ダイオードはN型半導体とP型半導体を接続したものですが、このN型半導体とP型半導体の境界には、空乏層と呼ばれるキャリア(自由電子や正孔)がほとんどない領域があります。この記事ではこの空乏層ができる原理を説明します。
空乏層ができる仕組み
1.N型半導体とP型半導体が接合する前
N型半導体とP型半導体のイメージ図とエネルギーバンドは上図のようになっています。
N型半導体は自由電子(伝導電子)の濃度が多い半導体です。そのため、伝導帯に自由電子が多く存在しています。一方、P型半導体は自由電子の濃度が低い半導体(正孔が多い半導体)です。そのため、価電子帯に正孔が多く存在しています。
ここで、N型半導体とP型半導体の接合にあたり、フェルミ準位のエネルギーEFが重要になってきます。
フェルミ準位とは、簡単に説明すると、電子のいる確率が50%になるエネルギーの場所です。
そのため、N型半導体は伝導帯に自由電子が多く存在しているため、フェルミ準位が伝導帯に近い場所にあります。逆に、P型半導体は価電子帯に正孔が多く存在しており、伝導帯に自由電子が少ないため、フェルミ準位が価電子帯に近い場所にあります。
なお、上図におけるECとかEV等の記号は以下のエネルギーを示しています。
- EC:伝導帯のエネルギー
- EV:価電子帯のエネルギー
- EF:フェルミ準位のエネルギー
伝導帯・・・価電子帯・・・フェルミ準位・・・なにそれ?と思う方はとりあえず、ここでは以下の2点を覚えて頂ければ、これから説明する「ダイオードの空乏層ができる原理」を理解することができます(後日、伝導帯や価電子帯の記事を書きます)。
- N型半導体は伝導帯に自由電子が多くあり、フェルミ準位が伝導帯に近い場所にある。
- P型半導体は価電子帯に正孔が多くあり、フェルミ準位が価電子帯に近い場所にある。
ではこのN型半導体とP型半導体が接合した時になにがおきるのでしょうか?次に行きましょう!
2.N型半導体とP型半導体を接合
N型半導体は自由電子の濃度が高い半導体です。P型半導体は自由電子の濃度が低い半導体です。
そのため、N型半導体とP型半導体の接合時、自由電子がN型半導体からP型半導体の方に拡散します。この時、N型半導体から自由電子がなくなるので、正にイオン化されたドナー(正の固定電荷)が残ります。
逆に、N型半導体は正孔の濃度が低い半導体です。P型半導体は正孔の濃度が高い半導体です。
そのため、N型半導体とP型半導体の接合時、正孔がP型半導体からN型半導体の方に拡散します。この時、P型半導体から正孔がなくなるので、負にイオン化されたアクセプタ(負の固定電荷)が残ります。
N型半導体とP型半導体で自由電子と正孔の濃度が異なるため、接合時に自由電子と正孔の拡散が生じました。この拡散によって生じる電流を拡散電流と呼びます。
物質は高濃度の場所から低濃度の場所を移動します(部屋にルームフレグランスを置くと、何もしなくても徐々に部屋全体に匂いが広がりますよね。このイメージです)。このような濃度勾配の高い場所から低い場所移動する現象を拡散と言います。自由電子や正孔が接合時に移動するのはこの拡散のためです。
3.空乏層ができる
N型半導体は正孔よりも自由電子の数が多いため、多数キャリアは自由電子となります。一方、P型半導体は自由電子よりも正孔の数が多いため、多数キャリアは正孔となります。
さきほど、N型半導体とP型半導体の接合により、N型半導体からは自由電子が拡散し、P型半導体からは正孔が拡散すると説明しました。この自由電子と正孔はPN接合部付近で結合することによって消滅し、キャリアが少ない領域が形成されます。この領域のことを空乏層と呼びます。
空乏層では、N型半導体は自由電子が消滅し、正にイオン化されたドナー(正の固定電荷)が残り、P型半導体は正孔が消滅し、負にイオン化されたアクセプタ(負の固定電荷)が残っています。そのため、この正負によって電界(内蔵電場)が発生します。またこの電界によってドリフト電流が発生します。
N型半導体にある自由電子は電界Eで阻止されて押し返されてしまうため、これ以上拡散できません。同様にP型半導体にある正孔も電界Eで阻止されて押し返されてしまいます。このように、固定電荷の作る電界により、キャリアは押し返されて空乏してしまうので、空乏層と呼ばれています。
また、エネルギーバンド上では、PN接合をするとフェルミ準位が一致するため、エネルギーバンドが空乏層の部分で曲がり障壁(段差)が出来ています。この障壁を電圧VDで表したものを拡散電位(or内蔵電位orビルトインポテンシャル)と呼びます。例えばシリコン(禁制帯幅1.17eV)をPN接合した場合、内蔵電位は0.6~0.7V程度となります。
ダイオードに電圧を印可した時の動作
順バイアス時
では順バイアスをかけた時の動作を見てみましょう。アノード(陽極)側に正電圧、カソード(陰極)側に負電圧を印加することを「順方向バイアスをかける」と言います。
順バイアス時、N型半導体に負電圧、P型半導体に正電圧を印加しています。言い換えれば、N型半導体に自由電子を、P型半導体に正孔を注入する(P型半導体から電子が引き抜かれる)ことになります。
すると、N型半導体では自由電子がP型半導体では正孔が過剰(高濃度)となります。その結果、自由電子はP側半導体へ、正孔はN側半導体へ入り込もうとします。このため、空乏層は縮小します。
また、順バイアスによって、P型半導体のエネルギーが減少し、N型半導体のエネルギーが増加します。その結果、エネルギーバンドの障壁が小さくなり、N型半導体から電子がP型半導体に、P型半導体から正孔がN型半導体に拡散することができるようになります。これが、順バイアス時に電流(順方向電流)が流れるようになる仕組みです。順方向電流を流すために必要な電圧を順方向電圧降下と呼びます。
逆バイアス時
次に、逆バイアスをかけた時の動作を見てみましょう。アノード(陽極)側に負電圧、カソード(陰極)側に正電圧を印加することを「逆方向バイアスをかける」と言います。
逆バイアス時、N型半導体に正電圧、P型半導体に負電圧を印加しています。言い換えれば、N型半導体に正孔を、P型半導体に自由電子を注入することになります。
すると、N型半導体では自由電子がP型半導体では正孔が不足します。その結果、接合部の空乏層はさらに大きくなります。
また、逆バイアスによって、P型半導体のエネルギーが増加し、N型半導体のエネルギーが減少します。その結果、エネルギーバンドの障壁がさらに大きくなり、拡散電位が上昇します。
まとめ
この記事ではダイオードの空乏層ができる原理とダイオードに順バイアスと逆バイアスを印可した時の動作を説明をしました。簡潔にまとめると、PN接合時に自由電子と正孔が結合することで、キャリアが不足した領域ができ、この領域を空乏層と呼びます。
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