この記事では電源の『出力電圧保持時間』について
- 『出力電圧保持時間』とは
- 『出力電圧保持時間』の計算方法
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
出力電圧保持時間とは
- SWオフなどにより電源の入力が遮断されると(上図のt1)、入力電圧VINが低下します。
- 入力電圧VINが低下しても、入力コンデンサが電力供給元となり回路が動作するので出力電圧は低下しません。
- 入力電圧VINが回路を動作させるための最低動作電圧VINHOLDを下回ると(上図のt2)、回路が停止し、出力電圧が低下します。
- 出力電圧が低下すると、出力電圧精度の範囲外(上図のt3)となります。
- 出力電圧保持時間とは、電源の入力が遮断された時間(上図のt1)から、出力電圧精度の範囲外になるまでの時間(上図のt3)のことです。
この保持時間を利用して、コンピュータはメモリーの退避や、機器の誤動作防止制御を行っています。
SWがオフ以外の電源の入力遮断として他には、
- コンセントが抜かれる
- 停電・瞬時停電
などあります。
一般的に単位は[ms]で表記します。
また、出力電圧保持時間は、保持時間、出力保持時間とも呼ばれています。
出力電圧保持時間の計算方法
計算するための条件として以下の項目が必要となります。
- 出力電力POUT=200[W]
- 効率η=80[%]
- 最低動作電圧VINHOLD=80[V]
- 入力交流電圧の実行値VAC=100[V]
- 入力電解コンデンサ(公称値の下限値)CIN=680[μH]
計算方法
出力電圧POUTと効率ηより必要な入力電力PINは、
$$ P_{IN}= \frac{P_{OUT}}{\eta}= \frac{200[W]}{0.8}=250[W]$$
となります。
入力交流電圧VACから入力電圧VINは
$$ V_{IN}=V_{AC}×\sqrt{2}=100×\sqrt{2}=141.4[V]$$
となります。
入力電圧VINは回路が停止する最低動作電圧VINHOLDになる保持時間tHOLDの間、電解コンデンサCINから入力電力PINを供給します。そのため以下の式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}C_{IN}{V_{IN}}^2-\frac{1}{2}C_{IN}{V_{INHOLD}}^2= P_{IN}t_{HOLD}$$
この式を変形すると保持時間tHOLDは以下のようになります。
$$ t_{HOLD}=\frac{C_{IN}({V_{IN}}^2-{V_{IN}}^2)}{2 P_{IN}}=\frac{680[uF]({141.4[V]}^2-{80[V]}^2)}{2×250[W]}=18.4[ms]$$
すなわち、この電源は入力電解コンデンサ(公称値の下限値)CINを680[μH]にすれば、入力が遮断されても18.4[ms]は出力電圧を保持することができます。
出力電圧保持時間を長くする方法
- 入力電解コンデンサの容量を増やす
- 効率を高くする
- 定格出力電力を高く設計する
効率を高くすることで、入力電力を減らすことができ、その結果出力電圧保持時間が長くなります。
定格出力電力を使用した際に、出力電圧保持時間をどれくらい確保するかを決め、入力電解コンデンサの容量を選定します。
そのため、定格出力電力に対して、実際に使用する電力が小さいほど出力電圧保持時間が長くなります。
なお、コンバータの出力部にコンデンサを追加しても出力電圧保持時間はそんなに長くなりません。