『突入電流防止回路』の設計方法!抵抗の選定方法など

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この記事では『突入電流防止回路』に関して

  • 突入電流防止回路の『設計方法』

などを図を用いて分かりやすく説明しています。

『突入電流防止回路』の設計方法

『突入電流防止回路』の設計方法
突入電流防止回路の設計では、突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)の最小抵抗値、耐量サージエネルギー、定格電流を求める必要があります。設計方法を説明するにあたり、以下のパラメータを使用します。

  • ACライン電圧\(v_{IN}\)の実行値\(V_{INRMS}\):100V
  • ACライン電圧\(v_{IN}\)の変動率:±10%
  • 出力電力\(P_{OUT}\):200W
  • 電源効率\({\eta}\):90%
  • 力率\({\cos}{\varphi}\):0.8
  • 入力電解コンデンサ\(C_{IN}\)の容量値:330uF
  • 周囲温度\(T_A\):10℃~35℃
  • 突入電流\(I_{RUSH}\)の仕様:30A

上式で求めたパラメータを利用して突入電流防止回路の設計を行います。

設計手順1:突入電流の仕様から突入電流防止素子の最小抵抗値を求める

突入電流防止素子の最小抵抗値\(R_{MIN}\)は、ACライン電圧\(v_{IN}\)のピーク値\(V_{PEAK}\)、突入電流\(I_{RUSH}\)の仕様によって決まります。一般的には20A~40Aが突入電流の仕様となります。

まず、ACライン電圧\(v_{IN}\)のピーク値\(V_{PEAK}\)を求めます。ACライン電圧\(v_{IN}\)の実行値\(V_{INRMS}\)が100V、その変動は10%なので、ACライン電圧\(v_{IN}\)のピーク値\(V_{PEAK}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
V_{PEAK}= (V_{INRMS}×1.1)×\sqrt{2}=155.6[V]
\end{eqnarray}
突入電流\(I_{RUSH}\)の仕様が30Aなので、突入電流防止素子の最小抵抗値\(R_{MIN}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
R_{MIN}= \frac{V_{PEAK}}{ I_{RUSH}}=5.19[Ω]
\end{eqnarray}

突入電流防止素子に温度ヒューズ抵抗やセメント抵抗を用いた場合には、上式で求めた値が最小抵抗値\(R_{MIN}\)となります。

しかし、サーミスタは温度によって抵抗値が変化します。周囲温度\(T_A\)の最大値が35℃なので、35℃の時の最小抵抗値が\(R_{MIN}\)である必要があります。例えば、35℃の時の抵抗値が25℃の抵抗値と比較して0.8倍に低下すると仮定すると、25℃の時において必要な最小抵抗値\(R_{MIN(25℃)}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
R_{MIN(25℃)}= R_{MIN}×\frac{1}{0.8}=6.48[Ω]
\end{eqnarray}

設計手順2:電源投入時のサージエネルギーを求める

次に電源投入時のサージエネルギー\(E\)を求めます。

電源投入時において、突入電流防止素子にかかるサージエネルギー\(E\)は以下の値となります。下式よりサージエネルギー\(E\)は抵抗値依存症がありません。
\begin{eqnarray}
E&=&\frac{1}{2}C_{IN}{ V_{PEAK}}^2\\
&=&C_{IN}(V_{AC}×1.1)^2\\
&=&3.993[J]
\end{eqnarray}

このサージエネルギー\(E\)に耐える素子を選定する必要があります。

突入電流防止素子(サーミスタ/温度ヒューズ抵抗/セメント抵抗)のデータシートには以下のようなサージエネルギー耐量のグラフ(耐ラッシュ特性)があります。または、表などに瞬時エネルギー耐量が記載されています。
突入電流防止抵抗(サーミスタ_温度ヒューズ抵抗_セメント抵抗)のデータシート

エネルギー耐量のグラフが記載されている場合には、グラフの値を超えないように選定します。瞬時エネルギー耐量が記載されている場合にはサージエネルギー\(E\)より大きな素子を選定します。

設計手順3:通常使用時に流れる電流の最大値を求める

ACライン電圧\(v_{IN}\)の実行値\(V_{INRMS}\)が100V、ACライン電圧\(v_{IN}\)の変動率が±10%、出力電力\(P_{OUT}\)が200W、電源効率\({\eta}\)が90%、力率\({\cos}{\varphi}\)が0.8なので、通常使用時に流れる電流の最大値\(I_{INRMS}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
I_{INRMS}=\frac{P_{OUT}}{{\eta}×{\cos}{\varphi}×0.9V_{INRMS}}=3.08[A]
\end{eqnarray}
上式において、\(V_{INRMS}\)についている0.9ですが、ACライン電圧\(v_{IN}\)の実行値\(V_{INRMS}\)が最小値となるときに、通常使用時に流れる電流が最大値\(I_{INRMS}\)となります。そのため、ACライン電圧\(v_{IN}\)の実行値\(V_{INRMS}\)に対して変動10%を引いた値としています。

安全設計する場合には、上式で求めた値に対してディレーティングを考慮します。ディレーティングを80%とすると、突入電流防止回路に必要な定格電流\(I_{RATED}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
I_{RATED}=\frac{ I_{INRMS}}{0.8}=3.86[A]
\end{eqnarray}

突入電流防止回路の種類には「突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)のみを使用したパッシブICL」と「突入防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー/トライアック/サイリスタ)を使用したアクティブICL」があります。
突入電流防止回路の種類

「突入電流防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)のみを使用したパッシブICL」の場合、通常動作時は、突入電流防止素子に電流がながれていますので、突入電流防止素子が必要な定格電流\(I_{RATED}\)を満たす必要があります。

一方、「突入防止素子(温度ヒューズ抵抗orセメント抵抗orサーミスタ)に並列にスイッチング素子(リレー/トライアック/サイリスタ)を使用したアクティブICL」の場合、通常動作時は、スイッチング素子に電流がながれていますので、スイッチング素子が必要な定格電流\(I_{RATED}\)を満たす必要があります。

補足

  • 突入電流防止素子にサーミスタを用いた場合、通常使用時に流れる電流の最大値に対して、余裕のある定格電流のものを選定してはいけません。余裕のありすぎるものを使用すると、温度上昇が少なくて抵抗値が下がらず、電源への供給不足となる場合があります。
  • 突入電流の仕様がない場合、電源で使用される素子(ブリッジダイオードなど)の定格電流を突入電流の仕様とします。

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