入力交流電圧vINに対して電圧を上げようとする場合、一般的には、トランスを用いて電圧を上げますが、常に昇圧トランスを利用できるとは限りません。
そこで、トランスを用いずに電圧を上げる方法として、ダイオードとコンデンサをうまく組み合わせて使用する方法があります。
ダイオードとコンデンサを組み合わせることで、入力交流電圧vINのピーク値VPよりも出力電圧VOUTが高くなる回路を構成することが可能となります。なお、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPの整数倍となります。
この回路のことを電圧逓倍回路、電圧増倍回路と呼びます。英語では「Voltage Multiplier Circuit」と呼ばれています。
有名なものとしては、コンデンサとダイオードを多段式に組み合わせて構成されたコッククロフト・ウォルトン回路(Cockcroft–Walton Circuit)などがあります。
この記事ではダイオードとコンデンサを組み合わせることで昇圧を行う様々な回路を紹介します。
入力交流電圧vINのピーク値VPの『1倍』を出力する整流回路
半波整流回路
ダイオード1個、コンデンサ1個で構成された最も簡単な回路です。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPと等しくなります。また、出力電圧VOUTのリプル周波数は入力交流電圧vINの周波数と等しくなります。
入力交流電圧vINがプラスの時のみダイオードD1で整流されます。
両波整流回路
センタタップのトランスを使用して、入力交流電圧vINがプラスの時もマイナス時も整流を行う回路です。ダイオード2個、コンデンサ1個で構成されています。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPと等しくなります。また、出力電圧VOUTのリプル周波数は入力交流電圧vINの周波数の2倍になります。
入力交流電圧vINがプラスの時にダイオードD1で整流され、マイナスの時にダイオードD2で整流されます。
補足
ブリッジ整流回路
ダイオード4個、コンデンサ1個で構成された回路です。
センタタップのトランスを使用しない代わりに、ダイオードを4個使うことで、入力交流電圧vINがプラスの時もマイナス時も整流を行っています。整流時に2つのダイオードを導通するため、両波整流回路と比較して、ダイオードの順方向電圧による損失が大きくなります。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPと等しくなります。また、出力電圧VOUTのリプル周波数は入力交流電圧vINの周波数の2倍になります。
入力交流電圧vINがプラスの時にダイオードD1とダイオードD2で整流され、マイナスの時にダイオードD3とダイオードD4で整流されます。
【応用回路】ブリッジ整流回路を用いた正負電源回路
入力部をトランスのセンタタップとし、コンデンサC1とコンデンサC2をセンタタップ部に接続した回路です。正の電圧VPと負の電圧-VPのリプル周波数は入力交流電圧vINの周波数の2倍になります。
入力交流電圧vINのピーク値VPの『2倍』を出力する整流回路
両波倍電圧整流回路
半波整流回路に対して、ダイオードD2とコンデンサC2を追加した回路です。全波倍電圧整流回路とも呼ばれています。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPの2倍となります。また、出力電圧VOUTのリプル周波数は入力交流電圧vINの周波数の2倍になります。
入力交流電圧vINがプラスの時にダイオードD1で整流され、マイナスの時にダイオードD2で整流されます。入力交流電圧vINのピーク値VPの『2倍』にする整流回路は英語では『Voltage Doubler』と呼ばれ、様々な種類があります(この後説明します)。
【応用回路】両波倍電圧整流回路を用いた正負電源回路
コンデンサC1とコンデンサC2の中間電位をGNDにすれば、正負の電圧(VPと-VP)を出力することができるようになります。
正の電圧VPと負の電圧-VPのリプル周波数は入力交流電圧vINの周波数と等しくなります。
【応用回路】両波倍電圧整流回路とブリッジ整流回路の切り替え
ブリッジ整流回路に対して、スイッチSとコンデンサC2を追加しています。スイッチSがオンの時は両波倍電圧整流回路となり、スイッチSがオフの時はブリッジ整流回路となります。
スイッチSがオンの時、入力交流電圧vINがプラスの時にダイオードD1で整流されてコンデンサC1を充電し、マイナスの時にダイオードD4で整流されてコンデンサC2を充電します。ダイオードD2とダイオードD3は未使用となります。
半波倍電圧整流回路(Half Wave Voltage Doubler)
ダイオード2個、コンデンサ2個で構成された回路です。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPの2倍となります。また、出力電圧VOUTのリプル周波数は入力交流電圧vINの周波数と等しくなります。
入力電圧がマイナスの時、ダイオードD1を介してコンデンサC1を充電するため、コンデンサC1にかかる電圧はVPとなります。コンデンサC1は放電ルートがないため、充電された状態が維持されます。また、コンデンサC1の両端電圧はVPに等しくなります。
入力電圧がプラスの時、入力交流電圧vINのピーク値VPにコンデンサC1の両端電圧VPが加わるため、コンデンサC2は入力電圧のピーク値の2倍に充電されます。
補足
入力交流電圧vINのピーク値VPの『3倍』を出力する整流回路
3倍整流回路
半波整流回路に対して、ダイオードを2個、コンデンサを2個を追加した回路です。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPの3倍となります。
入力交流電圧vINのピーク値VPの『4倍』を出力する整流回路
4倍整流回路
半波倍電圧整流回路に対して、ダイオードを2個、コンデンサを2個を追加した回路です。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPの4倍となります。
入力交流電圧vINのピーク値VPの『5倍』を出力する整流回路
5倍整流回路
3倍整流回路に対して、ダイオードを2個、コンデンサを2個を追加した回路です。
ダイオードの順方向電圧を無視した場合、出力電圧VOUTは入力交流電圧vINのピーク値VPの5倍となります。
コッククロフト・ウォルトン回路
ダイオードとコンデンサを追加していけば、理論上はいくらでも昇圧することができます。このようにコンデンサとダイオードを多段式に組み合わせて構成したものを『コッククロフト・ウォルトン回路』と呼びます。
まとめ
この記事では『倍電圧整流回路』や『コッククロフト・ウォルトン回路』などの電圧逓倍回路について、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- 電圧逓倍回路の様々な回路形態とその特徴
- 電圧逓倍回路の応用回路
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