この記事では環状ソレノイドの自己インダクタンスについて
- 『環状ソレノイド』の自己インダクタンスの公式
- 『環状ソレノイド』の自己インダクタンスの導出方法
- 『環状ソレノイド』の自己インダクタンスの問題
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
『環状ソレノイド』の自己インダクタンス
上図に示すような環状(ドーナツ状)の円筒に巻いたコイルを環状ソレノイドコイル(ドーナツ型コイル)といいます。
ここで、材料の透磁率\({\mu}{\mathrm{[H/m]}}\)、巻数\(N\)、平均半径\(R{\mathrm{[m]}}\)(平均磁路長\(l=2{\pi}R{\mathrm{[m]}}\))、断面積\(S{\mathrm{[m^2]}}\)の環状ソレノイドの自己インダクタンス\(L{\mathrm{[H]}}\)は次式となります。
『環状ソレノイド』の自己インダクタンス
\begin{eqnarray}
L=\frac{{\mu}N^2S}{2{\pi}R}{\mathrm{[H]}}
\end{eqnarray}
この記事では上式の導出方法について説明します。
『環状ソレノイド』の自己インダクタンスの導出方法
自己インダクタンス\(L\)は以下の流れによって導出することができます。
自己インダクタンスの導出の流れ
- 磁界の強さ\(H\)を求める
- 磁束密度\(B\)を求める
- 磁束\({\phi}\)を求める
- 磁束鎖交数\({\psi}\)を求める
- 自己インダクタンス\(L\)を求める
step
1磁界の強さ\(H\)を求める
アンペアの周回積分の法則より、以下の式が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
{\displaystyle\oint}_{{\partial}S}{\vec{H}}{\;}{\cdot}{\;}d{\vec{l}}=NI\tag{1}
\end{eqnarray}
巻数\(N\)なので、\({\partial}S\)に囲まれた面には『\(電流I×巻数N=NI\)』の電流が貫いています。そのため、(1)式の右辺が\(NI\)となります。
また、積分経路は円なので、\({\displaystyle\oint}_{{\partial}S}d{\vec{l}}=2{\pi}R\)が成り立ちます。ゆえに、(1)式を変形すると、磁界の強さ\(H\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\displaystyle\oint}_{{\partial}S}{\vec{H}}{\;}{\cdot}{\;}d{\vec{l}}&=&NI\\
{\Leftrightarrow}2{\pi}R×H&=&NI\\
H&=&\frac{NI}{2{\pi}R}{\mathrm{[A/m]}}\tag{2}
\end{eqnarray}
step
2磁束密度\(B\)を求める
磁界の強さ\(H\)と磁束密度\(B\)と材料の透磁率\({\mu}\)の関係は『\(B={\mu}H\)』なので、磁束密度\(B\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
B={\mu}H={\mu}×\frac{NI}{2{\pi}R}=\frac{{\mu}NI}{2{\pi}R}{\mathrm{[T]}}\tag{3}
\end{eqnarray}
step
3磁束\({\phi}\)を求める
磁束密度\(B\)と磁束\({\phi}\)の関係は『\({\phi}=BS\)』なので、ソレノイドの断面\(S\)と交わる磁束\({\phi}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\phi}=BS=\frac{{\mu}NI}{2{\pi}R}×S=\frac{{\mu}NIS}{2{\pi}R}{\mathrm{[wb]}}\tag{4}
\end{eqnarray}
step
4磁束鎖交数\({\psi}\)を求める
磁束\({\phi}\)と磁束鎖交数\({\psi}\)の関係は『\({\psi}=N{\phi}\)』なので、磁束鎖交数\({\psi}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\psi}=N{\phi}=N×\frac{{\mu}NIS}{2{\pi}R}=\frac{{\mu}N^2IS}{2{\pi}R}{\mathrm{[wb]}}\tag{5}
\end{eqnarray}
磁束鎖交数Ψと磁束Φの記号について
磁束鎖交数と磁束の記号は参考書やネットによって様々であり、磁束鎖交数の記号を\({\phi}\)(ファイ)や\({\psi}\)(プサイ,プシー)で表している場合もあります。
このサイトでは、
- 磁束鎖交数の記号:\({\psi}\)(プサイ,プシー)
- 磁束の記号;\({\phi}\)(ファイ)
で表示しています。
step
5自己インダクタンス\(L\)を求める
磁束鎖交数\({\psi}\)と自己インダクタンス\(L\)の関係は『\({\psi}=LI\)』なので、自己インダクタンス\(L\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
L=\frac{{\psi}}{I}=\frac{\displaystyle\frac{{\mu}N^2IS}{2{\pi}R}}{I}=\frac{{\mu}N^2S}{2{\pi}R}{\mathrm{[H]}}\tag{6}
\end{eqnarray}
補足
磁路断面の半径を\(r{\mathrm{[m]}}\)とすれば、\(S={\pi}r^2\)より、自己インダクタンス\(L\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
L=\frac{{\mu}N^2S}{2{\pi}R}=\frac{{\mu}N^2({\pi}r^2)}{2{\pi}R}=\frac{{\mu}N^2r^2}{2R}{\mathrm{[H]}}\tag{7}
\end{eqnarray}
上式も参考書やネットで見かけることがあります。
あわせて読みたい
『\({\psi}=LI\)』の関係と自己インダクタンスについては以下の記事で説明していますので、参考にしてください。
【自己インダクタンスのまとめ】『単位』や『問題』などを解説!
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『環状ソレノイド』の自己インダクタンスに関する問題
問題文
巻数が\(2000\)回、断面積が\(6{\mathrm{[cm^2]}}\)、平均磁路長が\(40{\mathrm{[cm]}}\)の空心環状ソレノイドの自己インダクタンスを求めてみましょう。
回答
平均磁路長は『\(l=2{\pi}R=40{\mathrm{[cm]}}\)』、真空の透磁率は『\({\mu}_0=4{\pi}×10^{-7}{\mathrm{[H/m]}}\)』となるため、(6)式を用いると、自己インダクタンス\(L\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
L&=&\frac{{\mu}_0N^2S}{2{\pi}R}\\
&=&\frac{4{\pi}×10^{-7}×2000^2×6×10^{-4}}{40×10^{-2}}\\
&{\approx}&7.53×10^{-3}{\mathrm{[H]}}
\end{eqnarray}
まとめ
この記事では環状ソレノイドの自己インダクタンスついて、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- 『環状ソレノイド』の自己インダクタンスの公式
- 『環状ソレノイド』の自己インダクタンスの導出方法
- 『環状ソレノイド』の自己インダクタンスの問題
お読み頂きありがとうございました。
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