シミュレーション実行時において理想ダイオードが必要な場合があります。
今回は、LTspiceで理想ダイオードを作成する方法を説明します。
理想ダイオードとは
理想ダイオードとは、順方向電圧VFが0V、オン抵抗RONが0Ω、オフ抵抗ROFFが無限のことを指します。
すなわち、ダイオードに順電圧がかかるとオンし、逆電圧がかかるとオフするダイオードのことです。
LTspiceで理想ダイオードを作成する方法
理想ダイオードは以下のモデルで作成することができます。
上図は『デフォルトのダイオードの特性(赤色)』と『理想ダイオードの特性(青色)』です。
デフォルトのダイオードは順方向電圧VFが0.7V程度なのに対して、理想ダイオードは順方向電圧VFが0Vとなっています。
また、ダイオードON時、デフォルトのダイオードは傾きがあり、オン抵抗を持っていますが、理想ダイオードは傾きが90°になっているため、オン抵抗が0Ωであることがわかります。
オフ抵抗はどちらも無限となっています。
なお、各パラメータは以下の意味を表します。
- Ron:ON時(導通時)の抵抗(単位:Ω、デフォルト:1Ω)
- Roff: OFF時(非導通時)の抵抗(単位:Ω、デフォルト:無限)
- Vfwd:順方向における立ち上がり電圧(単位:V、デフォルト:0)
『epsilon』と『revepsilon』の意味については後ほど説明します。
参考書やネットに書いてある理想ダイオードをまとめてみる
参考書やネットを参考にすると、様々な理想ダイオードモデルがあります。
以下に理想ダイオードのモデルをまとめます。
- D1→.model D_ideal01 D(N=0.001)
- D2→.model D_ideal02 D(Is=0.1p N=0.1 Xti=0 Eg=0)
- D3→.model D_ideal03 D(Ron=0.0001 Roff=100G Vfwd=0)
- D4→.model D_ideal04 D(Ron=1m Roff=1G Vfwd=1m)
- D5→.model D_ideal05 D(Ron=1 Roff=1Meg Vfwd=1 Vrev=2)
上図を見ると、D1(青色)、D3(ピンク色)、D4(オレンジ色)が理想ダイオードとなっていることが分かります(D1とD3とD4の波形は重なっており、オレンジ色のD4しか見えていません)。
理想ダイオードのために生じるパルスを避けたい場合
理想ダイオードはオンとオフの切り替え時、電流に急激な変化が生じます。
その結果、予期していないパルスが生じたり、シミュレーションが収束せずにエラーになることがあります。
この問題を避けるために、上で示した理想ダイオードモデルに対して、以下のパラメータのどちらかを追加しているモデルもあります。
- epsilon=1m revepsilon =1m
- epsilon=1 revepsilon =1
このパラメータを追加することで、オン状態とオフ状態の切り替えを円滑にすることができます。
上図は、ダイオードモデル『D3:.model D_ideal03 D(Ron=0.0001 Roff=100G VFwd=0)』に対して、epsilonとrevepsilonを追加した波形になっています。
epsilonは、2次関数領域の幅です。単位は「V」でデフォルト値は「0」となっています。『epsilon=1 』と追加することで、オン状態とオフ状態の切り替え時、1[V]の間は2次関数となります。上図の茶色(I(D23))の波形を見ると、2次関数になっているのが確認できると思います。
revepsilonは逆電圧における2次関数領域の幅です。単位とデフォルト値は『epsilon』と同じになっています。
順方向制限と逆方向制限はIlimitとrevIlimitを使用すると指定できる
順方向に流れる電流と逆方向に流れる電流を制限することもできます。
順方向に流れる電流を制限するためにはIlimitというパラメータを用います。
単位は「A」でデフォルト値は「無限」となっています。
逆方向に流れる電流を制限するためにはrevIlimitというパラメータを用います。
単位は「A」でデフォルト値は「無限」となっています。
上図は、ダイオードモデル『D5:.model D_ideal05 D(Ron=1 Roff=1Meg VFwd=1 Vrev=2)』に対して、
を追加した波形になっています。
上図の茶色の波形(I(D25))を見ると、電流が1Aで制限されているのが確認できると思います。
電圧制御スイッチで理想ダイオードを作成する
ダイオードではなく、電圧制御スイッチの両端電圧をスイッチの制御電圧として使用することで、理想ダイオードを作成することができます。
以下にモデルを記載します。
このモデルのシミュレーション結果は赤色の波形(I(S1))です。
電圧制御スイッチのプラス電圧が0Vを超えると、スイッチがオンして電流が流れます。
ここでVh=-1mとVhに負の小さな値を入れているのは、スイッチのON/OFFの急激な変化を避けるためです。シミュレーション実行中に電流が急激に変化すると、シミュレーションが収束せずにエラーとなる可能性があります。
なお、順方向電圧を変えるためには『Vt』を変更します。以下に『Vt=1』とした時のモデルを示します。
このモデルのシミュレーション結果は青色の波形(I(S2))です。『Vt=1』とすることで1Vで電流が流れ始めていることが確認できると思います。