【バイパスコンデンサ(パスコン)とは?】役割、配置場所、最適容量などについて!

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この記事ではバイパスコンデンサ(パスコンデカップリングコンデンサとも呼ばれる)について、役割や配置場所や最適容量などを詳しく説明します。

バイパスコンデンサとは?

バイパスコンデンサとは?
バイパスコンデンサとは、以下の役割を備えた電源ラインとグラウンドに接続されているコンデンサです。

バイパスコンデンサの役割

  • 役割1:ICにノイズが流入する、ICからノイズが流出するのを防ぐ
  • 役割2:電源電圧の変動を防ぐ
  • 役割3:ICが必要な電力を補充する
  • 役割4:ノイズを閉じ込める

バイパスコンデンサはパスコンデカップリングコンデンサとも呼ばれます(本記事ではパスコンと記載します)。

また、バイパスコンデンサは、英語ではBypass capacitorと書きます(20世紀初頭まではコンデンサを英語では「Condenser」と言いましたが、現在はコンデンサを英語では「Capacitor」と言います)。

電源のノイズをバイパス(bypass=迂回する)役割があるため、バイパスコンデンサと呼ばれています。

パスコンの役割

役割1:ICにノイズの流入する、ICからノイズが流出するのを防ぐ

【バイパスコンデンサの役割】ICにノイズの流入する、ICからノイズが流出するのを防ぐ
電源ラインとグラウンドに対する交流的なインピーダンスを下げることで、電源から発生したノイズがICに流入することを防いだり、ICのスイッチング動作によって放出されるノイズが電源ラインに流出するのを防ぐことができます。つまり、パスコンを通して、ノイズをグラウンドに落とすということです。

補足:電源ラインとグラウンドに対する交流的なインピーダンスを下げるとは?

【バイパスコンデンサの役割】交流的なインピーダンスを下げる
定電圧源である電源の内部抵抗は理想的には0Ωとなりますが、実際は微小なインピーダンスがあります。また、電源とICをつなぐ配線にはインダクタンス成分や抵抗成分があるため、ICから電源側を見るとインピーダンスが微小にあります。そこで、パスコンをICの電源ピン(VCC)の近傍に接続することによって、ICから電源側を見たときにおいて、電源ラインとグラウンドに対する交流的なインピーダンスを下げることができます。

役割2:電源電圧の変動を防ぐ

【バイパスコンデンサの役割】電源電圧の変動を防ぐ
パスコンはノイズをグラウンドに落とすだけでなく、パスコンから過渡電流を供給することによって、電源電圧の変動を小さくすることもできます。電圧変動はICの誤動作の原因や放射ノイズの原因となります。

パスコンがない場合に電圧はどれくらい変動するのか?

ICは内部の論理回路が「LからH」または「HからL」に変化する瞬間に過渡電流が流れます。この過渡電流は、電源ラインに存在するインダクタンス成分や抵抗成分によって電圧変動を引き起こします。この電圧変動は、電源ラインに存在するインダクタンスを\(L\)、時間\(dt\)の間に電流が\(di\)変化したとすると、\(L×\displaystyle\frac{di}{dt}\)に相当する電圧となります(抵抗成分は無視しています)。

例えば、ICの電流変化\(di\)が50mAで、電流の変化する時間\(dt\)が1nsで電源ラインに存在するインダクタンス成分\(L\)が2nHの場合、
\begin{eqnarray}
V=L×\frac{di}{dt}= 2nH×\frac{50mA}{1ns}=100\mathrm{[mV]}
\end{eqnarray}
の電圧が電源ラインに誘起されるため、電源ラインとグラウンド間に電圧変動が生じます。この電圧変動は電源ピン(VCC)のノイズマージンを超えると、誤動作を引き起します。また、この過渡電流は放射ノイズの原因となります。そこで、パスコンをICの電源ピン(VCC)の近傍に接続することによって、インダクタンス成分を小さくできるため、過渡電流による電圧変動を抑えることができるようになります。

役割3:ICが必要な電力を補充する

【バイパスコンデンサの役割】ICが必要な電力を補充する
パスコンを接続する理由として、ICが必要な電力を補充する目的があります。すなわち、一時的な電力のため池の役割を果たしているということなります。

ICは内部の論理回路が「LからH」または「HからL」に変化する瞬間に過渡電流が流れます。このICの動作に必要な過渡電流をパスコンに蓄積した電荷の放電によって補充することで、電圧降下を抑制します。この過渡電流の最大値はICのデータシートには、最大消費電流と一般的には記載されています。

例えば、過渡電流値\(I\)が50mA、過渡電流の流れる時間\(t\)が50ns、電源電圧\(V\)を20Vとして、この過渡電流を全てパスコンで供給するために必要な容量を計算してみます。電荷\(Q\)は電流と時間の積で表されるため、
\begin{eqnarray}
Q=I×t=50mA×50ns=2.5\mathrm{[nC]}
\end{eqnarray}
となります。
そこで電源電圧\(V=20V\)なので、\(Q=CV\)より2.5nCの電荷を蓄えるために必要なパスコンの容量\(C\)は
\begin{eqnarray}
C=\frac{C}{V}=\frac{250nC }{20V}=0.125\mathrm{[nF]} =0.000125\mathrm{[{\mu}F]}
\end{eqnarray}
となります。しかし、コンデンサは電荷を放電すると電圧が下がるため、上記で求めたパスコンの容量よりも大きな値が必要です。余裕をもってパスコンの容量\(C\)を0.1uFとすると、過渡電流値\(I\)が50mA、過渡電流の流れる時間\(t\)が1usの場合、パスコンの端子間に生じる電圧降下\(V_C\)は
\begin{eqnarray}
V_C=\frac{1}{C}\displaystyle\int Idt=\frac{Q}{C}=\frac{2.5nC}{0.1{\mu}F}=25\mathrm{[mV]}
\end{eqnarray}
となります。

役割4:ノイズを閉じ込める

【バイパスコンデンサの役割】ノイズを閉じ込める
パスコンを接続することで過渡電流をICとパスコンの間に閉じ込めることができるため、過渡電流が電源ラインに流れるのを防止することができます。過渡電流はノイズの原因となることは先ほど説明しました。すなわち、パスコンはノイズをICとパスコンとの間に閉じ込め、ノイズが電源ラインに発生するのを防止するということになります。パスコンは回路を安定に動作させるだけでなく、ノイズの防止にも役立つ部品なのです。

パスコンの等価回路

パスコンの等価回路
パスコンの等価回路はコンデンサCと寄生成分である等価直列抵抗(ESR: Equivalent Series Resistance)と等価直列インダクタンス(ESL: Equivalent Sries Inductance)で表されます。このESRとESLによってパスコンの周波数特性はV字型となります。ESRとESLが小さいコンデンサほど過渡電流が流れた時における電圧変動を抑えることができます。

パスコンの周波数特性

パスコンの直列インピーダンス\(Z\)は容量を\(C\)、等価直列抵抗(ESR)を\(R\)、等価直列インダクタンス(ESL)を\(L\)とすると以下の式で表されます。
\begin{eqnarray}
Z&=&R+j{\omega}L+\frac{1}{j{\omega}C}\\
|Z|&=&\sqrt{R^2+\left({\omega}L-\frac{1}{{\omega}C}\right)^2}
\end{eqnarray}
ここで、
\begin{eqnarray}
{\omega}L=\frac{1}{{\omega}C }
\end{eqnarray}
となる周波数を直列共振点といいます。直列共振点におけるインピーダンスは等価直列抵抗(ESR)のRのみとなります。

下図に容量の異なるパスコンの周波数特性を示します(0.1uFが赤線、1uFが青線、10uFが緑線)。下図において等価直列抵抗(ESR)はR=0.01Ω、等価直列インダクタンス(ESL)はL=1nHとしています。下図より、直列共振点以上の周波数では周波数が上がるとインピーダンスが増加していることが分かります。すなわち、パスコンは直列共振点までしか働かないことを意味しています。また、パスコンの容量を大きくしたからといって、インピーダンスが小さくなるわけではないということに注意が必要です。
パスコンの周波数特性

パスコンの並列接続

パスコンは1個だけ接続するのではなく、複数個を並列接続して使用する場合があります。この場合、小さな静電容量のコンデンサほどICの近くに配置するのが一般的です。そして、同じ静電容量のコンデンサを複数個接続する場合と、異なる静電容量のコンデンサを複数個接続する場合で効果が異なります。

同じ静電容量のコンデンサを複数個接続する場合

パスコンの並列接続01
上図は0.1uFのコンデンサ(ESRが0.1Ω、ESLが1nH)を1個接続した場合(ピンク線)、2個並列接続した場合(赤線)、3個並列接続した場合(青線)の周波数特性です(LTspiceでシミュレーションしました)。

コンデンサの並列接続数が増加するほど、全周波数領域でインピーダンスが低下します。そのため、ノイズをより減衰することができるようになります。

また、共振点におけるインピーダンスは各コンデンサのESRの並列接続となります。そのため、3つのコンデンサのESRが同じ場合、共振点におけるインピーダンスZはコンデンサを1個接続した場合と比較すると、1/3に低減します。

異なる静電容量のコンデンサを複数個接続する場合

パスコンの並列接続02
上図に0.1uFのコンデンサ(ESRが0.1Ω、ESLが1nH)と1uFのコンデンサ(ESRが0.01Ω、ESLが1nH)と10uFのコンデンサ(ESRが0.001Ω、ESLが1nH)を並列接続した場合の周波数特性です(LTspiceでシミュレーションしました)。

0.1uFのコンデンサ(ESRが0.1Ω、ESLが1nH)は赤線、1uFのコンデンサ(ESRが0.01Ω、ESLが1nH)は青線、10uFのコンデンサ(ESRが0.001Ω、ESLが1nH)は緑線の周波数特性となっており、3個のコンデンサを並列接続した時の周波数特性がピンク線となっています。

小さな静電容量のコンデンサで高い周波数領域のインピーダンスを下げ、大きな静電容量のコンデンサでは低い周波数領域のインピーダンスを下げます(容量が小さい方が高周波特性が良いということ)。しかし、逆に反共振点ではインピーダンスが高くなります(この反共振点は容量性と誘導性が交わる点で発生します)

0.1uF、1uF、10uFのコンデンサを並列接続したので11.1uFになるだけでなのでは?と考える方もいらっしゃると思いますが、コンデンサを並列接続することによって、各コンデンサの周波数特性の違いを活用できるため、広い周波数範囲でインピーダンスを下げることができるのです。このように、パスコンを並列接続すると、広い周波数範囲でインピーダンスを落とせるというメリットがありますが、パスコンの配置スペースが大きくなってしまうので、本当にノイズに対して重要な部分のみに並列接続を使用します。

パスコンの容量

パスコンの容量はどの周波数のノイズを減衰させたいかによって選定します。コンデンサは容量(C)以外にも等価直列抵抗(ESR)と等価直列インダクタンス(ESL)を持つため、周波数特性は共振点を持ったV字型となり、共振点付近のノイズを一番減衰することができます。

ではこのパスコンの容量はどのように決めるのでしょうか・・・。私は以下のようにパスコンの容量を選定しています(ここは人によって様々だと思います)。

データシートに記載がある場合

電源IC等にはデータシートにパスコンの接続例と容量が載っていることがあります。特に理由がない場合には、この載っている容量を接続します。

データシートに記載がない場合

一般的なデジタル回路で用いるパスコンの容量は0.01uF~0.1uFとなっています。

  • 0.1uFという少し高めのパスコンを接続する場合
  • 0.1uFのパスコンの共振周波数は約20MHz~50MHzであり、低い周波数範囲から広い範囲でノイズを減衰させるという考えで接続しています。

  • 0.01uFという少し低めのパスコンを接続する場合
  • 高周波のノイズをしっかり減衰させるという考えで接続しています。例えば、100MHz程度で動作するICには0.01uFのパスコンを接続します。 

パスコンの配置場所

パスコンの配置場所
パスコンは電源ピン(VCCピン)から最短で配線してください。電源ピン(VCCピン)から離れれば離れるほど効果が薄くなります。パスコンをICの電源ピン(VCC)の近傍に実装することで電流ループが小さくなり、過渡電流が流れるループが小さくなります。

まとめ

この記事では『バイパスコンデンサ(パスコン)』について、以下の内容を説明しました。

当記事のまとめ

  • バイパスコンデンサ(パスコン)とは?
  • パスコンの役割
  • パスコンの等価回路
  • パスコンの周波数特性
  • パスコンの並列接続
  • パスコンの容量
  • パスコンの配置場所

お読み頂きありがとうございました。

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