この記事ではLC直列回路について
- LC直列回路の『ベクトル図の描き方』
- LC直列回路の『位相差の求め方』
などを図を用いて分かりやすく説明しています。
LC直列回路の『ベクトル図の描き方』
LC直列回路は上図に示すように、コイル\(L\)とコンデンサ\(C\)を直列に接続した回路です。
コイル\(L\)の自己インダクタンスを\(L{\mathrm{[H]}}\)、コンデンサ\(C\)の静電容量を\(C{\mathrm{[F]}}\)とします。
上図のLC直列回路において、
- LC直列回路にかかる電圧を\({\dot{V}}\)、電圧\({\dot{V}}\)の大きさを\(V\)
- LC直列回路に流れる電流を\({\dot{I}}\)、電流\({\dot{I}}\)の大きさを\(I\)
とします。
LC直列回路の『ベクトル図』を描くためには『各素子にかかる電圧』と『LC直列回路全体にかかる電圧』を求める必要があります。
まず『各素子にかかる電圧』の求め方を解説します。
電圧や電流やインピーダンスに付いている「ドット」の意味
電圧\(V\)や電流\(I\)やインピーダンス\(Z\)の記号の上に「・(ドット)」が付き、\({\dot{V}},{\dot{I}},{\dot{Z}}\)となっているものがあります。
このドットがついた\({\dot{Z}}\)は「ベクトルですよ!」ということを表しています。
ドットが付く場合(\({\dot{V}},{\dot{I}},{\dot{Z}}\)など)はベクトル(複素数)を表し、ドットが付かない場合(\(V,I,Z\)など)はベクトルの絶対値(大きさ,長さ)を表しています。
各素子にかかる電圧を求める
LC直列回路なので下記の電圧を求めます。
- 『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』と『電圧\({\dot{V_L}}\)の大きさ\(V_L\)』
- 『コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)』と『電圧\({\dot{V_C}}\)の大きさ\(V_C\)』
コイル\(L\)にかかる電圧
コイル\(L\)に流れる電流が\({\dot{I}}\)、コイル\(L\)のインピーダンスが『\({\dot{Z_L}}=jX_L=j{\omega}L\)』なので、コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{V_L}}={\dot{Z_L}}{\dot{I}}=jX_L{\dot{I}}=j{\omega}L{\dot{I}}
\end{eqnarray}
上式において、\({\omega}\)は角周波数(角速度とも呼ばれる)であり、\({\omega}=2{\pi}f\)の関係があります。また、\(X_L\)は誘導性リアクタンス(コイル\(L\)の抵抗成分)です。誘導性リアクタンス\(X_L\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
X_L={\omega}L=2{\pi}fL
\end{eqnarray}
なお、リアクタンスについては下記の記事で詳しく説明していますので、参考になると幸いです。
また、コイル\(L\)にかかる電圧の大きさ\(V_L\)は\({\dot{V_L}}\)の絶対値となり、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V_L=|{\dot{V_L}}|=\sqrt{\left(X_LI\right)^2}=X_LI={\omega}LI
\end{eqnarray}
コンデンサ\(C\)にかかる電圧
コンデンサ\(C\)に流れる電流が\({\dot{I}}\)、コンデンサ\(C\)のインピーダンスが『\({\dot{Z_C}}=-jX_C=-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}=\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}\)』なので、コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{V_C}}={\dot{Z_C}}{\dot{I}}=-jX_C{\dot{I}}=-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}=\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}{\dot{I}}
\end{eqnarray}
上式において、\({\omega}\)は角周波数(角速度とも呼ばれる)であり、\({\omega}=2{\pi}f\)の関係があります。また、\(X_C\)は容量性リアクタンス(コンデンサ\(C\)の抵抗成分)です。容量性リアクタンス\(X_C\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
X_C=\frac{1}{{\omega}C}=\frac{1}{2{\pi}fC}
\end{eqnarray}
また、コンデンサ\(C\)にかかる電圧の大きさ\(V_C\)は\({\dot{V_C}}\)の絶対値となり、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V_C=|{\dot{V_C}}|=\sqrt{\left(X_CI\right)^2}=X_CI=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}I
\end{eqnarray}
LC直列回路全体にかかる電圧
LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』と『コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)』を合わせたものなので次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{V}}&=&{\dot{V_L}}+{\dot{V_C}}\\
&=&jX_L{\dot{I}}-jX_C{\dot{I}}\\
&=&j\left(X_L-X_C\right){\dot{I}}\\
&=&j\left({\omega}L-\frac{1}{{\omega}C}\right){\dot{I}}
\end{eqnarray}
また、LC直列回路にかかる電圧の大きさ\(V\)は\({\dot{V}}\)の絶対値となり、次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V&=&|{\dot{V}}|\\
&=&\sqrt{\left(X_L-X_C\right)^2I^2}\\
&=&\left(X_L-X_C\right)I\\
&=&\left({\omega}L-\frac{1}{{\omega}C}\right)I
\end{eqnarray}
なお、『LC直列回路に回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『交流電源の電圧\({\dot{V}}\)』と等しくなります。
補足
LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は合成インピーダンス\({\dot{Z}}\)を用いても求めることができます。
LC直列回路に流れる電流が\({\dot{I}}\)、LC直列回路の合成インピーダンスが『\({\dot{Z}}=j(X_L-X_C)\)』なので、LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は次式となります。
\begin{eqnarray}
{\dot{V}}&=&{\dot{Z}}{\dot{I}}\\
&=&j\left(X_L-X_C\right){\dot{I}}\\
&=&j\left({\omega}L-\frac{1}{{\omega}C}\right){\dot{I}}
\end{eqnarray}
LC直列回路の合成インピーダンスについては下記の記事で詳しく説明していますので、ご参考になれば幸いです。
各電圧のベクトル図を描く
まず、基準とするベクトルを電流\({\dot{I}}\)とします。
基準ベクトルの決め方
- 直列回路の場合(今回のLC直列回路など)
- 並列回路の場合
回路に流れる電流\({\dot{I}}\)が共通となるので、電流\({\dot{I}}\)を基準ベクトルにするとベクトル図が描きやすくなります。
回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)が共通となるので、電圧\({\dot{V}}\)を基準ベクトルにするとベクトル図が描きやすくなります。
LC直列回路の『ベクトル図』は下記のステップで描くことができます。
LC直列回路の『ベクトル図』の描き方
- コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)のベクトルを描く
- コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)のベクトルを描く
- 各ベクトルを合成する
コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)のベクトルを描く
コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{V_L}}=jX_L{\dot{I}}=j{\omega}L{\dot{I}}
\end{eqnarray}
そのため、コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)のベクトルの向きは電流\({\dot{I}}\)のベクトルを反時計周りに90°回転した向きになります(『\(j\)』が付くと反時計周りに90°回転します)。ベクトルの向きについては後ほど詳しく説明します。
コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)の大きさ(ベクトルの長さ)\(V_L\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V_L=|{\dot{V_L}}|=\sqrt{\left(X_LI\right)^2}=X_LI={\omega}LI
\end{eqnarray}
コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)のベクトルを描く
コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{V_C}}=-jX_C{\dot{I}}=-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}=\displaystyle\frac{1}{j{\omega}C}{\dot{I}}
\end{eqnarray}
そのため、コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)のベクトルの向きは電流\({\dot{I}}\)のベクトルを時計周りに90°回転した向きになります(『\(-j\)』が付くと時計周りに90°回転します)。ベクトルの向きについては後ほど詳しく説明します。
コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)の大きさ(ベクトルの長さ)\(V_C\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V_C=|{\dot{V_C}}|=\sqrt{\left(X_CI\right)^2}=X_CI=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}I
\end{eqnarray}
各ベクトルを合成する
LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は『コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)』と『コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)』の合成ベクトルとなります。
繰り返しになりますが、LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
{\dot{V}}&=&{\dot{V_L}}+{\dot{V_C}}\\
&=&jX_L{\dot{I}}-jX_C{\dot{I}}\\
&=&j\left(X_L-X_C\right){\dot{I}}\\
&=&j\left({\omega}L-\frac{1}{{\omega}C}\right){\dot{I}}
\end{eqnarray}
LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)の大きさ(ベクトルの長さ)\(V\)は次式で表されます。
\begin{eqnarray}
V&=&|{\dot{V}}|\\
&=&\sqrt{\left(X_L-X_C\right)^2I^2}\\
&=&\left(X_L-X_C\right)I\\
&=&\left({\omega}L-\frac{1}{{\omega}C}\right)I
\end{eqnarray}
上式の括弧の中にある『誘導性リアクタンス\(X_L={\omega}L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\)』の大小により、LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトル方向が変わるので注意が必要です。
- \(X_L{\;}{\gt}{\;}X_C\)の時
- \(X_L{\;}{\lt}{\;}X_C\)の時
- \(X_L=X_C\)の時
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも大きい場合、LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトルの方向は上向きになります。
『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対して、反時計方向に\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)回転しています。
すなわち、『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』より位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)進んでいる(言い換えれば、『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』は『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』より位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)遅れている)ということになります。
位相の『進み』と『遅れ』の見分け方については後ほど詳しく説明します。
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも小さい場合、LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトルの方向は下向きになります。
『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対して、時計方向に\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)回転しています。
すなわち、『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』より位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)遅れている(言い換えれば、『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』は『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』より位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)進んでいる)ということになります。
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C\)』が等しい場合、LC直列回路の合成インピーダンスが『\({\dot{Z}}=j(X_L-X_C)=0\)』となります。そのため、理論上はLC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)のベクトルの方向は実数軸の向きで、ベクトルの長さは無限大になります。
ですが、実際はコイルやコンデンサに小さな抵抗成分を持つため、ベクトルの長さが無限大になることはありません。LC直列回路全体の小さな抵抗成分を\(R\)とすると、ベクトルの長さは『\(RI\)』となります。
ベクトルの向きについて
ベクトルの向きの決め方についてもう少し詳しく説明します。
ベクトルの『向き』について
式に虚数単位『\(j\)』が付くとベクトルの向きが90°回転します。
- 『\(+j\)』が付いている時
- 『\(-j\)』が付いている時
ベクトルは反時計周りに90°回転します。
ベクトルは時計周りに90°回転します。
コイル\(L\)にかかる電圧\({\dot{V_L}}\)は「\({\dot{V_L}}=j{\omega}L{\dot{I}}\)」の式で表されます。そのため、ベクトル\({\dot{V_L}}\)の向きはベクトル\({\dot{I}}\)を反時計周りに90°回転した向きとなります。
コンデンサ\(C\)にかかる電圧\({\dot{V_C}}\)は「\({\dot{V_C}}=-j\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}{\dot{I}}\)」の式で表されます。そのため、ベクトル\({\dot{V_C}}\)の向きはベクトル\({\dot{I}}\)を時計周りに90°回転した向きとなります。
基準ベクトルについて
基準ベクトルについてもう少し詳しく説明します。
基準ベクトルについて
基準ベクトルを\({\dot{A}}\)にした時、ベクトル\({\dot{B}}\)が上記のように回転している場合を考えてみます。
『位相の"進み"と"遅れ"』、『位相差の"正(プラス)"と"負(マイナス)"』は基準ベクトルから『反時計方向に回転しているか』or『時計周りに回転しているか』で下記のように決まります。
- ベクトル\({\dot{B}}\)が反時計方向に回転している場合
- ベクトル\({\dot{B}}\)が時計方向に回転している場合
位相が進んでいるということ。位相差\({\theta}\)は『正(プラス)』で表します。
位相が遅れているということ。位相差\({\theta}\)は『負(マイナス)』で表します。
『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』を基準ベクトルとして考えると、『\(X_L{\;}{\gt}{\;}X_C\)』の時では『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対して、『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は反時計方向に\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)回転しています。
そのため、『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対して、『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』は位相が\(\displaystyle\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}\)進んでいるということになります。また、『LC直列回路に流れる電流\({\dot{I}}\)』に対する『LC直列回路にかかる電圧\({\dot{V}}\)』の位相差\({\theta}\)は『正(プラス)』となります。
LC直列回路の『位相差の求め方』
『誘導性リアクタンス\(X_L={\omega}L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C=\displaystyle\frac{1}{{\omega}C}\)』の大小により、位相角\({\theta}\)が異なります。
- \(X_L{\;}{\gt}{\;}X_C\)の時
- \(X_L{\;}{\lt}{\;}X_C\)の時
- \(X_L=X_C\)の時
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも大きい場合、位相角\({\theta}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
{\theta}=\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』の方が『容量性リアクタンス\(X_C\)』よりも小さい場合、位相角\({\theta}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
{\theta}=-\frac{{\pi}}{2}{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}
『誘導性リアクタンス\(X_L\)』と『容量性リアクタンス\(X_C\)』が等しい場合、位相角\({\theta}\)は以下の値となります。
\begin{eqnarray}
{\theta}=0{\mathrm{[rad]}}
\end{eqnarray}
まとめ
この記事ではLC直列回路について、以下の内容を説明しました。
- LC直列回路の『ベクトル図の描き方』
- LC直列回路の『位相差の求め方』
お読み頂きありがとうございました。
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