この記事ではMOSFETの寄生容量について
- 『MOSFETの寄生容量』と『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』の関係
- 『MOSFETの寄生容量』の導出方法
- 『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』の電圧特性と温度特性
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
『MOSFETの寄生容量』と『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』の関係
MOSFETはゲート酸化膜によりゲート(G)がドレイン(D)及びソース(S)と絶縁されている構造をしています。また、ドレインソース間はPN接合が形成されているため、寄生ダイオード(ボディダイオード)が内蔵された構造となっています。そのため、下記の寄生容量が存在します。
MOSFETの寄生容量
- ゲートソース間容量Cgs
- ゲートドレイン間容量Cgd
- ドレインソース間容量Cds
ゲートソース間容量Cgs及びゲートドレイン間容量Cgdはゲート酸化膜の静電容量により決まります。また、ドレインソース間容量Cdsは寄生ダイオードの接合容量により決まります。
一方、MOSFETのデータシートには入力容量Ciss・出力容量Coss・帰還容量Crssが記載されています。これらの容量はスイッチング性能に影響を与える重要なパラメータとなっています。
『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』と『MOSFETの寄生容量(Cgs,Cgd,Cds)』の関係は次式となっています。
入力容量・出力容量・帰還容量
- 入力容量Ciss=ゲートソース間容量Cgs+ゲートドレイン間容量Cgd
- 出力容量Coss=ドレインソース間容量Cds+ゲートドレイン間容量Cgd
- 帰還容量Crss=ゲートドレイン間容量Cgd
次に各容量について順に説明します。
入力容量Ciss
入力容量Cissはゲートソース間容量Cgsとゲートドレイン間容量Cgdの和であり、入力側(ゲート側)からMOSFETを見たときの全体の容量となります。
入力容量Cissを充電するために必要な電荷量がゲート入力電荷量Qgとなります。
MOSFETをON/OFFするためには、この入力容量Cissを充電/放電する必要があります。そのため、入力容量Ciss(及びQg)はゲート駆動回路(ドライブ回路)の設計やドライブ損失の計算において用いるパラメータとなります。
出力容量Coss
出力容量Cossはドレインソース間容量Cdsとゲートドレイン間容量Cgdの和であり、出力側(ドレイン側)からMOSFETを見たときの全体の容量となります。
出力容量Cossが大きい場合、ゲートに印加する電圧をゼロ(またはマイナス)にしたときにおいて、出力容量Cossを充電するために要する時間が長くなるため、MOSFETが完全にOFFするまでにかかる時間が長くなります。
同様に、ゲートに印加する電圧をハイ(MOSFETの閾値電圧以上)にしたときにおいて、出力容量Cossを放電するために要する時間が長くなるため、MOSFETが完全にONするまでにかかる時間が長くなります。
帰還容量Crss
帰還容量Crssはゲートドレイン間容量Cgdと等しくなります。
帰還容量Crssを充電するために必要な電荷量がゲートドレイン間電荷量Qgdとなります。
帰還容量Crss(およびQgd)はスイッチング速度に大きく影響するパラメータであり、帰還容量Crss(およびQgd)が大きいほど、MOSFETのON/OFF時にドレインソース間電圧vDSの立ち上がり/立ち下がりが遅くなります(つまり、スイッチング速度が遅くなります)。
補足
- 帰還容量は逆伝達容量とも呼ばれています。
- 帰還容量Crss(およびQgd)はゲートソース間電圧VGSの波形における平坦部に関連しています。帰還容量Crss(およびQgd)が大きいほど、下図の平坦部の期間(ミラー期間)が長くなるため、スイッチング速度が遅くなります。
- MOSFETの寄生容量(Cgs,Cgd,Cds)が大きいほど、スイッチング損失が大きくなります。そのため、軽負荷時の効率が悪化します。
『MOSFETの寄生容量(Cgs,Cgd,Cds)』の導出
上図は東芝製NチャネルMOSFET(2SK3564)の電気的特性の抜粋です。
このようにデータシートには入力容量Ciss・出力容量Coss・帰還容量Crssが記載されているため、その値を用いればMOSFETの寄生容量(Cgs,Cgd,Cds)を導出することができます。
帰還容量Crssが15[pF]なので、ゲートドレイン間容量Cgdは次式となります。
\begin{eqnarray}
C_{gd}&=&C_{rss}\\
&=&15{\mathrm{[pF]}}\\
\end{eqnarray}
また、入力容量Cissが700[pF]なので、ゲートソース間容量Cgsは次式となります。
\begin{eqnarray}
C_{iss}&=&C_{gs}+C_{gd}\\
{\Leftrightarrow}C_{gs}&=&C_{iss}-C_{gd}\\
&=&700-15\\
&=&685{\mathrm{[pF]}}\\
\end{eqnarray}
また、出力容量Cossが700[pF]なので、ドレインソース間容量Cdsは次式となります。
\begin{eqnarray}
C_{oss}&=&C_{ds}+C_{gd}\\
{\Leftrightarrow}C_{ds}&=&C_{oss}-C_{gd}\\
&=&75-15\\
&=&60{\mathrm{[pF]}}\\
\end{eqnarray}
『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』の電圧特性と温度特性
MOSFETの『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』はドレインソース間電圧VDSに対して依存性があります。
上図は東芝製NチャネルMOSFET(2SK3564)の電圧特性です。
ドレインソース間電圧VDSが大きいほど、各容量の静電容量値が小さくなります。
なお、MOSFETの『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』は温度に対してほとんど依存性がありません。
まとめ
この記事ではMOSFETの寄生容量ついて、以下の内容を説明しました。
当記事のまとめ
- 『MOSFETの寄生容量』と『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』の関係
- 『MOSFETの寄生容量』の導出方法
- 『入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crss』の電圧特性と温度特性
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