【『ベース抵抗』と『ベースエミッタ間抵抗』の役割】なんで付いているの?

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バイポーラトランジスタにはベースに直列に入っている『ベース抵抗』とベースとエミッタ間にある『ベースエミッタ間抵抗』があります。
この抵抗について詳しく説明します。

『ベース抵抗』と『ベースエミッタ間抵抗』について

『ベース抵抗』と『ベースエミッタ間抵抗』について
上図のようにバイポーラトランジスタには『ベース抵抗RB』と『ベースエミッタ間抵抗RBE』が接続されています。

回路設計者にありがちなのが、設計する時に『ベース抵抗RB』と『ベースエミッタ間抵抗RBE』を抜かしてしまうことです。

この抵抗には接続されている意味がちゃんとあるのです。この抵抗がない場合、トランジスタが壊れたり、オフ状態の時に誤動作してオンしてしまう可能性があります。

今回は、『この抵抗はなぜ接続されているの?』『最適な値は何Ω?』など説明します。

ベース抵抗がある理由

ベース抵抗がある理由
『ベース抵抗RB』がある理由は大きく2つあります。

  1. トランジスタや駆動回路(IC等)の保護のため
  2. スイッチング動作を安定させるため

です。

次に各理由について説明します。

理由1:トランジスタや駆動回路(IC等)の保護のため

【ベース抵抗がある理由】トランジスタや駆動回路(IC等)の保護のため
ベース抵抗RBがない場合が左側、ベース抵抗RBがある場合が右側の図です。

■ベース抵抗RBがない場合
トランジスタや駆動回路(IC等)が壊れる可能性があります。

■ベース抵抗RBがある場合
トランジスタや駆動回路(IC等)の破壊を防ぐことができます。

具体的には以下のような感じになります。

ベース抵抗RBがない場合

  1. ベース抵抗RBがない状態において、駆動回路(IC等)の信号を出力する装置をベースにつなぎ電圧を印可します。
  2. トランジスタのベースに大電流が流れます。
  3. その結果、大電流が流れるルートにあるトランジスタや駆動回路(IC等)の定格電流を超えて、壊れます

ベース抵抗RBがある場合

  1. ベース抵抗RBがある状態において、駆動回路(IC等)の信号を出力する装置をベースにつなぎ電圧を印可します。
  2. ベース抵抗RBによって電流が制限されます。
  3. 電流を制限することで、トランジスタや駆動回路(IC等)の定格電流を超えず、破壊を防止することができます。

理由2:スイッチング動作を安定させるため

【ベース抵抗がある理由】スイッチング動作を安定させるため
ベース抵抗RBがない場合が左側、ベース抵抗RBがある場合が右側の図です。

■ベース抵抗RBがない場合
トランジスタは入力のパルス電圧VPULSEによる電圧駆動となります。

■ベース抵抗RBがある場合
ベース抵抗RBを接続して、入力のパルス電圧VPULSEをベース電流IBに変換することで、電流駆動としています。

具体的には以下のような感じになります。

ベース抵抗RBがない場合

ベース抵抗RBがない場合、ベースエミッタ間電圧VBEは入力のパルス電圧VPULSEと等しくなります。そのため、トランジスタを電圧で制御していることになります。

この場合、コレクタ電流ICの値は

$$ I_C=I_S×e^{(\frac{V_{BE}}{\frac{kT}{q}})}$$
となります。
ISは逆方向飽和電圧でトランジスタ固有の値です。
kはボルツマン定数で1.3807×10-23の値です。
Tは絶対温度です。
qは電子電荷で1.602×10-19の値になります。

このように、電圧制御の場合、コレクタ電流ICはベースエミッタ間電圧VBEに対して、指数関数で変化します。

そのため、トランジスタの入力にベース抵抗RBを接続せず、トランジスタを入力のパルス電圧VPULSEで直接制御しようとすると、動作が不安定になります。

*なぜ指数関数で変化すると動作が不安定になるのか?
では、入力のパルス電圧VPULSEに対して、指数関数でコレクタ電流ICが変化することでなぜ動作が不安定になるのでしょうか?

指数関数で変化するということは、微妙なベースエミッタ間電圧VBEの変化でコレクタ電流ICが大きく変化してしまうということになります。

上図の場合、ベースエミッタ間電圧VBEが0.8Vから1.0Vと20%変化しただけで、コレクタ電流ICは10mA程度から100mA以上と10倍以上変化してしまいます。

そのため、入力にノイズが入り、ベースエミッタ間電圧VBEがわずかに変化すると、コレクタ電流ICが大幅に変化してしまいます。これが、動作が不安定というわけです。そのため、トランジスタの電圧制御は実際の使用には適しません。

ベース抵抗RBがある場合

一方、ベース抵抗RBがある場合には、トランジスタをベース電流IBで制御することができます。

この時、コレクタ電流ICの値は

$$ I_C=h_{FE}I_{B}$$
となります。hFEは直流電流増幅率です。

このように、電流制御の場合、コレクタ電流ICはリニアに変化します。

リニアに変化すると、上図の場合、ベース電流が2mAから4mAと2倍なると、コレクタ電流は6mAから12mAとなり、約2倍になります。

そのため、ノイズが入力に入っても、コレクタ電流ICが大幅に変化することがなく、動作が安定します。

以上より、トランジスタは電圧制御よりも電流制御のほうが安定します。

ベース抵抗の値を設計する

ベース抵抗の値を設計する
では次にベース抵抗RBの値を設計します。

直流電流増幅率hFEが100、パルス信号VPULSEが5Vにおいて、負荷に電流ICを20mA流すために最適なベース電流を設計します。

トランジスタを増幅用途ではなく、スイッチ用途として使用する場合を今回は考えています。スイッチ用途として使用する場合には、ベースエミッタ間電圧VBEは飽和します。そのため今回は、ベースエミッタ間飽和電圧VBE(SAT)を使用します。

飽和とは、負荷Rで電流が制限されている状態のことです。言い換えると、コレクタ電流ICの増幅が使いきらない状態です。

【設計手順】
まず、トランジスタのベース電流IBを求めます。直流電流増幅率hFEが100なので、トランジスタに流すベース電流IB

$$ I_B=\frac{I_C}{h_{FE}}=\frac{20[mA]}{100}=0.2[mA]$$
となります。

次に、パルス信号の電圧VPULSEが5V、ベースエミッタ間飽和電圧VBE(SAT)が0.6Vとすると、ベース抵抗RBの値は、

$$ R_B=\frac{V_{PULSE}-V_{BE(SAT)}}{I_B}=\frac{5[V]-0.6[V]}{0.2[mA]}=22[kΩ]$$
となります。

ベース抵抗の値を設計する(厳密に設計する場合)

ベース抵抗の値を設計する(厳密に設計する場合)
先ほど、ベース抵抗RBを設計しましたが、実際に設計する際には、直流電流増幅率hFEの特性を考慮する必要があります。直流電流増幅率hFEには

  • 温度が低下すると、低下する
  • コレクタエミッタ間電圧VBEが小さくなると低下する
  • 直流電流増幅率hFE自体にバラツキがある

という特徴があります。
この特徴を考慮して設計する必要があるのです。

まず、『直流電流増幅率hFE自体にバラツキがある』ため、最小となるhFEを最小直流電流増幅率hFE(MIN)とします。

次に、『温度が低下すると、低下する』、『コレクタエミッタ間電圧VBEが小さくなると低下する』ため、この最小直流電流増幅率hFE(MIN)を1/2~1/3倍して計算します。この1/2~1/3倍した直流電流増幅率を飽和直流電流増幅率hFE(SAT)と呼びます。

今回は最小直流電流増幅率hFE(MIN)を100とし、飽和直流電流増幅率hFE(SAT) は最小直流電流増幅率hFE(MIN)を1/2倍にした50として設計します。

【設計手順】
同じようにまず、トランジスタのベース電流IBを求めます。

飽和直流電流増幅率hFE(SAT)を50とすると、トランジスタに流すベース電流は

$$ I_B=\frac{I_C}{h_{FE(SAT)}}=\frac{20[mA]}{50}=0.4[mA]$$
となります。

トランジスタがオンすると、コレクタエミッタ間電圧VBEが小さくため、最小直流電流増幅率hFE(MIN)が1/2~1/3倍に低下します。このため、この最小直流電流増幅率hFE(MIN)の低下を補うように、ベース電流IBを2~3倍に増やす必要があります。これを『オーバードライブ』と呼びます。

今回は、最小直流電流増幅率hFE(MIN)が1/2となると仮定し、通常の2倍のベース電流IBを流しているため、『2倍のオーバードライブを掛けている』と言います。

次に、パルス信号の電圧VPULSEが5V、ベースエミッタ間飽和電圧VBE(SAT)が0.6Vとすると、ベース抵抗RBの値は、

$$ R_B=\frac{V_{PULSE}-V_{BE(SAT)}}{I_B}=\frac{5[V]-0.6[V]}{0.4[mA]}=11[kΩ]$$
となります。

このように、ベース抵抗RBを下げることで、ベース電流IBを大きくしていますが、ベース電流IBを大きく設定すると,駆動回路(IC等)の負担が大きくなります。ベース電流IBが駆動回路(IC等)の定格電流を超えないように設計する必要があります。

ベースエミッタ抵抗がある理由

ベースエミッタ抵抗がある理由
『ベース抵抗エミッタRBE』がある理由は大きく2つあります。

  1. ベースから入ってくるノイズによる誤動作を防ぐため
  2. コレクタ遮断電流ICBOによる誤動作を防ぐため

です。

次に各理由について説明します。

理由1:ベースから入ってくるノイズによる誤動作を防ぐため

【ベースエミッタ抵抗がある理由】ベースから入ってくるノイズによる誤動作を防ぐため
ベースエミッタ抵抗RBEがない場合が左側、ベースエミッタ抵抗RBEがある場合が右側の図です。

■ベースエミッタ抵抗RBEがない場合
ノイズによる電流INOISEによって、トランジスタが誤動作オンする可能性があります。

■ベースエミッタ抵抗RBEがある場合
ノイズによる電流INOISEをGNDに流すことで、トランジスタが誤動作するのを防止することができます

具体的には以下のような感じになります。

ベースエミッタ抵抗RBEがない場合

  1. ノイズが侵入することで、電流INOISEが流れるとします。
  2. その電流INOISEはトランジスタのベースに直接入ります。
  3. その結果、トランジスタが誤動作してオンしてしまうことがあります。

ベースエミッタ抵抗RBEがある場合

  1. ノイズが侵入することで、電流INOISEが流れるとします。
  2. その電流INOISEはトランジスタのベースに入らず、ベースエミッタ抵抗RBEを通してGNDに電流が流れます。
  3. その結果、トランジスタが誤動作してオンすることを防ぐことができます。

ベースエミッタ抵抗RBEがある状態でも誤動作オンする場合がある

ベースエミッタ抵抗がある状態でも誤動作オンする場合がある
ベースエミッタ抵抗RBEを接続することでトランジスタの誤動作を防止することができます。

しかし、ノイズ電流INOISEが大きい場合や、ベースエミッタ間抵抗RBEが大きい場合には、ベースエミッタ間抵抗RBEにノイズ電流INOISEが流れることで生じる電圧VRBEが、ベースエミッタ間の順方向電圧VBEを超え、誤動作してオンすることがあります。

誤動作オンの原理は以下のようになっています。

  1. ノイズによる電流INOISEが流れる。
  2. コレクタエミッタ間抵抗RBEによって電圧VRBEが生じる。生じる電圧VRBEは以下の式で表される。

    $$ V_{RBE}=I_{NOISE}R_{BE}$$
  3. 電圧VRBEがベースエミッタ間の順方向電圧VBEを超えるとき。すなわち以下の条件となるとき。

    $$ V_{RBE}{\gt}V_{BE}$$
  4. ベースに電流が流れ始める。
  5. その結果、トランジスタが誤動作オンして、コレクタから電流が流れる。

理由2:コレクタ遮断電流による誤動作を防ぐため

【ベースエミッタ抵抗がある理由】コレクタ遮断電流による誤動作を防ぐため
ベースエミッタ抵抗RBEがない場合が左側、ベースエミッタ抵抗RBEがある場合が右側の図です。

トランジスタはベースに印可する電圧がゼロの時でも、コレクタからベースに向かって電流がわずかに流れます(数uA程度)。この電流のことをコレクタ遮断電流ICBOと呼ぶのですが、このコレクタ遮断電流ICBOが原因で誤動作をすることがあるのです。これを防止するために、ベースエミッタ抵抗RBEが接続されています。

■ベースエミッタ抵抗RBEがない場合
コレクタ遮断電流ICBOによって、トランジスタが誤動作オンする可能性があります。

■ベースエミッタ抵抗RBEがある場合
コレクタ遮断電流ICBOをベースエミッタ抵抗RBEに流すことで、トランジスタが誤動作するのを防止することができます

具体的には以下のような感じになります。

ベースエミッタ抵抗RBEがない場合

  1. ベースに印可する電圧がゼロになります。
  2. コレクタからベースに向かってコレクタ遮断電流ICBOが流れます。
  3. このコレクタ遮断電流ICBOがベースに流れます。
  4. その結果、トランジスタが誤動作オンする可能性があります。

ベースエミッタ抵抗RBEがある場合

  1. ベースに印可する電圧がゼロになります。
  2. コレクタからベースに向かってコレクタ遮断電流ICBOが流れます。
  3. このコレクタ遮断電流ICBOはベースエミッタ抵抗RBEに流れ、トランジスタのベースに流れません。
  4. その結果、トランジスタの誤動作オンを防止することができます。

ベースエミッタ間抵抗RBEがない場合にどれくらい影響がでるか

ベースエミッタ間抵抗がない場合にどれくらい影響がでるか
コレクタ遮断電流ICBOを1[uA]、直流電流増幅率hFEを100とします。その時、ベースが開放状態でベースに電流が流れないとすると、コレクタから流れる電流はどれくらいになるでしょうか。

コレクタから流れる電流ICは以下の式で表されます。

$$ I_C=I_{CBO}+h_{FE} I_{CBO}=1[uA]+100[uA]=101[uA]$$

すなわち、オフ状態においても、コレクタ遮断電流ICBOによって、コレクタには101[uA]のコレクタ電流ICが流れてしまうのです。例えば、負荷にLED等が使用されていたとすると、入力に電圧を印可していない(オフしている)にも関わらずわずかに点灯する可能性があります。

また、コレクタ遮断電流ICBOは温度が上昇すると増加します。10℃上昇で2倍となるので、高温になるほどコレクタ遮断電流ICBOの影響が大きくなります。

ベースエミッタ間抵抗の値を設計する

ベースエミッタ間抵抗の値を設計する
ベースエミッタ間抵抗RBEの値を設計してみます。

コレクタ遮断電流ICBOがベースエミッタ間電圧RBEに流れることによって生じる電圧VRBE

$$ V_{RBE}=I_{CBO} R_{BE}$$
となります。

この電圧VRBEがトランジスタを動作させる最小電圧VBE(MIN)より小さければよいので、

$$ V_{BE(MIN)}{\gt}I_{CBO} R_{BE}$$
となります。

例えば、コレクタ遮断電流ICBOを1[uA]として、トランジスタが動作する最小電圧VBE(MIN)を0.1[V]とすると、ベースエミッタ間抵抗RBE

$$ R_{BE}{\lt}\frac{V_{BE(MIN)}}{I_{CBO}}=100[kΩ]$$
となります。

だいたい、ベースエミッタ間抵抗RBEには1kΩから100kΩを接続しているのが多いですね。

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