電源ICが動作するためにはVCC端子(電源ICが動作するための電源)に電圧を供給する必要があります。
DC/DCコンバータの場合は入力電圧を直接VCC端子の電圧に使用することもありますが、AC/DCコンバータでは入力電圧を直接VCC端子の電圧に使用することができません。
これは、通常のICは耐圧が40V以下であり、高耐圧品の場合でも耐圧が80V程度だからです。
AC/DCコンバータは入力電圧が85VAC~264VACであるため、入力電圧を整流した後の電界コンデンサ両端電圧は最小でも100Vを超えてしまいます。また、整流後にPFCを使用している場合は400V程度になります。この電圧はICの耐圧を超えてしまいます。そのため、入力電圧を直接VCC端子の電圧として使用することができないのです。ICのVCC端子に電圧を供給する回路が必要になります。
ICのVCC端子に電圧を供給する方法
電源ICのVCC端子に電圧を生成する方法は主に2つあります。
- AC/DCコンバータの外部に補助電源を設けて、その補助電源からVCC端子に電圧を供給する。
- トランスの補助巻線(三次巻線、第三の巻線、VCC巻線と様々な呼び方がある)を利用して、入力電圧を降圧させ、VCC端子に電圧を供給する。
1の方法は補助電源が必要になることから一般的には用いられておりません。2の方法を用いているのが多いです。今回は後者について説明します。
トランスの補助巻線からVCC端子に電圧を供給する方法
トランスの補助巻線にはサージ電圧が発生しているため、補助巻線に発生する電圧を直接ICのVCC端子に電圧として使用することはできません。補助巻線の後段に補助回路を設けて、サージ電圧を吸収する必要があります。補助回路は主に3つあります。
補助回路の種類
補助巻線の後段にダイオードを挿入した回路
補助巻線に発生する電圧をダイオードD1で整流し、コンデンサC1で平滑しています。ダイオードD1のみの場合、大きなリプル電圧がVCC端子に印可されてしまうので、コンデンサC1を接続しています。
この回路は、
- 補助巻線に発生する電圧をピークホールドしている
- 出力電流IOUTが大きくなるほど、VCC電圧が増加する
のが主な特徴になります。
なお、使用するダイオードは高速整流ダイオードを使用するのが一般的です。
ダイオードにサージ制限抵抗を追加した回路
サージ制限抵抗R1は補助巻線に発生したサージ電圧によるVCC端子の電圧の上昇を抑える目的に入れます。
サージ制限抵抗R1を追加することで、出力電流IOUTによるVCC電圧の上昇を低減することができます。
シリーズレギュレータを接続した回路
C1の電圧は高電圧になりますが、シリーズレギュレータを通すことでC2の電圧は一定電圧になります。このため、この回路は出力電流IOUTによるVCC電圧の上昇が少なくなります。
出力電流に対するVCC電圧の変化
上記の回路において、出力電流IOUTによるVCC電圧の変化をまとめたのが以下になります。VCC端子の電圧が増加することで問題が発生することがあるので説明します。
VCC端子の電圧が上がることによる問題
ICのVCC端子の電圧には動作範囲があります。
例えば、10V~30Vが動作範囲であるICを使用する時、出力電流が増加すると、VCC端子の電圧が上昇するので、VCC端子の電圧がICの動作電圧内に入っているかの確認をする必要があります。
ICによってはVCC端子に過電圧保護機能があるものがあります。VCC端子の電圧が上昇して動作範囲を超えた場合、過電圧保護が働き、ICを止める可能性があります。
もちろん、軽負荷(電流が最小時)にVCC端子の電圧がICの動作電圧内に入っていることを確認する必要があります。
まとめると
- 軽負荷時(出力電流が小さい時)にICの動作範囲の最小値電圧以上であること。
- 重負荷時(出力電流が大きい時)にICの動作範囲の最大値電圧以下であること。
が必要です。なお、出力電流IOUTに対するVCC端子電圧の変化はトランスの構造によって異なるので、実機で確認することをオススメします。
補助巻線にサージ電圧が発生する理由
トランスのリーケージインダクタンスにより、MOSFETがオンからオフになった瞬間、大きなサージ電圧が一次巻線に発生します。この一次巻線に発生したサージ電圧が補助巻線に誘起されます。
この補助巻線の後段にダイオードとコンデンサしかない場合、サージ電圧をピークホールドするのでVCC端子の電圧上昇してしまいます。これを抑制するためにサージ制限抵抗をダイオードに直列に挿入する回路や、シリーズレギュレータを接続する回路があるのです。
リーケージインダクタンスはトランスの仕様によって異なります。そのため、サージ制限抵抗R1の素子値はVCC端子の電圧と補助巻線の電圧をオシロスコープなどで確認しながら決めます。VCC端子の電圧が動作範囲を超える恐れがある場合には、サージ制限抵抗R1を大きくします。しかし大きくすると損失が増えるので効率が下がります。一般的には5Ω~22Ωが適切な範囲です。
設計例
補助回路に使用されているダイオードの設計をします。最初に、ダイオードに印可される最大電圧を求めます。
MOSFETがオンしている時は、補助巻線NDに印可される最大電圧VNDMAXは
$$ V_{NDMAX}= V_{INMAX} ×{\frac{N_D}{ N_P}}$$
となります。この時、ダイオードにかかる電圧VDが最大になる時はVCC端子の電圧が最大の時です。VCC端子の最大電圧をVCCMAX と置くと、ダイオードにかかる最大電圧は
$$ V_{DMAX}= V_{INMAX} ×{\frac{N_D}{ N_P}}+ V_{CCMAX} $$
となります。
この電圧に対してマージンを設けてダイオードの設計をします。
例えば、整流後の電界コンデンサの端子間電圧の最大値VINMAXを400V、一次巻線の巻数NPを25、補助巻線の巻数NDを7、VCC端子の最大電圧VCCMAX を30Vとすると、VDMAX は
$$ V_{DMAX}= 400×{\frac{7}{25}}+ 30V=142V$$
となり、マージンを0.7とすると、202Vの以上の耐圧を持つダイオードが必要になります。
その他:フォワードコンバータの場合の補助回路
フォワードコンバータの場合には補助回路が以下のものがあります。