インダクタは昇圧チョッパ回路や降圧チョッパ回路などスイッチング電源には必ずと言っていいほど使用されている素子です。
インダクタは寄生抵抗(直流抵抗、交流抵抗)を持っており、電流が流れるとその寄生抵抗によって導通損失が発生します。
この記事では、インダクタの導通損失の計算方法について説明します。
導通損失の計算方法
例として、インダクタに上図のような電流ILが流れた時の導通損失を計算してみます。この電流は三角波電流がバイアスされた電流となっています。
この電流は直流成分IDCと交流成分IACに分けることができます。
直流成分IDCの実効値IDCRMSは
\begin{eqnarray}
I_{DCRMS}= I_{DC}
\end{eqnarray}
となります。
交流成分IACの実効値IACRMSは
\begin{eqnarray}
I_{ACRMS}= \frac{ΔI}{2\sqrt{3}}
\end{eqnarray}
となります。
各実効値の計算方法については以下の記事を参考にしてください。
『直流』の実効値・平均値・波形率・波高率の求め方
『三角波』の実効値・平均値・波形率・波高率の求め方
インダクタ電流の『直流成分IDC&交流成分IAC』、インダクタの『直流抵抗RDCR&交流抵抗RACR』を用いると、インダクタの導通損失PLは
\begin{eqnarray}
P_L&=&R_{DCR}×{I_{DCRMS}}^2+R_{ACR}×{I_{ACRMS}}^2
&=&R_{DCR}×{I_{DC}}^2+R_{ACR}×\frac{{ΔI}^2}{12}
\end{eqnarray}
となります。直流成分IDCはインダクタの巻線に均一な電流密度で流れますが、交流成分IACは表皮効果によって、電線の表面しか電流が流れず、電流が流れる部分が減少します。その結果、交流成分IACに対するインダクタの抵抗(交流抵抗)RACRは直流抵抗RDCRの数倍となり、交流成分IACの電流によって大きな導通損失となります。
なお、インダクタのデータシートには一般的には直流抵抗RDCRのみ記載されているので、交流抵抗RACRはLCRメータ等で調べる必要があります。
導通損失の計算方法(直流抵抗RDCRのみで計算)
インダクタに流れる電流ILの実効値ILRMSと直流抵抗RDCRでインダクタの導通損失PLを求めている参考書もあります。
上図の電流の実行値は以下のようになります。
\begin{eqnarray}
I_{LRMS}=\sqrt{{I_{DC}}^2+\frac{{ΔI}^2}{12}}
\end{eqnarray}
これより、リップル電流ΔIが増加すると、インダクタ電流の実行値ILRMSが増加していることが分かります。
このインダクタ電流の実行値ILRMSと直流抵抗RDCRを用いると、インダクタの導通損失PLは以下の式となります。
\begin{eqnarray}
P_L&=&R_{DCR}×I_{LRMS}^2
&=&R_{DCR}\left({I_{DC}}^2+\frac{{ΔI}^2}{12}\right)
\end{eqnarray}
この式でも求めることはできますが、交流成分IACに対する導通損失もRDCRを使用しており、交流抵抗RACRを用いていないため、少し誤差があります。