この記事では『TVSダイオード』について
- 『TVSダイオード』とは
- 『TVSダイオード』と『ツェナーダイオード』の違い
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
TVSダイオードとは
TVSダイオードは、ツェナーダイオードの一種で、主にESD(静電気放電)の対策に使用されるダイオードです。ESD保護ダイオードとも呼ばれています。
TVSダイオードを接続することで、外部端子から侵入するESDなどのサージ電圧から回路や部品を保護したり、誤動作を防いだりすることができます。
保護したい回路や部品の前段にTVSダイオードを接続します。サージ電圧が発生し、TVSダイオードに印加される逆電圧(カソードをプラス、アノードをマイナスに印加した時の電圧)がある電圧を超えると、TVSダイオードに電流が流れます。その結果、保護したい回路や部品に印加される電圧をTVSダイオードのクランプ電圧\(V_C\)以下に抑えることができます(クランプ電圧\(V_C\)に関しては後ほど説明します)。
補足
- TVSダイオードの回路記号はツェナーダイオードと同じです。
- TVSは『Transient Voltage Suppressor(過渡電圧抑制)』の略です。
- 正負双方向のESDに対応したTVSダイオードもあります。
- ESDは『Electro-Static Discharge(静電気放電)』の略です。
『TVSダイオード』と『ツェナーダイオード』の違い
「TVSダイオードとツェナーダイオードの違いは何ですか?」と聞かれることがあります。
これらの違いに関してこれから説明します。
『TVSダイオード』と『ツェナーダイオード』の使い分け
上図に『TVSダイオード』と『ツェナーダイオード』の特性(横軸:逆電圧\(V_R\)、縦軸:逆電流\(I_R\))を示しています。『TVSダイオード』と『ツェナーダイオード』では通常時に使用する領域が異なります。
TVSダイオード
通常時、電流がほとんど流れない領域で使用します。そのため、外部端子から印加される電圧はクランプされず、後段の回路や部品には影響を与えません。
TVSダイオードに印加されるサージ電圧がある電圧を超えると、降伏現象が生じ、電流が流れることで、回路や部品に印加される電圧をTVSダイオードのクランプ電圧\(V_C\)以下に抑えることができます。その結果、回路や部品をサージ電圧から保護することができます。
なお、一般的にはTVSダイオードはサージ電圧印可時に流れる大電流に耐えるように、ツェナーダイオードより逆電流に大きな電流を流すことができます。
ツェナーダイオード
通常時、一般的には降伏現象が生じる領域で使用します。
降伏現象領域では、流れる逆電流の大きさに関わらず、逆電圧がほぼ一定という性質があります。その結果、ツェナーダイオード後段の回路や部品には一定電圧を供給することができます。つまり、ツェナーダイオードは基準電圧源として使用することができるということになります。
『TVSダイオード』と『ツェナーダイオード』のパラメータ
上図に示しているのは、東芝製『TVSダイオード(DF2B18FU)』と『ツェナーダイオード(CRY62)』のデータシートの一部です。一般的には、下表に示すように、TVSダイオードとツェナーダイオードでは記載されているパラメータが異なります(ツェナーダイオードでもESD耐量やピークパルス電力を記載している型番もあります)。
パラメータ | TVSダイオード | ツェナーダイオード |
降伏現象が生じる電圧の名称 | ブレークダウン電圧\(V_{BR}\) | ツェナー電圧\(V_Z\) |
電圧の管理幅範囲 | 広い ↓ 「ブレークダウン電圧\(V_{BR}\)(小電流時)」と「クランプ電圧\(V_C\)(大電流時)」の2つパラメータがあるため | 狭い |
ESD耐量 | 記載あり | 記載なし |
ピークパルス電力 ピークパルス電流 | 記載あり | 記載なし |
次に上表に示したパラメータについて順番に詳しく説明します。
降伏現象が生じる電圧
TVSダイオードやツェナーダイオードに印加する逆電圧\(V_R\)を徐々に上げていくと、ある電圧で降伏現象が生じ、逆電流が流れ始めます。
この降伏現象が生じる電圧をTVSダイオードではブレークダウン電圧\(V_{BR}\)や逆方向降伏電圧\(V_{BR}\)、ツェナーダイオードではツェナー電圧\(V_Z\)と呼ぶことが多いです。
補足
- ブレークダウン電圧は英語では『Breakdown Voltage』と書きます。
- ツェナー電圧は英語では『Zener Voltage』と書きます。
電圧管理幅範囲
TVSダイオードにはクランプ電圧\(V_C\)と呼ばれるパラメータもあります。クランプ電圧\(V_C\)は規定のピークパルス電流(通常、8/20μsの波形)を流した時の最大電圧です。TVSダイオードのブレークダウン電圧\(V_{BR}\)は規定電流(型番によって異なるが、1mAや10mA程度の小さい電流)を流した時の電圧であり、実際にサージ電圧が印加された時にクランプする電圧より低くなります(サージ電圧が印加されている時にはTVSダイオードには大きな電流が流れているため)。そのため、クランプ電圧\(V_C\)と呼ばれるパラメータがあります。
つまり、TVSダイオードはブレークダウン電圧(小電流時)とクランプ電圧(大電流時)の2つパラメータがあるので、ツェナーダイオードと比較すると、電圧の管理幅が広いということになります。
8/20μsの波形とは
「8/20μsの波形」はピークまでの立ち上がりが8μs、ピークに対して1/2になる時間が20μsの波形です。
補足
- クランプ電圧は英語では『Clamp Voltage』と書きます。
- クランプ電圧の記号は\(V_C\)や\(V_{CL}\)で表していることが多いです。
ESD耐量
TVSダイオードはESD対策用なので、ESD耐量と呼ばれるパラメータも記載されています。接触放電および気中放電において、IEC61000-4-2等で定められた試験方法と放電波形を印加した時にどれくらい耐えられるかが記載されています。
補足
- ESD耐量は英語では『ESD Capacity』と書きます。
- ESD耐量の記号は\(V_{ESD}\)で表していることが多いです。
ピークパルス電力
TVSダイオードにはピークパルス電力と呼ばれるパラメータも記載されています。ピークパルス電力とは、決まったサージ波形において、TVSダイオードが絶えることができる最大のサージ電力です。8/20μsの波形をテスト波形として使用しています。
補足
- ピークパルス電力は英語では『(Maximum) Peak Pulse Power Dissipation』と書きます。
- ピークパルス電力の記号は\(P_{PPM}\)や\(P_{PK}\)や\(P_{PP}\)で表していることが多いです。
ピークパルス電流
TVSダイオードにはピークパルス電流と呼ばれるパラメータも記載されています。ピークパルス電流とは、決まったサージ波形において、TVSダイオードが絶えることができる最大のサージ電流です。8/20μsの波形をテスト波形として使用しています。
補足
- ピークパルス電流は英語では『(Maximum) (Reverse) Peak Pulse Current』と書きます。
- ピークパルス電流の記号は\(I_{PPM}\)や\(I_{PK}\)や\(I_{PP}\)で表していることが多いです。
まとめ
この記事では『TVSダイオード』について、以下の内容を説明しました。
- 『TVSダイオード』とは
- 『TVSダイオード』と『ツェナーダイオード』の違い
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