安全に使用できます。

フォトカプラと直列にある抵抗の設計方法

フォトカプラと直列にある抵抗の設計方法
次に抵抗RLEDの設計方法についてです。

設計手順は

  1. FBピンから流れるソース電流IFBの最大値IFB(MAX)を求める
  2. フォトカプラに流れる電流IFの最大値IF(MAX)を計算する。
  3. フォトカプラに並列にある抵抗RBIASに流れる電流IBIASを計算する。
  4. 抵抗RLEDの値を求める。

となります。これから各項目について説明します。

FBピンから流れるソース電流IFBの最大値IFB(MAX)を求める

FBピンから流れるソース電流を求める
まず、仕様は以下のようになっているとします。
【仕様】

  • IC内部にある電源電圧VDD=5[V]
  • 抵抗RPULLUP=4.7[kΩ]

【最大値IFB(MAX)の求め方】
FBピンから流れるソース電流IFBが最大値IFB(MAX)となるときは、フォトカプラ内のトランジスタがオンしている時である。

トランジスタを増幅用途ではなく、スイッチ用途で用いる場合、トランジスタがオンしている時は飽和領域で用いている。

ここで、トランジスタのコレクタエミッタ間電圧VCEの飽和電圧VCE(SAT)

$$V_{CE(SAT)}=0.3[V]$$
とする。

すると、FBピンから流れるソース電流IFBの最大値IFB(MAX)

$$I_{FB(MAX)}=\frac{V_{DD}-V_{CE(SAT)}}{R_{PULLUP}}=\frac{5[V]-0.3[V]}{4.7[kΩ]}=1[mA]$$
となる。

なお、FBピンから流れるソース電流IFBの最大値IFB(MAX)はICのデータシートに書いてある場合があります。

フォトカプラに流れる電流IFの最大値IF(MAX)を計算する

フォトカプラに流れる電流の最大値
まず、仕様は以下のようになっているとします。
【仕様】

  • フォトカプラのCTRの最小値CTRMIN=50[%]

【最大値IF(MAX)の求め方】
フォトカプラのCTRは以下の式で表される

$$CTR=\frac{I_{FB}}{I_F}$$

CTRは以下の特徴をもつ。
■CTRは時間が経つと低下する。
■CTR自身にバラツキを持つ。
そのため、CTRは最小値CTRMINで考える。
このCTRMINにおいて、最大値IFB(MAX)を流す必要があるため、フォトカプラに流れる電流IFの最大値IF(MAX)

$$I_{F(MAX)}=\frac{I_{FB(MAX)}}{CTR_{MIN}}=\frac{1[mA]}{50[\%]}=2[mA]$$
となる。

フォトカプラに並列にある抵抗RBIASに流れる電流IBIASを計算する

RBIASに流れる電流IBIASには『フォトカプラと並列にある抵抗の役割』での計算と同じように行います。

RBIASには最小カソード電流IKA(MIN)を流すため、今回は1mAとします。

抵抗RLEDの値を求める

フォトカプラと直列にある抵抗の抵抗値
まず、仕様は以下のようになっているとします。
【仕様】

  • 出力電圧VOUT=5[V]
  • フォトカプラの順方向電圧降下VF=1[V]
  • アノードカソード間電圧の最小値VKA(MIN)=2.5[V]

【抵抗RLEDの求め方】
抵抗RLEDにかかる電圧VRLED

$$V_{RLED}=V_{OUT}-V_{F}-V_{KA(MIN)}$$
となります。

抵抗RLEDに流れる電流IKA

$$I_{KA}=I_{F}+I_{BIAS}$$
となります。

これより抵抗RLED

$$R_{LED}{\lt}\frac{V_{OUT}-V_{F}-V_{KA(MIN)}}{I_{F}+I_{BIAS}}=\frac{5[V]-1[V]-2.5[V]}{2[mA]+1[mA]}=500[Ω]$$
となります。

抵抗RLEDを求めるまでの今までの導出をまとめる

フォトカプラと直列にある抵抗の設計まとめ
抵抗RLEDを求めるまでの今までの導出をまとめると上記のようなり、
抵抗RLED

$$R_{LED}{\lt}\frac{V_{OUT}-V_{F}-V_{KA(MIN)}}{\frac{1}{CTR_{MIN}}\frac{V_{DD}-V_{CE(SAT)}}{R_{PULLUP}}-\frac{V_F}{R_{BIAS}}}$$
で求めることができます。

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