LTspiceにはトランスの素子がありません。極性付きのインダクタを2つ用いて作成する必要があるのです。この時、結合係数の指定や直列抵抗を入力しないとエラーが出てしまいシミュレーションを実行することができません。ではこれからLTspiceでトランス(変圧器)を作成する方法について説明します。
トランス(変圧器)の配置方法
- LTspiceを開いた後、メニューバーでcomponentボタンを押します。
- 「Select Component Symbol」が開くので、ind2を選択します。
- indは通常のインダクタでind2は極性の区別があるインダクタです。回路図だとind2に極性を示す〇印が付いています。〇印が必要なのは、コイルの極性が分からないと、誘導起電力の向きが分からなくなるためです。
- ind2を2個配置します。この時「ctrl+e」などでインダクタを反転させたり、「ctrl+r」でインダクタを回転させたりして配置しましょう。見た目を重視するなら、下図のように隣接に配置すればトランスらしくなります。しかし、隣接せずに置いてもシミュレーションは正常に動作します。2個のインダクタの〇印の上下の位置を揃えると同相、上下逆にすると逆相になります。下図は上下の〇印が揃っているので同相になります。
- インダクタを右クリックして、自己インダクタンス(inductance[H]の箇所)を入力します。一次巻線の巻き数をNp、二次巻き線の巻き数をNs、一次巻線の自己インダクタンスをLp、二次巻線の自己インダクタンスをLs、一次巻線と二次巻線の巻き数比をNとすると、自己インダクタンスの比は巻き数比の2乗に比例するため、式では
$$ N^2=(\frac{Np}{Ns})^2=\frac{Lp}{Ls}$$
と表すことができます。
今回、Np:Ns=2:1として、一次巻線の自己インダクタンスLpを400uHとしました。そのため、二次巻線の自己インダクタンスLsは100uHとなります。 - 次に、直列抵抗(Series Resistance[Ω])の箇所に抵抗値を入力します。この箇所を入力しない場合、シミュレーション実行時にエラーが表示されてしまします。エラーになるのは、インダクタの直列抵抗が0Ωで、電圧源の直列抵抗が0Ωの場合です。インダクタと直列に抵抗が入っている場合や、電圧源の直列抵抗を設定すれば、インダクタの直列抵抗(Series Resistance[Ω])を入力しなくてもエラーとなりません。
- SPICE Directiveから、一次巻線と二次巻線の結合係数Kを入力します。「K Lp Ls 1」と入力した場合、一次巻線Lpと二次巻線Lsの結合係数を1にするということです。複数トランスを使うときはKをK1、K2などと分けて、「K1 Lp1 Ls1 1」、「K2 Lp2 Ls2 0.9」のように入力します。結合係数Kは1が最大で、1に近いほど、磁束の漏れが少なくなります。K=1の場合は理想トランスであり、1次巻線の磁束は漏れることなく全て2次巻線を通過し、完全な磁気結合の状態となります。
シミュレーション例その1
一次巻線には振幅100V、周波数50Hzの交流電圧を一次巻線に印可しました。トランスの1次巻線の電圧と2次巻線の電圧の比は巻き数比に比例します。今回巻き数比を2:1にしているため、二次巻線に誘起される電圧は振幅が50Vと100Vの半分になります。周波数は変わらず50Hzのままです。一次巻線と二次巻線の極性(〇印)が同じ向きなので、一次巻線の電圧と二次巻線に誘起される電圧が同相となります。
シミュレーション例その2
step関数を用いて、結合係数Kを変化させた時に二次巻線に誘起される電圧がどのようになるか観測してみます。「K Lp Ls {x}」と結合係数Kの値を変数xにして、step関数で「.step param x 0 1 0.1」と入力します。これはxを0~1まで0.1間隔で変化させるという意味です。シミュレーションを実行すると、結合係数Kが小さくなるほど、二次巻線に誘起される電圧が低下していることが分かります。
【補足】トランスの二次巻線が2つの場合
このように3つのインダクタを結合することもできます。この場合は「K Lp Ls1 Ls2 1」と記入します。先ほど、「Lp Ls」と記入していたのを「Lp Ls1 Ls2」と変え、結合するインダクタの数を増やします。