スイッチング損失とは
スイッチング損失とはMOSFETなどの半導体スイッチがON/OFFするときに発生する損失のことです。
スイッチング時の波形を以下に示します。
理想的には半導体スイッチのON/OFFは左図のようになり、スイッチング時に電流と電圧の重なりがありません。そのためスイッチング損失が発生しません。
しかし、実際には右図のように、半導体スイッチをON/OFFする期間において、半導体スイッチに電圧がかかっているにも関わらず、電流が流れている期間があります。この電流と電圧の重なりによってスイッチング損失が発生します。
スイッチング損失の式
スイッチング損失\(P_{SW}\)の式は以下のようになっています。
P_{SW}&=& \displaystyle\frac{1}{6}I_{DMAX}V_{DSMAX}×(T_R+T_F)×f_{SW}
\end{eqnarray}
各変数は以下の通りです。
\(I_{DMAX}\):ドレイン電流\(i_D\)の最大値
\(T_R\):MOSFETオン時の立ち上がり時間
\(T_F\):MOSFETオフ時の立ち下がり時間
\(f_{SW}\):スイッチング周波数
スイッチング損失\(P_{SW}\)の式よりスイッチング速度が遅い(\(T_R\)と\(T_F\)が大きい)半導体スイッチを使用した場合、半導体スイッチを高周波(\(f_{SW}\)が大きい)で動作している場合では、スイッチング損失は大きくなります。
ポイント
バイポーラトランジスタの場合にはドレインソース間電圧\(v_{DS}\)がコレクタエミッタ間電圧\(v_{CE}\)、ドレイン電流\(i_D\)がコレクタ電流\(i_C\)になります。
スイッチング損失の計算方法
これからスイッチング損失の計算方法について説明します。
下図はMOSFETのオン時\(T_R\)の箇所のみに焦点を当てた波形です。
期間\(T_R\)において、ドレイン電流\(i_D\)とドレインソース間電圧\(v_{DS}\)が直線的に変化すると考えると、ドレイン電流\(i_D\)とドレインソース間電圧\(v_{DS}\)の式は以下となります。
\begin{eqnarray}
i_D &=& \displaystyle\frac{I_{DMAX}}{T_R}t\\
v_{DS}&=& V_{DSMAX}-\displaystyle\frac{V_{DSMAX}}{T_R}t
\end{eqnarray}
これよりMOSFETが1回オンした時の損失\(W_{SWON}\)は、
\begin{eqnarray}
W_{SWON} &=& \displaystyle \int_{0}^{T_R}i_D×v_{DS}dt\\
&=& \displaystyle \int_{0}^{T_R}\left(\displaystyle\frac{I_{DMAX}}{T_R}t\right)×\left(V_{DSMAX}-\displaystyle\frac{V_{DSMAX}}{T_R}t\right)dt\\
&=& \displaystyle \int_{0}^{T_R}\displaystyle\frac{I_{DMAX}V_{DSMAX}}{T_R}×\left(t-\displaystyle\frac{t^2}{T_R}\right)dt\\
&=& \displaystyle\frac{I_{DMAX}V_{DSMAX}}{T_R} \left[\displaystyle\frac{t^2}{2}-\displaystyle\frac{t^3}{3T_R}\right]_{0}^{T_R}\\
&=& \displaystyle\frac{1}{6}I_{DMAX}V_{DSMAX}×T_R
\end{eqnarray}
となります。
同様に1回オフした時の損失は、
\begin{eqnarray}
W_{SWON} &=&\displaystyle\frac{1}{6}I_{DMAX}V_{DSMAX}×T_F
\end{eqnarray}
となります。
そのため、1周期におけるMOSFETの損失\(W_{SW}\)は
\begin{eqnarray}
W_{SW}&=& \displaystyle\frac{1}{6}I_{DMAX}V_{DSMAX}×(T_R+T_F)
\end{eqnarray}
となります。
これは1周期におけるMOSFETの損失[J]です。この損失に周波数\(f_{SW}\)をかけることで1秒当たりの損失[W]となります。
したがって、スイッチング損失\(P_{SW}\)は、
P_{SW}&=& W_{SW}×f_{SW}=\displaystyle\frac{1}{6}I_{DMAX}V_{DSMAX}×(T_R+T_F)×f_{SW}
\end{eqnarray}
となります。