プリント基板の『材質』と『種類』による分類まとめ

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プリント基板の用語としてよく聞く言葉がFR-1FR-4CEM-3などです。
これらの用語はプリント基板の種類を表しており、プリント基板に使用する基材樹脂によって決まります。
この記事ではプリント基板の種類と分類を説明します。

プリント基板の種類と分類

プリント基板の種類と分類
上図にプリント基板の種類をまとめました。プリント基板はまず、リジット基板(Rigid board)フレキシブル基板(Flexible board)に分類されます。

リジット基板とは、柔軟性のない絶縁体を基材に用いたものであり、固いを表す「Rigid」からリジット基板と呼ばれています。

一方、フレキシブル基板とは柔軟性のある絶縁体を基材に用いたものです。単にプリント基板というとリジッド基板を指していることがほとんどです。

リジット基板は使用する基材と樹脂によって分類されます。基材には「紙基材」と「ガラス布基材」、樹脂には「フェノール樹脂」、「エポキシ樹脂」を用いたものが一般的です。

JIS規格の見方

プリント基板のJIS規格の見方
JIS規格は基材を表す記号樹脂を表す記号特性の組み合わせとなっています。ただし、ガラス布・ガラス不織布複合基材には複合基材(コンポジット:Composite)を表す記号Cが先頭に付きます。また、特性のFは難燃性(Flame-retardance)を表しています。

例えば、PP3Fは紙基材とフェノール樹脂で構成された紙フェノール基板であり、特性は高電気抵抗性となっています。

基材を表す記号

  • P→紙基材(Paper base)
  • G→ガラス布基材(Glass fabric base)

樹脂を表す記号

  • P→フェノール樹脂(Phenolic resin)
  • E→エポキシ樹脂(Epoxy resin)
  • I→ポリイミド樹脂(Polyimide resin)
  • T→ビスマレイミド/トリアジン/エポキシ樹脂(Bismaleimide/Triazine/Epoxide)

紙フェノール基板

紙基材フェノール樹脂を含侵させた材料で製造したプリント基板。

主に片面基板として採用されています。

『紙基材+フェノール樹脂』の組み合わせは最も古くから使用されている基板の材料です。

ベークベーク基板ベークライトPP7Fとも呼ばれています。

  • ANSI・NEMA規格
  • 一般的電気抵抗性:FR-1(XPC)
    高電気抵抗性:FR-2(XXXPC)

  • JIS規格
  • 一般的電気抵抗性:PP7F(PP7)
    高電気抵抗性:PP3F(PP3)

    特徴

    • 価格が安い。
    • 切断や穴あけ加工において、ガラスエポキシ基板で必要となる特殊な工具が必要ないため、加工性が高い。
    • 耐久性が低いため、反りが生じやすい。
    • 耐熱性が悪い。
    • 吸湿性が悪い。
    • 電気的特性が悪い。
    • →高周波特性が悪い、絶縁抵抗が低い(高導電率である)。

    • 機械的特性が悪い。
    • 難燃性が低い。
    • 銅メッキが不向きで、銅メッキによるスルーホールを形成できない。

    使用用途

    • 片面基板
    • 片面基板は紙フェノール基板の一般的な用途です。
      【用途】白物家電、ステレオ、ラジカセ、家庭用電話機、ゲーム機、キーボード等

    • 銀スルーホール基板
    • 銅メッキによるスルーホールは形成できないが、銀ペーストを穴に充填してスルーホールを形成する銀スルーホール基板に使われます。
      【用途】ゲーム機、TVやエアコンのリモコン、オーディオ等

    その他

    • 紙フェノール基板でも両面基板を作ることができますが、一般的に使用されるほとんどが片面基板となります。

    紙エポキシ基板

    紙基材エポキシ樹脂を含侵させた材料で製造したプリント基板。

    紙フェノール基板とガラスエポキシ基板の中間的な特性となっています。

  • ANSI・NEMA規格
  • FR-3

  • JIS規格
  • PE1F

    特徴

    • 紙フェノール基板と比較すると、耐熱性、吸湿性、電気的特性に優れているが、ガラスエポキシ基板には劣る。

    使用用途

    • 片面基板
    • 絶縁抵抗性、吸湿性が紙フェノール基板より優れているため、『高電圧回路』や『吸湿性を要求される回路』に使用されることが多い。

    ガラスエポキシ基板

    ガラス布(ガラス繊維(グラス・ファイバとも呼ばれる)を布状に編んだガラス織布)にエポキシ樹脂を含侵させた材料で製造したプリント基板。

    現在最も多く使用されている基板であり、多層基板のほとんどがガラスエポキシ基板です。ICカードやデジカメなどの薄物(0.2~0.4mm厚)からマザーボード(2.0~2.4mm厚)まで幅広い分野で使用されています。

    略してガラエポとも呼ばれています。通常は緑色をしています。

  • ANSI・NEMA規格
  • 一般的耐熱性:FR-4(G10)
    高耐熱性:FR-5(G11)

  • JIS規格
  • 一般的耐熱性:GE4F(GE4)
    高耐熱性:GE2F(GE2)

    特徴

    • 寸法変化が小さい。
    • 硬いため、耐久性が高い。
    • 電気的特性が良い。
    • 高周波特性が良い。
    • 絶縁抵抗が高い(低誘電率である) 。
    • 機械的特性が高い。
    • 難燃性が高い。
    • 吸湿性が高い。
    • 加工性が悪い。
    • 専用の工具や機械を使わないと加工ができない。
    • コストが高い(紙フェノール基板の2〜3倍程度)

    使用用途

    難燃性、導電率、耐久性が良いため、高信頼性や高周波が求められる回路に使われます。

    • 片面基板
    • 両面基板
    • 【用途】パソコン、民生用電子機器、OA機器等

    • 多層基板
    • 【用途】ICカード、デジカメ、マザーボード等

    その他

    • FR-5はFR-4より難燃性・耐熱性が良く、主に車載向けとなっています。過酷な高温環境で使用する場合にもFR-5が使用されます。
    • 緑色のガラスエポキシ基板が多いのは、ソルダーレジスト(ハンダレジスト)の色です(基板の色ではありません)。FR-4基板の材料である「ガラス布+エポキシ樹脂」は白色なので、ソルダーレジストの色に染まります。そのため、様々な色のプリント基板を作ることができます。米国や台湾などでは黒や赤のFR-4基板を使用していることもあります。緑色が標準的なのは日本だけなのです。また、ハロゲンフリーのFR-4基板は一般的に青色をしています。

    複合基材エポキシ基板

    紙基材エポキシ樹脂を含侵させた材料で製造したプリント基板の表面に強度補償用で「ガラス布+エポキシ樹脂のプリプレグ」を用いたプリント基板。

    ガラスエポキシ基板(FR-4)やガラスコンポジット基板(CEM-3)の代替として製品に使用する事でコストを下げることができます。ほとんど流通していない基板です。

    日本ではセムワンとも呼ばれています。

  • ANSI・NEMA規格
  • CEM-1

  • JIS規格
  • CPE1F

    特徴

    • FR-4基板より柔らかい。
    • 機械的特性と製造コストの観点では、ガラスエポキシ基板(FR-4)と紙フェノール基板(FR-1)の中間の特性である。

    使用用途

    ガラスエポキシ基板(FR-4)やガラスコンポジット基板(CEM-3)と同じです。

    ガラスコンポジット基板

    ガラス布+ガラス不織布を混ぜ合わせた複合基材エポキシ樹脂を含侵させた材料で製造したプリント基板。

    コンポジット(複数のものを合成したもの)材料の主力基板となっています。安価な両面基板として使用されることが多いです。

    ガラスエポキシ基板と電気的特性が同等なので、ガラスエポキシ基板の代替としてよく使用されています。なお、機械的特性、寸法安定性はガラスエポキシ基板より劣ります。

    日本でセムスリーコンポジットセムスリーとも呼ばれています。

  • ANSI・NEMA規格
  • CEM-3

  • JIS規格
  • CGE3F

    特徴

    FR-4基板との比較

    • 柔らかい。
    • コストが安い。
    • 機械的特性、寸法安定性は悪い。
    • 多層基板には使用されない。
    • 耐久性が悪い。

    その他の特徴

    • 耐トラッキング性に優れている。
    • 加工性は紙フェノール基板とガラスエポキシ基板の中間くらい。
    • 切削性に優れており、パンチング加工が可能である。

    使用用途

    • 片面基板
    • 両面基板
    • 片面基板では対応できない機器に使用されます。
      【用途】家電製品、AV機器、アミューズメント機器(パチンコやスロット)、一部の産業機器など

    ガラスポリイミド基板

    紙基材ポリイミド樹脂を含侵させた材料で製造したプリント基板。

    ポリイミドは高分子材料の中でも破格の高強度と耐熱性(400℃前後の使用にも耐える)を持っています。また、絶縁性も優れており電子回路の絶縁材料として用いられています。

    もともと、アメリカの航空宇宙関係の高難燃性材料用として開発された基板です。

  • ANSI・NEMA規格
  • GPY

  • JIS規格
  • GI1F、GI2F

    特徴

    • 耐熱性が良い。
    • 高強度である。
    • 絶縁性が良い。。

    BT基板

    ガラス布+ガラス不織布を混ぜ合わせた複合基材ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂、BTレジン)を含侵させた材料で製造したプリント基板。

    ちなみに、BTはBismaleimide-Triazineの略となっています。

    三菱ガス化学株式会社が開発した熱硬化性樹脂で、高い耐熱性とすぐれた電気特性が特徴の基板です。

  • ANSI・NEMA規格
  • GPY

  • JIS規格
  • GT

    特徴

    • 耐熱性が良い。
    • セラミック基板よりコストが安い。
    • 電気的特性が良い。

    テフロン基板(フッ素基板)

    ガラス布基材フッ素樹脂(テフロン、PTFEとも呼ばれている)を含浸させた材料で製造されたプリント基板。

    フッ素樹脂は比誘電率や誘電正接が低く、高周波特性に優れた材料です(比誘電率は空気に次いで最も低い)。

    その特性を活かして、高周波基板の用途でテフロン基板が一番多く使用されています。

    紙フェノール基板やガラスエポキシ基板などの一般的な素材を使用したプリント基板は高周波電流が流れると、誘電損失(導体の表面にだけ電流が集中し、電気エネルギーが熱エネルギーとして失われる損失)が発生します。この誘電損失を防ぐために、高周波用途で使用される基板には比誘電率や誘電正接が低いことが求められています。

    ちなみに、PTFEはPolyTetraFluoroEthylene(ポリテトラフルオロエチレン)の略となっています。

    また、近年、半導体の性能向上によってガラスエポキシ基板でも所望の性能を得ることができるようになったため、民生品で使われることは少なくなっている。

  • ANSI・NEMA規格
  • なし

  • JIS規格
  • なし

    特徴

    • 不燃性であり、比誘電率や誘電正接が低い。
    • 絶縁抵抗が高い。
    • 耐アーク性が良い。
    • 周波数、温度による依存性が少ない
    • 吸水・吸湿の影響が少ない。
    • 化学的安定性・耐薬品性が良い。
    • 加工性が悪い。
    • 材料費が高く、スルーホールメッキに特殊な薬品を使わなければならない。

    使用用途

    比誘電率や誘電正接が低いため、高周波特性を求められる回路に使用されています。
    【用途】携帯電話、Wi-Fi、テレビ、ラジオ、GPS測定器、アンテナ、レーダー、航空宇宙、衛星通信

    PPO基板

    ガラス布基材PPO(Poly Phenylene Oxide)樹脂を含浸させて製造したプリント基板。

    PPO基板はテフロン基板にテフロン基板に次ぐ高周波特性を有し、加工はテフロン基板より容易となっています。また、材料の耐熱性を示すTg(ガラス転移点)も210℃と高いが、テフロン基板と同様汎用性が低くなっています。

  • ANSI・NEMA規格
  • なし

  • JIS規格
  • なし

    特徴

    • テフロン基板より高周波特性は劣るが、コストは安い。
    • 加工性が良い。
    • ガラスエポキシ基板と同等の工程で加工可能。

    使用用途

    高周波特性を求められる回路

    金属ベース基板

    アルミニウムを材料に使用したプリント基板。

  • ANSI・NEMA規格
  • なし

  • JIS規格
  • なし

    特徴

    • 熱伝導率が高い

    使用用途

    熱伝導率が高いため、電源基板、パワー部品搭載基板、大型モータの制御回路、LED搭載基板など高い放熱性が求められる分野で使用されています。

    アルミナ(セラミックス)基板

    グリーンシートと呼ばれるアルミナ(酸化アルミニウム)に耐火性の金属(タングステンやモリブデン)でパターンを形成し積層したものを焼成して製造したプリント基板。

    アルミニウムより放熱特性が良く、テフロンより高周波損失が小さいため、パワーICの分野で使用されている。

    しかし、基板の製造方法が他の基板と全く異なるため、一般的な基板メーカーでは製造できず、一部のメーカーで製造されている。

    色は白色や灰色などがあります。

  • ANSI・NEMA規格
  • なし

  • JIS規格
  • なし

    特徴

    • 高周波特性に優れている。
    • コストが高い

    使用用途

    • 多層基板
    • 【用途】マイクロ波機器、無線通信の基地局

    LTCC基板

    ガラスセラミックを材料に使用したプリント基板。

    低温同士焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)の技術を用いて製造しています。

    従来のアルミナ(酸化アルミニウム)を材料に使用したプリント基板では、1500℃という高い温度で焼成する必要がありました。そのため、導電抵抗の低い銅や銀などの低融点材料を配線パターンに使用することできず、配線パターンには耐火性の金属(タングステンやモリブデン)が用いられています。これらの金属は導電抵抗が高く、高周波信号の遅延などの問題がありました。

    一方、LTCC基板は、アルミナ(酸化アルミニウム)にガラス系の材料を加えることでら焼成温度を900℃程度まで下げることを可能にしています。そのため、導電抵抗の低い銅や銀の配線パターンをセラミックス基材に作り込んだ状態で同時に焼成することが可能となりました。名前通りですね。

  • ANSI・NEMA規格
  • なし

  • JIS規格
  • なし

    特徴

    • 基材がセラミックスなので、耐熱性・耐湿性が良い。
    • 周波数特性が良い。
    • 配線パターンを表層・内層に形成できるため、多層化が容易。
    • 配線パターンの抵抗損失が少ない。

    使用用途

    • 多層基板
    • 【用途】高周波モジュールや半導体パッケージなど

    フレキシブル基板

    基材がポリイミド(Polyimide)PET(ポリエチレンテレフタラート。ポリエステルの一種)などのフレキシブル性のある薄い絶縁体で、樹脂にエポキシ樹脂、アルミナ樹脂などを用いたプリント基板。薄い基材の上に薄い銅箔の配線パターンがあり、表面を保護のために絶縁フィルム等で被膜されています。

    折り曲げたり、変形させることができるのが大きな特徴であり、身近な電子機器に数多く使用されています。フレキシブル基板は電子機器の小型・軽量化にはかかせない存在となっています。

    フレキシブル基板のベースはポリイミド製の方が多いです。

    また、業界用語で「セミの羽」とも呼ばれています。

    特徴

    • 柔軟性があり折り曲げることができる。
    • 曲げるためには多層化は向いていない。
    • 機械的強度が弱く、重い部品を実装する際には支えが必要となる。

    ポリイミドとPETの違い

    ポリイミドをベースとしたフレキシブル基板

    • 耐熱性が良く、400度前後の使用に耐えることができる。そのため、配線の温度が上がりやすい大電力伝送に使用可能。
    • 柔軟性が良い。
    • 絶縁性が良い。
    • 膨張係数が低く、金属に近いので、配線との熱膨張によるひずみが生じにくい。
    • コストが高い(PETの100倍)。
    • ガスバリア性が低く、酵素や水分を通しやすい。

    PETをベースとしたフレキシブル基板

    • コストが安い。
    • ガスバリア性が高く、湿気にも強い。
    • 耐熱性が悪いため、電力伝送回路に使用する際には注意が必要。また、通常のはんだは使用不可で低温はんだのみ対応している。
    • GHz帯の誘電正接はポリイミドより悪い。

    使用用途

    折り曲げる必要がある個所や可動部との接続。複数のリジッド基板を接続するハーネスケーブル代わり。
    【用途】折り畳み携帯電話機、プリンタなど

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