【イオンマイグレーションとは】『原理』や『対策』などを解説!

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この記事ではイオンマイグレーションについて

  • イオンマイグレーションとは
  • イオンマイグレーションの原理
  • イオンマイグレーションの種類
  • イオンマイグレーションの対策

などを図を用いて分かりやすく説明しています。

イオンマイグレーションとは

イオンマイグレーションとは
イオンマイグレーションとは、水分(湿度)が多い環境条件にプリント基板が設置されている状態において、電圧を印加すると、配線パターンの陽極の金属がイオン化して対向する陰極に移動し、再び陰極金属として生成される現象です。

陰極で生成された金属が成長すると、絶縁不良となり、最終的には配線パターン間が短絡(ショート)します。

補足

  • イオン化した金属(金属イオン)は基板表面や基板内部に含まれる水分などに溶け出し、電界によるクーロン力によって引き寄せられることによって、陰極に移動します。
  • イオンマイグレーションは「エレクトロケミカルマイグレーション」とも呼ばれています。
  • イオンマイグレーションが発生した場合は、顕微鏡やSEMによる観察によって確認が可能です。
  • イオンマイグレーションは英語では「Ion Migration」と書きます。

イオンマイグレーションの原理

イオンマイグレーションの原理

イオンマイグレーションは銀(Ag)や銅(Cu)などの金属で起こりますが、ここでは原理について銀(Ag)を一例として説明します。

  1. 水分(湿度)が多い環境条件にプリント基板が設置されている状態において、電圧を印加する。
  2. 陽極(プラス側)で銀(Ag)が溶出し、陰極(マイナス側)で水の電気分解が発生する。
  3. \begin{eqnarray}
    陽極&:&Ag{\to}Ag^{+}+e^{-}\\
    陰極&:&2H_2O+2e^{-}{\to}H_2(ガス)+2OH^{-}
    \end{eqnarray}

  4. 陽極で溶出した金属イオン(Ag+イオン)は基板表面や基板内部に含まれる水分などに溶け出し、電界によるクーロン力によって陰極に引き寄せられる。
  5. 陽極で溶出したAg+イオン陰極で発生したOH-イオンが反応し、水酸化銀(AgOH)が生成される。
  6. \begin{eqnarray}
    2Ag^{+}+2OH^{-}{\to}2AgOH
    \end{eqnarray}

  7. 水酸化銀(AgOH)は熱的に非常に不安定なので、すぐに分解されて酸化銀(Ag2O)となり、コロイド状に分散する。
  8. \begin{eqnarray}
    2AgOH{\to}Ag_2O+H_2O
    \end{eqnarray}

  9. また、陰極に移動したAg+イオンは電子e-を受け取り、銀(Ag)がデンドライト(複数に枝分かれした樹枝状の結晶)として析出される。
  10. \begin{eqnarray}
    Ag^{+}+e^{-}{\to}Ag(析出)
    \end{eqnarray}

イオンマイグレーションの種類

イオンマイグレーションの種類

イオンマイグレーションは、発生の形態によってデンドライトCAFに分類されます。

デンドライト

デンドライト

デンドライト(Dendrites)とは、基板表面を陰極から陽極に向かって樹枝状で金属成分が析出した状態のことを指します。

デンドライトは主に基板表面の平行した電極間で発生します。

CAF

CAF

CAF(Conductive Anodic Filaments)とは、基板内層の繊維の隙間に沿って、陰極から陽極に向かって金属成分が析出した状態のことを指します。

CAFは主に基板内層で発生します。

多層基板のスルーホール間等で見られることが多くなっています。

イオンマイグレーションの発生条件と成長条件

  • 電極間の電界強度
  • 電界強度が強いほど、金属の溶解速度が大きくなります。電界強度Eは

    \begin{eqnarray}
    電界強度E=\frac{印加電圧V}{電極間距離d}
    \end{eqnarray}

    で表されます。そのため、『高電圧回路(印加電圧Vが大きい)』や『高密度実装の回路(電極間距離dが小さい)』では、電界強度Eが強くなり、イオンマイグレーションの発生が加速しているといわれています。

  • 湿度
  • 湿度が高いほど、イオンマイグレーションの発生が加速します。

  • 温度
  • 温度が高いほど、イオンマイグレーションの発生が加速します。

  • 電極間を移動するイオン化した金属
  • 電子部品に使われている導体金属によって、イオンマイグレーションの起こりやすさが変わります。
    はんだ付けに使用される金属の中で、銀(Ag)が最もマイグレーションを起こしやすくなっています。そのため、鉛フリー実装にあたって銀(Ag)を使用する場合には、銅(Cu)より成長速度が速いので注意が必要です。

    また、その他の金属のマイグレーションを起こりやすさは以下のようになっています。

    銀(Ag)>鉛(Pb)>銅(Cu)>スズ(Sn)>亜鉛(Zn)>黄銅

    なお、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)はイオンマイグレーションは発生しません。

  • 活性不純物(Na+,Cl-,NH4+など)や添加元素(Brなど)などの存在
  • 塩素イオン(Cl-)は、紙フェノール基板の材料の紙の漂白やエポキシ樹脂の合成時に発生するため、プリント基板の製造現場で検出されることが多いです。

    臭素(Br)や塩素(Cl)は部品実装時に用いられるフラックスの活性剤に含まれています。

  • プリント基板の材質
  • セラミック基板では、セラミックの吸湿率が理論上はゼロなので、マイグレーションの発生はしにくくなります。

  • pH(酸・アルカリの度合い)
  • pHが低い(酸性)ほど銅の溶解速度が速まります。そのため、pHが低いほど、イオンマイグレーションの発生が加速します。

イオンマイグレーションの対策

  • フラックスの洗浄
  • フラックスのカスがプリント基板上にあると、その中に水分を取り込みやすくなるので、イオンマイグレーションが発生しやすくなります。そのため、温度や湿度が高い環境で使われたり、使用電圧が高電圧だったり、長寿命や高信頼度が必要だったりする場合には、プリント基板を洗浄し、フラックスを除去してください。洗浄後は耐湿性の高い樹脂でコーティングしてください。

  • 防湿材を塗る
  • 電位差のある電極同士に十分なクリアランスを持たせる

補足

  • 洗浄しないで使用する場合には、腐食性が低く、はんだ付け後に活性力が低下するタイプのフラックスを使用してください。
  • 温度や湿度が高い環境で使われることを想定して、事前に高温高湿試験などの信頼性試験を実施することも重要です。

イオンマイグレーションとエレクトロマイグレーションの違い

イオンマイグレーションと似ている言葉にエレクトロマイグレーションがあります。以下に違いを示します。

  • イオンマイグレーション
  • 電圧を印加した際に、化学反応が生じ、短絡や絶縁不良などを引き起こすものであり、主にプリント基板で発生します。

  • エレクトロマイグレーション
  • 電流によって金属原子が移動することによって、短絡や絶縁不良などを引き起こすものであり、主にICチップ等の半導体の微細な配線で発生します。

エレクトロマイグレーションの詳細

エレクトロマイグレーション

エレクトロマイグレーションは金属配線に電流を流すことによって、金属原子(厳密には金属イオン)が少しずつ移動する現象です。

金属原子が移動した跡には空孔が生じます。この空孔が集合すると、短絡(ショート)や断線(オープン)、絶縁不良、抵抗増大といった不具合が生じることがあります。

補足

  • 配線の電流密度が大きいほど、温度が高いほどエレクトロマイグレーションの発生が加速します。
  • エレクトロマイグレーションは英語では「Electromigration」と書きます。

まとめ

この記事ではイオンマイグレーションについて、以下の内容を説明しました。

当記事のまとめ

  • イオンマイグレーションとは
  • イオンマイグレーションの原理
  • イオンマイグレーションの種類
  • イオンマイグレーションの対策

お読み頂きありがとうございました。

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