この記事ではオシロスコープの『パッシブプローブ』について
- パッシブプローブの等価回路
- パッシブプローブに流れる低周波と高周波の主なルート
- 周波数によらず常に1/10になるトリマコンデンサの値
- シミュレーションでトリマコンデンサを変化させてみる
などを図を用いて説明しています。
パッシブプローブの等価回路
パッシブプローブとオシロスコープを組み合わせた場合の等価回路は上図のようになっています。
プローブは周波数特性調整用トリマコンデンサCP、内蔵抵抗RPで構成され、ケーブルは浮遊容量CSで構成され、オシロスコープは、入力抵抗RI、入力容量CIで構成されています。
プローブとオシロスコープのコンデンサの値はメーカーによって違うことがありますが、プローブの内蔵抵抗RPは9MΩ、オシロスコープの入力抵抗RIは1MΩの構成になっていることが多いです。
「CP、RP」と「CS、RI、CI」で分圧回路を構成しており、どの周波数においても常に出力電圧VOUTが入力電圧VINの1/10になるように、周波数特性調整用トリマコンデンサCPを調整します(後ほど詳しく説明します) 。
パッシブプローブによっては、下図のように、周波数特性調整用トリマコンデンサCPがプローブ先端になく、オシロスコープとケーブルの間に補正ボックスがあり、そこに周波数特性調整用トリマコンデンサがある場合があります。調整場所が異なるだけで、考え方は同じです。
低周波と高周波の主なルート
プローブで測定する電圧VINが、直流や低周波の信号の場合、コンデンサのインピーダンスが高くなります。そのため、低周波の流れるルートは主にプローブの内蔵抵抗RP、オシロスコープの入力抵抗RIとなります。
一方、プローブで測定する電圧VINが、高周波の信号の場合、コンデンサのインピーダンスが低くなります。そのため、高周波の流れるルートは主にプローブの周波数特性調整用トリマコンデンサCP、ケーブルの浮遊容量CS、オシロスコープの入力容量CIとなります。
オシロに入力される電圧を1/10にする理由
これは、回路などの被測定物に与える影響を小さくするためです (負荷効果の軽減という)。
多くの汎用オシロスコープの入力抵抗RIは1MΩです。プローブなどを介さず直接、被測定物を接続した場合、被測定部から見た抵抗値は1MΩとなります。しかし、プローブを接続すると、直列に9MΩの内蔵抵抗RPが入るので、被測定部から見た抵抗値が大きくなり、10MΩとなります。同じくオシロスコープの入力容量CIは20pFです。プローブを接続すると、直列にプローブの周波数特性調整用トリマコンデンサCPが入るので、被測定部から見た容量が小さくなります。したがって、オシロに入力される電圧が1/10になる事が問題無い場合には、常に10:1のプローブを使用するのがオススメです。
なぜプローブにコンデンサがついてあるのか
汎用のパッシブプローブには内蔵抵抗RP(=9MΩ)がついています。9MΩはかなり大きく、プローブにはほとんど電流が流れません。そのため、オシロスコープの入力容量CIやケーブルの浮遊容量CSの充放電に時間がかかり、被測定物の電圧波形を正確に測定することができなくなります。その対策として、プローブの先端に10pF程度の周波数特性調整用トリマコンデンサCPをつけてC結合によって電圧変化を伝えるしくみになっています。
周波数によらず常に1/10になるトリマコンデンサの値は?
インピーダンスを計算すると常に1/10になる周波数特性調整用トリマコンデンサCPの値を求めることができます。ケーブルの浮遊容量CSとオシロスコープの入力容量CIの合計が120pFの場合、周波数特性調整用トリマコンデンサCPの値を13.333…pFにすれば、周波数に関係なく出力電圧が入力電圧の1/10となります。
シミュレーションでトリマコンデンサを変化させてみる
周波数特性調整用トリマコンデンサCPの値を変化させてシミュレーションしてみます。シミュレーション回路を以下に示します。
入力電圧RIはパルス信号とし、1周期は10msでHigh電圧を5V、Low電圧を0Vとしています。周波数特性調整用トリマコンデンサCPの値を11.3pFから15.3pFまで1pF間隔で変化させた時にパルス信号がどのように変化して、オシロスコープに入力されるかをシミュレーションします。
結果は下図のようになり、波数特性調整用トリマコンデンサCPの値が13.3pFの場合はパルス信号に歪みはありませんが、容量が変わるにつれて歪みが大きくなっています。また、出力電圧VOUTのHigh電圧は500mVとなっており、入力電圧のHigh電圧5Vに対して1/10となっていることが確認できます。
横軸を周波数とした時はこのようになります。入力にAC1Vを印可した時の出力電圧VOUTのグラフを下図に示します。13.3pFの場合は周波数によらず、変化がないことが分かります。これが周波数特性調整用トリマコンデンサCPの調整です。この周波数特性調整用トリマコンデンサの調整をすることを周波数特性のキャリブレーションと言います。