この記事では『フォワードコンバータ』について
- フォワードコンバータとは
- フォワードコンバータの原理・動作モード・計算式・シミュレーション
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
フォワードコンバータとは
フォワードコンバータは、昇圧も降圧もできる絶縁型コンバータです。MOSFET\(Q\)、トランス\(T\)、ダイオード\(D_1\)、還流ダイオード\(D_2\)、インダクタ(チョークコイル)\(L_F\)、出力コンデンサ\(C_{OUT}\)で構成されています。トランス\(T\)は1次と2次を同極性に接続しています。
フォワードコンバータはフライバックコンバータよりも大電力を出力することができます。しかし、フライバックコンバータと比較すると、還流ダイオード\(D_2\)とインダクタ\(L_F\)が別途必要となります。
後ほど動作原理について別途説明しますが、MOSFET\(Q\)のON時にトランス\(T\)を介して、2次側にエネルギーを伝達し、MOSFET\(Q\)のOFF時にインダクタ\(L_F\)に蓄えられているエネルギーを還流ダイオード\(D_2\)を通して出力しています。
下記にフォワードコンバータのメリットとデメリットを示します。
メリット
- 昇圧も降圧も可能。
- トランス\(T\)で1次と2次を絶縁することができる。
- フライバックコンバータよりも大電力を出力することができる。
デメリット
- フライバックコンバータよりも部品点数が多い。
補足
- MOSFET\(Q\)はバイポーラトランジスタなど他のスイッチング素子でも使用可能です。
- 還流ダイオードは『転流ダイオード』や『フライホイールダイオード』とも呼ばれています。
フォワードコンバータの動作原理
ではこれから、フォワードコンバータの動作原理について説明します。MOSFET\(Q\)が『ONの時』と『OFFの時』に分けて考えます。
MOSFET\(Q\)がONの時
MOSFET\(Q\)がONの時、電流経路は『入力電圧\(V_{IN}\)→トランス\(T\)の一次巻線→MOSFET\(Q\)』となり、トランス\(T\)の2次側に誘導起電力\(V_2\)が発生します。
この誘導起電力\(V_2\)により、『トランス\(T\)の2次巻線→ダイオード\(D_1\)→インダクタ\(L_F\)→出力部(出力コンデンサ\(C_{OUT}\)+負荷抵抗\(R_{OUT}\))』と電流が流れます。この電流によりインダクタ\(L_F\)にエネルギーが蓄えられています。
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インダクタンス\(L{\mathrm{[H]}}\)のインダクタに流れている電流が\(I{\mathrm{[A]}}\)の時、インダクタに蓄えられているエネルギー\(U{\mathrm{[J]}}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
U=\frac{1}{2}LI^2{\mathrm{[J]}}
\end{eqnarray}
インダクタのエネルギー\(U{\mathrm{[J]}}\)については別途下記の記事で詳しく説明していますので、ご参考にしてください。
コイルに蓄えられるエネルギーの『式』と『求め方』について!
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MOSFET\(Q\)がOFFの時
MOSFET\(Q\)がOFFになると、インダクタ\(L_F\)に蓄えられているエネルギーを放出して、電流を流し続けようとします。そのため、『インダクタ\(L_F\)→出力部(出力コンデンサ\(C_{OUT}\)+負荷抵抗\(R_{OUT}\))→還流ダイオード\(D_2\)』の経路で電流が流れます。
このように、フォワードコンバータはインダクタ\(L_F\)により連続して電流を出力部(出力コンデンサ\(C_{OUT}\)+負荷抵抗\(R_{OUT}\))に供給することができます。
フォワードコンバータの出力電圧の式
フォワードコンバータの出力電圧\(V_{OUT}\)は次式となります。
V_{OUT}=NDV_{IN}\tag{1}
\end{eqnarray}
(1)式において\(N\)はトランス\(T\)の巻数比であり、一次巻線の巻数を\(N_1\)、二次巻線の巻数を\(N_2\)とすると、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
N=\frac{N_2}{N_1}\tag{2}
\end{eqnarray}
また、(1)式において、オンデューティ比\(D\)はMOSFET\(Q\)の1周期\(T\)におけるオン期間\(T_{ON}\)の割合なので、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
D=\frac{T_{ON}}{T}=\frac{T_{ON}}{T_{ON}+T_{OFF}}=T_{ON}×f_{SW}\tag{3}
\end{eqnarray}
(3)式において、\(f_{SW}\)はMOSFET\(Q\)のスイッチング周波数です。(3)式から分かるように、オンデューティ比\(D\)は1より小さい値となります。
『フォワードコンバータ』と『フライバックコンバータ』の回路構成と違い
上図の左側にフォワードコンバータ、右側にフライバックコンバータの回路構成を示しています。
フォワードコンバータはMOSFET\(Q\)がONの時にトランスの二次側からエネルギーを供給します。
一方、フライバックコンバータはMOSFET\(Q\)がOFFの時にトランスの二次側からエネルギーを供給します(MOSFET\(Q\)がONの時にはトランスにエネルギーを蓄積しています)。
またフォワードコンバータは、フライバックコンバータの回路構成を比較すると、還流ダイオード\(D_2\)とインダクタ\(L_F\)が別途必要となります。しかし、トランスにエネルギーを蓄積させる必要がないため、トランス\(T\)を小型化することができます。また、インダクタ\(L_F\)により、出力電流のリプルが小さくなるため、出力コンデンサ\(C_{OUT}\)も小型化することができます。
ここで下表にフォワードコンバータとフライバックコンバータの違いをまとめます。
フォワードコンバータ | フライバックコンバータ | |
エネルギー伝達 | MOSFET\(Q\)がONの時にトランスの二次側からエネルギーを供給する。 | MOSFET\(Q\)がOFFの時にトランスの二次側からエネルギーを供給する。 |
総部品点数 | フライバックコンバータと比較すると、還流ダイオード\(D_2\)とインダクタ\(L_F\)が別途必要となる。 | 少ない。 |
出力部の構成 | 整流器後はインダクタ\(L_F\)と出力コンデンサ\(C_{OUT}\)のLCフィルタが必要となる。また、還流ダイオード\(D_2\)が必要となる。 | 整流器後は出力コンデンサ\(C_{OUT}\)のみ。 |
トランスのエネルギー蓄積 | トランスにエネルギーを蓄積する必要はない。 →トランスを小型化できる。 | トランスにエネルギーを蓄積する必要がある。 →トランスが大型化する。 →トランスにギャップが必要となる。 |
トランスの極性 | 1次側と2次側が同極性。 | 1次側と2次側が逆極性。 |
出力コンデンサ\(C_{OUT}\)の大きさ | インダクタ\(L_F\)により連続して出力電流を供給することができるため、出力コンデンサ\(C_{OUT}\)の容量を小さくすることができる(小型化できる)。 | インダクタ\(L_F\)がなく、ダイオード\(D\)がOFFの期間において、出力電圧\(V_{OUT}\)を保持する必要があるため、出力コンデンサ\(C_{OUT}\)の容量を大きくする必要がある。 |
『フォワードコンバータ』と『降圧コンバータ』の回路構成と違い
上図の左上にフォワードコンバータ、右下に降圧コンバータの回路構成を示しています。
フォワードコンバータの2次側の動作は降圧コンバータの動作と非常に似ています。
MOSFET\(Q\)がONの時
MOSFET\(Q\)がONの時、電流経路は『入力電圧\(V_{IN}\)→トランス\(T\)の一次巻線→MOSFET\(Q\)』となり、トランス\(T\)の2次側に誘導起電力\(V_2\)が発生します。この誘導起電力\(V_2\)により、『トランス\(T\)の2次巻線→ダイオード\(D_1\)→インダクタ\(L_F\)→出力部(出力コンデンサ\(C_{OUT}\)+負荷抵抗\(R_{OUT}\))』と電流が流れます。
降圧コンバータでは、MOSFET\(Q\)がONすると『入力電圧\(V_{IN}\)→MOSFET\(Q\)→インダクタ\(L_F\)→出力部(出力コンデンサ\(C_{OUT}\)+負荷抵抗\(R_{OUT}\))』と電流が流れます。
降圧コンバータの『入力電圧\(V_{IN}\)→MOSFET\(Q\)』の流れが『トランス\(T\)の2次巻線→ダイオード\(D_1\)』に置き換わると、フォワードコンバータのMOSFET\(Q\)がONの時の動作となります。
MOSFET\(Q\)がOFFの時
フォワードコンバータでは、MOSFET\(Q\)がOFFになると、インダクタ\(L_F\)に蓄えられているエネルギーを放出して、電流を流し続けようとします。そのため、『インダクタ\(L_F\)→出力部(出力コンデンサ\(C_{OUT}\)+負荷抵抗\(R_{OUT}\))→還流ダイオード\(D_2\)』の経路で電流が流れます。
降圧コンバータでは、MOSFET\(Q\)がOFFすると『インダクタ\(L_F\)→出力部(出力コンデンサ\(C_{OUT}\)+負荷抵抗\(R_{OUT}\))→還流ダイオード\(D\)』と電流が流れます。
MOSFET\(Q\)がOFFの時の電流の流れはフォワードコンバータと降圧コンバータは同じです。
出力電圧\(V_{OUT}\)の式
フォワードコンバータと降圧コンバータの出力電圧\(V_{OUT}\)の式も非常に似ています。次式に示すように、降圧コンバータの出力電圧の式に巻数比\(N\)を掛けると、フォワードコンバータの出力電圧の式となります。
- 降圧コンバータの出力電圧の式
- フォワードコンバータの出力電圧の式
\begin{eqnarray}
V_{OUT}=DV_{IN}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
V_{OUT}=NDV_{IN}
\end{eqnarray}
あわせて読みたい
降圧コンバータの特徴や原理については下記の記事で説明しています。興味のある方は下記のリンクからぜひチェックをしてみてください。
-
降圧コンバータ(降圧チョッパ)とは?原理などを解説!
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フォワードコンバータのスナバ回路(リセット回路)
フォワードコンバータはトランス\(T\)を片方向のみ励磁するので、MOSFET\(Q\)がOFFの期間において、トランス\(T\)に蓄積されているエネルギーを放出させる必要があります。
そのため、実際にフォワードコンバータを作るときにはスナバ回路(リセット回路)が必要となります。
スナバ回路(リセット回路)には様々な種類がありますが、例えば、上図に示すように抵抗・コンデンサ・ダイオードで構成されたRCDスナバ回路を接続します。
フォワードコンバータのシミュレーション
フォワードコンバータをLTspiceでシミュレーションした時の結果を上図に示しています。
上図の右側に示している波形は上から
- 入力電圧\(V_{IN}\)
- 出力電圧\(V_{OUT}\)
- スイッチ\(S\)の駆動信号\(v_{GS}\)
- インダクタ\(L_F\)に流れる電流\(i_{LF}\)
- スイッチ\(S\)に流れる電流\(i_S\)
- ダイオード\(D_1,D_2\)に流れる電流\(i_{D1},i_{D2}\)
となっています。
MOSFET\(Q\)やダイオード\(D\)の損失を無視するために、シミュレーション回路ではMOSFET\(Q\)は理想スイッチ、ダイオード\(D\)は理想ダイオードを用いています。
また、入力電圧\(V_{IN}\)は100V、理想スイッチ\(S\)のオンデューティ比\(D\)は0.5、巻数比\(N\)は0.1にしています。そのため、出力電圧\(V_{OUT}\)は(1)式より
\begin{eqnarray}
V_{OUT}=NDV_{IN}=0.1×0.5×100=5{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}
となります。シミュレーション結果でも、出力電圧\(V_{OUT}\)が5Vになっていることが確認できます。
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LTspiceで理想スイッチと理想ダイオードを作る方法については、下記の記事で説明してますので、ご参考になれば幸いです。
-
【LTspice】理想スイッチである『電圧制御スイッチ』の使い方
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-
【LTspice】『理想ダイオード』の作成方法
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まとめ
この記事では『フォワードコンバータ』について、以下の内容を説明しました。
- フォワードコンバータとは
- フォワードコンバータの原理・動作モード・計算式・シミュレーション
お読み頂きありがとうございました。
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