この記事ではコイルLのみ接続した交流回路において
- コイルLのみ接続した交流回路の『位相』について
- コイルLのみ接続した交流回路の『ベクトル図』の描き方
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
コイルLのみ接続した交流回路の『位相』
交流電圧\(v\)にコイル\(L\)(自己インダクタンスを\(L{\mathrm{[H]}}\)とする)のみ接続した回路を上図に示しています。
コイル\(L\)に交流電圧\(v\)を印加した時、コイル\(L\)に\(i=I_M{\sin}{\omega}t\)の交流電流が流れたとします。
この時、交流電流\(i\)がコイル\(L\)に流れているので、コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
v_L&=&L×\frac{di}{dt}\\
&=&L×\frac{d}{dt}I_M{\sin}{\omega}t\\
&=&{\omega}LI_M{\cos}{\omega}t\\
&=&{\omega}LI_M{\sin}\left({\omega}t+\frac{{\pi}}{2}\right){\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}
ここで、コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)は交流電圧\(v\)と等しいので、交流電圧\(v\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
v=v_L={\omega}LI_M{\sin}\left({\omega}t+\frac{{\pi}}{2}\right){\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}
ここで、コイル\(L\)に流れる交流電流\(i\)、交流電圧\(v\)、コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)をまとめると以下のようになります。
\begin{eqnarray}
i&=&I_M{\sin}{\omega}t{\mathrm{[A]}}\\
v&=&{\omega}LI_M{\sin}\left({\omega}t+\frac{{\pi}}{2}\right){\mathrm{[V]}}\\
v_L&=&{\omega}LI_M{\sin}\left({\omega}t+\frac{{\pi}}{2}\right){\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}
すなわち、『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)』は『コイル\(L\)に流れる交流電流\(i\)』より位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)(\(90°\))進んでいる(言い換えれば、『コイル\(L\)に流れる交流電流\(i\)』は『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)』より位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)(\(90°\))遅れている)ということになります。
位相の『進み』と『遅れ』の見分け方
『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)』と『コイル\(L\)に流れる交流電流\(i\)』の波形を見れば、位相の『進み』と『遅れ』を簡単に見分けることができます。
『コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)』は\({\omega}t=0\)の時に減少し始めます。
一方、『コイル\(L\)に流れる交流電流\(i\)』は\({\omega}t=\displaystyle\frac{{\pi}}{2}\)の時に減少し始めます。
そのため、『コイル\(L\)に流れる交流電流\(i\)』の方が遅れていることが分かります。
コイルLのみ接続した交流回路の『ベクトル図』
まず、交流電圧\(v\)にインピーダンス\(Z\)を接続した交流回路を考えます。
交流電圧\(v\)のベクトルを\({\dot{V}}\)、インピーダンス\(Z\)のベクトルを\({\dot{Z}}\)、流れる交流電流\(i\)のベクトルを\({\dot{I}}\)とします。この時、交流電圧\({\dot{V}}\)、インピーダンス\({\dot{Z}}\)、交流電流\({\dot{I}}\)は次式の関係があります。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}&=&\frac{{\dot{V}}}{{\dot{I}}}\\
\\
{\dot{V}}&=&{\dot{Z}}{\dot{I}}\\
\\
{\dot{I}}&=&\frac{{\dot{V}}}{{\dot{Z}}}
\end{eqnarray}
今回は、コイル\(L\)のみ接続した交流回路を考えます。この時、インピーダンス\({\dot{Z}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}=j{\omega}L
\end{eqnarray}
したがって、交流電圧\({\dot{V}}\)と交流電流\({\dot{I}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{V}}&=&{\dot{Z}}{\dot{I}}=j{\omega}L{\dot{I}}\\
\\
{\dot{I}}&=&\frac{{\dot{V}}}{{\dot{Z}}}=\frac{{\dot{V}}}{j{\omega}L}=-j\frac{{\dot{V}}}{{\omega}L}
\end{eqnarray}
コイル\(L\)にかかる電圧\(v_L\)のベクトルを\({\dot{V_L}}\)とします。コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)は交流電圧\({\dot{V}}\)と等しいため、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{V_L}}={\dot{V}}=j{\omega}L{\dot{I}}
\end{eqnarray}
また、『交流電圧\({\dot{V}}\)の大きさ\(V\)』、『交流電流\({\dot{I}}\)の大きさ\(I\)』、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)の大きさ\(V_L\)』は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V&=&|{\dot{V}}|=\sqrt{({\omega}LI)^2}={\omega}LI\\
\\
I&=&|{\dot{I}}|=\sqrt{\left(\frac{V}{{\omega}L}\right)^2}=\frac{V}{{\omega}L}\\
\\
V_L&=&|{\dot{V_L}}|=\sqrt{({\omega}LI)^2}={\omega}LI\\
\end{eqnarray}
ここで、各ベクトルの式と大きさが求まったので、次にベクトル図を描いてみましょう。
『ベクトル図』の描き方
まず、基準とするベクトルを交流電流\({\dot{I}}\)とします。
この時、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』と『交流電圧\({\dot{V}}\)』のベクトルは以下のように描きます。
- コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)のベクトル
- 交流電圧\({\dot{V}}\)のベクトル
コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)は「\({\dot{V_L}}=j{\omega}L{\dot{I}}\)」で表されます。そのため、コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)のベクトルの向きは交流電流\({\dot{I}}\)のベクトルを反時計周りに90°回転した向きになります。コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)の大きさ(長さ)は交流電流\({\dot{I}}\)を\({\omega}L\)倍したものとなります。
交流電圧\({\dot{V}}\)は「\({\dot{V}}={\dot{V_L}}\)」で表されます。そのため、交流電圧\({\dot{V}}\)はコイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)と向きと大きさが同じになります。
したがって、『コイル\(L\)のみ接続している交流回路』のベクトル図は上図のようになります。
『交流電流\({\dot{I}}\)』に対して、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』は位相が進んでいるということになります。また、『交流電流\({\dot{I}}\)』に対する『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』の位相差は\(+\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)(\(90°\))となります。
各ベクトルの長さ(大きさ)は、先ほど計算で求めた
\begin{eqnarray}
V&=&|{\dot{V}}|=\sqrt{({\omega}LI)^2}={\omega}LI\\
\\
I&=&|{\dot{I}}|=\sqrt{\left(\frac{V}{{\omega}L}\right)^2}=\frac{V}{{\omega}L}\\
\\
V_L&=&|{\dot{V_L}}|=\sqrt{({\omega}LI)^2}={\omega}LI\\
\end{eqnarray}
となります。
ベクトルの向きについて
ベクトルの向きの決め方についてもう少し詳しく説明します。
ベクトルの『向き』について
式に虚数単位『\(j\)』が付くとベクトルの向きが90°回転します。
- 『\(+j\)』が付いている時
- 『\(-j\)』が付いている時
ベクトルは反時計周りに90°回転します。
ベクトルは時計周りに90°回転します。
コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)は「\({\dot{V_L}}={\dot{V}}=j{\omega}L{\dot{I}}\)」の式で表されます。そのため、ベクトル\({\dot{V_L}}\)の向きはベクトル\({\dot{I}}\)を反時計周りに90°回転した向きとなります。
基準ベクトルについて
基準ベクトルについてもう少し詳しく説明します。
基準ベクトルについて
基準ベクトルを\({\dot{A}}\)にした時、ベクトル\({\dot{B}}\)が上記のように回転している場合を考えてみます。
『位相の"進み"と"遅れ"』、『位相差の"正(プラス)"と"負(マイナス)"』は基準ベクトルから『反時計方向に回転しているか』or『時計周りに回転しているか』で下記のように決まります。
- ベクトル\({\dot{B}}\)が反時計方向に回転している場合
- ベクトル\({\dot{B}}\)が時計方向に回転している場合
位相が進んでいるということ。位相差は『正(プラス)』で表します。
位相が遅れているということ。位相差は『負(マイナス)』で表します。
『交流電流\({\dot{I}}\)』を基準ベクトルとして考えると、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』は反時計周りに回転しています。
そのため、『交流電流\({\dot{I}}\)』に対して、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』は位相が進んでいるということになります。また、『交流電流\({\dot{I}}\)』に対する『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』の位相差は\(+\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)(\(90°\))となります。
一方、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』を基準ベクトルとして考えると、『交流電流\({\dot{I}}\)』は時計周りに回転しています。
そのため、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』に対して、『交流電流\({\dot{I}}\)』は位相が遅れているということになります。また、『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』に対する『交流電流\({\dot{I}}\)』の位相差は\(-\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)(\(90°\))となります。
まとめ
この記事ではコイルLのみ接続した交流回路について、以下の内容を説明しました。
- コイルLのみ接続した交流回路の『位相』について
- コイルLのみ接続した交流回路の『ベクトル図』の描き方
お読み頂きありがとうございました。
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