ヒューズの『溶断特性』の見方と判定方法について

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ヒューズは定格電流を超える電流が流れた場合、決められた時間内に確実に電流を遮断しなければなりません。そのため、ある電流が流れた時に何秒で溶断するかを表す溶断特性というものがあります。この記事では、この溶断特性について詳しく説明します。

溶断特性の種類

溶断特性の種類
ヒューズの溶断特性を表すグラフとして、I-T特性I2t-T特性があります。I-T特性はヒューズにある一定電流が流れる場合に使用します。一方、I2t-T特性はヒューズにパルス電流や突入電流等が流れる場合に使用します。

まず、I-T特性から詳しく説明します。

I-T特性とは

I-T特性とは
I-T特性とは、ある一定電流(I)をどのくらい流し続けたら溶断するかを表す特性です。I-T特性は、上図のように横軸が時間で縦軸が電流となっているグラフ(横軸と縦軸が逆の場合もある)であり、横軸と縦軸は対数(log)となっています。

I-T特性の見方

I-T特性の見方
上図に示しているのは、1Aヒューズの溶断特性(I-T特性)です。

例えば、このヒューズに対して、3Aの電流を流した場合には、約1秒で溶断することが分かります。また、電流を少し減らして、2Aの電流を流した場合には、約20秒で溶断することが分かります。

余談ですが、ヒューズの定格電流は、その値まで絶対に溶断しない電流のことを意味します。そのため、定格電流の1Aを流した場合、溶断特性とクロスしないことが分かります。

I2t-T特性とは

I2t-T特性とは
先ほど説明したI-T特性は、ヒューズに一定電流が流れる場合に適用するグラフです。しかし、実際の機器においては、突入電流やパルス電流があるため、ヒューズに一定電流が流れないケースがあります。

電流が一定ではない場合、I-T特性を用いることが出来なくなります。この場合、I2t-T特性を用います。

I2t-T特性のI2tは、瞬時電流i(t)を2乗し、その値を積分したものとなります。以下に式を用いて詳しく説明します。

例えば、電流i(t)がT秒間流れたときの実効値は以下の式で表されます。
\begin{eqnarray}
I=\sqrt{\frac{{\displaystyle\int}{ i(t)}^2dt}{T}}
\end{eqnarray}
上式を変形すると、以下の式となります。
\begin{eqnarray}
I^2T={\displaystyle\int}{ i(t)}^2dt
\end{eqnarray}
これより、瞬時電流i(t)を2乗し、その値を積分したものがI2tとなることが分かります。

また、このI2tを変形すると、
\begin{eqnarray}
I^2T=\frac{I^2R}{R}×T=\frac{P[W]}{R}×T=\frac{W[J]}{R}
\end{eqnarray}
となり、I2tは抵抗Rに印加されるエネルギーW[J]と等しくなります。つまり、言い換えると、I2t-T特性はヒューズの微小抵抗Rに印可されるエネルギーW[J]の時間特性ということになります。

以上より、突入電流やパルス電流など電流波形が複雑な場合、I2t(ヒューズの微小抵抗Rに印可されるエネルギーW[J])を用いれば、電流波形に依存せず、ヒューズの判定をすることができます。では実際に、I2t-T特性を用いてヒュージの判定をしてみましょう。

I2t-T特性によるヒューズの判定

I2t-T特性によるヒューズの判定
例えば、上図のI2t-T特性を持つヒューズに突入電流が流れた場合において、ヒューズの判定を行います。

判定手順

I2t-T特性によるヒューズの判定手順

  1. I2t-T特性に負荷率(マージン率)を考慮する
  2. データシートやカタログなどに記載されているI2t-T特性と実電流波形を比較する際、まず、パルス電流や突入電流の発生回数(頻度)によって決まる負荷率(マージン率)を考慮します。負荷率は以下のように表で記載してある場合もあれば、グラフで記載してある場合があります。上図では、10000回の突入電流に耐えられるように30%の負荷率を考慮しています。

    耐パルス回数負荷率
    100,00020%
    10,00030%
    1,00040%
  3. 突入電流を細分化する
  4. 各区間のI2tを計算しやすいように細分化します。

  5. 各区間のI2tを算出する
  6. I2tはジュール積分値と呼ばれており、波形により式が異なります。以下に今回の計算で用いるジュール積分値を示します。ジュール積分値の一覧表は後日公開します。
    ジュール積分値

  7. 各区間のジュール積分値I2tを累積したグラフをI2t-T特性に重ねる
  8. ジュール積分値I2tを累積したグラフをI2t-T特性に重ねます。この時に、I2t-T特性を超えなければ、ヒューズに突入電流が10000回流れても溶断しないことになります。

I-T特性とI2t-T特性の関係と変換方法

I-T特性とI2t-T特性の関係と変換方法
ヒューズのカタログやデータシートにはI-T特性が記載されていますが、I2t-T特性は記載されていない場合があります。

このような場合には、ヒューズメーカーからI2t-T特性をもらうか、I-T特性を変換してI2t-T特性を作成する必要があります。以下にI2t-T特性を作成する方法を示します。

  1. I-T特性から時間tと電流Iを複数読み取る
  2. 0.001[s]の時に60[A]、0.1[s]の時に6.3[A]、10[s]の時に2.2[A]であることが分かります。

  3. I2tを計算する
  4. \begin{eqnarray}
    I^2t=60^2×0.001=3.6[A^2s]\\
    I^2t=6.3^2×0.1=3.97[A^2s]\\
    I^2t=2.2^2×10=48.4[A^2s]
    \end{eqnarray}

  5. 計算で求めたI2tをプロットしてI2t-T特性を作成する

こんな感じで簡単にI2t-T特性を作成することができます。これがI-T特性からI2t-T特性を描く方法ですが、厳密に評価する際には、メーカーから正確なI2t-T特性を入手することをオススメします。

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