エミッタ接地回路の『特徴』や『原理』について

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この記事ではバイポーラトランジスタを使用した増幅回路であるエミッタ接地回路の特徴や原理について説明します。

エミッタ接地回路とは

エミッタ接地回路とは
エミッタ接地回路はバイポーラトランジスタを使用した基本的な増幅回路の1つです。電圧と電流の両方を増幅可能電力利得が大きいため、エミッタ接地回路は基本的な増幅回路(エミッタ接地回路、コレクタ接地回路、ベース接地回路)の中で最も主要な回路となっています。

入力と出力の共通端子がエミッタであるため、エミッタ接地回路と呼ばれています。ベースに入力電圧VINを印加することで、コレクタから出力電圧VOUTを取り出す回路となっています。

エミッタ接地回路はエミッタ共通回路(Common Emitter)とも呼ばれています。

補足

エミッタ接地回路はMOSFETのソース接地回路のバイポーラトランジスタverとなっています。

エミッタ接地回路の動作(直流成分のみ)

エミッタ接地回路の動作(直流成分のみ)

  1. 入力電圧VINがバイポーラトランジスタのベース-エミッタ間のオン電圧(約0.6~0.7V)を超えると、バイポーラトランジスタがオンします。
  2. バイポーラトランジスタがオンしたことによって、電源電圧VCCからコレクタ負荷抵抗RCにコレクタ電流ICが流れます。
  3. 出力電圧VOUTは電源電圧VCCからコレクタ負荷抵抗RCの電圧降下(RC×IC)を引いた値(VCC-RC×IC)となります。なお、コレクタ負荷抵抗RCの両端電圧を出力とする場合には、出力電圧VOUTはRC×ICとなります。

エミッタ接地回路の動作(直流成分+交流成分)

エミッタ接地回路の動作(直流成分+交流成分)

上図にバイポーラトランジスタと抵抗で構成されるエミッタ接地回路とバイポーラトランジスタのIB-VBE特性IC-VCE特性を示します。

  1. ベースエミッタ間にオン電圧付近の電圧を印加しないと、ベース電流が流れません。そこで、ベースエミッタ間に直流電圧VBE0を印加してベース電流をある程度流しておく必要があります。この電圧をバイアス電圧といいます。
  2. バイポーラトランジスタのIB-VBE特性より、直流電圧VBE0に交流電圧vBEを加えるとベース電流は動作点IB0を中心にiB変化します。
  3. バイポーラトランジスタのとIC-VCE特性より、べース電流がiB変化することにって、コレクタ電流は動作点IC0を中心にiC変化します。
  4. オレンジ色の負荷線より、コレクタ電流がiC変化することによって、コレクタエミッタ間電圧は動作点VCE0を中心にvCE変化します。

これが直流成分+交流成分を考慮した時におけるエミッタ接地回路の動作となっています。ベースエミッタ間電圧が増える→ベース電流が増える→コレクタ電流が増える→電圧降下が増える→コレクタエミッタ間電圧が減る」という動作になっています。すなわち、エミッタ接地回路は入力と出力の変化が逆になります。これを逆相と呼んでいます。

この記事の後半に負荷線の引き方等を解説しています。

PNPトランジスタを使用した場合のエミッタ接地回路

PNPトランジスタを使用した場合のエミッタ接地回路
エミッタ接地回路はNPNトランジスタでもPNPトランジスタでも作成することができます。上図に回路図を示します。

エミッタ接地回路を実際に使用する時の回路

エミッタ接地回路を実際に使用する時の回路
今までの回路図は原理を示すために用いられる図であり、実際の回路で使用する際には上図の右のように使用します。

抵抗R1とR2は電源電圧VCCを分圧して、ベースに入力するためのバイアス抵抗です。ベースとグランド間の電圧を安定に保つ働きをします。抵抗R1とR2はブリーダ抵抗とも呼ばれています。入力電圧VINと出力電圧VOUTに接続されているコンデンサは直流成分をカットするためのコンデンサです。

エミッタとGND間にエミッタ抵抗REを接続する回路もありますが、これは電流帰還バイアス回路と呼ばれる回路になります(また別の記事で説明します)。

エミッタ接地回路の特徴

  • 入力インピーダンスが低い
  • バイポーラトランジスタのIB-VBE特性より、バイポーラトランジスタの入力電圧(ベースエミッタ間電圧VBE)を大きくすると、入力電流(ベース電流IB)がかなり大きくなります。入力インピーダンスZIN
    \begin{eqnarray}
    Z_{IN}=\frac{入力電圧の変化}{入力電流の変化}=\frac{{\Delta}V_{BE}}{{\Delta}I_{B}}
    \end{eqnarray}
    となるため、入力インピーダンスZINは非常に低くなります。

  • 出力インピーダンスが高い(コレクタ負荷抵抗RCと同じ)
  • エミッタ接地回路の出力インピーダンスZOUTはコレクタ負荷抵抗RCと同じになります。出力インピーダンスZOUTがコレクタ負荷抵抗RCと同じになる理由については少し長くなりますので、この記事の後半で説明しています。

  • 電流利得が高い
  • コレクタ電流iCはベース電流iBに対して、電流増幅率hfeを掛けた値となります。電流増幅率hfeの大きなトランジスタでは1000程度であり、構造上、電流増幅率hfeを大きくすることができないパワートランジスタでは数10程度となっています。エミッタ接地回路では入力電流iINはベース電流iBであり、出力電流iOUTはコレクタ電流iCとなります。そのため、電流利得AI
    \begin{eqnarray}
    A_I=\frac{i_{OUT}}{i_{IN}}=\frac{i_{C}}{i_{B}}=h_{fe}
    \end{eqnarray}
    となります。

  • 電圧利得が高い
  • エミッタ接地回路において、出力電圧の振幅はコレクタ負荷抵抗RCの電圧降下と等しくなります。そのため、コレクタ負荷抵抗RCを大きくすればするほど、出力電圧が大きくなります。但し、電源電圧VCCより大きな振幅は取れません。

  • 入力電圧VINと出力電圧VOUT逆相
  • バイポーラトランジスタの入力電圧(ベースエミッタ間電圧VBE)が増加すると、ベース電流IBが増加し、コレクタ電流ICが増加するため、出力電圧(コレクタエミッタ間電圧VCE)が減少します。そのため、入力電圧と出力電圧の位相は180°反転します。

  • 電力利得が高い
  • 電力利得APは電圧利得AV×電流利得AIなので、エミッタ接地回路では大きな電力増幅が可能です。入力インピーダンスが低いため少し使いにくい回路ですが、この電力利得が大きいため他の接地方式(コレクタ接地回路とベース接地回路)よりも多く使われます。

  • 高周波領域で増幅度が下がる
  • エミッタ接地回路はミラー効果によって他の接地方式(コレクタ接地回路とベース接地回路)よりも周波数特性が良くありません。高周波領域で増幅度が下がります。ミラー効果についてはこの記事の後半に説明しています。

エミッタ接地回路のバイアス電圧の設計方法

エミッタ接地回路のバイアス電圧の設計方法

上図にバイポーラトランジスタと抵抗で構成されるエミッタ接地回路とバイポーラの静特性であるIB-VBE特性IC-VCE特性を示します。

エミッタ接地回路の設計は以下の順序で行います。

  1. 負荷線を引く
  2. コレクタエミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を求める
  3. ベース電流iBの動作点IB0を求める
  4. ベースエミッタ間電圧VBEの動作点VBE0を求める

1.負荷線を引く

バイポーラトランジスタのベースに印加するバイアス電圧VBE0を求めるために、バイポーラトランジスタの「IC-VCE特性」に負荷線を引く必要があります。まず、負荷線の引き方について説明します。

コレクタエミッタ間電圧VCEが0Vの時にコレクタ電流ICが何Aになるかを求めます。コレクタエミッタ間電圧VCEが0Vの時は、コレクタ負荷抵抗RCには電源電圧VCCが印加されます。そのため、コレクタエミッタ間電圧VCEが0Vの時におけるコレクタ電流IC
\begin{eqnarray}
I_C=\frac{V_{CC}}{R_C}
\end{eqnarray}
となります。

次に、コレクタ電流ICが0Aの時にコレクタエミッタ間電圧VCEが何Vになるのかを求めます。コレクタ電流ICが0Aの時は、コレクタエミッタ間電圧VCEは電源電圧VCCと等しくなるため、
\begin{eqnarray}
V_{CE}=V_{CC}
\end{eqnarray}
となります。
この2点を結んだ直線が負荷線となります。A点(\(0\),\(\displaystyle\frac{V_{CC}}{R_C}\))とB点(\(V_{CC}\),\(0\))より負荷線の傾きは
\begin{eqnarray}
\frac{0-\displaystyle\frac{V_{CC}}{R_C}}{V_{CC}-0}=-\frac{1}{R_C}
\end{eqnarray}
となります。切片は\(\displaystyle\frac{V_{CC}}{R_C}\)なので、負荷線の式は以下の式となります。
\begin{eqnarray}
I_C=-\frac{1}{R_C}V_{CE}+\frac{V_{CC}}{R_C}
\end{eqnarray}

2.コレクタエミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を求める

コレクタエミッタ間電圧VCEの振幅が大きく取れるよう動作点を設定します。エミッタ接地回路では、コレクタエミッタ間電圧VCEの動作点は電源電圧VCCと0Vの真ん中付近VCE0に設定します。

3.ベース電流iBの動作点IB0を求める

バイポーラトランジスタの「IC-VCE特性」と負荷線において、コレクタエミッタ間電圧VCEが動作点VCE0の時におけるベース電流IBが動作点IB0となります。この動作点IBOはバイアス電流と呼ばれています。

4.ベースエミッタ間電圧VBEの動作点VBE0を求める

バイポーラトランジスタの「IB-VBE特性」において、ベース電流IBが動作点IB0の時におけるベースエミッタ間電圧VBEが動作点VBE0なります。

ここで、「2.コレクタエミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を求める」においてコレクタエミッタ間電圧VCEの動作点VCE0を大きくしすぎたり、小さくしすぎてしまうと、コレクタエミッタ間電圧VCEの波形が歪んでしまいます。そのため、動作点の設定には注意が必要となります。例えば、動作点を大きくしすぎると(右に寄せすぎると)、出力電圧(コレクタエミッタ間電圧VCE)が電源電圧VCCを超えてしまいます。出力電圧(コレクタエミッタ間電圧VCE)は電源電圧VCCを超えることができないので、波形の上側が切れてしまい、波形に歪が生じます。
エミッタ接地回路のコレクタエミッタ間電圧の波形の歪み

補足

負荷線は負荷直線負荷抵抗線とも呼ばれています。

エミッタ接地回路のミラー効果とは?

エミッタ接地回路のミラー効果とは?
エミッタ接地回路では、電圧利得をAVとすると、ベースコレクタ間の容量CBC(1+AV)倍なってみえます。

少し理解しにくい内容なので、まずミラー効果のイメージを説明します。容量Cのコンデンサに電荷Qを充電する簡単な回路を3つ上図に示します。

1番左の回路

片方の電極にVの電圧を印加し、もう片方の電極を接地している回路です。この回路に蓄積される電荷Qは
\begin{eqnarray}
Q=CV
\end{eqnarray}
となります。

真ん中の回路

片方の電極にVの電圧を印加し、もう片方の電極に-Vの電圧を印加している回路です。この回路に蓄積される電荷Qは
\begin{eqnarray}
Q=C×(V-(-V))=2CV
\end{eqnarray}
となります。

見方を変えると、Vの電圧で2Cの容量を充電しているとも見えます。つまり、A点から見れば、コンデンサの容量が2倍になって見えるということになります。また、これは容量2Cのコンデンサの直列接続において、片方の電極にVを印加し、もう片方の電極に-Vの電圧を印加しているとも言えます。

右の回路

片方の電極にVの電圧を印加し、もう片方の電極に-AVVの電圧を印加している回路です。この回路に蓄積される電荷Qは
\begin{eqnarray}
Q=C×(V-(-A_VV))=C(1+A_V)V
\end{eqnarray}
となります。

これも見方を変えると、Vの電圧でC(1+AV)の容量を充電しているとも見えます。つまり、A点から見れば、容量が(1+AV)倍になって見えるということになります。

エミッタ接地回路では入力電圧(ベースエミッタ間電圧VBE)に-AVを掛けた値が出力電圧(コレクタエミッタ間電圧VCE=-AVVBE)となります。そのため、ベースコレクタ間の容量CBCに蓄積される電荷Qは
式で表すと、
\begin{eqnarray}
Q=C_{BC}×(V_{BE}-V_{CE})= C_{BC}×(V_{BE}-(-A_VV_{BE}))=C_{BC}(1+A_V)V_{BE}
\end{eqnarray}
となり、ベース側から見れば、ベースコレクタ間の容量CBCが(1+AV)倍なって見えるのです。

このミラー効果による容量CBC(1+AV)とベース抵抗RBがカットオフ周波数
\begin{eqnarray}
f_C=\frac{1}{2{\pi}R_BC_B(1+A_V)}
\end{eqnarray}
のローパスフィルタ(LPF)を構成するため、高周波成分の増幅度が下がってしまいます。上式より電圧利得AVが大きければ大きいほど、カットオフ周波数が低くなることが分かります。

エミッタ接地回路の出力インピーダンスがコレクタ負荷抵抗RCと同じになる理由

エミッタ接地回路の出力インピーダンスがコレクタ負荷抵抗と同じになる理由
バイポーラトランジスタのIC-VCE特性を用いると、エミッタ接地回路の出力インピーダンスがコレクタ負荷抵抗RCと同じになる理由が分かります。

バイポーラトランジスタのIC-VCE特性とは、あるベース電流IBの時におけるバイポーラトランジスタのコレクタ電流ICとコレクタエミッタ間電圧VCEの特性です。コレクタエミッタ間電圧VCEがある値以上になると、コレクタ電流ICがほぼ一定になります。つまり、コレクタ電流ICはコレクタエミッタ間電圧VCEの影響を受けなくなります。

コレクタエミッタ間電圧VCEが変化しているにも関わらず、コレクタ電流ICが変化しないということは、言い換えると、コレクタエミッタ間の抵抗RCE高抵抗であるということです。

ここで、エミッタ接地回路を出力側から見ると、出力インピーダンスZOUTはコレクタエミッタ間の抵抗RCEとコレクタ負荷抵抗RCの並列接続となります(電源電圧VCCは交流的には接地とみなすため)。

コレクタ負荷抵抗RCは一定の値であり、コレクタエミッタ間の抵抗RCEは高抵抗(理想的には無限大)なので無視すると、出力インピーダンスZOUTはコレクタ負荷抵抗RCと等しくなります。

まとめ

この記事では『エミッタ接地回路』について、以下の内容を説明しました。

当記事のまとめ

    • エミッタ接地回路の特徴
    • エミッタ接地回路の原理
    • エミッタ接地回路のミラー効果について
    • エミッタ接地回路の出力インピーダンスがコレクタ負荷抵抗RCと同じになる理由

お読み頂きありがとうございました。

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