PFC回路にはバイパスダイオードが接続されている場合があります。
この記事では、PFC回路のバイパスダイオードって何?どこに接続されているの?という基本的な内容から、バイパスダイオードの有無による突入電流の経路の違い、バイパスダイオードの役割などを詳しく説明します。
バイパスダイオードとは
PFC回路のバイパスダイオードD1はインダクタLと出力ダイオードDOUTの両端に接続されているダイオードです。このバイアスダイオードD1は入力電圧vINの印加時に生じる突入電流が流れる経路を確保するために接続されています。
突入電流の経路
入力電圧vINを印加前は、出力コンデンサCOUTには電荷が溜まっていないため、出力電圧VOUTは0Vとなっています。この出力電圧VOUTが0Vの状態において、入力電圧vINを印加すると、突入電流がEMIフィルタ→ブリッジダイオード→バイパスダイオードD1→出力コンデンサCOUTの経路で流れ、出力コンデンサCOUTを充電します。
また、入力電圧vINは正弦波なので0Vの時もあればピーク電圧VINPEAKの時もあります。そのため、入力電圧vINがどのタイミングで印加されるかによって突入電流の大きさが変わり、電圧が大きくなる90°の箇所や270°の箇所で印加されると、突入電流が非常に大きくなります。
出力電圧VOUTが入力電圧vINより高くなると、バイパスダイオードD1は逆バイアス電圧(カソードKの方がアノードAよりも電圧が高くなること)が印加されるため、バイパスダイオードD1がオフします。
すなわち、入力電圧vINの印加時のみバイパスダイオードD1が導通し、出力コンデンサCOUTを充電するということです。そのため、バイパスダイオードはプリチャージダイオード(Pre-Charge Diode)とも呼ばれています。
補足
バイパスダイオードの役割
バイパスダイオードD1は出力ダイオードDOUTの破壊を防止するだけでなく、以下の役割も担っています。
インダクタのコアの飽和対策
バイパスダイオードD1がない場合、入力電圧vINを印加時に突入電流がインダクタLに流れることで、インダクタLのコアが飽和する可能性があります。コアが飽和した状態でMOSFETがオンすると、MOSFETに大電流が流れるため破壊する可能性があります。また、コアが飽和すると、出力ダイオードDOUTに大電流が流れるため、出力ダイオードDOUTの破壊の原因にもなります。突入電流をバイパスダイオードD1に流すことでインダクタLのコアの飽和を防止することができます。
雷サージ対策
バイパスダイオードD1がない状態で雷サージが印加すると、インダクタLに大電流が流れます。その後、インダクタには逆起電力が生じ、ブリッジダイオードに逆バイアス電圧(カソードKの方がアノードAよりも電圧が高くなること)が印加されます。その結果、ブリッジダイオードが絶縁破壊する可能性があります。バイパスダイオードD1を接続すると、雷サージのエネルギーを出力コンデンサCOUTに流すことができるため、ブリッジダイオードの破壊を防止することができます。
共振対策
バイパスダイオードD1がない場合、インダクタLと出力コンデンサCOUTで共振回路を形成します。この共振回路によって、入力電圧vINを印加時に
バイパスダイオードの選定方法
以下の3つを満たすダイオードを選定します。
- 突入電流の最大値よりも大きい定格電流
- 最大入力電圧よりも高い定格電圧
- 突入電流に耐えられるI2t定格
なお、バイパスダイオードD1は入力電圧vINを印加時のみ導通し、通常時(MOSFETのON/OFF制御時)には導通してないため、逆回復時間(trr)の遅い素子でも大丈夫です。そのため比較的に低コストなダイオードを使用可能です。
また、入力電圧vIN印加時の突入電流や雷サージによる電流をバイパスダイオードD1に流すためには、バイパスダイオードD1の順方向電圧VFは出力ダイオードDOUTの順方向電圧VFよりも小さい必要があります。