RC直列回路の『ベクトル図の描き方』と『位相差の求め方』について！

この記事ではRC直列回路について

RC直列回路の『ベクトル図の描き方』
RC直列回路の『位相差の求め方』

などを図を用いて分かりやすく説明しています。

RC直列回路の『ベクトル図の描き方』

抵抗\(R\)とコンデンサ\(C\)(静電容量を\(C{\mathrm{[F]}}\)とする)を直列接続した回路(RC直列回路)を上図に示しています。

上図のRC直列回路において、

RC直列回路にかかる電圧を\({\dot{V}}\)、電圧\({\dot{V}}\)の大きさを\(V\)
RC直列回路に流れる電流を\({\dot{I}}\)、電流\({\dot{I}}\)の大きさを\(I\)

とします。

RC直列回路の『ベクトル図』を描くためには『各素子にかかる電圧』と『RC直列回路全体にかかる電圧』を求める必要があります。

まず『各素子にかかる電圧』の求め方を解説します。

電圧や電流やインピーダンスに付いている「ドット」の意味

電圧\(V\)や電流\(I\)やインピーダンス\(Z\)の記号の上に「・(ドット)」が付き、\({\dot{V}},{\dot{I}},{\dot{Z}}\)となっているものがあります。

このドットがついた\({\dot{Z}}\)は「ベクトルですよ！」ということを表しています。

ドットが付く場合(\({\dot{V}},{\dot{I}},{\dot{Z}}\)など)はベクトル(複素数)を表し、ドットが付かない場合(\(V,I,Z\)など)はベクトルの絶対値(大きさ,長さ)を表しています。

各素子にかかる電圧を求める

RC直列回路なので下記の電圧を求めます。

『抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)』と『電圧\({\dot{V_R}}\)の大きさ\(V_R\)』
『コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)』と『電圧\({\dot{V_C}}\)の大きさ\(V_C\)』

抵抗\(R\)にかかる電圧

抵抗\(R\)に流れる電流が\({\dot{I}}\)、抵抗\(R\)のインピーダンスが『\({\dot{Z_R}}=R\)』なので、抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)は次式となります。

\begin{eqnarray}
{\dot{V_R}}={\dot{Z_R}}{\dot{I}}=R{\dot{I}}
\end{eqnarray}

また、抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)の大きさ\(V_R\)は上式の絶対値となり、次式で表されます。

\begin{eqnarray}
V_R=|{\dot{V_R}}|=RI
\end{eqnarray}

コンデンサ\(C\)にかかる電圧

コンデンサ\(C\)に流れる電流が\({\dot{I}}\)、コンデンサ\(C\)のインピーダンスが『\({\dot{Z_C}}=\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}\)』なので、コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)は次式となります。

\begin{eqnarray}
{\dot{V_C}}={\dot{Z_C}}{\dot{I}}=\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}{\dot{I}}=-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}
\end{eqnarray}

また、コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)の大きさ\(V_C\)は上式の絶対値となり、次式で表されます。

\begin{eqnarray}
V_C=|{\dot{V_C}}|=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}I
\end{eqnarray}

RC直列回路全体にかかる電圧

RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は『抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)』と『コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)』を合わせたものなので次式となります。

\begin{eqnarray}
{\dot{V}}={\dot{V_R}}+{\dot{V_C}}=R{\dot{I}}+\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}{\dot{I}}=R{\dot{I}}-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}
\end{eqnarray}

また、RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)の大きさ\(V\)は上式の絶対値となります。

もう少し詳しく説明すると、RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)の大きさ\(V\)は『\({\dot{V}}=R{\dot{I}}-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}\)』において、実数部の大きさ\(RI\)の2乗と虚数部の大きさ\(\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}I\)の2乗を足して、平方根を取ることで求めることができ、式で表すと次式となります。

\begin{eqnarray}
V=|{\dot{V}}|=\sqrt{(RI)^2+\left(\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}I\right)^2}=\sqrt{R^2+\left(\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\right)^2}I
\end{eqnarray}

なお、『RC直列回路に回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『交流電源の電圧\({\dot{V}}\)』と等しくなります。

補足

RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は合成インピーダンス\({\dot{Z}}\)を用いても求めることができます。

RC直列回路に流れる電流が\({\dot{I}}\)、RC直列回路の合成インピーダンスが『\({\dot{Z}}=R+\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}\)』なので、RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は次式となります。

\begin{eqnarray}
{\dot{V}}={\dot{Z}}{\dot{I}}=\left(R+\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}\right){\dot{I}}=R{\dot{I}}+\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}{\dot{I}}
\end{eqnarray}

RC直列回路の合成インピーダンスについては下記の記事で詳しく説明していますので、ご参考になれば幸いです。

RC直列回路の『合成インピーダンス』を分かりやすく解説！

各電圧のベクトル図を描く

まず、基準とするベクトルを電流\({\dot{I}}\)とします。

基準ベクトルの決め方

直列回路の場合(今回のRC直列回路など)

回路に流れる電流\({\dot{I}}\)が共通となるので、電流\({\dot{I}}\)を基準ベクトルにするとベクトル図が描きやすくなります。

並列回路の場合

回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)が共通となるので、電圧\({\dot{V}}\)を基準ベクトルにするとベクトル図が描きやすくなります。

RC直列回路の『ベクトル図』は下記のステップで描くことができます。

RC直列回路の『ベクトル図』の描き方

抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)のベクトルを描く
コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)のベクトルを描く
各ベクトルを合成する

抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)のベクトルを描く

抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)は「\({\dot{V_R}}=R{\dot{I}}\)」で表されます。

そのため、抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)のベクトルの向きは電流\({\dot{I}}\)のベクトルと同じ向きになります。

抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)の大きさ(長さ)\(V_R\)は「\(V_R=|{\dot{V_R}}|=RI\)」となります。

コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)のベクトルを描く

コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)は「\({\dot{V_C}}=-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}\)」で表されます。

そのため、コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)のベクトルの向きは電流\({\dot{I}}\)のベクトルを時計周りに90°回転した向きになります(『\(-j\)』が付くと時計周りに90°回転します)。ベクトルの向きについては後ほど詳しく説明します。

コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)の大きさ(長さ)\(V_C\)は「\(V_C=|{\dot{V_C}}|=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}I\)」となります。

各ベクトルを合成する

RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は『抵抗\(R\)にかかる電圧\({\dot{V_R}}\)』と『コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)』の合成ベクトル(\({\dot{V}}={\dot{V_R}}+{\dot{V_C}}\))となります。

RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)の大きさ(長さ)\(V\)は「\(V=\displaystyle\sqrt{R^2+\left(\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\right)^2}I\)」となります。

したがって、『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』と『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』のベクトル図は上図のようになります。

『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対して、時計方向に\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)回転しています。

すなわち、『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』より位相が\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)遅れている(言い換えれば、『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』は『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』より位相が\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)進んでいる)ということになります。

位相の『進み』と『遅れ』の見分け方については後ほど詳しく説明します。

RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトルの大きさ(長さ)\(V=\displaystyle\sqrt{R^2+\left(\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\right)^2}I\)はベクトル図において三平方の定理(ピタゴラスの定理)を用いても求めることができます。

ベクトルの向きについて

ベクトルの向きの決め方についてもう少し詳しく説明します。

ベクトルの『向き』について

式に虚数単位『\(j\)』が付くとベクトルの向きが90°回転します。

『\(+j\)』が付いている時

ベクトルは反時計周りに90°回転します。

『\(-j\)』が付いている時

ベクトルは時計周りに90°回転します。

コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)は「\({\dot{V_C}}=-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}\)」の式で表されます。そのため、ベクトル\({\dot{V_C}}\)の向きはベクトル\({\dot{I}}\)を時計周りに90°回転した向きとなります。

基準ベクトルについて

基準ベクトルについてもう少し詳しく説明します。

基準ベクトルについて

基準ベクトルを\({\dot{A}}\)にした時、ベクトル\({\dot{B}}\)が上記のように回転している場合を考えてみます。

『位相の"進み"と"遅れ"』、『位相差の"正(プラス)"と"負(マイナス)"』は基準ベクトルから『反時計方向に回転しているか』or『時計周りに回転しているか』で下記のように決まります。

ベクトル\({\dot{B}}\)が反時計方向に回転している場合

位相が進んでいるということ。位相差は『正(プラス)』で表します。

ベクトル\({\dot{B}}\)が時計方向に回転している場合

位相が遅れているということ。位相差は『負(マイナス)』で表します。

『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』を基準ベクトルとして考えると、『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は時計周りに回転しています。

そのため、『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対して、『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は位相が遅れているということになります。また、『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対する『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』の位相差は『負(マイナス)』となります(後ほど位相差の導出を行います)。

一方、『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』を基準ベクトルとして考えると、『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』は反時計周りに回転しています。

そのため、『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』に対して、『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』は位相が進んでいるということになります。また、『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』に対する『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』の位相差は『正(プラス)』となります。

RC直列回路の『位相差の求め方』

ベクトル図よりRC直列回路の位相差\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)を求めることができます。

『RC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』と『RC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』の位相差\({\theta}{\mathrm{[rad]}}\)は次式で表されます。

\begin{eqnarray}
{\tan}{\theta}&=&\frac{{\dot{V_C}}}{{\dot{V_R}}}\\
\\
{\Leftrightarrow}{\theta}&=&{\tan}^{-1}\frac{-V_C}{V_R}\\
\\
&=&{\tan}^{-1}\frac{-\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}I}{RI}\\
\\
&=&{\tan}^{-1}\left(-\frac{1}{{\omega}CR}\right)
\end{eqnarray}

まとめ

この記事ではRC直列回路について、以下の内容を説明しました。