この記事では『等価直列抵抗(ESR)』と『等価直列インダクタンス(ESL)』について
- コンデンサの『等価回路』
- 『等価直列抵抗(ESR)』とは
- 『等価直列インダクタンス(ESL)』とは
などを図を用いて分かりやすく説明するように心掛けています。ご参考になれば幸いです。
コンデンサの『等価回路』
理想のコンデンサは静電容量(C)のみですが、実際のコンデンサは抵抗成分(R)やインダクタンス成分(L)を含んでます。そのため、コンデンサはC・R・Lが直列接続されている等価回路で表現することができます。この抵抗成分(R)のことを等価直列抵抗(ESR)、インダクタンス成分(L)のことを等価直列インダクタンス(ESL)といいます。
したがって、実際のコンデンサのインピーダンス\({\dot{Z}}\)は次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
{\dot{Z}}&=&R+j{\omega}L+\frac{1}{j{\omega}C}\\
\\
&=& R+j2{\pi}fL+\frac{1}{j2{\pi}fC}
\end{eqnarray}
また、インピーダンスの大きさZは上式の絶対値となるため、次式で表すことができます。
\begin{eqnarray}
Z&=&|{\dot{Z}}|\\
\\
&=&\sqrt{R^2+\left({\omega}L-\frac{1}{{\omega}C}\right)^2}\\
\\
&=&\sqrt{R^2+\left(2{\pi}fL-\frac{1}{2{\pi}fC}\right)^2}
\end{eqnarray}
上式において、各記号は以下の意味を表しています。
- \({\dot{Z}}\):インピーダンス[Ω]
- \(Z\):インピーダンスの大きさ[Ω]
- \(R\):等価直列抵抗(ESR)[Ω]
- \(j\):虚数単位
- \(L\):等価直列インダクタンス(ESL)[H]
- \(C\):静電容量[F]
- \({\omega}\):角周波数[rad/s](=2πf)
- \(f\):周波数[Hz]
次に『等価直列抵抗(ESR)』と『等価直列インダクタンス(ESL)』について詳しく説明します。
『等価直列抵抗(ESR)』とは
等価直列抵抗(ESR)は『誘電体の誘電損失』や『電極・リード線』などの影響によって決まる抵抗成分Rです。ESRが大きいと、コンデンサに電流Iが流れることによる損失RI2によって発熱が大きくなります。
また、ESRは『Equivalent Series Resistance』の略となっています。
ここで一例として、静電容量が『C=0.1μF』、ESLが『L=1nH』のコンデンサにおいて、ESRが『R=0.1Ω、0.01Ω、0.001Ω』に変化した時の影響を見てみましょう。
上図に示しているのは『コンデンサのインピーダンスZの周波数特性(周波数fが変化した時のインピーダンスZの変化を表す特性)』です。横軸が周波数f、縦軸がインピーダンスZとなっています。なお、横軸も縦軸も対数軸にしています。
コンデンサの「自己共振周波数fR」は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
f_R&=&\frac{1}{2{\pi}\sqrt{LC}}\\
\\
&=&\frac{1}{2{\pi}\sqrt{1×10^{-9}×0.1×10^{-6}}}\\
\\
&{\approx}&15.91{\mathrm{[MHz]}}
\end{eqnarray}
自己共振周波数fRまではインピーダンスZは容量性であり、周波数が高くなるにつれて、インピーダンスZが小さくなります。
自己共振周波数fRを過ぎると、インピーダンスZは誘導性であり、周波数が高くなるにつれて、インピーダンスZが大きくなります。
また、自己共振周波数fRではコンデンサのインピーダンスZは次式で表されます。
\begin{eqnarray}
Z&=&\sqrt{R^2+\left(2{\pi}f_RL-\frac{1}{2{\pi}f_RC}\right)^2}\\
\\
&=&\sqrt{R^2+\left(2{\pi}\frac{1}{2{\pi}\sqrt{LC}}L-\frac{1}{2{\pi}\displaystyle\frac{1}{2{\pi}\sqrt{LC}}C}\right)^2}\\
\\
&=&\sqrt{R^2+\left(\sqrt{\displaystyle\frac{L}{C}}-\frac{1}{\sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}}\right)^2}\\
\\
&=&\sqrt{R^2+0^2}\\
\\
&=&R
\end{eqnarray}
すなわち、自己共振周波数fRでのインピーダンスの大きさZはESRに依存するということです(言い換えれば、インピーダンスの大きさZの下限はESRで決まるということです)。そのため、ESRが大きいほど自己共振周波数fR付近でのインピーダンスZが大きくなります。
補足
- 等価直列抵抗(ESR)は等価回路上では一定値になっていますが、実際には周波数により変化します。低周波領域では『誘電体の誘電損失による抵抗成分』がメインであり、高周波領域では、『電極やリード線の表皮効果や近接効果による抵抗成分』がメインとなります。下図に村田製作所製のセラミックコンデンサ(GRMシリーズ)の『ESRの周波数特性(縦軸:ESR、横軸:周波数)』を示しています(型番により周波数特性が異なるので、詳しくは各メーカーのデータシートや仕様書等を確認してください)。周波数によりESRが変化していることが分かります。
『等価直列インダクタンス(ESL)』とは
等価直列インダクタンス(ESL)は『電極・リード線』などの影響によって決まるインダクタンス成分Lです。後ほど詳しく説明しますが、ESLが大きいと、高周波領域でのインピーダンスが大きくなります。
ESLは『Equivalent Series Inductance』なので『ESI』なのでは?と思うかもしれません。なぜ『ESI』ではなく『ESL』なのでしょうか。
それは、インダクタンス(Inductance)の記号が「L」だからです。インダクタンスの記号を『I』にすると、電流と混同してしまいます。インダクタンスの記号を『L』で表す由来としては、様々な説がありますが、レンツの法則を解明した(Lenz)の頭文字の『L』をとったという説が有力です。
ここで一例として、静電容量が『C=0.1μF』、ESRが『R=0.001Ω』のコンデンサにおいて、ESLが『L=10nH、1nH、0.1nH』に変化した時の影響を見てみましょう。
上図に示しているのは『コンデンサのインピーダンスZの周波数特性』です。横軸が周波数f、縦軸がインピーダンスZとなっています。なお、横軸も縦軸も対数軸にしています。
各ESLにおける「自己共振周波数fR」は以下の値となります。
- L=10nHの時
- L=1nHの時
- L=0.1nHの時
\begin{eqnarray}
f_R=\frac{1}{2{\pi}\sqrt{LC}}=\frac{1}{2{\pi}\sqrt{10×10^{-9}×0.1×10^{-6}}}{\;}{\approx}{\;}5.03{\mathrm{[MHz]}}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
f_R=\frac{1}{2{\pi}\sqrt{LC}}=\frac{1}{2{\pi}\sqrt{1×10^{-9}×0.1×10^{-6}}}{\;}{\approx}{\;}15.91{\mathrm{[MHz]}}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
f_R=\frac{1}{2{\pi}\sqrt{LC}}=\frac{1}{2{\pi}\sqrt{0.1×10^{-9}×0.1×10^{-6}}}{\;}{\approx}{\;}50.32{\mathrm{[MHz]}}
\end{eqnarray}
このように、ESLが小さければ小さいほど、自己共振周波数fRが高くなります。また、高周波領域でのインピーダンスZが小さくなります。すなわち、コンデンサの性能を高い周波数まで有効に働かせるためには、ESLを小さくすることが重要ということになります。
一般的には導体の幅を広くし、導体の長さを短くすればインダクタンスが小さくなるため、下図に示すように縦横を逆にした低ESLの表面実装型コンデンサも商品としてあります。
まとめ
この記事では『等価直列抵抗(ESR)』と『等価直列インダクタンス(ESL)』について、以下の内容を説明しました。
- コンデンサの『等価回路』
- 『等価直列抵抗(ESR)』とは
- 『等価直列インダクタンス(ESL)』とは
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