一様な磁束密度の中で導体棒が回転すると、誘導起電力が発生します。
この誘導起電力の大きさ、向き、例題について図を用いて説明しています。
回転導体棒の誘導起電力
磁束密度\(B{\mathrm{[T]}}\)の鉛直上向きの磁界中を、長さ\(r{\mathrm{[m]}}\)の導体棒abが点aを中心として、角速度\({\omega}{\mathrm{[rad/s]}}\)で回転すると、次式で表される誘導起電力\(e{\mathrm{[V]}}\)が発生します。
誘導起電力の大きさ
\begin{eqnarray}
e=\frac{1}{2}{\omega}Br^2{\mathrm{[V]}}\tag{1}
\end{eqnarray}
これから上式の誘導起電力について『大きさの導出方法』と『向きの決め方』について説明します。
大きさの導出方法
上図は磁束密度\(B{\mathrm{[T]}}\)の鉛直上向きの磁界中を、長さ\(r{\mathrm{[m]}}\)の導体棒abが点aを中心として、角速度\({\omega}{\mathrm{[rad/s]}}\)で回転している様子を表しています。
角速度\({\omega}{\mathrm{[rad/s]}}\)で回転しているということは、\({\Delta}t\)秒後には\({\omega}{\Delta}t{\mathrm{[rad]}}\)だけ回転しているということになります。
導体棒の長さは\(r{\mathrm{[m]}}\)なので、\({\Delta}t\)秒間回転することによって変化した面積\({\Delta}S{\mathrm{[m^2]}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\Delta}S=(円の面積)×(回転の割合)={\pi}r^2×\frac{{\omega}{\Delta}t}{2{\pi}}=\frac{1}{2}r^2{\omega}{\Delta}t\tag{2}
\end{eqnarray}
この変化した面積\({\Delta}S{\mathrm{[m^2]}}\)を1回巻きのコイル(\(N=1\))と見なすことがポイントとなります。
磁束密度\(B{\mathrm{[T]}}\)は変化しませんが、導体棒が磁界中を回転することで、面積\(S{\mathrm{[m^2]}}\)が変わるため、磁束鎖交数\({\psi}{\mathrm{[wb]}}\)が変化します。
『\({\Delta}t\)秒間での磁束鎖交数\({\psi}{\mathrm{[wb]}}\)の変化量\({\Delta}{\psi}{\mathrm{[wb]}}\)』は、『上図の変化した面積\({\Delta}S{\mathrm{[m^2]}}\)を通る磁束鎖交数\({\psi}{\mathrm{[wb]}}\)』と等しいため、次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
{\Delta}{\psi}=N{\Delta}{\phi}=N×B{\Delta}S=1×B\frac{1}{2}r^2{\omega}{\Delta}t=\frac{1}{2}{\omega}Br^2{\Delta}t{\mathrm{[wb]}}\tag{3}
\end{eqnarray}
なお、(3)式の\({\phi}\)は磁束を表しています。磁束\({\phi}{\mathrm{[wb]}}\)と磁束鎖交数\({\psi}{\mathrm{[wb]}}\)には『\({\psi}=N{\phi}\)』の関係があります。
したがって、ファラデーの法則を用いると、導体棒に発生する誘導起電力\(e{\mathrm{[V]}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
e=\left|-\frac{{\Delta}{\psi}}{{\Delta}t}\right|=\left|-\frac{\displaystyle\frac{1}{2}{\omega}Br^2{\Delta}t}{{\Delta}t}\right|=\frac{1}{2}{\omega}Br^2{\mathrm{[V]}}\tag{4}
\end{eqnarray}
つまり、磁束密度\(B{\mathrm{[T]}}\)の鉛直上向きの磁界中を、長さ\(r{\mathrm{[m]}}\)の導体棒abが点aを中心として、角速度\({\omega}{\mathrm{[rad/s]}}\)で回転している場合に発生する誘導起電力は『\(e=\displaystyle\frac{1}{2}{\omega}Br^2{\mathrm{[V]}}\)』になります。
上式で求めた『\(e=\displaystyle\frac{1}{2}{\omega}Br^2{\mathrm{[V]}}\)』は、教科書やネットでは公式のように扱われていることが多いので、暗記することをオススメします。
ファラデーの法則とは
ファラデーの法則とは、「電磁誘導によって生じる誘導起電力の大きさは、その回路を貫く磁束の変化の速度に比例する」ことを表した法則です。詳しくは以下の記事に説明していますので、参考にしてください。
【ファラデーの法則とは?】『公式』や『積分形』や『微分形』などを詳しく解説!
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導体棒の回転によって変化した面積ΔSの別の導出方法
扇形の面積の公式を用いても面積\({\Delta}S{\mathrm{[m^2]}}\)を求めることができます。
扇形の面積は以下の公式で求めることができます。
\begin{eqnarray}
扇形の面積=\frac{1}{2}×(半径)×(弧の長さ)\tag{5}
\end{eqnarray}
今回は、半径が\(r{\mathrm{[m]}}\)であり、弧の長さが\(r{\omega}{\Delta}t{\mathrm{[m]}}\)となるため、\({\Delta}t\)秒間回転することによって変化した面積\({\Delta}S{\mathrm{[m^2]}}\)は次式となり、(2)式と等しくなっていることが分かります。
\begin{eqnarray}
{\Delta}S=\frac{1}{2}×(半径)×(弧の長さ)=\frac{1}{2}×r×r{\omega}{\Delta}t=\frac{1}{2}r^2{\omega}{\Delta}t\tag{6}
\end{eqnarray}
回転導体棒の誘導起電力の導出方法
磁束密度\(B{\mathrm{[T]}}\)の磁界中を、長さ\(l{\mathrm{[m]}}\)の導体棒が速度\(v{\mathrm{[m/s]}}\)で磁界の方向に対して垂直に動くと、次式で表される誘導起電力\(e{\mathrm{[V]}}\)が発生します。
\begin{eqnarray}
e=vBl{\mathrm{[V]}}\tag{7}
\end{eqnarray}
上式を用いても、回転導体棒の誘導起電力を求めることができます。上式において、速度\(v{\mathrm{[m/s]}}\)と長さ\(l{\mathrm{[m]}}\)を以下に示すように置き換えます。
\begin{eqnarray}
v&=&\frac{1}{2}{\omega}r\\
l&=&r
\end{eqnarray}
すると、回転導体棒の誘導起電力は次式で表され、(1)式と等しくなっていることが分かります。
\begin{eqnarray}
e=vBl=\frac{1}{2}{\omega}r×B×r=\frac{1}{2}{\omega}Br^2{\mathrm{[V]}}\tag{8}
\end{eqnarray}
向きの決め方
誘導起電力の向きは『フレミングの右手の法則』によって求めることができます。
フレミングの右手の法則
まず、上図に示すように、右手の親指、人差し指、中指が直角になるようにします。
各指は以下の方向を表しています。
フレミングの右手の法則
- 親指:導体棒が磁力線を横切る方向
人差し指:磁力線の方向(磁束密度の方向)
中指:導体が移動することによって発生する誘導起電力の方向
今回は、導体棒が磁力線を横切る方向と磁束密度の方向が分かっているため、誘導起電力の向きを求めます。
導体の移動方向を親指に、磁束密度の方向を中指にすると、誘導起電力の向きはa点からb点の方向になります。
導体棒の誘導起電力に関する例題
例題1
下図に示すように、磁束密度\(B=0.2{\mathrm{[T]}}\)の鉛直上向きの磁界中を、半径\(r=0.1{\mathrm{[m]}}\)の導体円盤が角速度\({\omega}=200{\pi}{\mathrm{[rad/s]}}\)で回転しています。導体円盤の中心と円周上の点に\(R=5{\mathrm{[{\Omega}]}}\)の抵抗を接触させた時、抵抗に流れる電流\(I{\mathrm{[A]}}\)を求めてみましょう。
解答
抵抗\(R{\mathrm{[{\Omega}]}}\)の両端に発生する誘導起電力\(e{\mathrm{[V]}}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
e=\frac{1}{2}{\omega}Br^2=\frac{1}{2}×200{\pi}×0.2×0.1^2{\;}{\approx}{\;}0.628{\mathrm{[V]}}\tag{1-1}
\end{eqnarray}
なお、誘導起電力の向きは『フレミングの右手の法則』を用いると、導体円盤の中心から円周に向かう向きとなります。
従って、抵抗\(R{\mathrm{[{\Omega}]}}\)に流れる電流\(I{\mathrm{[A]}}\)はオームの法則より以下の値となります。
\begin{eqnarray}
I=\frac{e}{R}{\approx}\frac{0.628}{5}{\;}{\approx}{\;}0.126{\mathrm{[A]}}\tag{1-2}
\end{eqnarray}
まとめ
この記事では回転導体棒の誘導起電力について、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- 導体棒が回転する時に発生する誘導起電力の『大きさ』と『向き』
お読み頂きありがとうございました。
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