この記事では『ダーリントントランジスタ』について
- 『ダーリントントランジスタ』とは
- 『ダーリントン接続』とは
- 『ダーリントントランジスタ』の計算例
- NPN型とPNP型のダーリントントランジスタ
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
ダーリントントランジスタとは
ダーリントントランジスタとは、2つのトランジスタを上図のように接続することで、電流増幅率を非常に大きくした回路のことです。
1個目のトランジスタ電流増幅率をhFE1、2個目のトランジスタの電流増幅率をhFE2とすると、ダーリントントランジスタの電流増幅率hFEは『hFE=hFE1×hFE2』となります。それぞれのトランジスタの電流増幅率を足し算するのではなく、掛け算しているため、非常に大きな電流増幅率を得ることができるのです。
そのため、ダーリントントランジスタを使用すれば、非常に小さいベース電流IBで大きなコレクタ電流ICを流すことが可能となります。
しかし、ダーリントントランジスタには欠点があります。
ダーリントントランジスタを1つのトランジスタと考えると、通常のトランジスタと比較して、
ダーリントントランジスタの欠点
- ベースエミッタ間電圧VBEが大きい
- コレクタエミッタ間電圧VCEが大きい
- スイッチング時間が長くなる
→ダーリントントランジスタのベースエミッタ間電圧VBEは、2個のトランジスタのベースエミッタ間電圧の和となります(VBE=VBE1+VBE2)。この欠点を克服したものが「インバーテッド・ダーリントントランジスタ」となっています。
→ダーリントントランジスタのコレクタエミッタ間電圧VCEは1個目のトランジスタのコレクタエミッタ間電圧VCE1と2個目のトランジスタのベースエミッタ間電圧VBE2の和となります(VCE=VCE1+VBE2)。
という欠点があります。
補足
- ダーリントントランジスタは英語では、「Darlington Transistor」と書きます。
- 1個目のトランジスタと2個目のトランジスタは同じ型番である必要はありません。
- 異なる型番の場合、1個目のトランジスタは大きな電流が流れないため、定格の小さなトランジスタ(電流増幅率が大きいが、定格電流が小さい)を使い、2個目のトランジスタは定格の大きなトランジスタ(電流増幅率が小さいが、定格電流が大きい)を一般的に使います。
- 2個のトランジスタではなく、さらに多段でつなげば,どんどん電流増幅率を上げることができます。
- ダーリントントランジスタは、1953年にアメリカの電子工学者であるシドニーダーリントン(Sidney Darlington)によって発明されました。ダーリントントランジスタの由来は発明者の名前となっています。
ダーリントン接続とは
ダーリントントランジスタの接続方法はダーリントン接続と呼ばれています。
2個のトランジスタのコレクタ(C)同士を接続し、1個目のトランジスタのエミッタ(E)を2個目のトランジスタのベース(B)に接続しています。
補足
ダーリントントランジスタの計算例
一例として、コレクタ電流ICを1A(1000mA)流したい場合において、
- 通常トランジスタ
- ダーリントントランジスタ
電流増幅率hFE=100
1個目のトランジスタの電流増幅率hFE1=100、2個目のトランジスタの電流増幅率hFE2=50
とした場合に、どれくらいベース電流IBが必要になるかをそれぞれ計算してみましょう。
通常トランジスタの場合
必要なベース電流IBは流したいコレクタ電流IC=1000[mA]を電流増幅率hFE=100で割った値となるため、
\begin{eqnarray}
I_{B}=\frac{I_{C}}{h_{FE}}=\frac{1000{\mathrm{[mA]}}}{100}=10{\mathrm{[mA]}}
\end{eqnarray}
となります。
ダーリントントランジスタの場合
ダーリントントランジスタの電流増幅率hFEは
\begin{eqnarray}
h_{FE}=h_{FE1}×h_{FE2}=100×50=5000
\end{eqnarray}
となります。
したがって、必要なベース電流IBは流したいコレクタ電流IC=1000[mA]を電流増幅率hFE=5000で割った値となるため、
\begin{eqnarray}
I_{B}=\frac{I_{C}}{h_{FE}}=\frac{1000{\mathrm{[mA]}}}{5000}=0.2{\mathrm{[mA]}}
\end{eqnarray}
となります。
このように、ダーリントントランジスタでは、非常に小さいベース電流IBで大きなコレクタ電流ICを流すことが可能となります。
NPN型とPNP型のダーリントントランジスタ
今まで説明していたダーリントントランジスタはNPN型ですが、PNP型のダーリントントランジスタもあります。
上図にPNP型のダーリントントランジスタを示しています。NPN型と同じく、2個のトランジスタのコレクタ(C)同士を接続し、1個目のトランジスタのエミッタ(E)を2個目のトランジスタのベース(B)に接続しています(ダーリントン接続)。
電流増幅率hFEの導出方法
ダーリントントランジスタの電流増幅率hFEはそれぞれのトランジスタの電流増幅率(hFE1とhFE2)を掛け算した値となりますが、それを実際に導出してみましょう。
上図に示すように
- 1個目のトランジスタ
- 2個目のトランジスタ
電流増幅率をhFE1、ベース電流をIB1、コレクタ電流をIC1、エミッタ電流をIE1とします。
電流増幅率をhFE2、ベース電流をIB2、コレクタ電流をIC2、エミッタ電流をIE2とします。
として導出を行います。
1個目のトランジスタのコレクタ電流IC1は次式となります。
\begin{eqnarray}
I_{C1}=h_{FE1}{\cdot}I_{B1}
\end{eqnarray}
1個目のトランジスタのエミッタ電流IE1はベース電流IB1とコレクタ電流IC1の足し算となるため次式となります。
\begin{eqnarray}
I_{E1}=I_{B1}+I_{C1}=I_{B1}+h_{FE1}{\cdot}I_{B1}=(1+h_{FE1})I_{B1}
\end{eqnarray}
2個目のトランジスタのベース電流IB2は1個目のトランジスタのエミッタ電流IE1と等しいため次式となります。
\begin{eqnarray}
I_{B2}=I_{E1}=(1+h_{FE1})I_{B1}
\end{eqnarray}
2個目のトランジスタのコレクタ電流IC2は次式となります。
\begin{eqnarray}
I_{C2}=h_{FE2}{\cdot}I_{B2}=h_{FE2}(1+h_{FE1})I_{B1}
\end{eqnarray}
ここで、ダーリントントランジスタのコレクタ電流ICは1個目のトランジスタのコレクタ電流IC1と2個目のトランジスタのコレクタ電流IC2の足し算となるため、次式となります。
\begin{eqnarray}
I_{C}&=&I_{C1}+I_{C2}\\
&=&h_{FE1}{\cdot}I_{B1}+h_{FE2}(1+h_{FE1})I_{B1}\\
&=&(h_{FE1}+h_{FE2}+h_{FE1}{\cdot}h_{FE2})I_{B1}\\
\end{eqnarray}
すなわち、ダーリントントランジスタの電流増幅率hFEは
ダーリントントランジスタの電流増幅率
h_{FE}&=&\frac{I_{C}}{I_{B1}}\\
&=&h_{FE1}+h_{FE2}+h_{FE1}{\cdot}h_{FE2}
\end{eqnarray}
となります。
ここで、hFE1とhFE2はhFE1・hFE2よりはるかに小さいため無視すると、ダーリントントランジスタの電流増幅率hFEは
ダーリントントランジスタの電流増幅率
h_{FE}=h_{FE1}{\cdot}h_{FE2}
\end{eqnarray}
となります。
【補足】スーパーベータトランジスタとは
ダーリントントランジスタは2つのトランジスタを用いることで電流増幅率を非常に大きくした回路ですが、そもそも電流増幅率が非常に大きなトランジスタがあります。
それは、スーパーベータトランジスタです。
スーパーベータトランジスタとは、ダーリントン接続しないで、非常に高い電流増幅率hFEを持つトランジスタです。
スーパーベータトランジスタの電流増幅率hFEは通常のトランジスタより1桁近く大きく、1000~3000と非常に高いのが特徴です。しかし、ほとんど全て小信号用のNPN型であり、またコレクタ電圧の絶対最大定格が低いという欠点があります。
補足
- スーパーベータトランジスタはスーパーβトランジスタと書かれることもあります。
- スーパーベータトランジスタは英語では「Super Beta Transistor」と書きます。
まとめ
この記事ではダーリントントランジスタについて、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- ダーリントントランジスタとは
- ダーリントン接続とは
- ダーリントントランジスタの計算例
- NPN型とPNP型のダーリントントランジスタ
- 電流増幅率hFEの導出方法
- スーパーベータトランジスタとは
お読み頂きありがとうございました。
当サイトでは電気に関する様々な情報を記載しています。当サイトの全記事一覧には以下のボタンから移動することができます。