ゲート駆動回路(ゲートドライバ回路)とはMOSFETのゲートに電圧を印加する回路です。
このゲート駆動回路は、抵抗1個で構成された基本的な回路から、ダイオードやバイポーラトランジスタを用いた回路など様々な種類があります。
この記事ではゲート駆動回路の『種類』と『特徴』について詳しく説明します。
抵抗1つで構成された基本的なゲート駆動回路
最も基本的で簡単なMOSFETのゲート駆動回路です。ターンオンとターンオフに同じ抵抗が使用されています。
このゲート駆動回路はMOSFETの入力容量を十分に充電できるドライブ能力を持つ電源ICが必要になります。電源ICによってドライブ能力が異なるため、電源ICのデータシートを見て最大ピーク駆動電流を確認してください。ドライブ能力がない電源ICの場合、MOSFETは低速でオンしてしまいます。
また、ゲート抵抗RGはMOSFETのスイッチングスピードやスイッチング損失に影響します。
ゲート抵抗RGを大きくするとスイッチングスピードが遅くなり、スイッチング損失が増加します。一方、ゲート抵抗RGを小さくすると、スイッチングスピードが速くなり、スイッチング損失も低減しますが、配線の浮遊インダクタンス等の影響によってMOSFETのドレインソース間で高周波発振によるサージ電圧が発生するため、ノイズに影響を及ぼします。また、誤ONが発生して故障や誤動作の原因となります。
補足
- これから説明する全てのゲート駆動回路に共通するのですが、MOSFETのゲートは基本的にはコンデンサのため、ゲートに流れる電流は平均電流に対してピーク電流が非常に大きくなります。
- これから説明する全てのゲート駆動回路に共通するのですが、MOSFETのゲート閾値電圧VTHより十分大きく、十分なドレイン電流が流れるような電圧を印加することでMOSFETがオンします。一方、MOSFETのゲート閾値電圧VTHより十分小さくすることでMOSFETがオフします。
- 上図ではゲートソース間抵抗RGSは省略しています。
ダイオードを用いてオンとオフを個別に制御するゲート駆動回路
先ほど説明した『抵抗1つで構成された基本的なゲート駆動回路』にダイオードと抵抗を追加することでターンオンとターンオフを個別に制御することができます。ダイオードと抵抗の接続方法によってターンオン時に流れる抵抗とターンオフ時に流れる抵抗のルートが変わります。
このゲート駆動回路に使用するダイオードには一般的に、ファストリカバリーダイオードを用います。
ターンオンとターンオフを個別に制御する回路
ターンオン用の回路(ダイオードDONと抵抗ROFF)とターンオフ用の回路(ダイオードDOFFと抵抗ROFF)を並列に接続します。
ターンオフを速くする回路
大きく2種類あります。このゲート駆動回路はターンオフの瞬間にMOSFETの入力容量に蓄積された電荷を急速で放電することができます。抵抗ROFFはターンオフ時の過電流による電源ICの故障を防止するために接続します。
一般的には「ターンオフを速くする回路」の方が「ターンオンを速くする回路」よりも使用されます。これは、ターンオフ時の抵抗が小さくなることで、MOSFETのドレインゲート間のミラー容量を介して誤ターンオンすることを防止することができるからです。また、MOSFETのターンオフ遅延時間がターンオン遅延時間よりも長いことが多いためだと言われています。
また、経験則としてはターンオフ時の合成抵抗はターンオン時の合成抵抗の半分がちょうど良いと思われます。なお、ターンオフ時の抵抗ROFFを小さくしすぎると、ターンオフ時のdi/dtとdv/dtが高すぎてドレインソース間に大きなサージ電圧が発生する可能性があります。
ターンオンを速くする回路
大きく2種類あります。抵抗RONはターンオン時の過電流による電源ICの故障を防止するために接続します。「ターンオンを速くする回路」はあまり使用することはないと思われます。
補足
プッシュプル回路(トーテムポール回路)を形成したゲート駆動回路
エミッタフォロアでゲートに対してプッシュプル回路(トーテムポール回路)を形成したゲート駆動回路です。この回路はMOSFETの入力容量を十分に充電できるドライブ能力を持つ電源ICがない場合に有効であり、外部の電源VCCから十分なドレイン電流を流すことでMOSFETの入力容量を急速に充電できます。また、消費電力も小さいのも特徴です。
このゲート駆動回路は、MOFFETに蓄積されていた電荷を引き抜くための負電源がPNPトランジスタQOFFのコレクタ側に必要になります(MOSFETのゲート閾値電圧VTHが高い場合には負電源は必要ないため上図ではGNDにしています)。
上側のトランジスタがNPNトランジスタQONで下側のトランジスタがPNPトランジスタQOFFとなります。
電源ICの出力が正の時、NPNトランジスタのベースに電流が流れるため、NPNトランジスタがONします。その結果、正電源VCCからMOSFETのゲートに電流が流れます。一方、PNPトランジスタはベースに電流が流れないためOFFの状態となっています。
電源ICの出力が負の時、PNPトランジスタのベースに電流が流れるため、PNPトランジスタがONします。その結果、MOFFETに蓄積されていた電荷が放電されます。一方、NPNトランジスタはベースに電流が流れないためOFFの状態となっています。
補足
- バイポーラトランジスタをMOSFETの近くに配置することによって、過渡電流が流れるルートを小さなループにすることができ、寄生インダクタンスの影響を減少させることができます。
- 上図ではゲートソース間抵抗RGSは省略しています。
- NPNトランジスタQONとPNPトランジスタQOFFはディスクリート部品で構成されているため、NPNトランジスタQONのコレクタとPNPトランジスタQOFFのコレクタにバイパスコンデンサを配置する必要があります(上図では省略しています)。
- NPNトランジスタQONのベースエミッタ間接合がPNPトランジスタQOFFのベースエミッタ間接合の逆耐圧破壊を防止し、PNPトランジスタQOFFのベースエミッタ間接合がNPNトランジスタQONのベースエミッタ間接合の逆耐圧破壊を防止しています。
プッシュプル回路(トーテムポール回路)を形成したゲート駆動回路(MOSFETを使用)
先ほど説明した『プッシュプル回路(トーテムポール回路)を形成したゲート駆動回路』のバイポーラトランジスタをMOSFETにした回路です。
電源ICの出力が正の時にPチャネルMOSFET(PMOS)をオン、電源ICの出力が負の時にNチャネルMOSFET(NMOS)をオンにするために反転ドライバが必要となります。
一般的にはMOSFETはバイポーラトランジスタよりも高価となります。また、PMOSとNMOSの両方ゲート電圧が遷移状態の時、正電源VCCから短絡電流が流れてしまう可能性があります。
補足
- NMOSとPMOSをMOSFETの近くに配置することによって、過渡電流が流れるルートを小さなループにすることができ、寄生インダクタンスの影響を減少させることができます。
- 上図ではゲートソース間抵抗RGSは省略しています。
- NMOSとPMOSはディスクリート部品で構成されているため、NMOSのソースとPMOSのソースにバイパスコンデンサを配置する必要があります(上図では省略しています)。
プッシュプル回路のトランジスタをダイオードにしたゲート駆動回路
先ほど説明した『プッシュプル回路(トーテムポール回路)を形成したゲート駆動回路』に対してNPNトランジスタQONをダイオードDONに置き換えた回路です。
MOSFETの入力容量を十分に充電できるドライブ能力を持つ電源ICの場合には、上図のゲート駆動回路を用いることができます。
PNPトランジスタQOFFのエミッタ抵抗REがない場合、PNPトランジスタのオン時にゲートソース間をショートするため、ターンオフの速度が高速になります。
この回路の利点はMOSFETの入力容量に蓄積された電荷を放電する時のピーク電流のルートがゲート、抵抗RE、PNPトランジスタQOFFと最小ループに閉じ込めることが出来る点です。また、ターンオフ時は放電電流が電源ICに流れないため、電源ICの電力消費も約1/2に低減することができます。
一方、この回路はPNPトランジスタのベースエミッタ間電圧(約0.6V)までしか放電することができないため、ゲート電圧を0Vにすることができないという欠点があります。
電源ICの出力が正の時は、ゲート抵抗RGを通り、MOSFETの入力容量を充電します。そのため、電源IC内部の抵抗がある場合、その抵抗も通ってMOSFETの入力容量を充電するので、ターンオンの速度は遅くなります。したがって、ターンオフの速度だけを高速に動作させたい場合にはこの回路で十分ですが、ターンオンの速度も高速に動作させたい場合には、『プッシュプル回路(トーテムポール回路)を形成したゲート駆動回路』を用いる必要があります。
補足
- バイポーラトランジスタをMOSFETの近くに配置することによって、過渡電流が流れるルートを小さなループにすることができ、寄生インダクタンスの影響を減少させることができます。
- 上図ではゲートソース間抵抗RGSは省略しています。
- ダイオードDONは電源ICの出力が負の時にPNPトランジスタに電流を流すためと、PNPトランジスタのベースエミッタ接合の逆耐圧破壊を防止する役割があります。
プッシュプル回路のトランジスタをダイオードにしたゲート駆動回路(MOSFETを使用)
先ほど説明した『プッシュプル回路のトランジスタをダイオードにしたゲート駆動回路』のバイポーラトランジスタをMOSFETにした回路です。
NMOSの出力容量と主電源MOSFETの入力容量が並列に接続されているため、電源ICから流れる電流量が大きくなっります。
補足
エミッタフォロワを用いたゲート駆動回路
電源ICの出力が正の時にPチャネルMOSFET(PMOS)をオンすることで、電源ICからの信号をエミッタフォロワで増幅する回路です。
電源ICの出力が負の時、ゲートソース間抵抗RGSでMOSFETに蓄積されていた電荷を抜きます。
回路が簡単というメリットはありますが、ターンオフの速度がゲートソース間抵抗RGSとMOSFETのゲート容量に依存します。そのため、数100Hz程度の駆動以外にはオススメできません。数100Hz程度の低速ドライブの場合には使用できます。
NPNトランジスタで昇圧を行うゲート駆動回路
マイコン等のの電源電圧は多くの場合は5V程度となっています。そのため、MOSFETを5Vで駆動できない場合には、マイコン等の電源電圧5Vを15V程度の電圧に上げる必要があります。この昇圧はNPNトランジスタを用いて上図のように構成します。
MOSFETをしっかりON/OFF駆動するためにはMOSFETのゲートにかかる電圧を矩形波に近い形にする必要があります。このゲートにかかる電圧を矩形波にするためにはMOSFETの入力容量を充電するための大きな電流を流す必要があります。しかし、上図の回路の場合、ゲート抵抗RGにコレクタ抵抗RCが直列に接続されているため、大きな電流を流すことができません。その結果、ゲートの電圧を矩形波に出来ず。ON/OFF動作が遅くなり、スイッチング損失が増加します。
コレクタ抵抗RCはNPNトランジスタがオンの時(MOSFETがオフの時)にNPNトランジスタに流れる電流を制限するための抵抗なのでコレクタ抵抗RCはNPNトランジスタの絶対最大体格超えないように選定する必要があります。また、コレクタ抵抗RCを小さくするとゲート駆動回路の消費電力が大きくなります。
補足
NチャネルMOSFET(NMOS)で昇圧を行うゲート駆動回路
先ほど説明した『NPNトランジスタで昇圧を行うゲート駆動回路』のバイポーラトランジスタをMOSFETにした回路です。
補足
プッシュプル回路により昇圧を行うゲート駆動回路
先ほど説明した『NPNトランジスタで昇圧を行うゲート駆動回路』ではゲート抵抗RGにコレクタ抵抗RCが直列に接続されているため、大きな電流を流すことができないという欠点がありました。この回路はプッシュプル構成にすることで上記の問題を解決した回路です。
補足
プッシュプル回路により昇圧を行うゲート駆動回路(MOSFETを使用)
先ほど説明した『プッシュプル回路により昇圧を行うゲート駆動回路』のバイポーラトランジスタをMOSFETにした回路です。
補足
NPNトランジスタを2つ用いて昇圧をするゲート駆動回路
先ほど説明した『NPNトランジスタで昇圧を行うゲート駆動回路』にNPNトランジスタを1つ追加することで、コレクタ抵抗RCをMOSFETの入力容量の充電に用いないようにした回路です。
ターンオン時にコレクタ抵抗RCに充電電流が流れないため、『NPNトランジスタで昇圧を行うゲート駆動回路』よりも高速にターンオンをすることができるようになります。
補足
まとめ
この記事では『ゲート駆動回路(ゲートドライバ回路)』について、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- ゲート駆動回路(ゲートドライバ回路)の『種類』と『特徴』
お読み頂きありがとうございました。
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