この記事ではトライアックのゲート回路の設計方法について説明します。
ゲート回路を構成する素子
上図にトライアックのゲート回路を示します。ゲート回路はゲート直列ダイオード\(D_{GS}\)、ゲート直列抵抗\(R_{GS}\)、ゲート並列抵抗\(R_{GP}\)、ゲート並列コンデンサ\(C_{GP}\)で構成されています。
各素子の役割は以下のようになっています。
- ゲート直列ダイオード\(D_{GS}\)
- ゲート直列抵抗\(R_{GS}\)
- ゲート並列抵抗\(R_{GP}\)
- ゲート並列コンデンサ\(C_{GP}\)
流れる電流の方向を確定させるために接続します。ON/OFFの速度が早いため、ファストリカバリーダイオードを用います。
ゲート電流を制限する抵抗です。この抵抗の設計方法(素子値と定格電力)については、この記事の後半で説明します。
オフ電圧を保証するための抵抗です。ゲート並列コンデンサ\(C_{GP}\)がある場合には、放電抵抗の役割もします。また、ゲートにノイズが印加された時のバイパス用としても動作します。この抵抗には100Ωから1kΩを接続します。
高周波のゲートノイズを抑制するためのコンデンサです。ゲート並列コンデンサ\(C_{GP}\)の容量を大きくすると、ゲート電流の立ち上がりがなまるため、0.01uFから0.1uF程度を接続します。
ゲート直列抵抗\(R_{GS}\)の設計方法
ゲート直列抵抗\(R_{GS}\)の抵抗値と定格電力の設計方法について説明します。また、0℃環境においても動作するように設計を行います。
今回、一例としてルネサス製の「BCR8PM-12LG」というトライアックを使用します。絶対最大定格(左上)と電気的特性(右上)、また設計において用いるグラフ(下)を上図に示します。
設計手順1:まずデータシートを読み解く
電気的特性の表を上図に示します。25℃の時において、ゲートトリガ電圧\(V_{GT}\)の最大値が1.5V、ゲートトリガ電流\(I_{GT}\)の最大値が30mAとなっています。これは、トライアックを確実にONするために必要な電圧と電流です。この値より大きくなるように、ゲート直列抵抗\(R_{GS}\)を選定する必要があります。
ゲートトリガ電圧\(V_{GT}\)とジャンクション温度\(T_{J}\)のグラフを上図に示します。ジャンクション温度\(T_{J}\)が下がるにつれてゲートトリガ電圧\(V_{GT}\)が大きくなっていることが読み取れます。今回、0℃環境ではゲートトリガ電圧は25℃環境の130%(1.3倍)となります。したがって、0℃環境において必要なゲートトリガ電圧\(V_{GT}\)は
\begin{eqnarray}
V_{GT}=1.5×1.3=1.95[V]
\end{eqnarray}
となります。
また、ゲートトリガ電流\(I_{GT}\)とジャンクション温度\(T_{J}\)のグラフを上図に示します。ジャンクション温度\(T_{J}\)が下がるにつれてゲートトリガ電流\(I_{GT}\)が大きくなっていることが読み取れます。今回、0℃環境ではゲートトリガ電流は25℃環境の120%(1.2倍)となります。したがって、0℃環境において必要なゲートトリガ電流\(I_{GT}\)は
\begin{eqnarray}
I_{GT}=30×1.2=36[mA]
\end{eqnarray}
となります。
また、絶対最大定格の表を上図に示します。ピークトリガゲート電圧\(V_{GM}\)が10V、ピークトリガゲート電流\(I_{GM}\)が2Aとなっています。
設計手順2:ゲート負荷線を引く
設計手順1より、必要なゲートトリガ電圧\(V_{GT}\)、必要なゲートトリガ電流\(I_{GT}\)、ピークトリガゲート電圧\(V_{GM}\)、ピークトリガゲート電流\(I_{GM}\)が分かりました。以下にパラメータを示します。このパラメータを用いてゲート負荷線を引きます。
項目 | 値 |
必要なゲートトリガ電圧\(V_{GT}\) | 1.95V |
ピークトリガゲート電圧\(V_{GM}\) | 36mA |
必要なゲートトリガ電圧\(V_{GT}\) | 10V |
ピークトリガゲート電流\(I_{GM}\) | 2A |
確実にトライアックをオンさせるためには、\(V_{GT}\)と\(I_{GT}\)の囲い線よりも大きなゲート負荷線を引きます。
ピークゲート電圧\(V_{GM}\)が10Vと必要なゲートトリガ電圧\(V_{GT}(1.95V)\)に対してやや大きいのに対して、ピークゲート電流\(I_{GM}\)は2Aなので必要なゲートトリガ電流\(I_{GT}(36mA)\)に対してかなり余裕があります。そのため、\(V_{GT}\)と\(I_{GT}\)の囲い線に対して、ゲート電流を大きくしてゲート負荷線を描いた方が信頼性が高くなります。今回は、ゲート電圧\(V_G\)が0Vの時にゲート電流\(I_G\)が150mAとなるようなゲート負荷線を引きます。
次に求めるのは、ゲート電流\(I_G\)が0Aの時におけるゲート電圧\(V_G\)です。まず、トライアックのピークゲート電圧\(V_{GM}(10V)\)に対してマージンを考慮して駆動入力電圧\(v_{IN}\)の最大値を決めます。今回、最大値を5.0Vにしました。次に、ゲート直列ダイオード\(D_{GS}\)を選定します。順方向電圧\(V_{F}\)-順方向電流\(I_{F}\)の特性が下図のような場合を考えます。
150℃環境でも動作を行うように設計する場合、150mA/25℃時で約600mV、10mA/150℃時で約200mVとなります。そのため、順方向電圧\(V_{F}\)は150mAの電流が流れている時には約600mV、軽負荷時には約200mVの電圧降下が生じることを条件で設計を行います。
150mAの電流が流れている時においては、A点の電圧\(V_A\)が4.4Vとなり、軽負荷時にはA点の電圧\(V_A\)が4.8Vとなります。
以上より、ゲート電流\(I_G\)が0Aの時にゲート電圧\(V_G\)が4.8V、ゲート電圧\(V_G\)が0Vの時にゲート電流\(I_G\)が150mAとなるようなゲート負荷線を引きます。このゲート負荷線の式は以下のようになります。
\begin{eqnarray}
V_G=-\frac{4.8}{150m}I_G+4.8=-32I_G+4.8
\end{eqnarray}
上式において、\(I_G=36mA\)を代入すると、\(V_G=3.264V\)となり、\(V_G=1.95V\)を代入すると、\(I_G=89mA\)となるため、0℃環境において必要なゲートトリガ電圧\(V_{GT}(1.95V)\)とゲートトリガ電流\(I_{GT}(36mA)\)より大きくなっていることが分かります。
ゲート電圧\(V_G\)が0Vの時においては、ゲート電流が150mAであり、その時、A点の電圧が4.4Vの時となります。この時、ゲート直列抵抗\(R_{GS}\)の理論値は29.3Ωとなります。E12系列で近いものを選定すると27Ωとなります。この時、ゲート電流\(I_G\)は
\begin{eqnarray}
I_G=\frac{4.4}{27} =162mA
\end{eqnarray}
となります。
すべての設計手順を踏まえると、トライアックのゲート回路の設計値は以下のようになります。
設計手順2:ゲート抵抗の定格電力
周期\(T\)、オン期間\(T_1\)、ピーク値\(I_M\)のパルス波の実行値\(I_{GRMS}\)は以下となります。
\begin{eqnarray}
I_{GRMS}=I_M\sqrt{\frac{T_1}{T}}=I_M\sqrt{D}
\end{eqnarray}
ここで、オンデューティ\(D\)を0.5、ピーク値\(I_M\) を162mAとすると、実行値\(I_{GRMS}\)は114mAとなります。この時、ゲート直列抵抗\(R_{GS}\)の消費電力\(P_{LOSS}\)は
\begin{eqnarray}
P_{LOSS}=27×0.162^2=350mW
\end{eqnarray}
となります。
抵抗の温度上昇を考慮すると、この消費電力より2倍以上の定格電力を持つ抵抗を選定します。今回は2Wの抵抗を選定します。