この記事では『疑似電源回路網(LISN)』について
- 疑似電源回路網(LISN)とは
- LISNの別名(ISN、AMN、ANNとの違い)
- LISNの『役割』と『目的』
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
疑似電源回路網(LISN)とは
被試験機器(EUT)の電源線や通信線から流出するノイズ(一般的には「雑音端子電圧」と呼ばれる)を測定する際には、「疑似電源回路網(LISN)」と呼ばれる機器を用います。「疑似電源回路網(LISN)」は被試験機器(EUT)と電源との間に接続します。
電源線から流出するノイズを測定する際、ノイズの測定値は電源線のインピーダンスに大きく影響されます。電源線のインピーダンスが高い場合にはノイズの測定値が大きくなり、電源線のインピーダンスが低い場合にはノイズの測定値が小さくなります。このような状態では、ノイズを正確に測定することができませんし、再現性もありません。
そこで、ノイズ測定の正確性と再現性を高めるために、電源線のインピーダンスを一定にする必要があります。この役割を果たすのが「疑似電源回路網(LISN)」です。
「疑似電源回路網(LISN)」は被試験機器(EUT)から見た電源線のインピーダンスを一定にしつつ、同時に電源線から流出するノイズを測定器(スペアナ等)に伝える役割を持っています。
また、ノイズの測定方法は国際規格である「CISPR規格」で規定されており、上図に示すように
- 被試験機器(EUT)と疑似電源回路網(LISN)は80cm離す
- 卓上装置の場合は、80cmの高さに被試験機器(EUT)を置く
- 電源線は40cm以下になるように束ねる
- 被試験機器(EUT)は基準となる導体面から80cm以上離す
等の決まりがあります。
補足
- 雑音端子電圧は、「電磁波ノイズ」、「伝導ノイズ」、「伝導妨害」、「伝導EMI」、「伝導エミッション」などと呼ばれることがあります。
- LISNは「Line Impedance Stabilization Network」の略です。
- EMIは「Emission(エミッション)」の頭文字です。エミッションとは、電気機器から放出される不要な電気的ノイズのことを指します。
- EUTは「Equipment Under Test」の略です。『EUT』については下記の記事で詳しく説明しています。興味のある方は下記のリンクからぜひチェックをしてみてください。
EUTとDUTとは?『意味』や『違い』などを解説!
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LISNの別名(ISN、AMN、ANNとの違い)
疑似電源回路網(LISN)は厳密には測定対象(電線線と通信線)によって下記に示すように名称が変わります。
電源線から流出するノイズを測定する場合
- LISN(Line Impedance Stabilization Network:ラインインピーダンス安定化回路網)
- AMN(Artificial Mains Network:擬似電源回路網)
通信線から流出するノイズを測定する場合
- ISN(Impedance Stabilization Network:インピーダンス安定化回路網)
- AAN(Asymmetric Artificial Network:非対称疑似回路網)
LISNとISNは「FCC規格(←米国規格)」、AMNとAANは「CISPR規格(←国際規格)」で呼ばれている名称です。
電源線や通信線のノイズを測定する際に用いる回路網のことを「LISN」で説明していることが多いですし、LISNのことをAMNの正式名称である「擬似電源回路網」として説明している資料が多いため、この記事では「疑似電源回路網(LISN)」と記載しています。
補足
- CISPRは「Comite International Special des Perturbations Radioelectriques」の略です。
- FCCは「Federal Communication Commission」の略です。
LISNの『役割』と『目的』
疑似電源回路網(LISN)には主に以下の3つの役割があります。
疑似電源回路網(LISN)の役割
- EUTから見た電源線のインピーダンスを一定にする
- 電源線から流入するノイズを抑制する
- ノイズを測定器(スペアナ等)に出力する
各役割について順番に説明します。
EUTから見た電源線のインピーダンスを一定にする
ノイズの測定値は電源線のインピーダンスに大きく影響されます。
LISNを接続すると、被試験機器(EUT)から見た電源線のインピーダンスを一定にすることができるため、再現性や正確性のあるノイズを測定をすることができます。
LISNにはいくつか種類があるのですが、「50Ω/50μH V-LISN」と呼ばれるLISNにおいて、LISNのインピーダンス特性をプロット(赤線)すると、高周波数においては約50Ωであり、インピーダンスが一定になっていることが分かります。
また、LISNのインピーダンス特性(周波数特性)は、国際規格「CISPR16-1-2」において絶対値と位相が規定されています。
「50Ω/50μH V-LISN」と呼ばれるLISNにおいて、国際規格「CISPR16-1-2」で定められている「被試験機器(EUT)から見た電源線のインピーダンス(絶対値と位相)の許容範囲(青点線)」を上図に示します。インピーダンスの絶対値は±20%、位相は±11.5度の許容偏差が認められています。
「50Ω/50μH V-LISN」のインピーダンス特性を見ると、許容範囲の中に入っていることが分かります。
あわせて読みたい
LISNには様々な種類があります。「50Ω/50μH V-LISN」と呼ばれるLISNは150kHz~30MHzの周波数範囲での測定に使用されるLISNです。
『LISNの種類』については下記の記事で詳しく説明しています。興味のある方は下記のリンクからぜひチェックをしてみてください。
-
疑似電源回路網(LISN)の種類・等価回路・インピーダンス
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電源線から流入するノイズを抑制する
電源線から被試験機器(EUT)側を見た時に、LISNはコイル(L)とコンデンサ(C)でローパスフィルタを構成しています。
上図に「50Ω/50μH V-LISN」と呼ばれるLISNにおいて、電源線から被試験機器(EUT)側を見た時の周波数特性を示しています(周波数特性をプロットする時にはEUTを開放させています)。
「50Ω/50μH V-LISN」と呼ばれるLISNは150kHz~30MHzの周波数範囲での測定に使用されるのですが、150kHzあたりからゲインが減少していることが分かります。
ローパスフィルタにより、電源線から流入するノイズを防いでいるため、LISNに接続される測定器には被試験機器(EUT)の電源線から流出するノイズのみを伝えることができるのです。
ノイズを測定器(スペアナ等)に出力する
LISNには、電源線から流出するノイズを測定器(スペアナ等)に伝える役割があります。
LISNと測定器を接続する際、インピーダンス整合と信号減衰のために「アッテネータ」をLISNの出力端子に接続する必要があります(アッテネータが内蔵のLISNを使っている場合には接続する必要はありません)。
Δ型LISNについて
LISNには「V型LISN」と「Δ型LISN」があります。いままで説明したのはV型LISNです。
V型LISNでは、「ディファレンシャルモードノイズ(ノーマルモードノイズ)」と「コモンモードノイズ」を一緒に測定しています。
一方、Δ型LISNでは「ディファレンシャルモードノイズ」と「コモンモードノイズ」を分離して測定することができます。そのため、Δ型LISNを使えば、効率的な対策検討をすることができます。
「ディファレンシャルモードノイズ(ノーマルモードノイズ)」と「コモンモードノイズ」については下記の記事で詳しく説明しています。興味のある方は下記のリンクからぜひチェックをしてみてください。
-
『ノーマルモードノイズ』と『コモンモードノイズ』の違いや原因について
続きを見る
まとめ
この記事では、『疑似電源回路網(LISN)』について、以下の内容を説明しました。
- 疑似電源回路網(LISN)とは
- LISNの別名(ISN、AMN、ANNとの違い)
- LISNの『役割』と『目的』
お読み頂きありがとうございました。
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