この記事では『シリーズレギュレータ』について
- シリーズレギュレータとは?
- シリーズレギュレータの『動作原理』
- シリーズレギュレータの『メリット』と『デメリット』
- シリーズレギュレータの『様々な回路構成』
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
シリーズレギュレータとは
シリーズレギュレータはリニアレギュレータの一種なので、初めにリニアレギュレータについて説明します。
リニアレギュレータは『抵抗』や『バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子(レギュレータ素子)』の電圧降下を利用することで、入力電圧\(V_{IN}\)より低い出力電圧\(V_{OUT}\)を作る回路です。
リニアレギュレータを分けると、『シリーズレギュレータ』と『シャントレギュレータ』に分類されます。各レギュレータの特徴を下記に示します。
- シリーズレギュレータ
- シャントレギュレータ
・制御素子が負荷と直列(シリーズ)に入っている回路です。
・直列制御型やシリーズドロッパとも呼ばれています。
・負荷に対してシリーズ(series:直列)に制御素子が接続されていることからシリーズレギュレータと名付けられています。
・制御素子が負荷と並列に入っている回路です。
・並列制御型とも呼ばれています。
・制御素子に電流をシャント(shunt:分流)することからシャントレギュレータと名付けられています。
このように、『シリーズレギュレータ』と『シャントレギュレータ』は、制御素子が『負荷と直列に接続されているか?』or『負荷と並列に接続されているか?』という違いで分類されています。
ではこれから、シリーズレギュレータの『動作原理』と『様々な回路構成』を説明していきます。
補足
- シリーズレギュレータは英語では「Series Regulator」と書きます。
- シャントレギュレータは英語では「Shunt Regulator」と書きます。
- リニアレギュレータの「入力電圧\(V_{IN}\)-出力電圧\(V_{OUT}\)」の特性を下図に示しています。この特性がリニア(linear:線形)なので、リニアレギュレータと呼ばれています。
シリーズレギュレータの『動作原理』
入力電圧\(V_{IN}\)が一定の状態で出力電流\(I_{OUT}\)が変化した時の特性を上図に示しています。
シリーズレギュレータは入力電流\(I_{IN}\)と出力電流\(I_{OUT}\)が等しくなる回路です。後ほど、実際の回路で動作原理を詳しく説明しますが、簡単に説明すると、シリーズレギュレータは下記のように動作をしています。
負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急増すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が低下します。この時、制御素子にかかる電圧\(V_{REG}\)を低下させることで、出力電圧\(V_{OUT}\)を上昇させて安定させています。
一方、負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急減すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が増加します。この時、制御素子にかかる電圧\(V_{REG}\)を上昇させることで、出力電圧\(V_{OUT}\)を低下させて安定させています。
この動作によって、出力電圧\(V_{OUT}\)が定電圧化されます。
なお、入力電流\(I_{IN}\)と出力電圧\(V_{OUT}\)は次式で表されます。
I_{IN}&=&I_{OUT}\\
\\
V_{OUT}&=&V_{IN}-V_{REG}
\end{eqnarray}
補足
- 厳密には、制御素子を制御するための素子(ツェナーダイオードやオペアンプや抵抗等)に電流が流れるため、入力電流\(I_{IN}\)は出力電流\(I_{OUT}\)よりも少し大きくなりますが、制御素子を制御するための素子に流れる電流は小さいので無視して考えています。
シリーズレギュレータの『メリット』と『デメリット』
シリーズレギュレータの『メリット』と『デメリット』を下記に示します。
メリット
- 回路構成が簡単(部品点数が少ない)
- 安価
- 放熱が小さい場合は省スペース
- スイッチングレギュレータと比較すると、設計が簡単
- 3端子レギュレータを使うことで簡単にシリーズレギュレータを構成することができる
- 低ノイズ
- 電圧リプルが小さい
→シリーズレギュレータはスイッチング動作をしないため
デメリット
- 効率が悪い
- 放熱が大きい場合は実装面積が大きくなる
- 降圧しかできない
→入出力電圧差が大きいほど効率が悪くなります。
シリーズレギュレータの『様々な回路構成』
シリーズレギュレータは制御素子が負荷と直列に入っている回路です。
制御素子には『NPN型バイポーラトランジスタ』、『PNP型バイポーラトランジスタ』、『Nチャネル型MOSFET』、『Pチャネル型MOSFET』を用います。制御素子にかかる電圧は『ツェナーダイオード』や『オペアンプ』や『基準電圧IC』によって変化させます。
ではこれから下記に示す回路について順番に説明していきます。
- NPNトランジスタとツェナーダイオードを用いたシリーズレギュレータ
- NPNトランジスタとオペアンプを用いたシリーズレギュレータ
- NPNトランジスタと基準電圧ICを用いたシリーズレギュレータ
これから説明する回路構成には制御素子として『NPN型バイポーラトランジスタ』を用いてますが、『PNP型バイポーラトランジスタ』、『Nチャネル型MOSFET』、『Pチャネル型MOSFET』も使用することができます。
NPNトランジスタとツェナーダイオードを用いたシリーズレギュレータ
NPNトランジスタ\(Q_1\)、ツェナーダイオード\(D_Z\)、抵抗\(R_1\)で構成されたシリーズレギュレータです。
上図に示しているシリーズレギュレータの『出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)の式』と『動作原理』についてこれから説明します。
出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)の式
上図に示しているシリーズレギュレータの出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)は次式で表されます。なお、抵抗\(R_1\)に流れる電流は小さいので無視しています。
V_{OUT}&=&V_Z-V_{BE}{\;}{\approx}{\;}V_Z-0.6\\
\\
I_{IN}&=&I_{OUT}
\end{eqnarray}
上式で重要なのは、出力電圧\(V_{OUT}\)の式に入力電圧\(V_{IN}\)が入っていないことです。出力電圧\(V_{OUT}\)はツェナー電圧\(V_Z\)によって決まります。NPNトランジスタ\(Q_1\)のベース端子(B)の電圧はツェナーダイオード\(D_Z\)のツェナー電圧\(V_Z\)で一定となります。また、NPNトランジスタ\(Q_1\)のベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)は約0.6Vなので、出力電圧\(V_{OUT}\)はツェナー電圧\(V_Z\)から0.6Vを引いた値となります。
動作原理
上図に示しているシリーズレギュレータにおいて、出力電流\(I_{OUT}\)が『急増した時』と『急減した時』の動作は下記のようになります。
- 出力電流\(I_{OUT}\)が急増した時
- 出力電流\(I_{OUT}\)が急減した時
負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急増すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が低下します。そのため、NPNトランジスタ\(Q_1\)のエミッタ端子(E)の電圧が低下します。その結果、NPNトランジスタ\(Q_1\)のベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)が上昇します。ベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)が上昇すると、ベース電流\(I_B\)が上昇するため、コレクタエミッタ間電圧\(V_{CE}\)が低下します。これによって、出力電圧\(V_{OUT}\)が上昇するので安定します。
負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急減すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が上昇します。そのため、NPNトランジスタ\(Q_1\)のエミッタ端子(E)の電圧が上昇します。その結果、NPNトランジスタ\(Q_1\)のベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)が低下します。ベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)が低下すると、ベース電流\(I_B\)が低下するため、コレクタエミッタ間電圧\(V_{CE}\)が上昇します。これによって、出力電圧\(V_{OUT}\)が低下するので安定します。
抵抗\(R_1\)に流れる電流\(I_{R1}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
I_{R1}=\frac{V_{IN}-V_{Z}}{R_1}
\end{eqnarray}
この電流\(I_{R1}\)はツェナーダイオード\(D_Z\)のツェナー電圧\(V_Z\)を保つのに必要なツェナー電流\(I_Z\)とNPNトランジスタ\(Q_1\)のベース電流\(I_B\)の両方を十分に流せるような値にします。
NPNトランジスタとオペアンプを用いたシリーズレギュレータ
NPNトランジスタ\(Q_1\)、エラーアンプ(誤差検出用のオペアンプ)、基準電圧源\(V_{REF}\)、抵抗\(R_1\),\(R_2\)で構成されたシリーズレギュレータです。
上図に示しているシリーズレギュレータの『出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)の式』と『動作原理』についてこれから説明します。
出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)の式
上図に示しているシリーズレギュレータの出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)は次式で表されます。
V_{OUT}&=&V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)+I_{BIAS}R_1\\
\\
I_{IN}&=&I_{OUT}
\end{eqnarray}
上式で重要なのは、出力電圧\(V_{OUT}\)の式に入力電圧\(V_{IN}\)が入っていないことです。出力電圧\(V_{OUT}\)は基準電圧\(V_{REF}\)と抵抗\(R_1\),\(R_2\)とオペアンプの反転入力端子に流れる電流\(I_{BIAS}\)(←入力バイアス電流と呼ばれています)によって決まります。
出力電圧\(V_{OUT}\)は下記のように導出しています。
\begin{eqnarray}
V_{OUT}&=&V_{REF}+R_1の電圧降下\\
\\
&=&V_{REF}+R_1\left(\frac{V_{REF}}{R_2}+I_{BIAS}\right)\\
\\
&=&V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)+I_{BIAS}R_1
\end{eqnarray}
ここで、オペアンプの反転入力端子に流れる電流\(I_{BIAS}\)は非常に小さいので、\(I_{BIAS}R_1\)を省略すると、出力電圧\(V_{OUT}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
V_{OUT}&=&V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)
\end{eqnarray}
上式は下記のように分圧を用いても求めることができます。
\begin{eqnarray}
&&V_{OUT}:V_{REF}=R_1+R_2:R_2\\
\\
{\Leftrightarrow}&&V_{OUT}=V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)
\end{eqnarray}
動作原理
上図に示しているシリーズレギュレータにおいて、出力電流\(I_{OUT}\)が『急増した時』と『急減した時』の動作は下記のようになります。
- 出力電流\(I_{OUT}\)が急増した時
- 出力電流\(I_{OUT}\)が急減した時
負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急増すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が低下します。その結果、出力電圧を抵抗\(R_1\)および抵抗\(R_2\)で分圧した\(V_1\)の電圧が低下します。電圧\(V_1\)はオペアンプの反転入力端子("-"の端子)に入力される電圧であり、電圧\(V_1\)が基準電圧\(V_{REF}\)よりも小さくなると、オペアンプの出力端子(トランジスタ\(Q_1\)のベース電圧\(V_B\)が上昇します。ベース電圧\(V_B\)が上昇すると、ベース電流\(I_B\)が上昇するため、コレクタエミッタ間電圧\(V_{CE}\)が低下します。これによって、出力電圧\(V_{OUT}\)が上昇するので安定します。
負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急減すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が上昇します。その結果、出力電圧を抵抗\(R_1\)および抵抗\(R_2\)で分圧した\(V_1\)の電圧が上昇します。電圧\(V_1\)はオペアンプの反転入力端子("-"の端子)に入力される電圧であり、電圧\(V_1\)が基準電圧\(V_{REF}\)よりも大きくなると、オペアンプの出力端子(トランジスタ\(Q_1\)のベース電圧\(V_B\)が低下します。ベース電圧\(V_B\)が低下すると、ベース電流\(I_B\)が低下するため、コレクタエミッタ間電圧\(V_{CE}\)が上昇します。これによって、出力電圧\(V_{OUT}\)が低下するので安定します。
NPNトランジスタと基準電圧ICを用いたシリーズレギュレータ
NPNトランジスタ\(Q_1\)、基準電圧IC(シャントレギュレータICとも呼ばれる)、抵抗\(R_S\),\(R_1\),\(R_2\)で構成されたシリーズレギュレータです。基準電圧ICの内部回路はトランジスタ\(Q_2\)とエラーアンプ(誤差検出用のオペアンプ)で構成されており、エラーアンプの反転入力端子("-"の端子)には高精度基準電圧源(バンドギャップリファレンスとも呼ばれている)\(V_{REF}\)が接続されています。
上図に示しているシリーズレギュレータの『出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)の式』と『動作原理』についてこれから説明します。
出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)の式
上図に示しているシリーズレギュレータの出力電圧\(V_{OUT}\)と入力電流\(I_{IN}\)は次式で表されます。なお、抵抗\(R_1\),\(R_S\)に流れる電流は小さいので無視しています。
V_{OUT}&=&V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)+I_{REF}R_1\\
\\
I_{IN}&=&I_{OUT}
\end{eqnarray}
上式で重要なのは、出力電圧\(V_{OUT}\)の式に入力電圧\(V_{IN}\)が入っていないことです。出力電圧\(V_{OUT}\)は基準電圧\(V_{REF}\)と抵抗\(R_1\),\(R_2\),基準電圧ICのリファレンス端子(REF)に流れる電流\(I_{REF}\)によって決まります。
出力電圧\(V_{OUT}\)は下記のように導出しています。
\begin{eqnarray}
V_{OUT}&=&V_{REF}+R_1の電圧降下\\
\\
&=&V_{REF}+R_1\left(\frac{V_{REF}}{R_2}+I_{REF}\right)\\
\\
&=&V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)+I_{REF}R_1
\end{eqnarray}
ここで、リファレンス端子(REF)に流れる電流\(I_{REF}\)はμAオーダーの電流であり、非常に小さいので、\(I_{REF}R_1\)を省略すると、出力電圧\(V_{OUT}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
V_{OUT}&=&V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)
\end{eqnarray}
上式は下記のように分圧を用いても求めることができます。
\begin{eqnarray}
&&V_{OUT}:V_{REF}=R_1+R_2:R_2\\
\\
{\Leftrightarrow}&&V_{OUT}=V_{REF}\left(1+\frac{R_1}{R_2}\right)
\end{eqnarray}
なお、基準電圧IC(シャントレギュレータIC)については下記の記事で別途説明していますので、ご参考になれば幸いです。
動作原理
上図に示しているシリーズレギュレータにおいて、出力電流\(I_{OUT}\)が『急増した時』と『急減した時』の動作は下記のようになります。
- 出力電流\(I_{OUT}\)が急増した時
- 出力電流\(I_{OUT}\)が急減した時
負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急増すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が低下します。その結果、出力電圧を抵抗\(R_1\)および抵抗\(R_2\)で分圧した\(V_1\)の電圧が低下します。電圧\(V_1\)は基準電圧ICのリファレンス端子(REF)に入力される電圧であり、電圧\(V_1\)が内部基準電圧\(V_{REF}\)よりも小さくなると、誤差アンプの出力端子の電圧(トランジスタ\(Q_1\)のベース電圧\(V_B\))が低下し、カソード電流\(I_K\)が小さくなります。その結果、ベース電流\(I_B\)が上昇するため、コレクタエミッタ間電圧\(V_{CE}\)が低下します。これによって、出力電圧\(V_{OUT}\)が上昇するので安定します。
負荷変動により、出力電流\(I_{OUT}\)が急減すると、出力電圧\(V_{OUT}\)が上昇します。その結果、出力電圧を抵抗\(R_1\)および抵抗\(R_2\)で分圧した\(V_1\)の電圧が上昇します。電圧\(V_1\)が内部基準電圧\(V_{REF}\)よりも大きくなると、誤差アンプの出力端子の電圧(トランジスタ\(Q_1\)のベース電圧\(V_B\))が上昇し、カソード電流\(I_K\)が大きくなります。その結果、ベース電流\(I_B\)が減少するため、コレクタエミッタ間電圧\(V_{CE}\)が上昇します。これによって、出力電圧\(V_{OUT}\)が低下するので安定します。
抵抗\(R_S\)は基準電圧ICの最小カソード電流\(I_{K(MIN)}\)とNPNトランジスタ\(Q_1\)のベース電流\(I_B\)の両方を十分に流せるような値にします。
まとめ
この記事では『シリーズレギュレータ』について、以下の内容を説明しました。
- シリーズレギュレータとは?
- シリーズレギュレータの『動作原理』
- シリーズレギュレータの『メリット』と『デメリット』
- シリーズレギュレータの『様々な回路構成』
お読み頂きありがとうございました。
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