この記事では『RCローパスフィルタ』について
- RCローパスフィルタとは
- RCローパスフィルタの『伝達関数』,『ゲイン』,『カットオフ周波数』,『位相』
- RCローパスフィルタの『周波数特性』
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
RCローパスフィルタとは
上図にRCローパスフィルタの回路構成を示しています。
RCローパスフィルタは、抵抗\(R\)とコンデンサ\(C\)のみで構成された最も簡単なローパスフィルタです。入力電圧\(V_{IN}\)の低周波成分を通過させ、高周波成分を遮断します。
後ほど導出方法など詳細に説明しますが、RCローパスフィルタの『伝達関数』,『ゲイン』,『カットオフ周波数』,『位相』の式と『周波数特性』をまとめると、下記のようになります。
RCローパスフィルタのまとめ
- 伝達関数\(G(j{\omega})\)
- ゲイン\(|G(j{\omega})|\)
- カットオフ周波数\(f_C\)
- 位相\({\theta}\)
→入力電圧\(V_{IN}\)と出力電圧\(V_{OUT}\)の比が伝達関数\(G(j{\omega})\)であり、次式となる。
\begin{eqnarray}
G(j{\omega})=\frac{V_{OUT}}{V_{IN}}=\frac{1}{1+j{\omega}CR}=\frac{1}{1+j2{\pi}fCR}\tag{1-1}
\end{eqnarray}
→伝達関数\(G(j{\omega})\)の絶対値がゲイン\(|G(j{\omega})|\)であり、次式となる。
\begin{eqnarray}
|G(j{\omega})|=\frac{1}{\sqrt{1+({\omega}CR)^2}}=\frac{1}{\sqrt{1+(2{\pi}fCR)^2}}\tag{1-2}
\end{eqnarray}
→ゲイン\(|G(j{\omega})|\)が\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}({\;}{\approx}{\;}0.707)\)になる周波数がカットオフ周波数\(f_C\)であり、次式となる。
\begin{eqnarray}
f_C=\frac{1}{2{\pi}CR}\tag{1-3}
\end{eqnarray}
→入力電圧\(V_{IN}\)に対する出力電圧\(V_{OUT}\)の位相であり、次式となる。
\begin{eqnarray}
{\theta}=-{\tan}^{-1}({\omega}CR)=-{\tan}^{-1}(2{\pi}fCR)\tag{1-4}
\end{eqnarray}
入力電圧\(V_{IN}\)の周波数が高い場合、コンデンサ\(C\)のインピーダンスが小さいので、出力電圧\(V_{OUT}\)が低くなる(すなわち、高周波成分を遮断する)ということは見当がつくと思います。
補足
- ローパスフィルタは『低域通過フィルタ』や『ハイカットフィルタ』とも呼ばれています。
RCローパスフィルタの『伝達関数』と『ゲイン』
RCローパスフィルタの『伝達関数』と『ゲイン』の導出方法について説明します。
『抵抗\(R\)のインピーダンス\({\dot{Z}_R}\)』と『コンデンサ\(C\)のインピーダンス\({\dot{Z}_C}\)』は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}_R}&=&R\tag{2-1}\\
\\
{\dot{Z}_C}&=&\frac{1}{j{\omega}C}\tag{2-2}
\end{eqnarray}
したがって、出力電圧\(V_{OUT}\)は入力電圧\(V_{IN}\)を\({\dot{Z}_R}\)と\({\dot{Z}_C}\)で分圧しているので、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V_{OUT}=\displaystyle\frac{{\dot{Z}_C}}{{\dot{Z}_R}+{\dot{Z}_C}}V_{IN}=\frac{\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}}{R+\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}}V_{IN}=\frac{1}{1+j{\omega}CR}V_{IN}\tag{2-3}
\end{eqnarray}
RCローパスフィルタの伝達関数\(G(j{\omega})\)は入力電圧\(V_{IN}\)と出力電圧\(V_{OUT}\)の比です。そのため、(2-3)式を変形すると、伝達関数\(G(j{\omega})\)は次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
G(j{\omega})=\frac{V_{OUT}}{V_{IN}}=\frac{1}{1+j{\omega}CR}\tag{2-4}
\end{eqnarray}
(2-4)式の分母には虚数単位\(j\)があります。ここで分子のみに虚数単位\(j\)がくるようにするために、分母と分子に『\(1-j{\omega}CR\)』を掛けます。すると(2-4)式は次式に変形することができます。
\begin{eqnarray}
G(j{\omega})=\frac{1}{1+j{\omega}CR}×\frac{1-j{\omega}CR}{1-j{\omega}CR}=\frac{1}{1+({\omega}CR)^2}-j\frac{{\omega}CR}{1+({\omega}CR)^2}\tag{2-5}
\end{eqnarray}
伝達関数\(G(j{\omega})\)の絶対値がRCローパスフィルタのゲイン\(|G(j{\omega})|\)となります。もう少し詳しく説明すると、RCローパスフィルタのゲイン\(|G(j{\omega})|\)は(2-5)式において、『実部\(\left\{\displaystyle\frac{1}{1+({\omega}CR)^2}\right\}\)の2乗』と『虚部\(\left\{\displaystyle\frac{-{\omega}CR}{1+({\omega}CR)^2}\right\}\)の2乗』を足して、平方根を取ることで求めることができます。そのため、ゲイン\(|G(j{\omega})|\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
|G(j{\omega})|&=&\sqrt{\left\{\frac{1}{1+({\omega}CR)^2}\right\}^2+\left\{\frac{-{\omega}CR}{1+({\omega}CR)^2}\right\}^2}\\
\\
&=&\sqrt{\frac{1+({\omega}CR)^2}{\left\{1+({\omega}CR)^2\right\}^2}}\\
\\
&=&\sqrt{\frac{1}{1+({\omega}CR)^2}}\\
\\
&=&\frac{1}{\sqrt{1+({\omega}CR)^2}}\tag{2-6}
\end{eqnarray}
ここで、角周波数\({\omega}\)は\({\omega}=2{\pi}f\)の関係があるので、(2-6)式の\({\omega}\)を\(2{\pi}f\)に書き換えると、次式となります。
\begin{eqnarray}
|G(j{\omega})|=\frac{1}{\sqrt{1+(2{\pi}fCR)^2}}\tag{2-7}
\end{eqnarray}
なお、RCローパスフィルタのゲイン\(|G(j{\omega})|\)をデシベル表示にしたものを\(G_{dB}(j{\omega})\)とすると、\(G_{dB}(j{\omega})\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
G_{dB}(j{\omega})&=&20{\log}_{10}|G(j{\omega})|\\
\\
&=&20{\log}_{10}\frac{1}{\sqrt{1+({\omega}CR)^2}}{\mathrm{[dB]}}\\
\\
&=&20{\log}_{10}\frac{1}{\sqrt{1+(2{\pi}fCR)^2}}{\mathrm{[dB]}}\tag{2-8}
\end{eqnarray}
これで、RCローパスフィルタの『伝達関数』と『ゲイン』の導出は終わりです。
『ラプラス演算子\(s=j{\omega}\)』と『RCローパスフィルタの時定数\({\tau}=RC\)』を用いると、伝達関数\(G(j{\omega})\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
G(j{\omega})=\frac{1}{1+j{\omega}CR}=\frac{1}{1+s{\tau}}
\end{eqnarray}
伝達関数\(G(j{\omega})\)を上式で表している資料もよく見かけます。なお、分母の『ラプラス演算子\(s\)』の次数が1次なので、1次ローパスフィルタとなります。
あわせて読みたい
(2-8)式に示すように、ゲイン\(|G(j{\omega})|\)をデシベルで表す場合には、ゲインの常用対数(\({\log}_{10}\))を20倍します。デシベルについて詳しくは下記の記事で説明していますので、ご参考になれば幸いです。
電圧や電力の『デシベル(dB)』とは?計算方法や変換方法について
続きを見る
RCローパスフィルタの『カットオフ周波数』
カットオフ周波数\(f_C\)は、RCローパスフィルタのゲイン\(|G(j{\omega})|\)が\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}({\;}{\approx}{\;}0.707)\)になる周波数であり、次式となります。
\begin{eqnarray}
\frac{1}{\sqrt{2}}&=&|G(j{\omega})|\\
\\
&=&\frac{1}{\sqrt{1+(2{\pi}f_CCR)^2}}\\
\\
{\Leftrightarrow}\sqrt{1+(2{\pi}f_CCR)^2}&=&\sqrt{2}\\
\\
1+(2{\pi}f_CCR)^2&=&2\\
\\
(2{\pi}f_CCR)^2&=&1\\
\\
2{\pi}f_CCR&=&1\\
\\
f_C&=&\frac{1}{2{\pi}CR}\tag{3-1}
\end{eqnarray}
入力電圧\(V_{IN}\)はRCローパスフィルタによって、カットオフ周波数\(f_C\)より低い成分の周波数はほとんど通過し、カットオフ周波数\(f_C\)より高い成分の周波数は減衰します。
あわせて読みたい
『カットオフ周波数って何?』『何でゲイン\(|G(j{\omega})|\)が\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}({\;}{\approx}{\;}0.707)\)になる周波数がカットオフ周波数なの?』という方は下記の記事が役に立つと思いますので、ご参考にしてください。
-
『カットオフ周波数(遮断周波数)』とは?【フィルタ回路】
続きを見る
RCローパスフィルタの時定数\({\tau}\)は『\({\tau}=RC\)』なので、(3-1)式の\(RC\)を\({\tau}\)に置き換えると次式となります。
\begin{eqnarray}
f_C=\frac{1}{2{\pi}CR}=\frac{1}{2{\pi}{\tau}}\tag{3-2}
\end{eqnarray}
つまり、カットオフ周波数\(f_C\)は時定数\({\tau}\)に反比例します。抵抗の抵抗値\(R\)が大きいほど、コンデンサの静電容量\(C\)が大きいほど、カットオフ周波数\(f_C\)は低くなります。
補足
- RCローパスフィルタのゲイン\(|G(j{\omega})|\)が\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}({\;}{\approx}{\;}0.707)\)になる時は、デシベル単位で表すと次式に示すように約-3dBとなります。
\begin{eqnarray}
G_{dB}(j{\omega})&=&20{\log}_{10}\frac{1}{\sqrt{2}}\\
\\
&=&-3.01029{\cdots}{\mathrm{[dB]}}\\
\\
&{\approx}&-3{\mathrm{[dB]}}
\end{eqnarray} - カットオフ周波数は『遮断周波数』とも呼ばれています。
『カットオフ角周波数』について
カットオフ角周波数\({\omega}_C\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\omega}_C=\frac{1}{CR}
\end{eqnarray}
上式を用いると、伝達関数\(G(j{\omega})\)とゲイン\(|G(j{\omega})|\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
G(j{\omega})&=&\frac{1}{1+j{\omega}CR}=\frac{1}{1+j\displaystyle\frac{{\omega}}{{\omega}_C}}\\
\\
|G(j{\omega})|&=&\frac{1}{\sqrt{1+({\omega}CR)^2}}=\frac{1}{\sqrt{1+\left(\displaystyle\frac{{\omega}}{{\omega}_C}\right)^2}}
\end{eqnarray}
伝達関数\(G(j{\omega})\)とゲイン\(|G(j{\omega})|\)を上式で表している資料もよく見かけます。
RCローパスフィルタの『位相』
繰り返しになりますが、RCローパスフィルタの伝達関数\(G(j{\omega})\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
G(j{\omega})=\frac{1}{1+({\omega}CR)^2}-j\frac{{\omega}CR}{1+({\omega}CR)^2}\tag{4-1}
\end{eqnarray}
複素平面(横軸は実数の目盛、縦軸は虚数の目盛であり、ガウス平面とも呼ばれている)上に(4-1)式のベクトルを描くと上図のようになります。このベクトル図よりRCローパスフィルタの位相\({\theta}\)を求めることができ、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\tan}{\theta}&=&\frac{\displaystyle\frac{-{\omega}CR}{1+({\omega}CR)^2}}{\displaystyle\frac{1}{1+({\omega}CR)^2}}\\
\\
&=&-{\omega}CR\\
\\
{\Leftrightarrow}{\theta}&=&{\tan}^{-1}(-{\omega}CR)\\
\\
&=&-{\tan}^{-1}({\omega}CR)\\
\\
&=&-{\tan}^{-1}(2{\pi}fCR)\tag{4-2}
\end{eqnarray}
なお、カットオフ周波数\(f_C\)における位相\({\theta}_C\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
{\theta}_C&=&-{\tan}^{-1}(2{\pi}f_CCR)\\
\\
&=&-{\tan}^{-1}(2{\pi}×\frac{1}{2{\pi}CR}×CR)\\
\\
&=&-{\tan}^{-1}(1)\\
\\
&=&-0.7853{\cdots}{\mathrm{[rad]}}\tag{4-3}
\end{eqnarray}
上式の単位は[rad](ラジアン)なので、[rad]を[°(度)]に変換すると、次式に示すように-45°(度)となります。
\begin{eqnarray}
{\theta}_C&=&-{\tan}^{-1}(1)×\frac{180}{{\pi}}\\
\\
&=&-45{\mathrm{°}}\tag{4-4}
\end{eqnarray}
[rad]を[°(度)]に変換するためには、\(\displaystyle\frac{180}{{\pi}}\)を掛けます。
RCローパスフィルタの『周波数特性』
一例として、抵抗\(R=1{\mathrm{[kΩ]}}\)、コンデンサ\(C=1{\mathrm{[μF]}}\)のRCローパスフィルタにおいて、ゲイン\(|G(j{\omega})|\)と位相\({\theta}\)の周波数特性を上図に示しています。
RCローパスフィルタのカットオフ周波数\(f_C\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
f_C&=&\frac{1}{2{\pi}CR}\\
\\
&=&\frac{1}{2{\pi}×1×10^{-6}×1×10^{3}}\\
\\
&=&159.154{\cdots}\\
\\
&{\approx}&159{\mathrm{[Hz]}}\tag{5-1}
\end{eqnarray}
上図を見ると、カットオフ周波数\(f_C{\;}{\approx}{\;}159{\mathrm{[Hz]}}\)でゲイン\(|G(j{\omega})|\)が約-3dB、位相\({\theta}\)が-45°になっていることが確認できます。
また、周波数\(f\)が高くて『\(1{\;}{\ll}{\;}(2{\pi}fCR)^2\)』とみなせる場合、『1』を無視すると、ゲイン\(|G(j{\omega})|\)は次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
|G(j{\omega})|&=&\frac{1}{\sqrt{1+(2{\pi}fCR)^2}}\\
\\
&{\approx}&\frac{1}{\sqrt{(2{\pi}fCR)^2}}\\
\\
&{\approx}&\frac{1}{2{\pi}fCR}\tag{5-2}\\
\end{eqnarray}
上式より、周波数\(f\)が10倍になると、ゲイン\(|G(j{\omega})|\)が1/10になります(デシベル表記では、『\(G_{dB}(j{\omega})=20{\log}_{10}\displaystyle\frac{1}{10}=-20{\mathrm{[dB]}}\)』となります)。つまり、周波数が高い領域では、-20[dB/dec]の傾きでゲイン\(|G(j{\omega})|\)が減少しています。
同様に、周波数fが2倍になると、ゲイン\(|G(j{\omega})|\)が1/2になります(デシベル表記では、『\(G_{dB}(j{\omega})=20{\log}_{10}\displaystyle\frac{1}{2}=-6{\mathrm{[dB]}}\)』となります)。つまり、周波数が高い領域では、-6[dB/oct]の傾きでゲイン\(|G(j{\omega})|\)が減少しているとも言います。
周波数fが2倍になることをoct(オクターブ)、10倍になることをdec(ディケード)といいます。
RCローパスフィルタの『周波数特性』をLTspiceで描く方法
『周波数特性』をLTspiceで描くためには『.ac解析』を用います。
上図にLTspiceで描いたRCローパスフィルタを示しています(\(R=1{\mathrm{[kΩ]}}\)、\(C=1{\mathrm{[μF]}}\))。
VOUT端子の電圧をプロットすることで、周波数特性を出力することができるようになります。
『.ac dec 100 1 10k』は『信号源(ここでは入力電圧\(V_{IN}\))の周波数を1Hz~10kHzに変化させる。この時、1ディケード(10倍)当たりのステップ数を100とする。』という意味です。
LTspiceでのAC解析の方法は下記の記事で説明していますので、ご参考にしてください。
-
【LTspice】周波数特性を観測する『.ac解析』の使い方と応用
続きを見る
まとめ
この記事では『RCローパスフィルタ』について、以下の内容を説明しました。
- RCローパスフィルタとは
- RCローパスフィルタの『伝達関数』,『ゲイン』,『カットオフ周波数』,『位相』
- RCローパスフィルタの『周波数特性』
お読み頂きありがとうございました。
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