この記事では『MOSFETのアバランシェ降伏・破壊・耐量・エネルギー』について
- アバランシェ降伏・アバランシェ破壊とは
- アバランシェ破壊のメカニズム
- アバランシェエネルギー・アバランシェ耐量とは
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
アバランシェ降伏・アバランシェ破壊とは
上図にアバランシェ動作におけるMOSFETの等価回路を示しています。
MOSFETはターンオフ時に「回路の寄生インダクタンス」などの影響で、サージ電圧がドレインソース間に印加されます。
このサージ電圧がMOSFETのドレインソース間降伏電圧\(BV_{DSS}\)以上になると、MOSFETの等価回路のダイオード\(D\)(PN接合部)が高電界となります。すると、MOSFET内の自由電子が加速され、大きな運動エネルギーを持ちます。この自由電子が原子に衝突すると、原子から自由電子を引き離し、「自由電子・正孔対」を生成します。新たに生成された自由電子も高電界によって加速され、同じように原子と衝突して「自由電子・正孔対」を生成します。その結果、自由電子がなだれ的に増大します。この現象をアバランシェ降伏といい、この時に流れる電流をアバランシェ電流\(I_{AS}\)といいます。
アバランシェ降伏が生じると、MOSFETが破壊する可能性があります。このアバランシェ降伏によって生じる破壊をアバランシェ破壊といいます。
補足
- ドレインソース間降伏電圧は「ブレークダウン電圧」とも呼ばれています。
- アバランシェ降伏は英語では「Avalanche Breakdown」と書きます。
- アバランシェ破壊は英語では「Avalanche Destruction」と書きます。
アバランシェ破壊のメカニズム
アバランシェ破壊には、「電流による破壊」と「発熱による破壊」があります。
電流による破壊
MOSFETのドレインソース間電圧\(V_{DS}\)がドレインソース間降伏電圧\(BV_{DSS}\)以上になると、アバランシェ降伏が生じて、MOSFETの寄生バイポーラトランジスタのベースエミッタ間抵抗\(R_{BE}\)にアバランシェ電流\(I_{AS}\)が流れます。
すると、電流\(I_{AS}\)と抵抗\(R_{BE}\)によって、「\(V_{BE}\)=\(I_{AS}\)×\(R_{BE}\)」の電圧が寄生バイポーラトランジスタのベースエミッタ間に生じます。
電流\(I_{AS}\)が流れることによって生じる電圧(\(V_{BE}\)=\(I_{AS}\)×\(R_{BE}\))が大きいと、寄生バイポーラトランジスタがオンし、大電流が流れ、MOSFETがショート破壊する可能性があります。
発熱による破壊
MOSFETのドレインソース間電圧\(V_{DS}\)がドレインソース間降伏電圧\(BV_{DSS}\)以上になると、アバランシェ降伏が生じ、インダクタ\(L\)のエネルギーを消費するまでMOSFETのドレインソース間に電流\(I_{D}\)が流れます。
この電流\(I_{D}\)と電圧\(BV_{DSS}\)により損失が発生します。その結果、MOSFETの温度が上昇し、定格チャネル温度\(T_{CH}\)(定格ジャンクション温度\(T_J\))を超えると、MOSFETが破壊する可能性があります。
アバランシェエネルギー・アバランシェ耐量とは
アバランシェ降伏が生じた時に生じるエネルギーは「アバランシェエネルギー\(E_{AS}\)」、アバランシェ降伏が生じた時に流れる電流は「アバランシェ電流\(I_{AS}\)」といいます。
また、MOSFETのアバランシェ耐量は、ドレインソース間電圧\(V_{DS}\)ががドレインソース間降伏電圧\(BV_{DSS}\)を超えて、アバランシェ降伏が生じた際に、MOSFETが許容できるアバランシェエネルギー\(E_{AS}\)とアバランシェ電流\(I_{AS}\)のことを指します。アバランシェエネルギー\(E_{AS}\)とアバランシェ電流\(I_{AS}\)の許容値はデータシートに記載されています。
「アバランシェエネルギー\(E_{AS}\)」と「アバランシェ電流\(I_{AS}\)」について、図を用いて、もう少し詳しく説明します。
上図に「アバランシェ耐量の測定回路」と「アバランシェ波形」を示しています。
ゲートソース間電圧\(V_{GS}\)が0Vになると、MOSFETがターンオフします。この時、インダクタ\(L\)の逆起電力により、ドレインソース間電圧\(V_{DS}\)が急激に上昇します。ドレインソース間電圧\(V_{DS}\)がドレインソース間降伏電圧\(BV_{DSS}\)に達すると、アバランシェ降伏が生じ、MOSFETに電流\(I_D\)が流れるため、インダクタ\(L\)に蓄えられているエネルギーが放出されます。
インダクタ\(L\)に蓄えられているエネルギーが放出されるまで、MOSFETのドレインソース間電圧\(V_{DS}\)はドレインソース間降伏電圧\(BV_{DSS}\)となります。インダクタ\(L\)に蓄えられたエネルギーが放出されると(MOSFETに流れる電流\(I_D\)が0Aになると)、MOSFETのドレインソース間電圧\(V_{DS}\)は電源電圧\(V_{DD}\)に減少します。
また、インダクタ\(L\)に蓄えられているエネルギーが放出されている期間(アバランシェ期間\(t_{AS}\))では、MOSFETに流れる電流\(I_D\)は直線的に減少します。
上図に示している「アバランシェ耐量の測定回路」と「アバランシェ波形」において、アバランシェエネルギー\(E_{AS}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
E_{AS}&=&P_{AS}×t_{AS}\\
\\
&=&BV_{DSS}×\frac{1}{2}I_{AS}×t_{AS}\\
\\
&=&\frac{1}{2}L×{I_{AS}}^2×\frac{BV_{DSS}}{BV_{DSS}-V_{DD}}\tag{1}
\end{eqnarray}
上式において、\(E_{AS}\)はアバランシェエネルギー\({\mathrm{[J]}}\)、\(t_{AS}\)はアバランシェ期間\({\mathrm{[s]}}\)、\(P_{AS}\)はアバランシェ期間中の消費電力\({\mathrm{[W]}}\)、\(L\)はインダクタのインダクタンス\({\mathrm{[H]}}\)、\(BV_{DSS}\)はドレインソース間降伏電圧\({\mathrm{[V]}}\)、\(V_{DD}\)は電源電圧\({\mathrm{[V]}}\)、\(I_{AS}\)はアバランシェ電流\({\mathrm{[A]}}\)となります。
補足
- アバランシェ耐量(許容できる「アバランシェエネルギー\(E_{AS}\)」と「アバランシェ電流\(I_{AS}\)」)は、データシート上では、シングルパルス(単発パルス)における規定になっています。アバランシェ降伏が繰り返される場合には、アバランシェ降伏が生じないように対応することをオススメします。
- 本記事ではアバランシェエネルギーの記号に\(E_{AS}\)を用いていますが、資料によっては、\(E_{AV}\)や\(E_{AR}\)の記号で記載されている場合もあります。
- 本記事ではアバランシェ電流の記号に\(I_{AS}\)を用いていますが、資料によっては、\(I_{AV}\)や\(I_{AR}\)の記号で記載されている場合もあります。
アバランシェエネルギーの計算式の導出
「アバランシェ耐量の測定回路」と「アバランシェ波形」において、アバランシェエネルギー\(E_{AS}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
E_{AS}&=&{\displaystyle\int}_0^{t_{AS}} V_{DS}{\;}{\cdot}{\;}I_D{\;}dt\\
\\
&=&{\displaystyle\int}_0^{t_{AS}}BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}\left(I_{AS}-\frac{I_{AS}}{t_{AS}}{\;}{\cdot}{\;}t\right){\;}dt\\
\\
&=&{\displaystyle\int}_0^{t_{AS}}BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}\left(1-\frac{t}{t_{AS}}\right){\;}dt\\
\\
&=&BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}{\displaystyle\int}_0^{t_{AS}}1{\;}dt-\frac{BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}}{t_{AS}}{\displaystyle\int}_0^{t_{AS}}t{\;}dt\\
\\
&=&BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}\left[t\right]_0^{t_{AS}}-\frac{BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}}{t_{AS}}\left[\frac{t^2}{2}\right]_0^{t_{AS}}\\
\\
&=&BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}{\;}{\cdot}{\;}t_{AS}-\frac{1}{2}BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}{\;}{\cdot}{\;}t_{AS}\\
\\
&=&\frac{1}{2}BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}{\;}{\cdot}{\;}t_{AS}\tag{2}
\end{eqnarray}
また、インダクタ\(L\)に蓄えられたエネルギーが放出される期間\(t_{AS}\)は、インダクタにかかる電圧\(V_L\)が「\(BV_{DSS}-V_{DD}\)」なので、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V_L&=&L\frac{di}{dt}\\
\\
{\Leftrightarrow}BV_{DSS}-V_{DD}&=&L\frac{I_{AS}}{t_{AS}}\\
\\
{\Leftrightarrow}t_{AS}&=&\frac{L{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}}{BV_{DSS}-V_{DD}}\tag{3}
\end{eqnarray}
(3)式を(2)式に代入すると、次式のようになり、(1)式のアバランシェエネルギー\(E_{AS}\)の式を導出することができます。
\begin{eqnarray}
E_{AS}&=&\frac{1}{2}BV_{DSS}{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}{\;}{\cdot}{\;}\frac{L{\;}{\cdot}{\;}I_{AS}}{BV_{DSS}-V_{DD}}\\
\\
&=&\frac{1}{2}L×{I_{AS}}^2×\frac{BV_{DSS}}{BV_{DSS}-V_{DD}}\tag{4}
\end{eqnarray}
アバランシェ降伏・アバランシェ破壊の対策
アバランシェ降伏はMOSFETのターンオフ時に「回路の寄生インダクタンス」などの影響でサージ電圧が発生し、MOSFETのドレインソース間電圧\(V_{DS}\)がドレインソース間電圧降伏電圧\(BV_{DSS}\)以上になると生じます。
アバランシェ降伏が生じると、MOSFETが破壊(アバランシェ破壊)する可能性があります。
したがって、アバランシェ降伏・アバランシェ破壊の対策としては、下記のようなものがあげられます。
- 対策1:寄生インダクタンスを小さくする
- 寄生インダクタンスを小さくするために、電流が流れる経路の配線を出来るだけ、短く&太くします。また、端子が短いパッケージのMOSFETに変更しても、寄生インダクタンスを小さくすることができます。
- 対策2:MOSFETのターンオフ時のスイッチング速度を遅くする
- サージ電圧を抑えるために、ゲート抵抗を大きくする等で、MOSFETのターンオフ時のスイッチング速度(d\(V_{DS}\)/dt)を遅くします。なお、スイッチング速度を遅くすると、スイッチング損失が増加するので注意してください。
- 対策3:スナバ回路を接続する
- MOSFETのターンオフ時のサージ電圧をスナバ回路で吸収することで、MOSFETのドレインソース間電圧を小さくすることができます。
- 対策4:フライバック電圧を下げるように回路設計する
- フライバックコンバータの場合、MOSFETのターンオフ時に高電圧(フライバック電圧)がMOSFETに印加されるため、アバランシェ降伏が起こる可能性があります。フライバック電圧を下げるように回路設計することで、アバランシェ降伏を対策することができます。
- 対策5:高耐圧のMOSFETを使用する
- 対策1~4が厳しい場合、高耐圧のMOSFETを使用することで、アバランシェ降伏を対策することができます。
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まとめ
この記事では『MOSFETのアバランシェ降伏・破壊・耐量・エネルギー』について、以下の内容を説明しました。
- アバランシェ降伏・アバランシェ破壊とは
- アバランシェ破壊のメカニズム
- アバランシェエネルギー・アバランシェ耐量とは
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