この記事では『ブートストラップ回路』について
- ブートストラップ回路とは
- ブートストラップ回路の原理
- ブートストラップ回路を用いる理由
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
ブートストラップ回路とは
ブートストラップ回路は、ハイサイド側スイッチング素子のゲート駆動に用いる回路です。通常、ダイオード\(D\)とブートストラップコンデンサ\(C\)で構成されています。
ハイサイド側スイッチング素子にNチャネル型MOSFET\(Q_1\)を使用した場合、Nチャネル形MOSFET \(Q_1\)を駆動するためには、十分なゲートソース間電圧\(V_{GS}\)が必要です。すなわち、ソース電位\(V_S\)よりもゲート電位\(V_G\)を高くしなければ、Nチャネル型MOSFET\(Q_1\)を駆動させることができません。
また、Nチャネル形MOSFET \(Q_1\)がオンすると、ソース電位\(V_S\)は入力電圧\(V_{IN}\)とほぼ等しくなります。(\(V_S=V_{IN}\))。そのため、Nチャネル型MOSFET\(Q_1\)を駆動させるためには、入力電圧\(V_{IN}\)よりも高い電圧を生成する必要があります。
この入力電圧\(V_{IN}\)よりも高い電圧を生成するのが、ブートストラップ回路です。ブートストラップ回路で生成した入力電圧\(V_{IN}\)よりも高い電圧をNチャネル型MOSFET\(Q_1\)のゲート駆動に利用します。
では一体、どのように入力電圧\(V_{IN}\)よりも高い電圧を生成しているのでしょうか?次に、ブートストラップ回路の原理について説明します。
補足
- ブートストラップ回路は英語では『Bootstrap Circuit』と書きます。
ブートストラップ回路の原理
一例として、ハイサイド側スイッチング素子とローサイド側スイッチング素子にNチャネル型MOSFETを用いた場合におけるブートストラップ回路の原理について説明します。
下記の流れで順番に説明します。
ブートストラップ回路の原理
- ローサイド側MOSFET\(Q_2\)がオンすることによって、ブートストラップコンデンサ\(C\)を充電
- ブートストラップコンデンサ\(C\)に充電された電荷でハイサイド側MOSFET\(Q_1\)を駆動
ローサイド側MOSFET\(Q_2\)がオンすることによって、ブートストラップコンデンサ\(C\)を充電
ハイサイド側MOSFET\(Q_1\)がオフ、ローサイド側MOSFET\(Q_2\)がオンの時、
のルートで電流が流れることで、ブートストラップコンデンサ\(C\)が充電されます。
ダイオード\(D\)の順方向電圧\(V_F\)を\(0.6{\mathrm{[V]}}\)とすると、ブートストラップコンデンサ\(C\)の電圧\(V_C\)は内部電圧\(V_{CC}\)からダイオードの順方向電圧\(V_F\)を引いた値まで充電されているので、
\begin{eqnarray}
V_C=V_{CC}-V_F=15{\mathrm{[V]}}-0.6{\mathrm{[V]}}=14.4{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}
となります。ブートストラップコンデンサ\(C\)の下側の電位\(V_S\)はローサイド側MOSFET\(Q_2\)がオンなので、『\(V_S=0{\mathrm{[V]}}\)』となります。一方、ブートストラップコンデンサ\(C\)の上側の電位\(V_1\)はブートストラップコンデンサ\(C\)が充電されているので、『\(V_1=V_S+V_C=14.4{\mathrm{[V]}}\)』となります。
ブートストラップコンデンサ\(C\)に充電された電荷でハイサイド側MOSFET\(Q_1\)を駆動
ブートストラップコンデンサ\(C\)に充電された電荷を放電させて、ハイサイド側MOSFET\(Q_1\)のゲートを駆動させます。
ハイサイド側MOSFET\(Q_1\)がオン、ローサイド側MOSFET\(Q_2\)がオフの時、ハイサイド側MOSFETのソース電位\(V_S\)は入力電圧\(V_{IN}\)と同じ電位になるので、
\begin{eqnarray}
V_S=V_{IN}=100{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}
となります。また、ブートストラップコンデンサ\(C\)の両端電圧は『\(V_C=14.4{\mathrm{[V]}}\)』なので、ブートストラップコンデンサ\(C\)の上側の電位\(V_1\)は
\begin{eqnarray}
V_1=V_S+V_C=100{\mathrm{[V]}}+14.4{\mathrm{[V]}}=114.4{\mathrm{[V]}}
\end{eqnarray}
となり、入力電圧\(V_{IN}\)よりも高い電圧を生成することができています。
この高い電圧を利用すると、ゲート電位\(V_G\)をソース電位\(V_S\)よりも高くすることができるため、ハイサイド側MOSFET\(Q_1\)を駆動することができます。
このように、複雑な昇圧回路が不要で、ダイオード\(D\)とブートストラップコンデンサ\(C\)のみの構成で、入力電圧\(V_{IN}\)よりも高い電圧を生成しているのがブートストラップ回路のメリットです。
補足
- ダイオード\(D\)により、ブートストラップコンデンサ\(C\)から放電された電荷が内部電圧\(V_{CC}\)側に流れ込みません。
- ブートストラップコンデンサ\(C\)の充電時に流れる電流を制限するために、ダイオード\(D\)と直列に電流制限抵抗\(R\)を接続する場合があります。電流制限抵抗\(R\)により、ブートストラップコンデンサ\(C\)の充電時に流れる電流を小さくすることができ、ダイオード\(D\)の故障を防ぐことができます。なお、電流制限抵抗\(R\)の抵抗値はコンデンサ充電時に流れる電流がダイオード\(D\)のピーク許容電流以下になるように選定します。
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ブートストラップ回路の使用箇所
- LLCコンバータに用いているハイサイド側スイッチング素子のゲート駆動
- 降圧コンバータに用いているスイッチング素子のゲート駆動
などにブートストラップ回路が使用されています。
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ハイサイド側スイッチング素子にPチャネル型MOSFETを使用しない理由
ハイサイド側スイッチング素子にPチャネル型MOSFETを使用した場合、Pチャネル型MOSFETはゲート電位\(V_G\)がソース電位\(V_S\)よりも低ければ、駆動することができるので、ブートストラップ回路を使用する必要がありません。
ではなぜ、ハイサイド側スイッチング素子にPチャネル型MOSFETを使用しない場合があるのでしょうか。それは、Pチャネル型はNチャネル型と比較すると、
- オン抵抗が高いため、電力損失が大きく、効率が低下する。
- 高価である。
という特徴があり、性能とコストがNチャネル型より劣ります。そのため、ハイサイド側スイッチング素子にNチャネル型MOSFETを使用する場合が多くなっています。
ブートストラップ回路のノイズ対策
ブートストラップ回路のブートストラップコンデンサ\(C\)と直列に抵抗\(R\)を接続することで、ノイズを低減させることができます。
ブートストラップコンデンサ\(C\)と直列に抵抗\(R\)を接続すると、ハイサイド側MOSFET\(Q_1\)のオン時におけるドレインソース間電圧\(V_{DS1}\)の立ち上がりを緩やかにすることができます。これによって、オン時のノイズを低減することができます。
なお、オン時の立ち上がりを緩やかにするということは、スイッチング時間が遅くなるということなので、スイッチング損失は増加してしまいます。
補足
- 通常、MOSFETのゲート端子に直列に抵抗\(R\)を接続することで、オン時やオフ時のスイッチング波形を緩やかにするのですが、MOSFETが内蔵されたICの場合、この手法をとることができません。そのため、ブートストラップコンデンサ\(C\)に直列に抵抗\(R\)を接続し、オン時のみスイッチング波形を緩やかにしています。
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まとめ
この記事では『ブートストラップ回路』について、以下の内容を説明しました。
- ブートストラップ回路とは
- ブートストラップ回路の原理
- ブートストラップ回路を用いる理由
お読み頂きありがとうございました。
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