ICやマイコンは、過電圧(サージ電圧など)や静電気放電(ESD)等から保護する必要があります。
保護方法の1つにダイオードを使用したクランプ回路をICやマイコンの入力端子に接続する方法があります。
今回はそのクランプ回路について説明します。
ダイオードを使用したクランプ回路とは
ダイオードを使用したクランプ回路は2つのダイオード(D1,D2)と、抵抗Rで構成されています。
2つのダイオードでICやマイコン等の入力端子に接続される信号線を挟みます。また、抵抗Rは『入力部』と『ダイオード(D1,D2)と信号線との接続端子A』の間に接続します。
回路動作は後ほど説明しますが、ダイオードD1は入力端子の電圧を電源電圧VCCにクランプするダイオード、ダイオードD2は入力端子の電圧をグラウンド(GND)にクランプするダイオードとなっています。
クランプ回路によって、入力部に過電圧が印可された場合でも入力端子の電圧を『GND(0V)~電源電圧VCC』に制限することができ、入力端子に異常電圧がかかるのを防止することができます。
また、入力端子に接続されている2つのダイオードD1,D2のことを『クランプダイオード』と呼んでいます。
なお、『ダイオードを使用したクランプ回路』は一般的な過電圧保護回路であり、実際に広く使われており実績もある回路となっています。
ポイント
ダイオードクランプ回路の動作
これから入力部の電圧vINが通常時、プラスの過電圧印加時、マイナスの過電圧印加時の3つの状態において、ダイオードクランプ回路の動作説明を行います。
動作説明では、ダイオードの順方向電圧VFを考慮して行います。
通常動作時
入力部の電圧vINが
の時を考えてみます。
入力端子に接続されているダイオードD1,D2にかかる電圧は順方向電圧VFを超えないため、ダイオードD1とD2は導通せず、入力電圧がそのままICの内部回路に伝わります。
入力にプラスの過電圧が印加された時
入力部の電圧vINがプラス側に大きく振れて、
を超えた時を考えてみます。
入力端子に接続されているダイオードD1にかかる電圧がVFを超えるため、ダイオードD1が導通します。その結果、入力部から電流ID1が抵抗Rを通り、電源ラインに流れます。
電流ID1によって、抵抗Rで電圧降下が生じるため、入力端子の電圧は
でクランプされます。
なお、電流ID1は以下の式で表されます。
\begin{eqnarray}
I_{D1}=\frac{(v_{IN}-V_{F})+V_{CC}}{R}
\end{eqnarray}
上式より、入力部の電圧vINが増加すると、電流ID1が増加し、抵抗Rでの電圧降下が大きくなることが分かります。
入力にマイナスの過電圧が印加された時
入力部の電圧vINがマイナス側に振れて、
を超えた時を考えてみます。
入力端子に接続されているダイオードD2にかかる電圧がVFを超えるため、ダイオードD2が導通します。その結果、入力部から電流ID2が抵抗Rを通り、グラウンドラインに流れます。
電流ID2によって、抵抗Rで電圧降下が生じるため、入力端子の電圧は
でクランプされます。
なお、電流ID2は以下の式で表されます。
\begin{eqnarray}
I_{D2}=\frac{0[V]-(v_{IN}+V_{F})}{R}
\end{eqnarray}
上式より、入力部の電圧vINが減少すると、電流ID2が増加し、抵抗Rでの電圧降下が大きくなることが分かります。
入力端子に接続されている抵抗Rについて
抵抗Rは電流制限抵抗です。抵抗Rで電流を制限することで、電源ラインやグラウンドラインに流れる電流を小さくします。
この抵抗Rは以下の理由から出来るだけ大きくすることが望ましいです。ただし、ICの入力抵抗よりも十分に低い必要があります。
抵抗が小さい場合のデメリット
- 電源ラインに流れる電流ID1が大きくなるため、電源ラインに接続されているコンデンサ等がその電流を吸収できず、電源電圧VCCが増加する可能性がある。
- ダイオードD1およびD2の定格電流を超える可能性がある。
抵抗Rが大きい場合のメリット
- 電源ラインに流れる電流ID1が小さいため、電源ラインに接続されているコンデンサ等がその電流を吸収することができる。
- 抵抗値は大きければ大きいほど過電圧の保護効果が大きくなる。
ただし、抵抗が大きい場合、IC内部の入力抵抗と抵抗Rで、入力部の電圧vINが分圧されることで、入力部の電圧vINより低い電圧がICに印加されてしまいます。ICで電流―電圧変換等を行なっている場合、変換誤差が増加します。
また、抵抗が大きい場合、高周波の信号に影響がある可能性があります。そのため、高周波特性に影響が出ない範囲に抵抗Rを抑える必要があります。
抵抗Rが大きいと高周波の信号に影響がある理由
抵抗RとICの入力容量CIN、ダイオードの接合容量CJがローパスフィルタとして機能してしまうためです。
カットオフ周波数fCUTOFFは
\begin{eqnarray}
f_{CUTOFF}=\frac{1}{2{\pi}R(C_{IN}+C_{J})}
\end{eqnarray}
で表されます。
抵抗Rが大きいと、カットオフ周波数fCUTOFFが下がるため、入力部の電圧vINの高周波信号が減衰されてしまいます。
そのため、高周波信号を扱う回路にダイオードクランプ回路を用いる場合には特に注意してください。
抵抗Rの設計方法
抵抗Rは入力部の想定される過電圧に対して、ダイオードD1およびD2の順電流の定格を超えないように設計します。
想定される過電圧をV SURGE、順電流の定格をI DF、順方向電圧をVF、電源電圧をVCCとすると。抵抗Rは以下の式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
R>\frac{(v_{IN}-V_{F})+V_{CC}}{I_{DF}}
\end{eqnarray}
クランプダイオードについて
クランプダイオードの種類
クランプダイオードは以下の特性の物を使用するのをおすすめします。
- 順方向電圧VFの小さいもの
- 接合容量CJの小さいもの
入力端子に印加される電圧を低減することができます
抵抗R、入力容量CIN、接合容量CJで形成されてしまうローパスフィルタのカットオフ周波数fCUTOFFを高くすることができます。
上の特性を満たすダイオードとして、ショットキーバリアダイオードまたは、小信号用ダイオードが適しています。
クランプダイオードの漏れ電流に注意
ダイオードはPN接合の向きに対して、逆方向電圧を印加した場合、微小電流(漏れ電流と呼ばれている)が流れます。
そのため、入力抵抗が高いICや、高精度の電流電圧変換器等のアプリケーションでは、漏れ電流に注意してください。
場合によってはダイオードを使用したクランプ回路を使うことができないケースもあります。
先ほど、ショットキーダイオードが適していると言いましたが、高インピーダンスICや高精度を電流電圧変換器等を求める場合には小信号用ダイオードを使用してください。
ショットキーダイオードは漏れ電流が大きい特徴があります(順方向電圧が小さいので過電圧保護には適しています。)
その他
- 今までICの入力端子の外部にダイオードを接続していましたが、ICの内部にダイオードと抵抗が内蔵されているものもあります。ただし、IC内部の抵抗やダイオードは電流容量が大きくないため、課題な電圧や電流が流れると故障する可能性があります。
- クランプダイオードは入力端子だけでなく、出力端子に接続されている場合もあります。
- ダイオードの接合容量は電圧によって変化するのでAC信号に歪みが生じる可能性もあります。
- 実際にクランプ回路を使用する際には、ノイズ低減用コンデンサ(0.1uF程度)を入力端子に接続します。
- 1つのパッケージに2つのダイオードが入ったチップ(型番など)を用いて、ダイオードD1とD2を1つにすることで、実装面積を小さくすることができます。