ベクトルの表し方には『直交座標表示』と『極座標表示』があります。
この記事にはこれらの表示方法について、
- 『直交座標表示』の意味と特徴
- 『極座標表示』の意味と特徴
- 『直交座標表示』と『極座標表示』の変換方法
などを図を用いて分かりやすく解説しています。
直交座標表示とは
直交座標表示はベクトルを『横軸のx成分』と『縦軸のy成分』で表す表示方法です(上図の左参照)。
点\(P(a,b)\)は『原点\(O\)を出発点として、x軸方向に\(a\)、y軸方向に\(b\)だけ移動した場所』を意味しています。
ここで、『原点\(O\)』と『点\(P(a,b)\)』を結んだベクトル\({\dot{Z}}\)がある時、ベクトル\({\dot{Z}}\)は直交座標表示では次のように表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}=(a,b)
\end{eqnarray}
極座標表示とは
極座標表示はベクトルを『原点からの距離』と『ベクトルとx軸のなす角\({\theta}\)(偏角\({\theta}\))』で表す表示方法です(上図の右参照)。なお、極座標では、原点\(O\)を極\(O\)と呼び、x軸を始線と呼びます。
点\(P(r,{\theta})\)は『極\(O\)を出発点として、始線から\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)回転し、距離\(r\)伸ばした場所』を意味しています。
ここで、『極\(O\)』と『点\(P(r,{\theta})\)』を結んだベクトル\({\dot{Z}}\)がある時、ベクトル\({\dot{Z}}\)は極座標表示では次のように表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}=r{\angle}{\theta}
\end{eqnarray}
『直交座標表示』と『極座標表示』の変換方法
では次に
- 『直交座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=(a,b)\)』を『極座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=r{\angle}{\theta}\)』に変換する方法
- 『極座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=r{\angle}{\theta}\)』を『直交座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=(a,b)\)』に変換する方法
について説明します。
『直交座標表示』から『極座標表示』に変換する方法
『直交座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=(a,b)\)』を極座標表示に変換してみましょう。
繰り返しになりますが、極座標表示はベクトルを『原点からの距離』と『ベクトルとx軸のなす角\({\theta}\)(偏角\({\theta}\))』で表します。
原点からの距離を\(r\)とすると、三平方の定理(ピタゴラスの定理)より、\(r\)と\(a\)と\(b\)の関係は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
r=\sqrt{a^2+b^2}
\end{eqnarray}
また、偏角\({\theta}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\theta}={\tan}^{-1}\frac{b}{a}
\end{eqnarray}
したがって、ベクトル\({\dot{Z}}=(a,b)\)は極座標表示では次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}&=&r{\angle}{\theta}\\
&=&\sqrt{a^2+b^2}{\angle}{\tan}^{-1}\frac{b}{a}
\end{eqnarray}
『極座標表示』から『直交座標表示』に変換する方法
『極座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=r{\angle}{\theta}\)』を直交座標表示に変換してみましょう。
繰り返しになりますが、直交座標表示はベクトルを『横軸のx成分』と『縦軸のy成分』で表します。
x成分の座標を\(a\)、y成分の座標を\(b\)とすると、\(a\)と\(b\)と\(r\)の関係は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
a&=&r{\cos}{\theta}\\
b&=&r{\sin}{\theta}
\end{eqnarray}
したがって、ベクトル\({\dot{Z}}=r{\angle}{\theta}\)は直交座標表示では次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}&=&(a,b)\\
&=&(r{\cos}{\theta},r{\sin}{\theta})
\end{eqnarray}
複素平面について
今まではxy平面上にあるベクトルの『直交座標表示』と『極座標表示』について説明しました。
では次に、複素平面上にあるベクトルの『直交座標表示』と『極座標表示』について説明します。複素平面のx軸を実軸, y軸を虚軸といいます。
複素数の直交座標表示とは
複素数の直交座標表示はベクトルを『(実部)+j(虚部)』で表す表示方法です(上図の左参照)。『(実部)+j(虚部)』は実軸と虚軸の成分で表されています。
点\(P(a,b)\)は『原点\(O\)を出発点として、実軸方向に\(a\)、虚軸方向に\(b\)だけ移動した場所』を意味しています。
ここで、『原点\(O\)』と『点\(P(a,b)\)』を結んだベクトル\({\dot{Z}}\)がある時、ベクトル\({\dot{Z}}\)は複素数の直交座標表示では次のように表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}=a+jb
\end{eqnarray}
補足
下記の式のように、ベクトル\({\dot{Z}}\)をxy平面における直交座標表示のように表している場合もあります。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}=(a,b)
\end{eqnarray}
複素数の極座標表示とは
極座標表示はベクトルを『原点からの距離』と『ベクトルと実軸のなす角\({\theta}\)(偏角\({\theta}\))』で表す表示方法です(上図の右参照)。なお、極座標では、原点\(O\)を極\(O\)と呼び、実軸を始線と呼びます。
点\(P(r,{\theta})\)は『極\(O\)を出発点として、始線から\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)回転し、距離\(r\)伸ばした場所』を意味しています。
ここで、『極\(O\)』と『点\(P(r,{\theta})\)』を結んだベクトル\({\dot{Z}}\)がある時、ベクトル\({\dot{Z}}\)は極座標表示では次のように表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}=r{\varepsilon}^{j{\theta}}
\end{eqnarray}
上式において\({\varepsilon}\)(イプシロン)は自然対数の底と言われる定数であり、以下の値を持ちます。
\begin{eqnarray}
{\varepsilon}=2.71828{\cdots}
\end{eqnarray}
なお、通常は(数学の世界では)自然対数の底は『\(e\)』で表しますが、電気の世界では『\(e\)』は起電力の記号として用いられているので、『\({\varepsilon}\)』を用います。
補足
- 下記の式のように、ベクトル\({\dot{Z}}\)をxy平面における極座標表示のように表している場合もあります。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}=r{\angle}{\theta}
\end{eqnarray} - ベクトル\({\dot{Z}}=r{\varepsilon}^{j{\theta}}\)は、複素数を指数関数を用いて『原点からの距離\(r\)』と『偏角\({\theta}\)』で表わした形です。このような式は『(指数関数による)極形式』と呼ばれています。
『直交座標表示』と『極座標表示』の変換方法(複素数の場合)
では次に
- 『直交座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=a+jb\)』を『極座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=r{\varepsilon}^{j{\theta}}\)』に変換する方法
- 『極座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=r{\varepsilon}^{j{\theta}}\)』を『直交座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=a+jb\)』に変換する方法
について説明します。
『直交座標表示』から『極座標表示』に変換する方法(複素数の場合)
『直交座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=a+jb\)』を極座標表示に変換してみましょう。
繰り返しになりますが、極座標表示はベクトルを『原点からの距離』と『ベクトルと実軸のなす角\({\theta}\)(偏角\({\theta}\))』で表します。
原点からの距離を\(r\)とすると、三平方の定理(ピタゴラスの定理)より、\(r\)と\(a\)と\(b\)の関係は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
r=\sqrt{a^2+b^2}
\end{eqnarray}
また、偏角\({\theta}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\theta}={\tan}^{-1}\frac{b}{a}
\end{eqnarray}
したがって、ベクトル\({\dot{Z}}=a+jb\)は極座標表示では次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}&=&r{\varepsilon}^{j{\theta}}\\
&=&\sqrt{a^2+b^2}{\varepsilon}^{j{\;}{\displaystyle\tan}^{-1}\displaystyle\frac{b}{a}}
\end{eqnarray}
『極座標表示』から『直交座標表示』に変換する方法(複素数の場合)
『極座標表示のベクトル\({\dot{Z}}=r{\varepsilon}^{j{\theta}}\)』を直交座標表示に変換してみましょう。
繰り返しになりますが、直交座標表示はベクトルを『(実部)+j(虚部)』で表します。
実軸成分の座標を\(a\)、虚軸成分の座標を\(b\)とすると、三平方の定理(ピタゴラスの定理)より、\(r\)と\(a\)と\(b\)の関係は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
r=\sqrt{a^2+b^2}
\end{eqnarray}
また、『\({\varepsilon}^{j{\theta}}\)』はオイラーの法則より次式が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
{\varepsilon}^{j{\theta}}={\cos}{\theta}+j{\sin}{\theta}
\end{eqnarray}
したがって、ベクトル\({\dot{Z}}=r{\varepsilon}^{j{\theta}}\)は直交座標表示では次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}&=&rεjθ\\
&=&r({\cos}{\theta}+j{\sin}{\theta})\\
&=&r{\cos}{\theta}+jr{\sin}{\theta}
\end{eqnarray}
補足
- ベクトル\({\dot{Z}}=r({\cos}{\theta}+j{\sin}{\theta})\)は、複素数を三角関数を用いて『原点からの距離\(r\)』と『偏角\({\theta}\)』で表わした形です。このような式は『(三角関数による)極形式』と呼ばれています。
まとめ
この記事では『直交座標表示』と『極座標表示』について、以下の内容を説明しました。
- 『直交座標表示』の意味と特徴
- 『極座標表示』の意味と特徴
- 『直交座標表示』と『極座標表示』の変換方法
お読み頂きありがとうございました。
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