電解コンデンサに直流電圧を印加すると、微小電流が流れます。その電流のことを漏れ電流と呼びます。この漏れ電流は温度・時間・印加電圧によって変化します。
この記事では、漏れ電流の原因や温度特性などについて説明します。
電解コンデンサの漏れ電流とは
理想的な電解コンデンサの場合、直流電圧を印加して充電すると、その後、電流は流れなくなれます。しかし、実際は微小な電流が流れます。この微小電流のことを漏れ電流と呼びます。
漏れ電流は英語ではLeakage Currentとなります。頭文字を取り、漏れ電流のことをLCと呼ぶこともあります。
この漏れ電流は電解コンデンサ内の電解液と接する誘電体(アルミニウム酸化皮膜)の抵抗が無限大ではないため流れてしまいます。
漏れ電流の温度・時間・印加電圧特性
温度特性
漏れ電流は、温度が高くなると増加し、低くなると減少します。20℃の時に流れる漏れ電流を基準として考えると、65℃では2〜3倍、85℃では3〜5倍、最高使用温度では5〜10倍の漏れ電流となります。
時間特性
漏れ電流は、時間の経過とともに減少して、最終的に安定(収束)します。本来、漏れ電流とはこの収束した時の電流のことを指しますが、実使用では収束するまでに時間がかかりすぎるため、漏れ電流の規格では、20℃で定格電圧を印加してから数分後(一般的に1〜5分後)の値で規定されています。
印加電圧特性
漏れ電流は、印加電圧が高くなると増加し、低くなると減少します。また、漏れ電流は印加電圧が定格電圧を超えると急激に増加します。
漏れ電流の原因
電解コンデンサの漏れ電流の原因としては
- 誘電体(アルミニウム酸化皮膜)の分極歪み
- 誘電体の溶解・生成
- 誘電体の湿気吸着
- 塩素や鉄粉などの不純物による誘電体の破壊
であると言われています。
漏れ電流のバラツキの計算式
漏れ電流は電解コンデンサによってバラツキがあります。基板自立形コンデンサの場合における漏れ電流のバラツキを計算します。バラツキの最大値をIMAX、バラツキの最小値をIMIN、定格電圧をV、静電容量をCとすると、20℃環境においては、以下の式で表されます。
I_{MAX}-I_{MIN}&=&\frac{\sqrt{C×V}}{2}-\frac{\sqrt{C×V}}{5}\\
&=&\frac{3}{10}\sqrt{C×V}
\end{eqnarray}
- IMAX:漏れ電流バラツキ最大値[uA]
- IMIN:漏れ電流バラツキ最小値[uA]
- V:定格電圧[V]
- C:静電容量[uF]
漏れ電流の特徴
漏れ電流はハロゲンの影響を受ける
一般的な電解コンデンサはハロゲンイオン(特に塩素イオン、臭素イオン)に弱く、ハロゲンイオンが電解コンデンサの封口部を通して内部に侵入すると、腐食反応を起こし、漏れ電流が増加します。その結果、圧力弁の作動やオープンなどの故障に至る場合があります。
ハロゲンイオンはプリント基板を洗浄する際に使用する洗浄剤や電解コンデンサを固定する固定材などに含まれています。
長時間放置すると漏れ電流は増加する
電解コンデンサを無負荷で長時間放置(約2年)すると、漏れ電流が増加している場合があります。漏れ電流が増加する原因は、電解コンデンサの陽極箔の酸化皮膜が電解液と化学反応を起こすことによる劣化です。また、酸化皮膜が劣化すると、耐電圧が低下します。
酸化皮膜は、漏れ電流の存在によって常時修復され続けています。長時間放置され、酸化皮膜が劣化した電解コンデンサに定格電圧を印加すると、酸化皮膜の修復のために、大きな漏れ電流が流れ発熱が大きくなります。
そのため、漏れ電流が増加している際には、電圧処理を行います。電圧処理は、常温(20℃)において、電解コンデンサに約1kΩの保護抵抗を直列に接続して、「定格電圧の80%を1時間印加⇨定格電圧の90%を1時間印加⇨定格電圧の100%を1時間印加」を行います。そして最後に約1Ω/Vの抵抗を通して、充電された電荷を放電します(この電圧処理は一例です。詳しくはメーカーのアプリケーションシートなどを参考にしてください)。
電圧を印加すると電解液により劣化していた酸化皮膜が修復されるため、漏れ電流が放置前と同じレベルに戻ります。
補足
- 漏れ電流の増加割合は、周囲温度が高いほど大きくなります。この増加割合は線形ではなく、徐々に一定の値に飽和します。
- 電解コンデンサの定格電圧により、漏れ電流の増加具合が異なり、一般的に定格電圧が高いものほど漏れ電流の増加具合は大きくなります。
- 一般的に時間に対する漏れ電流の増加割合は同じ型番であれば類似の傾向を示します。しかし、ロット間によるバラツキの影響が大きので、時間に対する漏れ電流の増加割合を式で表すことはできません。
データシートで漏れ電流を確認
最後に実際にデータシートで漏れ電流がどのように記述してあるか確認してみます。上図にルビコンのZLHシリーズのデータシートを抜粋しました。データシートを見ると、「定格電圧印可2分後」に測定した電流を漏れ電流と定義しているのが確認できます。