この記事ではダイオードについて
- ダイオードの種類
- 各ダイオードの特徴
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
ダイオードの『種類』
上図にダイオードの一覧表を示しています。
逆回復時間trrが短い『ファストリカバリダイオード(FRD)』、順方向電圧VFが小さい『ショットキーバリアダイオード(SBD)』、定電圧回路に用いる『ツェナーダイオード』などダイオードには用途によって様々な種類があります。
この記事では各ダイオードの特徴について詳しく説明していきます。
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一般整流ダイオード(汎用ダイオード)
一般整流ダイオード(汎用ダイオード)は、最も一般的な汎用タイプのシリコンダイオードです。
その名の通り、電流を整える用途で使われており、交流を直流に整流することを主な目的としています。逆回復時間trrが長いため、使用周波数は1kHz程度以下であり、50Hz/60Hzといった商用電源の整流で主に用いられています。
この『一般整流ダイオード』以外にも、逆回復時間trrが短い『スイッチングダイオード』や『ファストリカバリダイオード(FRD)』や『ショットキーバリアダイオード(SBD)』があります。また、この『一般整流ダイオード』を組み合わせたものが『ブリッジダイオード』となっています。
一般整流ダイオードの特徴
- 〇耐圧が高い。
- 〇逆電流IRが小さい。
- ×順方向電圧VFが大きい。
- ×逆回復時間trrが長い(数10us~100us程度)。
→高耐圧なので、高電圧の整流に適してます(AC240Vの整流など)。
→逆電流が小さいので、逆電流が問題となる回路に適しています。
→大電流が流れる箇所に、整流ダイオードを用いると、損失が大きくなってしまいます。
なお、逆回復時間trrとは、順方向電圧を印加した状態から逆方向電圧を印加した際に、ON状態(ダイオードのアノードからカソードに電流が流れる状態)からOFF状態(電流が流れなくなる状態)なるまでの時間のことをいいます。詳しくは以下の記事で説明していますので、参考にしてください。
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スイッチングダイオード
スイッチングダイオード(Switching Diode)は、主にスイッチング回路(周波数が数10KHz以上)などに使われるシリコンダイオードです。小信号をスイッチングするのに適しています。
スイッチング用途を目的にしているため、逆回復時間trrは『一般整流ダイオード(汎用ダイオード)』よりも短くなっています。逆回復時間trrが短くなることで、高速スイッチングが可能となります。
なお、順方向電圧VFは汎用タイプの整流ダイオードと同等です。
スイッチングダイオードの特徴
- 〇逆回復時間trrが短い。
- 〇逆電流IRが小さい。
- ×順方向電圧VFが大きい。
→『一般整流ダイオード(汎用ダイオード)』より短く、『ファストリカバリダイオード(FRD)』や『ショットキーバリアダイオード(SBD)』より長い。
ファストリカバリダイオード
ファストリカバリダイオード(FRD:Fast Recovery Diode)は、その名の通り「ファストリカバリ(早い回復)」なので、逆回復時間trrが非常に短い(100ns以下)特徴を持ったシリコンダイオードです。
高周波のスイッチング回路(数10kHz~数100kHz)などに使われます。主にPFC回路(力率改善回路)やスナバ回路等で使われることが多いです。
『ショットキーバリアダイオード(SBD)』も逆回復時間trrが非常に短いですが、耐圧が低い(200V程度)という特徴があります。一方、『ファストリカバリダイオード(FRD)』は耐圧が高い(800V程度)という特徴があります。
しかし、『一般整流ダイオード』よりも順方向電圧VFが大きく(2V程度)なっています(近年はVFを低減したタイプも増えています)。
ファストリカバリダイオードの特徴
- 〇逆回復時間trrが非常に短い。
- 〇逆電流IRが小さい。
- ×順方向電圧VFが大きい。
補足
- スイッチング性能により、『HED(High Efficiency Diode)』とも呼ばれています。HEDは逆回復時間trrが『ファストリカバリダイオード(FRD)』よりもさらに短くなっています。
- 『HED(High Efficiency Diode)』、『ファストリカバリダイオード(FRD)』、『ショットキーバリアダイオード(SBD)』で比較すると、逆回復時間trrの長さは「SBD<HED<FRD」となっています。また、順方向電圧VFの大きさは同一電流定格の製品ならば「SBD<HED<FRD」となっております。耐圧は「SBD<HED<FRD」となっております。
- 『HED(High Efficiency Diode)』は『LLD(Low Loss Diode)』とも呼ばれています。
ショットキーバリアダイオード(ショットキーダイオード)
ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)は、今まで説明したダイオードと構造が違います。今まで説明したダイオードはP型半導体とN型半導体を接合したPN接合のダイオードですが、ショットキーバリアダイオードは金属と半導体が接合されており(これをショットキー接合といいます)、電位障壁(ショットキー障壁)を利用したダイオードです。
ショットキーバリアダイオード(SBD)は、PN接合のダイオードと比べると、逆回復時間trrが非常に短く、かつ順方向電圧VFも小さいという特徴を持っています。そのため、高速なスイッチングが可能であり、かつ高効率が求められる回路に適しています。しかし、逆電流(漏れ電流)IRが大きく、耐圧が低いというデメリットがあります。
そのため、DC/DCコンバータやAC/DCコンバータの電圧が低い2次側での使用が代表的な用途となっています。
また、ショットキーバリアダイオード(SBD)は『一般整流ダイオード』と区別するため、上図ようにカソードが「S」に似ている回路記号が使用されます。
ショットキーバリアダイオードの特徴
- 〇順方向電圧VFが小さい(0.2~0.4V程度)。
- 〇逆回復時間trrが非常に短い。
- ×耐圧が低い(100Vを超えているものもあるが、一般的には数10V)。
- ×逆電流IRが大きい(数mAオーダー)。
- ×他の整流ダイオードよりも高価。
→『一般整流ダイオード(汎用ダイオード)』の約半分くらいです。
補足
- ショットキーバリアダイオードは蓄積キャリアがないため、理論上は逆回復時間trrというパラメータは存在しません。そのため、データシートにもtrrは記載されていません。
- 温度が高いほど、逆電流IRが増加するという特徴があります。そのため、『発熱→逆電流IRの増加→発熱→・・・』と熱暴走を起こす可能性があるため注意が必要なダイオードです。
ダイオードブリッジ
ダイオードブリッジ(Diode Bridge)は、整流ダイオードを4つ組み合わせたダイオードです。
素子に「+」と「-」が記載されているため、極性は簡単に見分けることができます。交流部分を「~(またはAC)」につないで使用します。
コンセントから供給される交流電圧を直流に変換するときに用いることが多いです。
補足
- ダイオードとダイオードをつなげた形が「橋(ブリッジ)」のように見えることから、ダイオードブリッジと呼ばれてます。
- ダイオードブリッジは『整流ダイオード』を4つ組み合わせて自作することも可能です。
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ステップリカバリダイオード
ステップリカバリダイオード(SRD:Step Recovery Diode)は、『ファストリカバリダイオード(FRD)』よりも逆回復時間trrが少し長いですが、逆電流IRが小さいのが特徴のシリコンダイオードです。
スナップオフダイオード(Snap-Off Diode)とも呼ばれています。
PN接合に順方向バイアス電圧を印加した時の少数キャリアの蓄積量が最大になるようになっており、少数キャリアの蓄積効果を積極的に利用しているダイオードです。
ツェナーダイオード(定電圧ダイオード)
ツェナーダイオード(Zener Diode)は、逆方向電圧(カソードにプラス、アノードにマイナス)を印加すると、ある電圧で逆電流が流れる「ツェナー降伏」を利用したシリコンダイオードです。
逆方向電圧を印加しているため、ツェナーダイオードにはカソード(k)からアノード(A)に電流が流れます(通常、ダイオードはアノード(A)からカソード(k)に電流が流れます)。
PN接合に逆方向電圧を印加すると、ある電圧で急激に電流が流れます。この現象を雪崩降伏(またはツェナー降伏)と呼び、急激に電流が流れ始める電圧をツェナー電圧(降伏電圧)と呼びます。このツェナー電圧が安定していることから定電圧回路の基準電位として用いることが多くなっています。
また、『ツェナー電圧(降伏電圧)』を超える電圧が印加されると導通するという特徴を活かして、静電気などのサージ電圧からICなどを保護するためにも用いられています。
また、ツェナーダイオードは『一般整流ダイオード』と区別するため、上図ようにカソードが「Z」に似ている回路記号が使用されます。
補足
- 順方向特性は通常のダイオードとほぼ同等です。通常の整流ダイオードと同じく0.7V程度の順方向電圧を印加すると順電流が流れます。
- ツェナーダイオードは『定電圧ダイオード(Reference Diode)』とも呼ばれています。
- TVSダイオード(ESD保護用ダイオード)はツェナーダイオードの一種で主に静電気(ESD)対策用途に使用されるダイオードです。
- 添加する不純物の種類や濃度によりツェナー電圧が決まります。
- 通常のダイオードは逆方向電圧を印加した場合、耐圧を超えると破壊する可能性があります。
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アバランシェダイオード
アバランシェダイオード(ABD:Avalanche Breakdown Diode)は、特定の逆電圧にてアバランシェ降伏を起こすように設計されたダイオードです。
ツェナーダイオードよりも降伏電圧がはるかに高くなっています。
トンネルダイオード(エサキダイオード)
トンネルダイオード(Tunnel Diode)は、トンネル効果を応用したPN接合ダイオードです。江崎玲於奈(れおな)博士の発明によるため、その名をとってエサキダイオード(Esaki Diode)とも呼ばれています。
トンネルダイオードは「負性抵抗特性(電圧が増加すると、電流が減少する)」の領域を持っており、また、高周波特性が良いため、マイクロ波の発振回路等で用いられています。
トンネルダイオード(エサキダイオード)については以下の記事で別に詳しく説明していますので、参考にしてください。
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【トンネルダイオード】『原理』や『特徴』などをわかりやすく解説!
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発光ダイオード(LED)
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、ダイオードに順方向電圧を印加すると発光するダイオードです。誰もが一度が聞いたことある有名なダイオードだと思います。
PN接合部に電流が流れる時に接合部が発光します。正孔と電子が結合するときに、エネルギーが光となって放出されています。白熱電球と比較すると、電気エネルギーを光に変えているので、効率が良く、消費電力が少なくなります。
『フォトダイオード』と同様で、長い方がアノード(A)、短い方がカソード(K)となります。
発光するため、パソコンの電源ランプ、テレビのバックライト、リモコンの赤外線、信号機、イルミネーションなどに使われます。
フォトダイオード
フォトダイオード(Photo Diode)は、光を感知するダイオードです。光を発する『発光ダイオード(LED)』とは逆の働きをします。
PN接合部に光が照射されると、「光起電力効果(P領域に正孔、N領域に電子が集まり電圧が生じる現象)」が生じます。その光起電力効果を利用して光センサとして用います。
基本的には2本足の素子であり、LEDと同様で長い方がアノード(A)、短い方がカソード(K)となります。テレビのリモコン、CDD、光通信システム等が主な用途となります。
補足
- フォトダイオードは「PN 型」,「PIN 型」,「ショットキー型」,「アバランシェ型」などの種類があります。
- フォトダイオードは『ツェナーダイオード(定電圧ダイオード)』と同じく逆方向電圧を印加して使います。
レーザーダイオード
レーザーダイオード(LD:Laser Diode)は、レーザー光線を発生させるダイオードです。半導体レーザーとも呼ばれます。
定電流ダイオード
定電流ダイオード(CRD: Current Regulative Diode)は、電圧が変化しても電流を一定に保つことができることができるダイオードです。
定電流ダイオードにはダイオードという名前が付いていますが、中身は違います。接合型FET(JFET)のドレインをアノード(A)、ソースをゲートと短絡した電極をカソード(K)とした素子です。接合型FET(JFET)はゲートソース間電圧VGSが0[V]の時、ほぼ一定の電流ドレイン遮断電流IDSSが流れるという特徴があります。そのため、ある一定以上の順方向電圧が印加されている状態だと、ほぼ一定の電流が流れるのです。
JFETのドレイン遮断電流IDSSは個体ごとにバラつきが大きいため、選別・分類したものが定電流ダイオードの製品として市販されています。定電流の値の範囲は1mA~15mAが多いです。
定電流ダイオードは電圧が変化しても電流を一定に保つことができるため、LEDの駆動などに使われています。LEDの順方向電圧VFはバラツキが大きいですが、定電流ダイオードを用いれば常に一定の電流を供給することができるので、順方向電圧VFがバラつきや供給電圧がバラついても明るさを一定にすることができます。
補足
中身は接合型FET(JFET)なので、整流作用はありません。
可変容量ダイオード(バリキャップ、バラクタ)
可変容量ダイオード(Variable Capacitance Diode)は、ダイオードに印加する逆方向電圧(アノードにマイナス、カソードにプラス)の大きさによって静電容量(接合容量)が変化するシリコンダイオードです。そのため、この可変容量ダイオードはコンデンサとして用います。
PN接合ダイオードには空乏層と呼ばれる絶縁層があります。この空乏層がコンデンサの役割をしています。ダイオードに印加する逆方向電圧が大きいほど空乏層が広がり(静電容量が小さくなり)、逆方向電圧が小さいほど空乏層が狭くなります(静電容量が大きくなります)。すなわち、逆方向電圧の大きさによって静電容量が変化することになります。
可変容量ダイオードは「バリキャップ」や「バラクタ(Varactor Diode)」とも呼ばれています。
補足
- 可変容量ダイオードは『コイル(インダクタ)』と組み合わせることによって共振周波数を変えることができるので、VCO(電圧制御発振器)、ラジオなどの電子同調回路などが主な用途です。
- 可変容量ダイオードはツェナーダイオード(定電圧ダイオード)と同じく逆方向電圧を印加して使います。
- 可変容量ダイオードが普及する前はバリコン(バリアブル・コンデンサ)が用いられていました。バリコンとは、ドライバやツマミを介して機械的に容量値を変更するコンデンサです。バリコンと比較すると、可変容量ダイオードは機械的な部分がないため信頼性が高くなっています。
ゲルマニウムダイオード
ゲルマニウムダイオード(Germanium Diode)は、半導体の素材として希少素材であるゲルマニウムを使用しているダイオードです。
順方向電圧VFが小さく(0.2V程度)、かつ電極間容量(寄生容量)が小さいという特徴を持っています。
寄生容量が小さいため、高周波回路に適しています。また、順方向電圧VFが小さいため、小信号を扱う回路に適しており、特にAMラジオの検波回路(高周波信号から音声信号を取り出す回路)に用いられていました。しかし、ゲルマニウムは高価なので、現在は『ショットキーバリアダイオード(SBD)』に置き換えられています。そのため、メーカーではほとんど生産をしていません。
見た目は透明なガラス管で作られていることが多く、中身を直接観測することができます。また、構造は主に『点接触型』であり、N型半導体の表面にタングステン等の金属針を接触させた構造をしています。
補足
ゲルマニウムダイオードは大電流を流すことができません。最大電流は数mA程度です。また、熱に弱く、回路内の温度上昇によって熱暴走しやすいという特徴があります。
ガンダイオード
ガンダイオード(Gunn Diode)は、ガン効果を利用したダイオードです。
N型半導体(N型ガリウムひ素GaAs)のみで構成されています。このダイオードも『トンネルダイオード』と同じく「負性抵抗特性」の領域を持っているため、マイクロ波の発振器に用いられています。
ガンダイオードについては以下の記事で別に詳しく説明していますので、参考にしてください。
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PINダイオード
PINダイオード(p-intrinsic-n Diode)は、P型半導体とN型半導体のPN接合部の間に、電気抵抗の大きな真性半導体であるI型半導体が挟まれてあるシリコンダイオードです。
PINダイオードに対して順方向電圧を印加すると、電流が流れます。電流の大きさが変化すると、I型半導体の導電率が変化するので、あたかも可変抵抗のように振舞います。一方、逆方向電圧を印加すると、コンデンサのように振舞います。
PINダイオードは高周波回路のスイッチングなどに用いられています。
ショックレーダイオード
ショックレーダイオード(Shockley Diode)は、PNPNの4層構造であるサイリスタからゲートを取った素子です。構造はゲートのないサイリスタとなります。
逆方向接続しているダイオード構造に、電子なだれを引き起こす電圧を印加することで、アノード(A)-カソード(K)間が導通状態となります。物理学者であるウィリアム・ショックレーが由来となっています。
インパット・ダイオード(なだれ走行ダイオード)
インパッドダイオード(IMPATT diode)は、PN接合に逆電圧を印加した時に生じる雪崩降伏(アバランシェ降伏)を利用したダイオードです。
インパッドダイオードも『トンネルダイオード』と同じく「負性抵抗特性」の領域を持っているため、マイクロ波の発振器に用いられています。
なお、インバットダイオードは「Impact Ionization Avalanche Transit Time Diode」の略です。
「衝突電離により電子なだれ(アバランシェ)電流が増大する際の時間遅れ」と「キャリアがドリフトすることによる時間遅れ」により負性抵抗特性を示します。
まとめ
この記事ではダイオードついて、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- ダイオードの種類
- 各ダイオードの特徴
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