スイッチング電源の『起動回路』について

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スイッチング電源内のトランジスタ(MOSFETやバイポーラトランジスタ)は制御ICから出力されるパルスによって駆動されます。

制御ICが動作を開始するためには、制御ICに対して電力を供給する必要があります。この制御ICに電力を供給するのが起動回路です。

この記事では一般的な起動回路トランジスタを使用することで電力損失を低減した起動回路について説明します。

一般的な起動回路

一般的な起動回路

構成

抵抗R1とコンデンサC1で構成された起動回路です。起動回路は入力電圧VINの印加時において、制御ICに駆動電力を供給します。補助巻線とダイオードD1の直列回路は、スイッチングが開始すると制御ICに駆動電力を供給します。起動回路では最も一般的な回路構成となっています。

起動回路の動作

  • 時刻0~t1
  • 入力電圧VINが印加されると、抵抗R1を介してコンデンサC1に電流が流れるため、コンデンサC1にかかる電圧VC1が増加します。なお、コンデンサC1にかかる電圧VC1は制御ICのVCC端子(電源入力端子)に印加される電圧となります。

  • 時刻t1
  • コンデンサC1にかかる電圧VC1が増加し、制御ICの動作開始電圧VSTARTに達すると、制御ICは動作を開始します。

  • 時刻t1~t2
  • 制御ICが動作すると、コンデンサC1に蓄えられていた電力が制御ICで消費されるため、コンデンサC1にかかる電圧VC1が減少します。また、制御ICが動作すると、OUT端子(出力端子)からパルスが出力され、トランジスタQ1 (図ではMOSFET)はスイッチングを開始します。その結果、補助巻線に発生する電圧VL1が増加します。

  • 時刻t2
  • コンデンサC1にかかる電圧VC1と補助巻線に発生する電圧VL1が等しくなると、補助巻線からダイオードD1を介してコンデンサC1に電流が流れ始めます。その結果、コンデンサC1には抵抗R1からのルートとダイオードD1からのルートの2つのルートから充電電流が流れることになります。

  • 時刻t2以降
  • やがて、コンデンサC1にかかる電圧VC1はICの動作停止電圧VSTOPよりも高い電圧値で安定します。この安定した時の電圧値は補助巻線に発生する電圧VL1によって変化します。

メリットとデメリット

メリット

  • 回路構成が簡単で安価

デメリット

  • 抵抗R1で常に電力を消費している&起動時間が比較的に長い
  • 定常状態においても抵抗R1に電流が流れることによって、電力損失が発生してしまいます。そのため、定常状態において、電力損失を抑えるために、一般的には抵抗R1の抵抗値を大きく設定します。しかし、抵抗R1の抵抗値を大きくすると、入力電圧VINが印加されてからICの起動開始電圧に達するまでの時間(0~t1までの時間)が伸びてしまいます。すなわち、電力消費と起動時間はトレードオフの関係となっています。
    抵抗R1を大きくすると、起動時間が長くなるという問題に対しては、コンデンサC1の容量値を小さくすることで、起動時間を短くすることができます。しかし、この場合、コンデンサC1に蓄えることができる電力が小さくなるため、ICの起動時において、コンデンサC1にかかる電圧VC1の減少量が大きくなり、補助巻線から電力が供給される前にICの動作停止電圧VSTOPに達し、起動に失敗するという可能性があります。

補足

ICを起動するために抵抗R1に電流を流すため、抵抗R1起動抵抗と呼ばれています。また、この起動抵抗に流れる電流は起動電流と呼ばれています。

トランジスタを使用することで電力損失を低減した起動回路

トランジスタを使用することで電力損失を低減した起動回路

構成

シリーズレギュレータ(抵抗R1、ツェナーダイオードDZ1、トランジスタQ2(図ではMOSFET)で構成)、電流制限抵抗R2、保護ダイオードD2、コンデンサC1で構成された起動回路です。起動回路は入力電圧VINの印加時において、ICに駆動電力を供給します。補助巻線とダイオードD1の直列回路は、スイッチングが開始するとICに駆動電力を供給します。トランジスタQ2にはバイポーラトランジスタを使用されることもあります。

保護ダイオードD2の役割

入力電圧VINの低下時(例えば、瞬断時や停電時)においては、トランジスタQ2のゲート電圧が0Vになる一方で、コンデンサC1にかかる電圧VC1が0Vにならない場合があります。この場合、トランジスタQ2のソースが高く、ゲートが低くなります。つまり、ゲートソース間電圧には逆電圧が印加されることになります。この逆電圧がゲートソース間電圧の絶対最大定格を超えると、トランジスタQ2が故障される可能性があります。これを防止するために、保護ダイオードD2が接続されています。

電流制限抵抗R2

MOSFETのオン時における電流を制限するための抵抗です。

起動回路の動作

  • 時刻0~t1
  • 入力電圧VINが印加されると、抵抗R1を介して、ツェナーダイオードDZ1に電流が流れます。ツェナーダイオードDZ1のツェナー電圧VDZ1はトランジスタQ2のゲート電圧となります。このツェナー電圧VDZ1によって、トランジスタQ2がオンします。
    トランジスタQ2がオンすると、抵抗R2、トランジスタQ2、ダイオードD2を介して、コンデンサC1に電流が流れるため、コンデンサC1にかかる電圧VC1が増加します。なお、コンデンサC1にかかる電圧VC1にかかる電圧はICのVCC端子(電源入力端子)に印加される電圧となります。

  • 時刻t1
  • コンデンサC1にかかる電圧VC1が増加し、ICの動作開始電圧に達すると、ICは動作を開始します。

  • 時刻t1~t2
  • ICが動作すると、コンデンサC1に蓄えられていた電力がICで消費されるため、コンデンサC1にかかる電圧VC1が減少します。また、ICが動作すると、OUT端子(出力端子)からパルスが出力され、トランジスタQ1(図ではMOSFET)はスイッチングを開始します。その結果、補助巻線に発生する電圧VL1が増加します。

  • 時刻t2
  • コンデンサC1にかかる電圧VC1と補助巻線に発生する電圧VL1が等しくなると、補助巻線からダイオードD1を介してコンデンサC1に電流が流れ始めます。この時、ツェナーダイオードDZ1のツェナー電圧VDZ1、トランジスタQ2のゲート閾値電圧VTH、ダイオードD2の順方向電圧VFによって決まる定電圧(V=VDZ1-VTH-VF)よりも、補助巻線に発生する電圧VL1とダイオードD1によって決まる電圧(V=VL1-VF)の方が大きくなるように設計をすれば、定常状態において、トランジスタQ2のゲートソース間にゲート閾値電圧VTH以上の電圧が印加されなくなるため、トランジスタQ2はオフします。これによって、抵抗R2における電力損失が発生しなくなります。つまり、抵抗R2とトランジスタQ2は起動の瞬間のみ電力を消費することになります。

  • 時刻t2以降
  • やがて、コンデンサC1にかかる電圧VC1はICの動作停止電圧よりも高い電圧値で安定します。この安定した時の電圧値は補助巻線に発生する電圧VL1によって変化します。

メリットとデメリット

メリット

  • 定常状態における電力損失が小さい
  • 定常状態においては、抵抗R1とツェナーダイオードDZ1によて電力損失が発生するが、抵抗R1はツェナーダイオードDZ1にツェナー電流が流れる程度でよいので、比較的に大きい値となります。そのため、定常状態においては電力損失が小さくなります。

デメリット

  • 高耐圧のトランジスタが必要になる
  • トランジスタQ2のドレインソース間電圧(バイポーラトランジスタの場合にはコレクタエミッタ間電圧)の絶対最大定格は入力電圧VINよりも大きい必要があります。

  • 素子数が多いためコストの増加&電源装置の大型化となる

補足

  • 起動開始電圧VSTARTが20V、順方向電圧VFが0.6V、ゲート閾値電圧VTHが4Vの場合、必要なツェナー電圧VDZ1は24.6V以上になります。ツェナー電圧VDZ1が24.6V以下の場合には起動をすることができなくなります。
  • 起動時はトランジスタQ2のゲートソース間電圧にはツェナー電圧の電圧が印加されます。そのため、トランジスタQ2のゲートソース間の最大定格がツェナー電圧VDZ1よりも大きくなければなりません。
  • ダイオードの順方向電圧VFを無視した場合、トランジスタQ2はゲートに印加されるツェナーダイオードDZ1のツェナー電圧VDZ1とソースに印加される電圧VC1の電圧差によってドレイン電流を流すため、コンデンサC1にかかる電圧VC1が増加するにつれて、ドレイン電流が制限されます。

まとめ

この記事では起動回路について、以下の内容を説明しました。

当記事のまとめ

  • 起動回路の構成
  • 起動回路の動作
  • 各起動回路のメリットとデメリット

お読み頂きありがとうございました。

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